Pentium Mの登場により、携帯性を重視したモバイルノートPCの性能も飛躍的に向上した。 NECの新製品「LaVie J LJ700/7E」も、そうしたモバイルノートPCに位置づけられるが、高性能ビデオチップや大容量HDDを搭載するなど、高い基本性能を実現していることが魅力だ。また、キーボードの使い勝手やボディの強度なども、大幅に改善されており、完成度の高い製品に仕上がっている。 今回はその試作機を入手したので、さっそくレビューしていきたい。
LaVie J LJ700/7E(以下LJ700/7E)は、携帯性を重視したB5ファイルサイズの1スピンドルノートPCである。2003年1月に登場したLaVie J LJ700/5E(以下LJ700/5E)の後継となる製品だが、ボディと内部構成が一新されたことで、全く新しいマシンに生まれ変わっている。 CPUとして超低電圧版Pentium M 1GHzを搭載し、チップセットはIntel 855PMが採用されている。標準で搭載しているメモリ容量は256MB(PC2100 DDR SDRAM)だが、増設用のSO-DIMMスロットが本体底面に用意されており、最大768MBまで増設が可能だ。 このクラスのモバイルノートPCでは、グラフィックス統合型チップセットのIntel 855GM/GMEを採用している製品が一般的であるが、LJ 700は、ATI Technologiesのビデオチップ「MOBILITY RADEON 7500」を採用していることが特徴だ。 MOBILITY RADEON 7500は、ハードウェアT&Lエンジンを搭載しており、LaVie Mなどに搭載されているMOBILITY RADEON 9000には及ばないものの、ハードウェアT&Lエンジンを搭載していないIntel 855GM/GMEに比べると、はるかに高い3D描画性能を実現する。 また、80GBという、このクラスはもちろん、A4サイズノートPCの中でもトップクラスとなる大容量HDDを搭載していることも高く評価したい。従来のLJ700/5EのHDD容量は30GBだったので、一挙に2倍以上に容量が増えたことになる。また、LJ700/5Eでは、サイズと重量を重視して1.8インチHDDが採用されていたが、LJ700/7Eでは、2.5インチHDDに変更されたため、パフォーマンスも向上している。なお、試用機に搭載されていたHDDは、富士通のMHT2080AT(4,200rpm)であった。 本体のサイズは270×238×16.6~26.9mmで、重量は約1.38kgである。12.1型液晶を搭載した1スピンドルのB5ファイルサイズノートPCとしては、サイズ・重量ともに合格点をつけられる。ただし、LJ700/5Eの本体サイズは270×222×17~21.8mm、重量は約1.19kgであったので、横幅は変わらないが、奥行きと厚さ、重さはわずかに増加していることになる。これは、HDDが1.8インチから2.5インチに変更されたためや、キーボードの改良(詳しくは後述)の影響によるものであろう。 ボディカラーは、シルバーとブラックを基調にしたツートンカラーで、アルミヘアラインパームレストや光沢感のあるクリアパーツを採用することで、高級感を演出している。個人的には、LaVie Mのデザインはあまり好きではなかったのだが、今回のLJ700/7Eのデザインは気に入った。また、カバンから出し入れする際にひっかからないように、底面のバンク(凹凸)がほとんどないバンプレス設計となっていることも嬉しい。 液晶ディスプレイとしては、12.1型低温ポリシリコン液晶(XGA)が採用されている。最近流行の表面がツルツルしている液晶ではなく、アンチグレアタイプの液晶である。ツルツルタイプの液晶は、輝度やコントラストが高いので、動画の再生などには有利だが、アンチグレアタイプに比べると、どうしても外光が写り込みやすくなる。本製品のような携帯性を重視したモバイルノートPCでは、さまざまな環境下で使われるので、アンチグレアタイプのほうが見やすい。
最近のノートPCでは、無線LAN機能の装備がもはや当たり前になりつつあるが、この点においても、LJ700/7Eは先進的である。標準でIEEE 802.11a/b/gの3種類の無線LAN方式に対応(トリプルモード)しているのだ。 旧モデルのLJ700/5Eでは、IEEE 802.11a/bのデュアルモード対応であったので、新たにIEEE 802.11gのサポートが追加されたことになる。IEEE 802.11a/b対応の無線LAN機能を搭載した製品はあるが、トリプルモード対応のノートPCはまだそう多くはない。環境に応じて、最適な無線LAN規格を選択できるので便利だ。 無線LANのアンテナは液晶パネル上部に配置されており、ダイバーシティ方式を採用しているため、安定した受信状態を確保できる。また、セキュリティ機能のWPAにも対応している。 無線LANの動作状況を示すLEDインジケータが、キーボード左手前に用意されているほか、Fnキー+F2キーで無線LAN機能のオンオフが可能なので、使い勝手もよい。その他、100BASE-TX対応のLAN機能と56kbps対応モデムも搭載している。有線LANや無線LAN、携帯電話、PHSなど、状況に応じてインフラを使い分けている場合、いちいちネットワークの設定を変更するのは面倒だ。しかし、LJ700E/7Eには、ネットワーク環境切り替えツール「Mobile Optimizer」がプリインストールされているので、ネットワーク環境の切り替えも簡単になっている。 LJ700/7Eは、いわゆる1スピンドルノートPCなので、光学ドライブは内蔵していないが、代わりにUSB 2.0対応の外付けDVD-ROM/CD-RWドライブが付属している。この外付けドライブは、本体から電源供給が可能な専用ケーブルでLaVie Jに接続して使うようになっているため、ACアダプタが不要だ。また、縦置き用のスタンドも付属しているので、スペースの狭い場所でも利用できる。
