ニコンD2Hは、11月28日に発売されたプロ用デジタル一眼レフカメラだ。いままでニコンのプロ用一眼レフは、'99年のD1から始まり、D1HとD1xに分かれて発展してきた。このD2Hは有効画素数こそ410万画素だが、性格的にはD1H(266万画素)とD1x(533万画素)を統合し、さらに数々の新特徴を付け加えた。 もちろん、D2Hと名乗るからには、D1Hの後継機なわけで、D1xの後続機種も噂にのぼっている。しかし、現時点では最強のプロ用一眼レフ、それがD2Hだ。 今回は筆者が購入したD2H、ずっと使ってきたD1x、さらにメーカーから借りた「AF-S VR Zoom Nikkor ED 24~120mm F3.5~5.6G(IF)」、「Ai AF-S Zoom Nikkor ED 28~70mm F2.8D(IF)」、「AF-S VR Zoom Nikkor ED 70~200mm F2.8G(IF)」、さらに筆者の「Ai AF-S Zoom Nikkor ED 17~35mm F2.8D(IF)」を使用した。 ●操作系はD1系よりぐんと使いやすい D2HとD1x(D1Hも同系統のボディー)を比べてみると、まったくデザインが変わった(写真A)。筆者の好みを言えば、D1系のほうが好きである。D2Hはペンタカバーまわりなどのデザインがやや高級感を損なっている。しかし、プロの道具として考えれば、デザインは二の次だろう。なお、ペンタカバーのネームプレートの上にあるのはオートホワイトバランスの環境光センサーの受光部だ。 背面も大きくデザインが変わり、ある意味でニコンD100に近くなった(写真B)。大型の2.5型液晶モニタがアイピース直下にあり、ファインダーから目を離したときに見やすくなった。そのほかのおおざっぱな操作系は6面写真を見ていただきたい(写真C1~6)。
D2Hはボディーのホールディング性であきらかにD1系よりも良くなった。これはグリップの形状や高さが変わったのがおもな理由だろう。D1xと比べるとややデザイン的に気に入らないひとつの理由はマット仕上げになった点だろう。同じような金属外装でも、表面の仕上げによって印象が変わる。それでも、ていねいに作り上げられていることはたしかだ。D1xより30gしか軽くなっていないのだが(電池・記録メディアは別)、かなり軽くなったような感じがする。そういう意味ではデザインが寄与しているのかも知れない。 操作系はD1系を継承している点と、まったくちがう点がある。たとえば、上部の液晶パネルとシャッターボタン、モードダイアル、露出補正ダイアルなどはほぼ同じ位置にある。しかしボタンは形状が変わり、操作しやすくなった(写真D)。D1系でも裏ぶたにも液晶パネルがあったが、これも位置がちがうが継承されている(写真E)。ただ、個人的な見解だが、液晶パネルが上部と背面に分かれているのはやや面倒だ。とは言っても、D1xで慣れてしまったので、それほどまごつくことはなかった。 液晶モニタの右に十字キーがある点は同じだが、十字キーは小さくなった。液晶モニタを大型化したためだが、やや使いにくい。十字キーの下にAFモード(ダイナミックAF、任意選択など)のセレクターがあるのはいい(写真F)。
液晶モニタの左にはMENU、サムネイル、プロテクタ、ENTERボタンがあり、D100で好評だった操作性の良さを継承している。アイピース左には再生ボタンと削除ボタンがある。全体としてすっきりして、とっつきやすい操作系である(写真G)。写真Eに戻ると、小型液晶パネルの下に、ISO、画質、ホワイトバランスの設定ボタンが並んでいる。D1系ではカバーに隠れていて、操作しにくかった。この改良点も評価できる。また、液晶モニタのカバーは透明で、装着したまま画像をチェックできる(写真H)。ボディーの左上のダイアルはほぼ同じだが、項目がISOからL(コマンドロック)に変わった(写真I)。
