●おぼろげなPSXの姿
CEATECにおけるPSXに関する新発表は、HDD容量が違うだけの2モデルがラインナップされることが明らかになったことと、それぞれのモデルの標準価格が明らかになったことだった。160GBのHDDを内蔵したDESR-5000が79,800円、250GBを内蔵したDESR-7000が99,800円と、現在市販されているHDD内蔵型DVDレコーダーとしては格安と言って間違いない価格設定がなされている。加えて会場で初めて実物を見たPSXが、ほぼ六面すべてに仕上げが施された美しい姿であったことも印象に残った。
にもかかわらず、会場から帰途に着く筆者は、PSXをどう評価してよいものか、良く分からなかった。DVDレコーダーとしての細かな仕様が明らかにされなかったことも手伝って、果たしてPSXがどのようなユーザー層に向けたものなのか、そもそもPSXはゲーム機なのかDVDレコーダーなのかさえ、よく分からなかったのである。今回、PSXのプロジェクトリーダーである松岡健次統括課長に話をうかがう機会を得て、こうした疑問がかなりはっきりしたように感じた。 ●PSXの中のPS2 まずPSXの位置づけだが、外から見ていた筆者にとって、デビュー時が最もゲーム機色が強く、発売が近くなるにしたがってHDDレコーダー色が強まってきた印象が強い。これは、初めてPSXに関する情報が公開された際、ハードウェア的なアーキテクチャから話が始まったことが大きな影響を及ぼしているようだ。当初PSXは、PlayStation 2(PS2)の心臓部として使われている2つのチップ、EEとGSがコアになった新製品、という紹介のされかたをした。これは間違いではないのだが、実際はわれわれの受け止め方とはずいぶん違ったようだ。
EEとGSをコアにするということは、PS2の機能を中核にする、という風に考えがちだが、松岡氏によると、家電に直感的で分かりやすいユーザーインターフェイスをもたらすキーコンポーネントとしてEEとGSの採用が決められたのだという。つまり、EEとGSを内蔵していながら、ゲームができない(PS2との互換性を持たない)PSXも「アリ」だったというのである。極端に言えば、EEとGSが採用されたのは、ソニーが持つビジュアルプロセッサとして存在したからであり、それがPS2のコアであることは必ずしも重要ではなかった、ということになる。ちなみにMPEG-2のエンコードはEE/GSのソフトウェア処理ではなく、ソニー製の録画機にも使われた実績のあるジェネリックな専用チップが用いられる。 確かに外観を見ても、PSXのロゴがPS2を連想させるものの、このロゴさえなければゲーム機らしさはあまり感じられない。フィニッシュがきれいなのはすでに述べたとおりだが、どちらかというとプラズマTVや液晶TVなど、奥行きの薄いディスプレイに合わせたデザインである。ゲーム機としての使い勝手を考えると、コントローラが極めて重要なわけだが、PSXではゲームコントローラ端子は背面のアンテナ端子の横に押し込められている。つまり、抜き差しの頻度は高くない、という前提のデザインなのである。 これをPS2と比べればよりハッキリする。新世代のゲーム機にして、当時まだ普及していなかったDVDプレイヤーでもあったPS2では、すべての操作をゲームコントローラで行なうことが前提であった。ゲームコントローラ端子は、当然のように抜き差しの容易な前面パネルに用意されているが、有線のゲームコントローラではDVDプレイヤーとしての使い勝手はあまり良いとはいえなかった。PS2にDVDプレーヤー用のリモコンが付属するようになったのは、しばらく後になってからのことである。
PS2では横置きしても縦置きしても、コントローラ端子は前面にくるようにデザインされているが、PSXでは横置き用と縦置き用で、独立した2カ所にリモコン用の赤外線受光部を備えている。このことからも、PSXのメインコントローラは、赤外線リモコンだと考えて間違いないハズだ。PS2がDVDプレイヤーにもなる新世代ゲーム機だったとすれば、PSXはゲームも楽しめるDVDレコーダーということになるのだろう。
