●需要の高まりつつあるネットワークHDD インターネット、さらにはブロードバンド環境の普及で、家庭や個人でもPCネットワークを構築することはすっかりお馴染みのものとなった。ネットワークの普及にともなって、ネットワーク上のPCで共有できるストレージ、ネットワークに直接接続できるストレージの有用性も認識されつつある。ソフトウェアのパッチ、AV関係のファイルなどを放り込んでおくスペースとして、ネットワーク上のストレージは思った以上に便利であるからだ。 こうした事情を踏まえて、多くのベンダから個人でも購入可能な価格帯にネットワーク接続型のストレージ製品が多数リリースされている。主要なものはこのコラムでも紹介してきたつもりだし、個人的にもバッファロー(旧メルコ)の「HD-120LAN」を愛用している。筆者のような個人ユーザーにとって、PCサーバにハードディスクを増設するより、ネットワークにHD-120LANをぶら下げる方がよほど手軽なのは間違いない。 そう考えるのは筆者だけではないようで、この種のデバイスは結構売れているのだろう。その証拠に定期的にモデルチェンジが行なわれている。今回紹介するのは、バッファローがリリースした個人向けネットワークHDDであるLinkStationシリーズの上位モデル「HD-HGLAN」シリーズと、アイ・オー・データ機器のフルモデルチェンジ版「LANDISK」の2機種だ。 ●Gigabit Ethernetに対応するバッファロー製品 まずバッファローだが、同社のネットワーク接続型外付けHDDとして最初にリリースされたのは、筆者も愛用するHD-LANシリーズ。それにUSBポートを加え、HDDの増設とUSB接続のプリントサーバー機能を加えた上位モデルとしてHD-HLANシリーズがリリースされた(実際の型番は、HDDの容量を示す数字が入りHD-H120LANとか、HD-H160LANという風になる)。 ここで取り上げるHD-HGLANシリーズは、主要なフィーチャーとしてHD-HLANシリーズを継承しながら、ネットワークインターフェイスをGigabit Ethernet(1000BASE-T)対応にしたもの。事実上、HD-HLANシリーズの後継モデルと考えられる。
Intelの865/875チップセットのリリース以降、1000BASE-Tに対応したマザーボードは少なくないし、Hubの価格もずいぶんと安くなった。最近ではノートPCでも1000BASE-Tに対応するものが珍しくないことを考えれば、Gigabit Ethernetに対応したネットワークストレージという製品ジャンルは、確かに個人向けにも成立しそうだ。 今回試用したのは160GB HDDを内蔵した「HD-HG160LAN」。ほかに120GBモデルもある。USB 2.0ポートが筐体の前面と背面に1ポートずつあることを除けば、外観は筆者が持つ初代LinkStation(HD-120LAN)とほぼ同じ。背面に冷却ファンがある点も変わらない(ただ、筆者の経験から言うと、この冷却ファンの動作音はほとんど気にならないレベル)。設定用に分かりやすいソフトウェアが添付されているのもLinkStationシリーズに共通する特徴だ。 2つ用意されたUSBポートは、増設用のHDDとプリンタを接続するためのもの。それぞれ1台ずつ接続可能で、HDDを2台接続することはできない。このあたりの仕様は、HD-HLANシリーズと同様だ。ほかに変わった部分は、おもに内蔵ソフトの機能。HD-HGLANシリーズではWindowsドメインログオン機能がサポートされた(ただしドメインコントローラへの登録はユーザーが別途行なわねばならない)ほか、共有ファイルのアンデリート機能(ごみ箱フォルダ機能)も加わっている。 残念なのは、機能の増強に伴い価格が上がってしまったこと。標準価格では120GBモデルが50,000円、160GBモデルが54,500円とされているが、下位モデルのHD-120LANの標準価格が27,500円、HD-160LANの標準価格が32,000円で、それぞれ差額が22,500円となっている。つまりHD-HG160LANを買う予算でHD-120LANがほとんど2台買えてしまうわけで、微妙な価格設定と言えるかもしれない(実売価格でも18,000円前後の価格差がある)。Gigabit Ethernetに対応したことで、価格差分の性能向上がもたらされたのか、気になるところだ。
●ファンレス設計を継承したアイ・オー製品 一方、アイ・オー・データ機器のLANDISKシリーズの最新作は120GBモデルの「HDL-120U」(今回試用)、160GBモデルの「HDL-160U」、250GBモデルの「HDL-250U」の2種で、いずれも100Base-TXに対応する。最大の特徴は、LANアダプタ方式を止め、HDDと一体式になったことだ。
これまで販売されてきた「HDA-i/LAN」、「HDA-i/LAN2」は、同社のiCONNECT対応の外付けHDDユニット用のLANアダプタという形式をとっていた。これはHDDが交換可能であるだけでなく、iCONNECT対応製品を持つユーザーにとっては、手持ちのドライブをローカルドライブからネットワークドライブへと移行させる手軽なオプションとして有意義だった。 問題は、HDDを交換可能にするため、ネットワークドライブのOS(組み込み用Linux)をHDDに書き込むことができず、OSを別途用意されたCFに収めなければならいない点にある。HDDが高価だった時代なら、HDDを交換可能なメリットももっと評価されたと思うのだが、HDDの低価格化は交換する必然性を低下させてしまった。 加えて、LANアダプタ使用時とUSBやIEEE 1394による直結時を切り替える際に再フォーマットが必要になるため、交換可能なHDDというメリットもいまひとつアピールに欠ける。結局、CFの高コストが目立つことになってしまった。 さらに、OSを限られた容量のCFに収めることが、性能上の足かせになっていた可能性もある。