笠原一輝のユビキタス情報局

Intel、バリューPC向けBanias「Celeron M」を投入へ
~バリュースペースでも薄型ノートPCが登場




 Intelの薄型、軽量ノートPC向けCPUコア「Banias」が、ついに低価格市場(バリュースペース)へと進出する。しかも、そのブランドネームは“Celeron M”となり、Celeronとしては初めてサブブランドがつく製品となる。

 これまで、Celeronに関しては、MendocinoコアからCoppermineコアに変更されようが、NetBurstマイクロアーキテクチャになろうが、ブランドネームは変更しなかったIntelだが、今回初めてCeleron Mとして、Celeronブランドを拡張することになる。これにより、バリューPCセグメントにおいても、Baniasコアを採用した薄型ノートが投入される可能性が高くなってきた。

 また、IntelはDothanコアのPentium Mを、来年のIDF Springの前後に発表する予定であることをOEMメーカーに明らかにしており、第4四半期には新チップセット「Alviso」によりシステムバスを533MHzに引き上げる。

IntelのノートPC向けロードマップ(推定)


●来年早々にCeleron M 1.30GHz、1.20GHzの2製品を投入

 現在IntelはPentium Mをシステム全体の価格で1,500ドル(日本円で16万円強)を超えるメインストリームセグメント向けに投入している。CPU単価で見ても、最も安価な1.40GHzと1.30GHzでさえ209ドルと、やや高めな価格設定だ。

 このため、より安価な価格帯の製品には、Pentium Mは採用されていなかった。

 では、熱設計消費電力(ケース設計時にエンジニアが参照する値)が25WレンジのCPUが入る、バリュー向けの薄型ノートPCでは、どんなCPUが採用されてきたのだろうか?

 実は、そのセグメントにはAMDの低電圧版Athlon XP-Mが採用されてきた。低電圧版Athlon XP-Mは、通常電圧版Pentium Mと同じ25Wの熱設計消費電力に収まっていながら、価格は100ドルを切る価格設定がされており、十分バリューPCに利用することが可能だったからだ。

 例えば、NECは同じ筐体を採用していながら20万円を超えるLaVie MにはPentium Mを、20万円を切るLaVie MEには低電圧版Athlon XP-M搭載を採用してきた。

 ところが、こうした市況は来年の第1四半期に大きく変わる可能性がある。Intelが2004年の第1四半期にBaniasコアのL2キャッシュを512KBに制限したローコスト版「Pentium M」をバリューPCセグメント向けに投入する予定だからだ。

 Celeron Mは1.30GHz、1.20GHzという2つのクロックグレードで1月上旬に投入されるという。価格は100ドル台の半ばが予定されており、1.20GHzに関しては100ドル強と、より安価に設定されている。これにより、OEMメーカーはシステム価格1,500ドル以下の低価格ノートPCにおいても、Baniasコアを採用することが可能になる。

●薄型ノートにCeleronが採用可能になるが、“長時間駆動”ではないCeleron M

 Celeron M 1.30GHz、1.20GHzはいずれもBaniasコア、つまり130nm(0.13μm)プロセスルールで製造され、L2キャッシュが512KBになる点がPentium Mとの違いとなる。

 熱設計消費電力は24.5Wで、Pentium Mと同等。基本的にはPentium Mが入る筐体であれば、そのままCeleron Mに置き換えて出荷できる。

 そのためOEMベンダは、上位モデルとしてPentium M、ローコストモデルとしてCeleron Mを、最終組み立て段階で簡単に切り替え可能になり、柔軟な製品ラインナップを展開できるようになる。この点が、25Wレンジにおいてハイエンド製品を持たない、低電圧版Athlon XP-Mと比較した場合のアドバンテージとなる。

 ただし、Celeron MはPentium Mとは異なりエンハンストSpeedStepテクノロジがサポートされない。Pentium Mでは、製品の最大動作クロックから下限となる600MHzまでを、200MHz刻みで変動させることができるほか、それにあわせて駆動電圧も変動させることが可能で、これによって消費電力を抑えている。Celeron Mではこの機能がサポートされない。

 実際には、Celeron Mでは、スタンバイ時にDeepSleepモードおよびDeeperSleepモードへと変動することになり、消費電力は削減されるが、それでもOSが通常モードで稼働している状態では、CPUが常にフルパワーで回り続けることになる。

