ソニーのバイオノート505 EXTREME(PCG-X505、以下本製品)は、厚さが最薄部で9.7mm、重さが785g(PCG-X505/SP)というノートPCとしては信じられないスペックを実現したミニノートPCだ。 eXtreme(極上)のXを冠してX505と名付けられた本製品は、'97年11月にリリースされた初代バイオノート505の原点に立ち返って設計された製品で、初代505を意識した円柱型バッテリを生かしたデザインでまとめられている。 本レポートでは、バイオノート505 EXTREMEの2つのモデルのうち、ソニースタイルから発売されるPCG-X505/SPを利用して、その魅力に迫っていきたい。
このX505を設計するにあたり、バイオノートのエンジニア達は、バイオノートの原点である初代505にまで立ち返って、設計を行なったという。確かに、初代505では、薄さ23.9mm、質量が1.35kgという、当時のサブノートPCとしては画期的なコンパクトさを実現し、さらにマグネシム合金を採用して質感を高め、その後の“銀パソ”ブームのはしりとなるなど、1つのトレンドを作りだした。その成功をもう一度再現してみたいという想いが本製品には込められている。 初代505以降、505シリーズはフルスペックのモバイルPCのライン、より軽量なモバイルPCのラインとに分離して進化してきた。'99年に、10.4型液晶を搭載したバイオノートN505と12.1型液晶を搭載したバイオノートZ505という2つのラインに分離し、その後それぞれ進化していったからだ。 N505はその後バイオノートSR/SRXシリーズを経て、現在はバイオノートTRシリーズとなっている。Z505のラインはその後バイオノートR505となり、現在バイオノートV505へと進化している。 本製品は、TRやV505といった505の精神を受け継ぐ従来の製品とは異なる位置づけの製品だ。TRやV505などが、同じようなスペック(CPUやHDD)の他社製品とほぼ同価格帯の製品であるのに対して、本製品は通常の同スペックモデルよりも10万円近く高い価格に設定された高付加価値製品だからだ。 では、その高付加価値とはなんだろうか? それが“薄さ、軽さ、高級感”という3点なのだ。
本製品は、最薄部の厚さがわずか9.7mmしかなく、ついに1cmの厚さを切っている(最も厚いバッテリ部分の厚さは21mm、5点平均で15.5mm)。 この厚さを実現するために、いくつかの工夫がされている。まずデザイン面では、円柱状のバッテリ部分に、液晶と本体が接続された、初代バイオノート505を彷彿とさせるものが採用されている。 通常、本体部はマザーボードとHDD、キーボードなどが内部で重なりあうように配置されているのだが、本製品は各部品のフットプリンを最小にするように各コンポーネントが設計されており、本体の内部でキーボード、HDD、マザーボードが重ならないよう配置されている。これにより、薄さを実現することが可能になったのだ。 本製品の内部構造は、一番奥側にバッテリ、その両脇にはACアダプタの入力と、電源ボタン。一番手前はキーボードになっており、キーボードと液晶の空間は、左からポート類、HDD、基板、PCカードスロットという構造になっている。薄さを実現することを優先した無駄の無い配置だ。 そのため、マザーボードなどの基板に用意されたスペースは通常のPCに比べて圧倒的に小さく、実に驚かされる。 今回ソニーは、本製品のために様々な工夫を凝らした基板を設計した。この基板には、部品実装のための層(ビルドアップレイヤー)をもうけた10層基板を採用しており、各層間で信号のやりとりを行なうための“ビア”も、一般的なマザーボードで利用されている“貫通式”ではなく、基板の途中まで穴をあけることで配線の高密度化を図る“ブラインドビア”という仕組みを採用している。 このほか、細かな電子部品(抵抗、コンデンサー)なども携帯電話などで利用される超小型のものを採用し、実装密度を高めている。 同社の関係者によれば、従来のバイオノートでは基板上の40~70%程度に部品が実装されていたが、本製品では基板の90%に部品が搭載されているという。
