NECのVALUESTAR Hは、分類からすればいわゆる“テレパソ”(TV in PC、テレビ機能を持ったPC)に分類される液晶一体型PCだが、実のところ単なるテレパソではない。 というのも、最近のテレパソでは一般的になっているTV録画機能をあえて搭載せず、純粋にテレビを視聴するという機能にフォーカスがあてられているからだ。TV in PC(テレパソ)と呼ぶよりは、“TV and PC“(テレビとPC)と呼んだ方がしっくりくるだろうか。 今回はこのVALUESTAR Hについて主に機能面を中心に紹介していきたい。
今回のVALUESTAR H(以下本製品)のテレビ機能は、完全にPCから独立して動作しているため、テレビ機能という意味ではライバルとなる液晶テレビに負けないように、高品質な表示が実現されている。 映像信号を輝度(Y)と色(C)に分離し、過去のフレームの情報も含めて入力する3次元Y/C分離、映像信号にのっているノイズを削減するデジタルノイズリダクション、映像の2重映りや反転ゴーストといった電波状態がよくない状態で発生するゴーストを削減するゴーストレデューサなど、高品質表示に必要な機能が標準で搭載されているのだ。 また、インターレース(1フレームを2つの画面を重ねて構成する表示方式、TVの映像は標準ではインターレース)の映像を、本製品で採用されているようなPCディスプレイでの表示に適したプログレッシブ(1コマ1画面)に変換する機能が搭載されており、これをオンにすればさらに高品質な画面でテレビを視聴することができる。実際、PCに内蔵されているTVチューナとして見ればかなり高い表示品質であると言ってよい。 なお、本製品では液晶ディスプレイにいわゆる“ピカピカ液晶”や“ツルツル液晶”などと呼ばれている高輝度の液晶が採用されている。NECが高輝度エクセレントシャインビューと呼ぶ本製品に採用されている液晶は、簡易輝度計で計測したところ380cd/平方mと、PCとしてはかなり高い最大輝度を実現していた。 輝度はキーボードやテレビリモコン上に用意されている“Visual”というボタンを押すことでワンタッチで切り替えることができる。テレビモードではノーマル、ムービー、ダイナミック、ユーザー1、ユーザー2から選択することができ、PCモードではオン、オフが選択できる。 【テレビ視聴時】・ノーマル:PCで作業する設定、低輝度 ・ムービー:映画などを見るのに最適な設定 ・ダイナミック:色合い豊かな設定 ・ユーザー1、2:ユーザー設定 【PC利用時】 ユーザー設定では輝度、コントラスト、シャープネス、カラー、色合い、ガンマなどの設定項目が用意されている。PCモードでは、最高輝度、低輝度の切換がワンタッチで行なえる。通常のPCとして利用する場合には低輝度で利用し、DVDを再生する場合には高輝度で利用するなどの使い分けが可能だ。 テレビの設定は、リモコンでメニューを押すことで表示される、OSD(On Screen Display、画面上に重ねて表示される設定画面)を利用して行なう。設定項目は以下の通りだ。 【メニュー設定】・ビジュアル設定(輝度、コントラスト、シャープネス、カラー、色合い、ガンマ) ・輝度(32段階) ・PIP(子画面のサイズ、位置) ・テレビ品質(3次元Y/C分離、プログレッシブ、チャンネル、強制モノラル) ・オプション(工場出荷時への初期化)
本製品は録画機能を搭載していない。というのも、本製品のテレビチューナが、PCからは独立していて、PC側からはほとんど操作することができないからだ。実際、デバイスマネージャで確認すると、PCからはテレビチューナをデバイスとして認識していない。Windowsから直接操作できる範囲は狭く、PC側では視聴予約(録画予約ではない)を行える程度であり、TVに関するほとんどの操作は本製品のキーボード部に用意されたボタンか、付属してくるリモコンで行なうことになる。
テレビ機能が完全にWindowsから独立しているため、Windowsが起動していない状態でもテレビ機能を操作することが可能だ。例えば、Windowsが起動していない状態で、テレビリモコンの電源ボタンを押すと、テレビだけが即時に起動してテレビを見ることができる。電源ボタンを押して、1秒から2秒程度でテレビを視聴可能な状態にできるのだ。 通常のテレビに比べるとややタイムラグがある感はしなくもないが、起動するまで数分はかかるPCを起動してから使うのに比べれば、圧倒的に速いというのは言うまでもない。
テレビとPCの表示切換は、キーボード上部やリモコンに用意されているPIP(Picture In Picture)ボタンを利用して可能になる。このPIPボタンを利用すると、単にテレビとPC画面の切換が行なえるだけでなく、PC画面の四隅にテレビ画面を表示したり、逆にテレビ画面の四隅にPC画面を重ねて表示することができる。例えばWindowsアプリケーションでメールを見ながらテレビを見たりすることも可能だ。 なお、先ほどふれたように、予約時間がくると自動的にTVが表示される「視聴予約」ができるようになっている。ただ、予約した番組を表示させるには、必ずPCが起動している必要があり、PCの電源がオフになっていたりスタンバイモードに入っている時には予約されていても動作しないので注意したい。 もっとも、テレビを見るためには、ユーザーがテレビの前にいる必要があり、その時にはPCの電源も入っているだろうから、こうした仕様で実用上なんら問題ないだろう。 “PCでメールを書くのに没頭してしまい、テレビをつけ忘れた!”などという事態を避けるための機能だと考えれば、便利な機能といえる。
