シリアルATA IIやその他のエンタープライズ向けの機能を追加した次世代のATA/ATAPI規格「ATA/ATAPI-8」の提案準備が、ANSI INCITS T13技術委員会によって少しずつ進められている。今回は、筆者が各方面から掴み切れた情報をもとに、このATA/ATAPI-8にまつわる最新事情をお届けしていく。 ●シリアルATA IIの仕様も包含される次世代のATA/ATAPI-8 現在、ATA/ATAPI-8に含めるかどうかを議論している主な仕様は、次の通りだ。ただし、このリストは筆者が執筆時点で入手できた資料をもとに作成したものなので、メンバー間の議論の過程でいろいろと差し替わることも考えられる。従って、実際に提案される内容が、以下のものと異なる可能性がある点をあらかじめご了承いただきたい。
ATA/ATAPI-8は、現在策定段階にあるATA/ATAPI-7の後継にあたる規格なので、基本的にはATA/ATAPI-7をベースにしながら、もう使われない古い仕様をカットしたり、実際の製品を通じて問題が発生した部分を修正したり、新しい機能を追加したりすることになる。 ATA/ATAPI-7にはシリアルATAの仕様が初めて包含されたが、これに伴い、コマンド層の仕様を定めるVolume 1、パラレルATAの物理層とトランスポート層の仕様を定めるVolume 2、シリアルATAの物理層とトランスポート層の仕様を定めるVolume 3という3つの文書に分割された。従って、ATA/ATAPI-8についても、ATA/ATAPI-7とほぼ同じ文書の構成をとるものと予想される。 ATA/ATAPI-8で特徴的なのは、ATAインタフェースをエンタープライズ用途にも使用できるようにするシリアルATA II、LED向けの信号ピン、EESA(Enterprise Extensions Smart Accessed)などの追加が検討されていることだ。シリアルATA IIのNative Command Queuingに関しては、すでに前回の連載「SCSIユーザも注目!?のシリアルATA Native Command Queuing」で解説済みだが、それ以外にもPort MultiplierやPort Selectorなどの機能が含まれる。 今回は、ちょっとマニアックではあるが、まだ水面下での議論にとどまるLED向けの信号ピンとEESA(Enterprise Extensions Smart Accessed)の詳細を後ほど取り上げよう。 ●ATA/ATAPI-8からシリアルATAの仕様を排除しろという少数派意見 シリアルATAは、パラレルATAとのソフトウェア的な互換性を強くアピールして登場した規格だが、実際にはパラレルATAと互換性を持たないネイティブモードのほうが広く採用されている(その理由は次回の本コラムで解説)。もともとシリアルATAがパラレルATAと互換性を持つという宣伝文句は、パラレルATAからの移行を円滑にするのが目的であって、ある程度シリアルATAに移行を果たしたら、タスクファイルベースという既存の考え方を切り捨て、FIS(Frame Information Block)ベースでシステムを設計する必要がある。 従って、これから策定が開始されようとしているATA/ATAPI-8の中に、パラレルATAと、パラレルATAとの互換性を高らかにうたったシリアルATAの仕様を混在させることに懸念を示す声が聞かれるようになった。中には、ATA/ATAPI-8からシリアルATAの仕様を削除するか、いっそうのことパラレルATAの仕様を削除し、シリアルATAの仕様だけに統一することを要求する人もいた。 しかし、ATAテクノロジを開発している業界人の多くは、今後もATA/ATAPI規格にシリアルATAの仕様を含める意向を示している。例えば、Promise Technology, Rearch and Development Department, DirectorのVincent Lin氏は、この理由を次のように説明する。 「シリアルATAは、ATA/ATAPI-8にとって重要な仕様の一つである。なぜならば、シリアルATAは、完全に独り立ちできる、まったく新しいインタフェースとはなっていないからだ。シリアルATAの設計は、パラレルATA時代から築き上げられてきたルールに基づいており、そこにさまざまな機能が追加されて成り立っている。従って、ATA/ATAPI規格にパラレルATAとシリアルATAの仕様が混在することは自然の成り行きなのだ」。 「それをいったら、SCSIのシリアル版にあたるSerial Attached SCSI(以下、SAS)も同じことだ。SASは、シリアルATAとSCSIという2つのプロトコルに基づいており、まったく新しいものではない。このようなインタフェースを独り立ちさせたところで、誰が管理するのか、そして仮に管理する人がいたとしても、誰がこれに賛同し、自社の製品に実装しようとするのかといった問題が発生する」。 他社にも同じ質問を投げかけたが、どこからも同じような回答が返ってきた。このような理由から、ATA/ATAPI-8になったとしても、引き続きシリアルATAの仕様が包含されることはまず間違いない。 ●SASで規定されたLED向けの信号ピンをシリアルATAにも追加 次に、シリアルATA IIには含まれないエンタープライズストレージ向けの機能を2つほどピックアップしておく。 まず、LED向けの信号ピンだが、これはSASから引き継がれた機能だ。以前の連載「幻となった次世代のパラレルSCSI規格 SAS編」でも書いたように、SASのコネクタ形状はシリアルATAの上位互換となっている。 コネクタには、信号コネクタと電源コネクタの2種類がある。信号コネクタは、シリアルATAでは片面の1~7番ピンのみ、SASではプライマリチャネル用の1~7番ピンに加え、セカンダリチャネル用として裏面の8~14番ピンが割り当てられる。一方の電源コネクタは、シリアルATAもSASも同一の15ピン構成だが、11番ピンの扱いが両者で異なっている。シリアルATAでは「Reserved(予約)」として規定されており、レセプタクル側でこの信号線をグラウンドに落とすように指示されている。しかし、SASでは、HDDのアクティビティを知らせるREADY LED用として割り当てられているのだ。 エンタープライズストレージで使用する場合、例えばRAIDサブシステムでは、多数のHDDが筐体に内蔵されることになる。このとき、それぞれのHDDの動作状態を個別に知る上で、Drive READYを示す信号線があるとたいへん便利だ。そこで、シリアルATAでも、11番ピンをREADY LED用として使用しようという意見が出ている。シリアルATA IIでは、SES(SCSI-3 Enclosure Services)やSAF-TE(SCSI Accessed Fault-Tolerant Enclosures)経由でHDDのアクティビティを知らせる機能が定義されているが、もっと原始的な手法として物理的に信号線を引き出そうとするのがこのLED向け信号ピンである。 ●SMARTを通じて新たな機能を提供するEESA 次に、EESA(Enterprise Extensions SMART Accessed)だが、これはWestern Digitalによって提案されたエンタープライズ向けの機能だ。この機能を提供するために、SMART(Self-Monitoring Analysis and Reporting Technology)が用いられる。 SMARTは、動作温度、データのスループット、ECCによるデータ訂正の頻度、再マップされたセクタ数、ヘッド浮上量など、HDD内部のあらゆるパラメータを監視することでHDDの故障予知を行なう技術である。突然HDDを故障に至らしめる回路およびコネクタの故障を除けば、通常はメカニカルな部分の経年劣化を通じて、あるしきい値を超えた段階で故障に達するものがほとんどだ。そこで、前者のトラブルを予知不能、後者を予知可能と分類し、特に後者に着目して故障予知を行う技術の先駆けとなるものがIBMのPFA(Predictive Failure Analysis)で、これに基づく業界標準の規格がSMARTとなる。 SMARTは、SCSIやATAインタフェースですでに実用化されているが、EESAはATA/ATAPIコマンドセットで規定されていない新たな機能をSMARTコマンドを通じて提供する役割を果たす。新たなコマンドやプロトコルを通じて新たな機能を提供するとなると、ホストコントローラやデバイスのハードウェア設計の変更を余儀なくされる。しかしEESAは、SMARTコマンドに新たな機能のコマンドやデータをカプセル化するため(Pass-Thru Command/Dataと呼んでいる)、どのようなホストコントローラ、デバイスであっても、SMARTにさえ対応していれば、ソフトウェアの修正だけで新たな機能を提供できるのだ。 EESAは、Enterprise Extensions(エンタープライズ向けの拡張)という言葉からも分かるように、エンタープライズストレージでの使用にも耐えうるパフォーマンスと信頼性をHDDベンダーやOEMが確保する目的で提案されたものだ。EESAで提供される主な機能は、ベンダ非依存のロングセクターアクセス(READ/WRITE LONG)、初期化のための一定パターンの反復書き込み、ATA Set Featuresのライトキャッシュ設定を上書きする目的で使用されるFeature Control Commandなどであり、主にOEMの製品開発、工場での設定やテストなどでの使用を想定している。 以上、現在筆者が入手可能な情報の範囲内でATA/ATAPI-8関連の最新事情を解説してきた。「12月16~18日に米ラスベガスで開催されるT13技術委員会の本会議総会(plenary meeting)では、ATA/ATAPI-7の策定作業がファイナライズされる」(Intel, Senior Staff System ArchitectのKnut Grimsrud氏)とのことなので、この本会議総会を目処にATA/ATAPI-8に関する議論が大きく進む可能性がある。 □Technical Committee T13 - AT Attachment (2003年12月15日)
[Text by 伊勢雅英]
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