シリアルATAが持つ性能を最大限に引き出しつつ、Native Command Queuingに代表されるシリアルATA関連の新機能も使用するには、ATAコントローラやHDDの設計、動作モードをシリアルATAに最適化する必要がある。一般に、これらの最適化をネイティブ設計やネイティブモードなどと呼んでいる。今回は、この“ネイティブ”シリアルATAの最新事情をお届けしていく。 ●シリアルATAの本来の性能はネイティブ動作モードで発揮される シリアルATAは、これまでパラレルATAとソフトウェア的な互換性を持つインタフェースとして広く紹介されてきた。つまり、シリアルATAのコントローラには、シリアルATAとパラレルATAの相互変換を行なうブロックが含まれており、OSのドライバ、そしてその上で動作するアプリケーションからは従来のパラレルATAに見えるというものだ。 一般に、このような互換動作を実現するために、シリアルATAコントローラにはパラレルATA互換モードが搭載されている。互換モードでは、従来のパラレルATAコントローラとまったく同じハードウェア割り込み(IRQ14、15)とI/O空間(コマンドブロックオフセットは01F0hと0170h、コントロールブロックオフセットは03F4hと0374h)を使用する。 シリアルATAは、下から物理層、リンク層、トランスポート層が積み重なるレイヤ構造を採用しているが、このパラレルATAとの相互変換を行っているのがトランスポート層である。パラレルATAは、コマンド、セクタアドレス、セクタカウントなどを含むタスクファイルレジスタに基づいて通信を行なうが、シリアルATAのコントローラとデバイス間では、FIS(Frame Information Block)に基づくフレームを単位としてデータやステータス情報などをやり取りしている。そこで、トランスポート層にFISベースのフレームとタスクファイルを相互変換する機構を設けることにより、パラレルATAとの互換性を確保している。 しかし、シリアルATAのパフォーマンスを最大限に発揮させるには、この互換性が大きな足かせとなる。例えば、Native Command QueuingやPort Multiplierなどの機能を利用する場合、パラレルATAと互換性を持たないネイティブモードでシリアルATAコントローラを動作させなければならない。つまり、シリアルATAはパラレルATAとのソフトウェア的な互換性を強くアピールして登場したものの、現実的にはネイティブモードで使用してこそシリアルATAの本領を発揮できるというわけだ。実際、現在発売されているほとんどのシリアルATAコントローラは、すでにネイティブモードで動作させている。 「ネイティブモードの利点は、シリアルATAの新しい機能を使用できることや高いパフォーマンスが得られることだ。ただし、ネイティブモードと新たな機能をサポートするには、ATAコントローラのゲート数を増やす必要があり、パッケージのピン数や消費電力も増大する。もちろん、この程度の問題はパフォーマンス向上や多機能化という利点によって簡単に相殺できる。従って、弊社のATAコントローラは、ネイティブモードをいち早くサポートしている」(Promise Technology, Rearch and Development Department, DirectorのVincent Lin氏)。 ●これからのトレンドはネイティブ設計のシリアルATA HDD HDD側にも、パラレルATAとシリアルATAの問題が絡んでくる。ただし、ユーザから見たHDDのインタフェースはあくまでもシリアルATAなので、HDD内部の回路でどのような処理がなされているかという部分に関わる問題だ。 現在発売されているシリアルATA HDDの多くは、従来のパラレルATAをベースとした回路に、パラレルATAとシリアルATAを相互変換するブリッジ回路を追加してシリアルATAに対応させている。こうすることで、「新たにシリアルATAベースの回路を設計することなく、シリアルATAに対応したHDDをすぐに市場投入できる」(Intel, Senior Staff System ArchitectのKnut Grimsrud氏)ようになる。 ただし、Native Command QueuingやStaggered Spin、Port MultiplierといったシリアルATAの新しい機能を使用することはできない。また、内部の回路ではパラレルATAの速度(Ultra ATA/100またはUltra ATA/133)でデータ転送が行われるため、外部インタフェースがシリアルATAであっても内部で転送性能が抑えられる形となる。悪い言い方をすれば“シリアルATAの仮面をかぶったパラレルATA HDD”なので、HDDの素性はあくまでもパラレルATAに準じたものになるのだ。 そこで、Seagate Technologyは、内部の回路を含め、完全にシリアルATAベースで設計したシリアルATA HDD(Barracuda 7200.7)をいち早く発売している。前回の記事でも触れたとおり、Barracuda 7200.7がNative Command Queuingをいち早く実装できたのも、ネイティブ設計を採用したからにほかならない。 「Seagate Technologyは、現時点においてシリアルATAに対するネイティブアーキテクチャを採用した唯一のベンダである。これにより、FISとタスクファイル間の変換に伴うオーバーヘッドを排除でき、さらにはNative Command Queuingのような新しい機能をサポートできるようになった。従って、弊社のシリアルATA HDDは、より高いパフォーマンスと拡張機能のサポートという2つの利点をユーザに提供できる」(Seagate Technology, Product Marketing ManagerのJoni Clark氏)。 また余談だが、Seagate Technologyは、自社のシリアルATA HDDの電源コネクタとして従来の4ピンコネクタ(ドライブ類を接続する一般的な電源コネクタ)をあえて廃した。