冒頭でも述べたように、本製品は液晶テレビとしての機能と同時に、PCとしても利用できる。キーボードは液晶の手前についており、2つに折り曲げて利用する。
手前側には通常のキーボードが用意されており、キーボードと本体の間には光学ドライブとテレビを操作するスイッチが用意されている。 PCとして利用する場合にはキーボードを出した状態で利用するが、キーボードを折り曲げてTV操作用のスイッチだけ利用する使い方や、折り曲げた状態で閉じる、という使い方がある。なお、折り曲げた状態では、キー入力は無効になるようになっており、キーボードを下にした場合でも誤ったキー入力が行なわれる心配はない。 キーボードを折り曲げて閉じ、半分だけ液晶画面が表示されている状態(NECではハーフスタイルと呼んでいる)には、以下の画面表示が可能になる ・パーソナルライフウインドウ・パーソナルライフウインドウ+時計 ・時計のスクリーンセーバー ・そのままWindows画面を表示 ・休止状態への移行 パーソナルライフウインドウとはスケジュールやメッセージ、インターネットなどの画面が表示できる画面で、付属ソフトのパーソナルライフウインドウに入力した予定、メッセージなどを画面に表示することができる。 ただ、気になったのは、この折り曲げた状態で、音楽CDの再生を行なうのが不便であることだ。というのも、本製品ではキーボード側にトレイタイプの光学ドライブが搭載されているのだが、キーボードを折りたたんだ状態では、トレイの表側が液晶パネル側に向いてしまい、メディアの出し入れができないのだ。 このためか、ハーフスタイル時にCDを操作するような設定は用意されておらず、CDを再生するには一度キーボードを開いた状態に戻す必要がある。使い勝手の点で言えば、キーボードを閉じた状態でもCDを再生したいところだ。できればスロットインタイプのドライブを採用するなど、次機種で再検討して頂きたい。
以上、主にテレビ周りの機能を中心に説明してきたが、もちろんPCモードに切り替えて利用すれば単なる液晶一体型PCとして利用できる。CPUはAMDのモバイルAthlon 4 1.1GHz、チップセットはSiS 740(グラフィックスコア内蔵)、40GBのHDD、256MBのメインメモリ(うち32MBはビデオRAMに割り当てられている)というスペックとなっている。 正直言って、最新のPCのスペックから言えば、間違いなくローエンドに分類されるだろう。だが、インターネットに接続してWebサイトを閲覧する、メールを読み書きする、ワープロソフトで文書を作成するといったPCの基本的な使い方には十分なスペックだ。 こうした用途に利用するのであれば、たとえIntelのPentium 4 XE 3.20GHzでも、本製品に採用されているモバイルAthlon 4 1.1GHzでも体感ではさほど大きな違いはない。特にスペック的に不満を感じることはないだろう。 インターフェイスだがUSBポート×4、PCカードスロット(Type2×1)、PS/2ポート(マウス)、オーディオ入出力、TVアンテナ、Sビデオ入力端子、コンポジット端子などが用意されている。液晶ディスプレイの解像度はXGA(1,024×768ドット)で、1,677万色表示が可能になっている。本体の後部には、本体の角度を調節するための足があり、液晶を望みの角度に傾けることができる。
以上のように、本製品は液晶テレビとしての機能と、PCとしての機能という2つの側面を持っており、どちらの機能も十分実用になる製品に仕上がっており、単体の製品として利用することも十分可能だ。 いわゆるPC初心者やこれからPCを購入しようというユーザーにとっては、本製品はひとつの選択肢となるだろう。 本製品はPCとテレビがそれぞれ独立しており、PCとして使わなくても、液晶テレビ単体で使うことが可能だ。このため、普段は液晶テレビとして利用し、時々PCを使う、あるいはメールやWebブラウザでWebサイトを見るためだけに使うと考えれば、別の可能性が見えてくるだろう。つまり、PCとしてではなく、メインの機能をテレビであるととらえ、あくまでPCはおまけの機能だと考えればいい。 PCの世界に慣れ親しんでいない人がPCの世界に飛び込むことは実に勇気がいることだ。以前よりずっと使いやすくなったとはいえ、家電製品に比べればずっと使いにくいことは誰もが認めるところだ。メーカーとしては、そうしたユーザーがPCの世界に入ってくるための敷居を下げなければ市場の拡張は期待できない。本製品はそうした新しいユーザー獲得を狙った製品と言うことができるのではないだろうか。 □関連記事 (2003年11月6日)
[Reported by 笠原一輝]
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