●フラッシュメモリメディアが牽引するデジタル市場 本コラムの読者なら、LSIに集積可能なトランジスタ数は18カ月ごとに倍増していく、というムーアの法則はご存知のことだろう。このムーアの法則を具現化した製品として最もよく知られているのは、なんといってもマイクロプロセッサだが、ムーアの法則は何もマイクロプロセッサの性能向上を物語るだけのものではない。ムーアの法則はすべての半導体製品にあてはまるものであり、我々の身近にある製品でそれを実感させてくれるものの1つが、フラッシュメモリを用いた記録メディアだ。 当初は8MBや16MBという容量に過ぎなかったフラッシュメモリメディアは着実に大容量化を続け、今では2GBや1GBといった大容量のものまで登場してきている。フラッシュメモリメディアの大容量化がなくては、デジタルカメラの高画素化も難しかったことだろう。フラッシュメモリメディアの大容量化が新しい用途を必要とすると同時に、新しい用途が大容量フラッシュメモリメディアの登場を促している、とも言えるかもしれない。
こうした大容量フラッシュメモリメディアの新しい用途の1つとして注目されているのが動画の記録だ。松下電器産業のD-Snapや三洋電機のDMX-C1は、静止画に加えて動画も記録可能なカメラである。小型のフラッシュメモリメディア(SDメモリーカードなど)を採用したことにより、普及しているテープ媒体を用いたカメラに対して、本体を小型・軽量化することができた。
●他社とは異なったアプローチを採るソニー フラッシュメモリメディア+動画というテーマに対して、上記2社とまったく異なったアプローチを採っているのがソニーだ。 同社は「モバイルムービー」というコンセプトの元、同社が提唱するフラッシュメモリメディアであるメモリースティックにTVを記録して、外へ持ち出すという使い方を提唱している。対応機器の中にはカメラ撮り可能なものも含まれているが、軸足はあくまでもTV番組の録画と再生に置かれている。
現時点でモバイルムービーに対応した製品としては、携帯電話(au)、PDA(クリエ)、大画面TV(ベガ)などが発表されているが、個人的に気になったのが11月1日に発売となった「メモリースティック」ビデオレコーダーだ。
一応、内蔵TVチューナ(VHF + UHF)からTV出力することはできるものの、メモリースティックに記録された動画を再生する機能は持たない。エンコーダだけでデコーダを持たない録画専用機、と考えればいいだろう。 再生に用いるプレーヤーだが、おススメはやはりクリエシリーズのPDAだ。対応するクリエはUXシリーズ、NXシリーズ、NZシリーズ、TGシリーズの計7モデル。基本的にはサウンド機能を備えたPalmOS 5.x搭載(ARM系CPU採用)のクリエとなっているが、米国で発売されているPEG-TJ35(モトローラ製ARMコアプロセッサを搭載したモデル。国内発売されているPEG-TJ25に音楽再生機能を加えたもの)が除外されていることからすると、ほかにも何か条件があるのかもしれない。 録画した動画を再生するだけなら、モバイルAVビューアのMSV-A1や、まもなく発売されることになっているauの携帯電話(ソニーエリクソン製「A5404S」)でも可能だし、理屈の上ではメモリースティックスタジオを搭載したベガシリーズの大画面TVでも再生はできる(おそらく画質の点で不満が出るだろうが)。
ただ、現時点でPEGA-VR100Kで予約録画をするには上述したクリエが必須となるため、クリエ以外のプレーヤーを前提に本機を利用することはあまり現実的ではない(11月下旬に予約録画も含め、PEGA-VR100Kの各種設定をPC上で行なうアプリケーションが提供される予定)。
●録画してみる 実際の利用法だが、まずPEGA-VR100Kに付属のCD-ROMからVideo Utility(TV番組の予約情報を管理するクリエ上のアプリケーション)と「Movie Player」用システムソフトウェアアップデートプログラム(MPEG-4コーデックの更新、PEG-UX50を除く)をインストールする。さらにクリエのサポートサイトから「TVscape」アップデートプログラムを入手し、インストールしておく。こちらはクリエ上のTV番組情報管理/予約アプリケーションであるTVscapeを、VAIO搭載のGigaPocketに加えPEGA-VR100Kにも対応させるものだ。 以上の準備が終わったら、Internetに接続されているPCとのHotSync、あるいは直接クリエをInternetに接続して、ソニーが運営するTV王国からTVscapeにTVの番組情報を取り込む。 次に録画に用いるメモリースティックをクリエにセットしたあと、取り込んだ番組情報(画面1)を見ながら見たい番組をタップすると、画面2のような番組の詳細情報が表示される。この画面下にある「予約追加」のボタンをタップすると予約追加のダイアログ(画面3)が表示される。ここでOKをタップするとVideo Utility(画面4)が呼び出され、必要な修正を行なったあとにOKをタップすれば予約が完了する。
予約情報はメモリースティックに書き込まれ、メモリースティックをPEGA-VR100Kにセットすることで予約情報が受け渡される。PEGA-VR100Kが情報を正しく読み出せたかどうかは、前面パネル右端にあるStandby LEDの点灯でわかる仕組みだ。
●実際の利用シーンについて
Video Utilityで設定可能な画質は高画質(HQ)/標準(SP)/長時間1(LP1)/長時間2(LP2)の4モード。それぞれのモードの記録フォーマットは表1のようになる。
ここで重要なのは、時間の限られた朝、起きてメモリースティックを抜けば、そこに番組が記録されている、ということである。たとえばMPEG-1でPC録画したファイルをクリエ用にトランスコードしたり、動画のファイルをPCのハードディスクからメモリースティックにコピーしたり、といった作業が一切要らない。 いちいちPCを起動してファイルをメモリースティックにコピーして、などという作業を、忙しい朝、毎日やっていられるハズがない。そういう意味で、PEGA-VR100Kによるメモリースティック録画は、極めて実用性が高いと思われる。 一方の画質だが、表1の記録フォーマットでもわかる通り、ことさら高画質というわけではない。映画などを鑑賞する、という用途にはあまり適していないのは事実だ。しかし、上述したようなニュースをチェックする、という利用には十分過ぎる。ニュース番組などでも、テロップや時刻表示もちゃんと読める。
筆者がテストに用いた縦型クリエ(PEG-NX73V)を縦持ちした場合のビデオウィンドウサイズがちょうど320×240ドットであることも画質の維持に貢献しているだろうが、電車のつり革につかまりながら見ることを考えれば、現実的な利用法ではないかと思う(横に持って480×320ドットのフルスクリーン表示にすると、若干アラが目立ってくる)。
●良い点/悪い点 むしろ残念なのは画質より、動画のフォーマットが独自のMovie Player形式であることだろう。とりあえずPC上での再生は、最新版のQuick Timeをインストールしておけば可能だが、これさえもソニーが保証していることではない。せっかく汎用性のあるCODEC(MPEG-4)を採用しているのだし、もう少しPCの上で自由に扱わせてくれれば良いのにと思う。
それでも本機の価格が比較的安価であることを考えれば、十分満足度は高い。
□関連記事 (2003年11月14日)
[Text by 元麻布春男]
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