これは、基板上の回路が3V未満の電圧で動作しているためで、最初から3.3Vの電源を持つシリアルATA専用の電源コネクタから電力を供給したほうが、電源品質やEMI(電磁波干渉)などの面から望ましいと判断したからだ。 また、誤って2つの電源コネクタに電源を供給してしまうという初心者のトラブルを未然に防ぐ意味もある。Seagate TechnologyのシリアルATA HDDに対しては“既存の電源コネクタを使用できないのでちょっと不便だ”という意見をしばしば耳にするが、実はしかるべき理由があってシリアルATAコネクタのみを残しているのだ。 ●Maxtorはコスト効率を優先したSoCソリューションを導入 話は元に戻るが、今後は他のHDDベンダーもネイティブ化の動きに追従することになる。例えば、MaxtorとAgere Systemsは、11月11日に次世代のMaxLine、DiamondMaxに向けたシリアルATA SoC(system-on-a-chip)ソリューションを共同開発することを発表した。つまり、このSoCソリューションを通じて設計された新しいASIC(Application Specific Integrated Circuits)がHDDに搭載されれば、Maxtorもネイティブ設計に素早く移行できることを意味している。Maxtor, Director of Product and Technical MarketingのMike Alexenko氏は、今回発表されたAgere SystemsとのSoCソリューションについて次のように説明する(以下、「」内はすべてMike Alexenko氏の発言)。 「HDDは、機械工学、電子工学、ソフトウェア、材料科学、量子物理など、最先端のテクノロジを駆使して製造された非常に複雑な電気機械デバイスである。こうしたHDDの中で、HDDの性能や機能を決定づける重要なパーツ、いわばHDDの心臓部にあたるパーツがASICだ。ASICのような半導体デバイスを設計、製造するには、非常に高度な科学技術を必要とする。マックストアは、これまでHDDに関する多くのテクノロジを学び、そして多くの経験を積み重み、常に業界の最先端をキープしてきた。これは、Maxtorのみならず、他の業界のリーダシップをとる数多くの企業と垂直型の協業体制をとったからこそ実現できたものだ」。 「今回、Agere Systemsと協業したのは、Maxtorの次世代HDDに対してきわめて高いコスト効率で新しいテクノロジを素早く投入できるからだ。Agere Systemsからは、新しい半導体デバイスの製造設備、技術開発、新しいテクノロジを製品に実装するためのスキルなど、さまざまな面で協力を得ていく。今後、Agere Systemsとの長期的な協業体制を通じて、次世代のシリアルATA HDDに向けた合理的な開発、製造工程を迅速かつ系統的に作り上げていくつもりだ」。 また、シリアルATA HDDの“ネイティブ”という用語に対して、次のようなコメントを付け加えた。 「シリアルATA-パラレルATAブリッジを搭載しないシリアルATA HDDに対して“ネイティブ”(native)と呼ぶのは誤っていると思う。Maxtorが発売しているシリアルATA HDDは、すべてシリアルATA 1.0仕様に完全準拠しており、そういう意味では弊社の製品もシリアルATAに対して“ネイティブ”であるといえる。むしろ、シリアルATA-パラレルATAブリッジを搭載しないものは“統合型”(integrated)と呼ぶべきだ」。 「Maxtorは、この統合型のシリアルATA HDDを2004年の上半期に発売する予定である。すでに市場に出回っているMaxtor製品との高い互換性を確保しつつ、シリアルATA IIで追加されたいくつかの機能拡張をサポートすることにより、パフォーマンスの向上と多機能化を推し進めていく。また、HDDの回路基板に搭載されるチップ数を削減できることから、HDDのコストをさらに削減できるものと期待している」。 こうした統合型ソリューションを採用したシリアルATA HDDが登場しても、シリアルATA-パラレルATAブリッジは依然として使われ続けるという。なぜならば、シリアルATA HDDとともにパラレルATA HDDも併行して発売しなければならないからだ。 「Maxtorは、2004年中に多くのPCベンダーがデスクトップPCでシリアルATAを本格的に採用し始めると予想している。2004年に発売されるシリアルATA対応のチップセットに絡み、特に2004年の第3四半期に急激に採用が増え、2005年の半ばにはほとんどのデスクトップPCでシリアルATAが採用されるだろう。米国のある業界アナリストによれば、2005年にはATA HDDの80~90%がシリアルATAを採用すると予想している」。 「一方、パラレルATA HDDを搭載した既存のシステムを保守するために、今後もパラレルATA HDDを発売し続けなければならない。このため、シリアルATAの統合型ソリューションに移行したとしても、シリアルATA-パラレルATAブリッジを搭載して逆にパラレルATAを外部インタフェースに持つHDDを作らなければならない。従って、統合型ソリューションに切り替わった後のある一時期には、パラレルATA HDDの価格がシリアルATA HDDよりも高くなる逆転現象が起こるかもしれない」。 市場調査会社のiSuppliは、ネイティブ設計(統合型ソリューション)を採用したシリアルATA HDDの出荷台数が2005年の時点で2億5000万台に達すると予想している。Native Command QueuingやPort Multiplierなどが一般化するシリアルATA II環境が本格的に立ち上がった頃には、どのHDDベンダーもネイティブ設計を採用していることは間違いない。 □Technical Committee T13 - AT Attachment (2003年12月22日)
[Text by 伊勢雅英]
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