記録メディアは変わらず、Type1または2のCF。裏面を手前に向けて装填するのがニコンデジタルカメラの伝統だ。他社とは逆である(写真J)。レンズマウントは'59年のニコンF以来、寸法的にはまったく不変のニコンFバヨネット(写真K)。 マウントの横にはフォーカスモードのセレクタがある(写真L)。ただ、このセレクタはD1xのほうが不用意に動かなかった。電池はD1系統のニッケル水素からリチウムイオンに変わった(写真M)。メモリー効果がなく使いやすいし、コンパクトになった。ファインダーアイピースには逆入射光を防ぐアイピースシャッター、そしてペンタカバー側面には連続視度補正機構がある。また、測光モードの切り替えはD1系とほぼ同じだ。 画像には重ねて撮影情報やヒストグラムなどを表示できる(写真N)。また、サムネイル機能もある(写真O)。メニューはモニタが大型化されこともあり、見やすくなった(写真P1~4)。
イメージセンサーは独自開発のLBCAST(エルビーキャスト)。CMOSに近いが、MOSFETではなくJFETを使い、2チャンネル同時読み出しにより高速化をしている。また、シャッター耐久性は15万回、レリーズタイムラグは0.037秒、最高8コマ/秒の高速連写、11点の超ワイド測距、視野率約100%、最大40コマまでの連続撮影機能、USB 2.0、無線LAN機能(オプション)など、プロ用一眼レフにふさわしい機能を持つ。 全体としては使い勝手は非常にいい。すぐに操作に慣れることができた。 ●実写してみたら、高速連写とAFが大威力 実写は毎度おなじみだが、ビルをズームレンズの広角側と望遠側で撮った。絞りは開放と、F8またはF11に絞り込んだもの。さらに、D1xも同じレンズを装着して、ピント、露出、色あいなどをチェックした。 VR24~120mmの広角側絞り開放では、D2Hにわずかな後ピンが見られた。このため、ピントを合わせた中央部分を中心にやや甘い。絞り込むと全体に非常にシャープになる。D1xは同じ条件でジャストのピントだった。 ただし、露出はD2Hのほうがぴったりで、文句のつけようがない。D1xはやや露出アンダーになった(写真1)。120mm望遠側では絞り開放から、両方ともシャープになった。また、露出も適正で、どちらか見分けがつきにくいほどだ(写真2)。 VR70~200mmの短焦点側では、D2H、D1xともに、絞りF2.8の開放からいい描写である。露出もぴったりと合っているし、コントラスト特性もいい(写真3)。200mm長焦点側でも、じつにキレのいい描写をしている。細かくみるとわずかに色あいがちがうが、露出もまったく問題がない(写真4)。 こうして、太陽光に照らされている部分を見ると、彩度もD2HとD1xの見分けがつきにくい。ただ、被写体の色によっては、晴天ならD2Hのほうがやや彩度が高めだった。 つぎも定点観測の夜景だが、これは色あいが変わっているのがわかる(写真5)。同じ28~70mmで、露出も同じなのに、これだけ色が変わるというのは、やはりセンサーがCCDからLBCASTに変わったからだろう。 で、かんじんのノイズはというと、D2Hのほうが長時間露出にともなうノイズが少ない。モニタ上でピクセル等倍以上に拡大して、ようやくわかる程度だ。D2Hはノイズが多い、という声があり、ISO200からノイズっぽいなどという人もいる。しかし、ビルの撮影でもノイズは少なかったし、あとで見る人物撮影の定点観測でもノイズは少ない。
つぎの定点観測は特急列車の通過を連写してみることだ。最後の3コマを掲載しているが、さすがに毎秒8コマと毎秒3コマでは差が出る(写真6、7)。 さて、女性を写す定点撮影もおなじみになってきたと思うが、ひとことお断りをしておく。この撮影は近距離でのAF精度、逆光時の露出、肌の調子を含む階調などをチェックしている。いわゆるポートレート撮影ではなく、あくまでもテストの一環であることをご了承いただきたい。今回はあいにくと天気が悪かったため、逆光の露出はわからないので、ホワイトバランスの効果をチェック項目に加えた。 アップの写真では絞り開放にもかかわらずピント精度がいい。ただ、このように天気が悪いとD2Hは彩度が低くなる傾向があるようだ。