●HDDレコーダーとしてのPSX では、HDD内蔵DVDレコーダーとしてのPSXはどうなのか。それの答えを知るヒントは、PSXがサポートしている機能にある。CEATECでのお披露目以来、PSXの機能にはさまざまなことが言われてきたが、画質や音質に直接関係してくるアナログ部については、PSXは一通りの機能を備えている。GRT(ゴーストリダクションチューナ)はもちろん、3次元Y/C分離、TBC(タイムベースコレクタ)、DNRなど、同じ価格帯のS-VHSデッキが備えていそうな機能はだいたいある。 一方、デジタル部の機能については、多くがソフトウェアで実装され、後にファームウェアのアップグレードによる機能追加が可能とされている。が、G-GUIDEによるEPG(電子番組表)、VBR(可変ビットレート記録)、といった最もベーシックな部分は確定しており、最後の詰めの段階にあるようだ。 ただ、ベーシックな部分を離れると、省略された機能も目立つのも事実。編集機能は、ほぼGOP単位で2地点間のカット編集のみに限定されているし、以前のPS2にあったIEEE 1394(i.LINK)端子も省略されておりデジタルビデオカメラ(DVカメラ)との連携もサポートされていない。メモリスティックスロットも、少なくとも初期出荷状態ではソニー製デジタルカメラからのスチル画像の取り込みと、MP3データの読み込みのみがサポートされており、PSXから何かのデータを書き出すといった機能(たとえば音楽CDのリッピングなど)はサポートされていない。 10/100Base-TX対応のネットワーク機能にしても、用途はPS2対応のネットワークサービス(オンラインゲーム)を除くと、用途はファームウェアのアップグレード程度。たとえば電子メールを使った番組録画予約だとか、ネットワーク上のPCに動画データを配信するホームAVサーバー機能だとか、そういう凝った機能はない。それどころか、ファームウェアアップグレードにしても、すべてのユーザーがネットワークに接続しているとは想定しないとのことで、オンライン以外でのアップグレードパッチの配布を考えなければならないだろう、とのことである。スタンドアロンで利用するユーザーも当然いると考えられているようだ。 DVDメディアのサポートにしても、DVD-RとDVD-RWの両メディアがサポートされているが、番組の直接録画はできず、HDDに録画したものをメディアに書き出す方式のみだ。DVD-RWについてはVideoフォーマットとVRフォーマットの両方がサポートされているものの、追記はできない仕様になっている。DVD+VRについては後にサポートが追加されることになっているが、追記ができなければ+VRフォーマットのサポートにどれだけ意義があるのか良く分からない。 また、BSデジタルや地上波デジタルで導入されるコピーワンス属性の番組録画(CPRM対応)にしても、PSXはHDDに録画できても、メディアに書き出すこと(ムーブすること)はできない。 ●ファミリー向けのHDDレコーダーが実像 だが松岡氏によると、今回のPSXはこれでいいのだという。たとえば追記をサポートするには、ユーザーが「ファイナライズ」という行為を意識せねばならない。しかし、光ディスクの専門家でもない一般のユーザーにとって、ファイナライズという行為はなじみの薄いものだ。今まで使ってきたVHSのデッキにはなかった概念は極力排除して、VHSデッキの代わりに使ってもらう、というのが狙いだという。 確かに、コピーワンス番組のムーブを望むようなユーザーは、VHSデッキのユーザーというよりD-VHSデッキのユーザーだといえるかもしれないし、GOP単位の編集はフライングイレースヘッドのないビデオデッキのようなもの、とも考えられる。今回のPSXは、それくらいベーシックな録画機、という位置づけのようだ。 どうも、EEとGS(実際には90nmプロセスでワンチップ化された)の採用、これまでのAV機器とは一線を画するデザイン、「PS」という文字列を含む名称などから、PSXを特殊な製品だと勘違いしていたのかもしれない。PSXにつけられた価格をちゃんと考えれば、これがマニア向け、あるいはハイエンド向けの製品でないことなどすぐに分かりそうなものだが、ソニーがそういう訴求をしていなかったこともあって実体を見失ってしまっていたようだ。 PSXは基本的な録画機能を抑えた、ファミリー向けのDVDレコーダーであり、PSやPS2対応のゲームも楽しめる。録画機としては機能的に弱い部分もあるが、同価格帯の他社製品に比べ2倍に近いHDD容量を持つコストパフォーマンスの高さと、モダンリビングにマッチするデザインが売りだ。AVルームや書斎ではなく、家族の集うリビングルームに置くDVDレコーダーを求めるのなら、PSXが良い選択肢となるかもしれない。
□関連記事 (2003年11月19日)
[Text by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
|
|