もう1つの特徴が、軽さだ。本製品は、通常の店頭売りモデル(PCG-X505/P)とソニーの直販サイトであるソニースタイル専用モデルの2ラインナップが用意されているが、前者は825g、後者に至っては785gという軽量を実現している。 10.4型液晶を搭載したノートPCは、これまで1kg前後が多かったことを考えると、いきなり200g近くのシェイプアップになっているのだ。 ソニースタイル専用モデルにおいて、こうした軽量を実現した最も大きな理由は、その素材にある。ソニースタイル専用モデルでは、ボディ素材に「カーボンファイバ積層板」と呼ばれる素材が採用されている(外板のみで、内部はマグネシウム合金)。 カーボンファイバは、レーシングカーや戦闘機などの素材としても利用されており、強度と軽さには定評がある素材だ。本製品で採用されたカーボンファイバ積層板は、0.1mm厚のカーボンシートを6枚貼り合わせて作られる。実際には層間に接着剤分もあるので0.7~0.8mm程度の厚さとなる。 特徴的なのは、同じ厚さにおける堅さ(剛性比率)でマグネシウム合金の2~3倍となっているほか、同じ堅さにおける重量の比較(比重比率)では、マグネシウム合金に比べて17%も軽くすることが可能であるという。 要するに、同じだけの堅さにするのに、マグネシウム合金を利用する場合に比べて、薄く、軽くすることが出来るのだ。例えば、カーボンファイバ堆積板で0.7~0.8mm程度の厚さとした場合、マグネシム合金で同じ剛性を出そうとすると0.9~1mm程度となるそうだ。 なお、店頭売りモデルには、堅さを同じにすると厚さ、重量がマグネシム合金とほぼ同じになるニッケル強化カーボンモールドが利用されている。つまり、ソニースタイル専用モデルはカーボンファイバ積層板を利用することで40gのダイエットに成功したということだ。
3つ目のキーワードとなるのが“高級感”だ。 まず塗装については、両モデルともに、カーボンの良さを引き出す塗装が施されているが、特に目に付くのは、カーボンファイバ積層板を採用したソニースタイル専用モデルだろう。 ソニースタイル専用モデルでは、カーボンの素材を生かすために光沢塗装が施されており、既存のPCではあまり見たことがないイメージに仕上がっている。ただ、どうしても指紋などが付きやすいという問題があるので、標準で磨き用のクロスが付属している(これにも“VAIO“というロゴが入っているのがユニークだ)。 もう1つ特徴的なのが、本体の表面、裏面ともに意匠面として塗装やロゴの配置が行われていることだ。 通常、PCの裏面と言えば、マシンのシリアルナンバーや無線の注意書きなどが貼られるスペースになっているが、本製品では裏も表も同じ塗装になっており、鞄から出す時、表から出そうが、裏から出そうが同じイメージに見えるようになっている。 なお、マシンのシリアルナンバーなどは、バッテリの接合部に隠されており、通常では見えない場所に配置されている。 ただし、裏側にはWindowsのライセンスシールが貼られている。これはソニーに限らず、PCメーカーとマイクロソフトの取り決めによるもので、必ずどこか見えるところに貼らなければいけないことになっている。これだけはどうしようもなかったのだろう。 また、本製品には標準でケースが付属してくる。黒を基調にしたこのケースは、ケース自体が大きくなることを防ぐために、ケースの側面から開封する形状になっている。 本体をそのまま鞄に入れるというのが不安であればこちらを利用するのがいいだろう。なお、後述するが本製品には、アクセサリとしてEthernetポートのコネクタケーブル、マウス、無線LANカードが標準で付属してくるが、これを入れて持ち運ぶアクセサリ用のケースも付属する。
本製品では、最も薄い部分にキーボードとポインティングデバイスが配置されている。キーボードは日本語配列、6列87キーのキーボードで、キーピッチは約17mm、キーストロークは約1.5mm。 2~3mmのストロークを確保しているような他製品に比べれば確実にストローク感がないのは事実だが、ピッチはこのクラスとしては標準的なピッチが採用されており、決して入力しにくいということはない。 ストローク重視のユーザーには厳しいところだが、最近ではストロークはあまり無くてよいというユーザーも増えており、あまり大きな問題ではないのかもしれない。なお、筆者の主観的なインプレッションを述べさせてもらえば、1.5mmというストロークの割には快適に入力することができた。 なお、キートップの下には、本体と同色のフレームが入っているため、本体とキーボードが一体になっているように見えるが、実際には、キーは1つ1つキートップの形で実装されている。キートップがフレームよりも内側に入っているため、爪などが入ってしまってキートップを誤ってはずしたりということがないように工夫されている。 ポインティングデバイスはスティックタイプが採用されており、ボタンはセンターホイール相当のボタンを入れて3つ用意されている。スティック型は苦手というユーザーのために、USB接続のマウスが標準で添付されている。 なお、本製品ではキーボード、ポインティングデバイスが、手前一杯まで来ているため、パームレストは用意されていない。最近のノートPCに見慣れていると、パームレストがないのは違和感があると思うが、本製品では本体が9.7mmと非常に薄くなっているため、実利用環境ではあまり違和感がなかったことを付け加えておきたい。