 バッテリ駆動時間に大きな影響を与える動作時の平均消費電力に関しては、Pentium Mに比べて若干増えることになる可能性が高い。つまり、“長時間駆動”という意味ではPentium Mに比べて若干劣ることになる。

 なお、OEMメーカー筋の情報によれば、Intelは今後第2四半期にCeleron M 1.40GHzを、第3四半期にはCeleron M 1.50GHzを投入していくという。第3四半期以降には、製造プロセスルールが90nmのDothanへと移行することも検討されている模様だ。

●超低電圧版Celeron 800A MHzは超低電圧版Celeron M 800MHzへリネーム

 また、Intelは熱設計消費電力が7WのミニノートPC向け超低電圧版Celeron Mも投入する。

 日本ではすでに超低電圧版モバイルCeleron 800A MHz、600A MHzというBaniasコアのCeleronが限定的に投入されているが、Celeron Mのリリースにあわせて超低電圧版Celeron 800A MHzは超低電圧版Celeron M 800MHzと名前を変えて登場する。このため、日本メーカー以外の製品にも採用される可能性がでてくる。

 OEMメーカー筋の情報によれば、第2四半期には900MHzの製品が投入され、第3四半期には製造プロセスルールを90nmへと微細化したDothanコアの900A MHzが登場するという。特に、超低電圧版Celeron M 900A MHzの熱設計消費電力は5Wとなる見通しで、より小型のマイクロPCやウルトラPC(UPC)などと呼ばれる製品に採用される可能性もありそうだ。

●DothanコアPentium Mは来年春のIDF、2100BGも同時リリース

 リリースが遅れている90nmプロセスの次世代Pentium M「Dothan」だが、ようやくリリース時期にメドがついてきたようだ。

Prescott(左)とDothanの比較

 OEMメーカー筋によれば、Dothanの製品投入タイミングは2004年2月の半ば、つまり、サンフランシスコで開催される予定のIntel Developer Forum Spring 2003(IDF Spring)のあたりになるとIntelが通知してきたという。

 Dothanの発表に関しては、当初は今年の9月にサンノゼで開催されたIDF Fallの前後となる予定だったが、キャンセルされてしまったという前例があるだけに、今後も変更される可能性はある。

 しかし、OEMメーカーが春モデルにDothanを採用するというスケジュールを考えると、2月半ばというタイミングはギリギリか、むしろ遅いぐらいだと言えるだけに、よほど大きなトラブルでも起きない限りこのタイミングで発表される可能性が高いと言っていいだろう。

 なお、同時期にはIntelのIEEE 802.11gに対応した無線LANモジュール「Intel Pro/Wireless 2100BG」も同時に投入されるという。

 すでにお伝えしているように、IntelはDothanをPentium M 1.80GHz、1.70A GHz、1.60A GHzの3つのクロックグレードで出荷するが、1.70A GHzと1.60A GHzの2製品に関しては同クロックのBaniasコアに比べて30数ドル程度高めの価格設定がされているという。

 IntelはOEMメーカーに対して、Dothanの生産数が出荷当初は十分でないためであると説明しているようで、出荷数が十分になればこの価格差は無くなっていくようだ。従って、当初はハイエンドはDothan、ミッドレンジはBaniasという選択をするOEMメーカーが少なくないだろう。

熱設計消費電力が上昇してしまうDothan搭載機

 なお、その後もIntelはDothanのクロックを上げていく。第3四半期にはDothan 2GHzを追加し、第4四半期にはシステムバスを533MHzに引き上げた2.13GHz、2A GHz、1.87GHz、1.73GHz、1.60B GHzを一挙に投入し、同時に導入される次世代チップセット「Alviso」との組み合わせで大幅な性能向上を目指す。

 しかし、上がってしまうのは、性能だけではない。533MHzのDothanでは、熱設計消費電力が25Wレンジから30Wレンジへと引き上げられる。果たしてこの5Wの上昇により、現在のCentrinoノートが採用しているようなスリムな筐体はそのまま利用できるのか、あるいは現在のCentrinoノートが実現している長時間バッテリ駆動をさらに延長できるのか、今の段階では疑問だ。

 この点に関しては今後OEMメーカーが、どの程度熱設計や省電力設計を向上させられるかにかかっており、Intelにとっても課題といえるだろう。


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(2003年12月4日)

[Reported by 笠原一輝]


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