過去のLANDISKシリーズは、ファンレスデザインで静音性には優れていたものの、性能がイマイチでコストパフォーマンスが高いとはいえなかった。 アダプタ方式を止めた今回の新製品は、ファンレスデザインは継承しながら、プロセッサ(SH4)の高クロック化を含め、性能の強化が図られている。 また、初期設定がDHCPクライアント(これまではDHCPクライアントの設定は可能だったものの、初期設定は固定プライベートIPアドレス)になったため、現在の一般家庭で最もポピュラーになりつつあるブロードバンドルータのあるネットワーク環境なら、すぐに接続が可能だ(設定ユーティリティ等は付属しないため、設定画面をブラウザから呼び出すには、本機に割り当てられたIPアドレスをユーザー自身が調べて入力する必要があるが)。 さらに新機能としては、USB 2.0対応ポートを2ポート装備していることが挙げられる。これはバッファローのHD-HLAN/HD-HGLANシリーズと同様だが、本機ではハードディスクを2台接続可能な点が異なる(USBプリンタは1台まで)。いずれにしても、これまでは見劣りしたデータ転送速度がどのくらい向上したのか注目される。
●ベンチマークは大幅な性能向上を確認 というわけで、これらの性能がどの程度のものか、簡単なテストをしてみることにした。テストに用いたのは表1のようなスペックのシステム。Gigabit Ethernet対応のスイッチングHubとしてバッファローのLSW-GT-4Wを加えてある。この1ポートを用いて100BASE-TXで筆者の仕事部屋のLANに接続(DHCPサーバと接続するため)し、残る3ポートのうち1ポートに表1のシステム、もう1ポートにテストするネットワークドライブを接続した。 【表1:テスト環境】
また、比較用にSerial ATAのHDDとUSB 2.0接続の外付けドライブも用意している。Serial ATAドライブであるシーゲイトの「Barracuda ATA V」は最新のドライブではないが、回転数7,200rpmの内蔵ドライブがどれくらいの性能を持つかという目安として、USB 2.0ドライブであるバッファローの「HD-160U2」はUSB接続の5,400rpmドライブの例として見てもらえれば幸いだ。 加えてHD-160U2は、ネットワークHDDのUSBポートに接続して、その時の性能を見る目的にも利用した。USB 2.0でPCに直結した時の性能と、増設に用いた時の性能を比べてみてほしい。 まず表2が、Serial ATAとUSB 2.0それぞれを用いたローカルドライブの性能だ。テストはMPEG-2ファイルのファイルコピー、FDBench 1.01、PCMark04のHDD Test Suiteの3つを実施している。結果について特筆することはないが、回転数の違い(7,200rpmと5,400rpm)を考えれば、まずまず妥当なところだろう。いずれにしても、現在のHDDは、100BASE-TXでは対応できないデータ転送能力を持っていることは間違いない。 【表2:ローカルHDDの性能】
いよいよネットワークHDDのテストだが、比較のために筆者の手元で利用中のHD-120LANも加えてみた。その結果が表3だ(PCMark 04のスコアがないのは、同テストがローカルドライブにしか対応していないため)。ネットワークやドライブ側OSのオーバーヘッドにより、ローカルドライブに比べれば性能は低いが、いずれのドライブも十分AV用途に使える性能を持っていることが分かる。 【表3:ネットワークHDDの性能】
もちろん、新しい製品の性能向上は明らかで、筆者が現用中のHD-120LANも今年の上旬の時点では決して性能の悪いドライブではなかったのだが、すっかり置いていかれてしまった。新製品の中ではHD-HG160LANの性能が良いが、これが1000BASE-Tのおかげなのか、内部的な改良(新しいドライブの採用、プロセッサの高速化、OSの最適化など)の結果なのか、イマイチ分かりにくい。 そこで100BASE-TX対応のハブにつなぎかえて、HD-HG160LANを強制的に100BASE-TXモードでもテストしてみた。その結果を見ると、内部的な改良が施されているのは間違いない(同じ100BASE-TXのHD-120LANより性能が向上している)が、やはり1000BASE-Tによる性能向上分(約24~27%)も含まれていることが確認できた。 一方、アイ・オー・データ機器のHDL-120Uだが、100BASE-TXを前提にする限り、バッファローのHD-HG160LANに近い性能を持つようだ。少なくとも、性能が振るわなかったこれまでのアダプタ式製品の面影はない。さらに、USB 2.0ドライブ(HD-160U2)の増設テストの結果(表4)を見ると、1000BASE-T接続されたHD-HG160LAN経由での性能をも上回っている(ファイルコピーテスト)。 【表4:増設HDDの性能】
増設ドライブはオーバーヘッドが増えるため、若干の性能低下は生じるが、安価さと手軽さは魅力。性能低下といっても、筆者が現用しているHD-120LANより性能は上なのだから、実用性は高いのではないだろうか。実売価格はバッファローのHD-LANシリーズとHD-HGLANシリーズのまさに中間というところで、どの製品が良いかは一概には言いにくい。価格重視、性能重視、あるいはバランス重視でいくか、ユーザーによりベストチョイスは異なるだろう。 ネットワークHDDの利点は、単純なデータ転送速度ではなく、クライアントPCのOSに依存せず、複数台のPCでファイルを共有可能な点にある。また、PCから独立していることで、PCのHDDがクラッシュしたり、ソフトウェア的な問題によりファイルシステムに障害が生じても影響を受けにくい、という利点もある。ネットワークHDDの低価格化はもちろん、モデルチェンジによる着実な性能向上により、ネットワークHDDの魅力はさらに高まっているといえるだろう。 □関連記事 (2003年12月10日)
[Text by 元麻布春男]
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