本製品ではCPUにIntelの超低電圧版Pentium M 1GHzが採用されている。超低電圧版Pentium M 1GHzは、7Wの熱設計消費電力で、バッテリ駆動時間に影響を与える平均消費電力も0.5W以下と、現時点ではIntelのモバイル向けCPUの中で最も低消費電力な製品だ。 本製品では、ファンを内蔵しないファンレス仕様となっている。このため、CPUやグラフィックスコア内蔵のチップセットが発生する熱は、熱伝導率のよいグラファイトシートを利用し、ボディ全体に拡散する仕様となっている。 本製品ではちょうど、CPUが液晶とキーボードの間にあるロジックユニットの中央にあり、そこからロジックユニットの左右に向けて放熱していく仕組みになっている。ノースブリッジは裏側にあり、裏面ではノースブリッジの放熱を行なう。 実際、対物用センサーを利用して温度計で測ってみると、以下のようになっていた。計測したのは、ベンチマークプログラムのSYSmark2002を、CPUの処理能力を最大に設定して実行した(だいたい1時間フルロードで実行される)後の状況だ。一般的なユーザーがACアダプタに接続して1、2時間利用した後の目安として参考にして欲しい。
人間の体温より高いのはCPUの真上とノースブリッジ付近ぐらいで、あとはいずれも体温を下回っている。このため、実際さわって熱いと感じるのは、CPUの真上とノースブリッジの上程度で、キーボードにはほとんど熱が伝わっていなかった。かなり巧妙な熱設計がされていると評価していいだろう。 なお、バッテリ駆動時には、SpeedStepテクノロジを利用してCPUのクロックが下がる場合が多いので、モバイル環境ではさらに温度が下がることが予想される。モバイル環境で利用する場合には、ほとんど気にならないレベルといえるだろう。 なお、ファンレスであるので、当たり前だが動作音がほとんどしないという点も特徴だ。実際、電源が入っていても、HDDのアクセス音程度しかせず、インジケータがなければ動作しているのかと心配になってしまうほどだ。
CPU以外のスペックとしては、チップセットがIntel Extreme Graphics2のグラフィックスコアを内蔵したIntel 855GM、512MBのオンボードメモリ、20GBのHDD、10.4型のTFT液晶となっている。 メインメモリは、標準で搭載されている512MBのみとなっており、増設することはできない。これは、本体を薄くするために、メモリソケットの搭載を見送ったためだと考えられる。このあたりは薄型化とのトレードオフということができ致し方ないだろう。ただし、標準で512MBはこのクラスのノートPCとしては十分なもので、特に困ることは少ないだろう。
HDDは東芝のMK2004GALが採用されている。MK2004GALは1.8インチのHDDで、容量は20GB、回転数は4,200回rpmというスペックだ。 出荷時状態ではCドライブ(10GB)+Dドライブ(10GB)という構成となっている。20GBという容量は決して十分とは言い難いだろう。最近では、デスクトップPCで録画したMPEG-2の動画をノートPCに入れて持って行くなど、新しい使い方もでてきているので、HDD容量は大きい方がよい。 また、1.8インチHDDは入手性が悪く、個人ユーザーが単体で入手して大容量のものに換装することも、事実上不可能に近い(換装をすれば当然メーカー保証は受けられないが)。そうした意味でも、できればもう少し大容量のHDDを採用して欲しかった。 液晶ディスプレイは10.4インチのXGA(1,024×768ドット)、内蔵グラフィックスのディザ機能により1,677万色表示が可能となっている。輝度については、ノート製品としては高輝度で、筆者の手元にあった輝度計を利用して計測したところ、以下のようになった 【液晶の輝度】
最高輝度では180カンデラ/平方mで、このクラスとしては十分すぎる輝度と言ってよい(こうした製品では150カンデラ/平方mを切る製品も少なくない)。もちろん、モバイル環境で利用する時には輝度を落として利用することも可能だ。
本製品では、9.7mmという薄さを実現しているが、ポート類などは必要なものが用意されている。本体の右側には、PCカードスロット(Type2)とヘッドフォン端子、左側はEthernet/VGAポートの外部コネクタを接続するポート、USB 2.0×2、IEEE 1394(4ピン)端子、ソニーのi-Linkデバイス専用DC端子などが用意されている。 こうしたミニノートPCとしては、十分な外部ポートだということができるだろう。できれば、Ethernetは内蔵して欲しかったが、本体の薄さを考えれば致し方ないところだ。 また、本体にスピーカー(モノラル)は内蔵されているが、内蔵マイクやマイク端子は用意されていない。