もちろん、オートホワイトバランスのせいだけではなく、露出もわずかにアンダー気味だ(写真8)。ただ、不思議なのは、撮影距離を離してみると、こんどはD2Hのオートホワイトバランスのほうがいい(写真9)。場所がちがうので、あるいは光の状態によるものかも知れない。いずれにしても、曇天ではD2Hの色はやや彩度が低くなる。 つぎはタングステン光に照らされた人物。オートホワイトバランスだともっと赤くなるはずだが、D2Hはやや赤黄色の傾向だ。D1xのほうがデジタル一眼レフのふつうの設定である(写真10)。タングステン光では自然な色にするためには、マニュアルで色温度を設定するか、プリセットホワイトバランスで白い紙などを測定するのがベストだ。なお、話題がそれるが、メーカーによってプリセットとマニュアルが逆の意味を持っている。これは混乱のもとなので、ぜひ統一して欲しい。
いままで参考として写していた蛍光灯撮影だが、今回から定点観測の項目に加えた。結果から言うと、D1xのほうが補正がきいていて、D2Hはやや黄色みがある。ただし、露出が1段ちがうことも影響している(写真11)。こういうテストでは分割測光(ニコンではマルチパターン測光、評価測光と呼ぶメーカーもある)まかせで撮っている。
超高感度ノイズのチェックも必要に応じて、今回から定点観測することにした。HI-2、つまりISO6400相当のゲインアップ(増感)だが、ノイズはこの感度にしてはましなほうだ(写真12)。前回のオリンパスE-1のISO3200相当と比べてみると面白い。 VRレンズをおもに使ったので、手ブレがどう補正されるか、テストしてみた。これもパナソニックLUMIX DMC-FZ10で撮ったのと同じ被写体である。VR70~200mmを使ったが、ふつうは1/125秒以上で写さないとブレてしまうところだ。ところがシャッター速度は1/10秒で、VRを外すと、ものの見事にブレる。しかし、VRオンでは写真のようにシャープに写し止めることができた。ニコンの言う、手ブレ限界速度より3段以上低速シャッターでブレない、ということが実証された(写真13)。 スナップでふつうに撮った写真では、露出はほぼ明るい部分に合っている。しかし、影の部分もある程度出ている。明るい部分が約1/3EVの露出オーバーのせいもあるが、LBCASTのダイナミックレンジはわりあい広めだ(写真14)。 8コマ連写とワイドエリアAFを生かすため、オフロードバイクのジャンプをダイナミックAFで撮影してみた。ピントぴったりで撮影でき、しかも逆光にもかかわらず、デジタルゴーストが出ていない。レンズは24~120mmだが、このレンズのヌケの良さもいい(写真15)。 ラグビーの撮影でも、このAFと高速連写は瞬間をキャッチするのに非常に効果的だった(写真16)。また、この画像でわかるように、日がよく当たった状態ではやや黄色味がかるが、彩度は高い。 また、これはベータ版での撮影だが、サーキットのストレートを疾走するスポーツカーを400mmレンズ(600mm相当)でもピントぴったりでキャッチすることができた(写真17)。この場合は曇りで、やや色が地味である。 さらに、別売りになるが、RAW現像用のニコンキャプチャーがバージョン4になった。蛍光灯とタングステン光のミックス光源をマニュアルでタングステン光モードで撮った。その結果、こんどは蛍光灯の緑かぶりが出てしまった。こういうときにはキャプチャー4で、あとで細かい補正ができる(スクリーンショットはキャプチャー4のメニュー)。これで補正すると、記憶色に近い仕上がりになった(写真18)。
ニコンD2Hは1カ月販売がのびたが、さすがに完成度が高い。プロ用一眼レフだが、野鳥撮影、スポーツ、飛行機やレース、あるいは鉄道写真などの撮影にはぜひおすすめしたい。万人向きのデジタル一眼レフではないが、目的にマッチすれば、大きな威力を発揮してくれる。 □ニコンのホームページ ■注意■
(2003年12月22日)
【PC Watchホームページ】
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