このため、本製品を利用して録音したい場合には、別途USB接続のマイクなどを用意する必要があるだろう。 なお、本製品は無線LANは内蔵されておらず、標準で専用の無線LANカードがバンドルされている。IEEE 802.11bおよび11gの規格に対応し、セキュリティはWEP、WPAに対応する。この無線LANカードのアンテナは、装着時でもアンテナがあまり張り出さない形状をしているため、常時本体に取り付けたまま持ち運んでも違和感がない。 なお、メモリースティックのスロットは本体に内蔵されていないが、標準添付されるマウス側にメモリースティックのスロットが用意されている。メモリースティックを入れた状態で持ち運べばUSBメモリ代わりとして利用することも可能だ。
それでは、実際のベンチマークプログラムを利用して、本製品の処理能力をチェックしていきたい。利用したのは、バッテリ駆動時の処理能力とバッテリ駆動時間を計測するBAPCoのMobileMark2002、ACアダプタ駆動時の処理能力を計測するBAPCo SYSmark2002、3DベンチマークのFutureMark 3DMark2001 Second Editionの3つのテストだ。 なお、別途、バッテリ容量で、駆動時間を割ることで求められる平均消費電力、さらに、MobileMark2002の性能のスコア(Performance Rating)を平均消費電力で割って求められる1Wあたりの処理能力も算出してある。 平均消費電力は、そのマシンがどれだけ低消費電力であるのかを示しており、1Wあたりの処理能力は、そのマシンが電力に対してどれだけ効率よく処理能力を発揮しているのかを示すスコアだ。 なお、比較対象として、各社の超低電圧版Pentium Mを搭載したマシンの結果を掲載しておく。ただ、すでに各社とも秋モデルとして超低電圧版Pentium M 1GHzを搭載したマシンをリリースしている。今回のサンプルでは、ビクターのInterLink XP、NECのLaVie J、東芝のDynaBook SS S8は1GHzモデルとなっているが、そのほかの製品に関しては春モデルの900MHz搭載版となっていることをお断りしておく。 また、バイオノート505 EXTREMEについても、試作機による結果のため、製品版とは異なる可能性があることも注意して頂きたい。 結果はグラフ1~7の通りだ。なお、グラフ3のみ、数字が小さい方が優れているので注意してほしい。 ■ベンチマーク結果
注目したいのは、グラフ3の平均消費電力が低いことだ。本製品は7.61W/時間と最も低く、超低電圧Pentium Mを搭載したマシンの中で最も低い値を示している。 実際、本製品はバッテリのセル数は3セルで、22.2Whとバッテリ容量が極端に少ないのだが、それでもMobileMark2002のバッテリテストで3時間弱のバッテリ駆動時間を実現している。 つまり、電力的に効率がよいマシンだということができる。本製品では、マザーボードを可能な限り小さくした結果、低消費電力を実現することができたと考えるのが妥当だろう。
以上のように、本製品はこれまでのWindows PCにはない“薄さ“、“軽さ“を実現しており、また初代505を彷彿させる優れたデザインや付属のケースなど、エンジニアのこだわりが随所に感じることができる製品となっている。 しかし、問題となるのは価格だ。すでに述べたように、ソニーでは本製品をこうした製品の価値がわかるユーザーのための高付加価値製品と位置づけている。 価格はオープンプライスだが、予想価格は店頭売りのモデルで約30万円、ソニースタイル専用モデルで約349,800円という価格設定になっている。上述したベンチマークで比較用に利用した、超低電圧版Pentium Mを搭載した他社PCが、実売価格で10万円台後半~20万円台前半であることを考えると、10万円ほど高い価格設定になっている。 要は、エンジニアがこだわって作った部分、軽さや薄さ、さらには高級感のあるデザインなどに対して10万円の価値を感じることができるかが、この製品を購入するかどうかの分かれ目となるだろう。 とにかく毎日どこへでもPCを持ち歩き、PCが無ければ生活できないというようなヘビーモバイラーであれば、“軽さ”“薄さ”の恩恵は身に染みて理解していることだろう。 そうしたユーザーにとって、本製品が実現している軽さ、薄さというのは他に代替がないとも言える。10万円という価格差も正当化されるのではないだろうか。 もし、読者のみなさんが、自分は最先端を行くモバイラーだと思うのであれば、本製品を今すぐにでも検討してみる価値があるだろう。 □関連記事 (2003年11月12日)
[Reported by 笠原一輝]
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