LJ700/7Eでは、キーボードが一新され、より快適にタイピングが可能になったことも特筆したい。旧モデルのLJ700/5Eでは、携帯性を重視してキーボードの縦ピッチが狭められていたり(つまり、キートップが横長の長方形)、右側の一部のキーのピッチが狭くなっていたため、慣れないとかなり違和感があった。 しかし、LJ700/7Eでは、カナが印字されているキーについては、全てキートップが正方形になり、タイピングが格段にやりやすくなっている。キーピッチは17.55mmで、フルサイズキーボードに比べれば狭いが、筆者の手にはこれくらいのキーピッチのほうがむしろ使いやすい。 また、ファンクションキーと数字キーの間にスペースが設けられているため、数字キーのつもりで間違ってファンクションキーを押してしまうといったミスを減らすことができる。さらに、ファンクションキーに4キーごとにスペースが設けられているので、ファンクションキーの押し間違いも減らせる。 キー配列も、LJ700/5Eでは、「半角/全角」キーの位置が、Altの右側に配置されているなど変則的なところがあったが、LJ700/7Eでは、デスクトップキーボードと同じ標準的な配列になっているので、違和感なく利用できる。キータッチもしっかりしており、キーボードの中央部分を強く押しても、キーボードがたわんでしまうようなこともない。 そのほか、キートップに印刷されている英字のフォントを大きくするなど、LJ700/7Eのキーボードは、細かな部分までよく考えられている。このクラスのノートPCのキーボードとしては、出色の出来であろう。 キーボードの上部には、電源ボタンと2つのワンタッチスタートボタン(メールとインターネット)が用意されている。 ポインティングデバイスとしては、パッドタイプのNXパッドが採用されている。2つのクリックボタンの中央には、上下スクロール用のスライドスイッチが用意されており、スクロール操作を行なえる。机の上で利用する場合は、USBマウスを接続して使うという人も多いだろうが、LJ700/7Eではマウスのプロパティに「USBマウス接続時の動作」というタブが追加されており、USBマウス接続時に自動的にNXパッドを無効にするといった設定が可能だ。自動的にNXパッドを無効にする設定にしておけば、USBマウスを外すと、また自動的にNXパッドが有効になるので便利だ。
インターフェースも充実している。USB 2.0×3、IEEE 1394、外部ディスプレイ、Ethernet、モデム、ヘッドホン、マイクの各ポートを装備しているので、さまざまな周辺機器を接続可能だ。USBポートは、右側面に2基、左側面に1基用意されているが、左側面のUSBポートの横には専用電源コネクタが用意されており、専用ケーブル経由で付属の外付けDVD-ROM/CD-RWドライブに電源を供給できる。 PCカードスロット(Type2×1)だけでなく、CFカードスロットも装備しているので、CFカードタイプのPHS端末などを使うにも便利だ。ただし、PCカードスロットとCFカードスロットのフタが両方ともダミーカード方式になっているので、フタをなくしてしまう恐れがある。 また、SDメモリーカード、MMC、SDメモリカード、スマートメディア、メモリースティック/メモリースティックPROに対応した4in1カードアダプタが付属していることも嬉しい。 バッテリは、14.8V、2,200mAhの4セルタイプで、公称約4.5時間のバッテリ駆動が可能だ。また、オプションのセカンドバッテリパックを底面に装着すれば、最大約11時間もの長時間駆動が実現できる。ACアダプタのサイズも小さく、携帯性は優秀である。ACアダプタを直接コンセントに差し込める「ウォールマウントプラグ」も添付されているので、状況に応じて使い分けることができる。
参考のために、いくつかベンチマークテストを行なってみた。ベンチマークプログラムとしては、BAPCoのMobileMark2002およびSYSmark 2002、Futuremarkの3DMark2001 SE、id softwareのQuake III Arena、スクウェア・エニックスのFINAL FANTASY XI Official BenchMark Ver.1.1およびFINAL FANTASY Official BenchMark 2を利用した。 MobileMark2002は、バッテリ駆動時のパフォーマンスとバッテリ駆動時間を計測するベンチマークであり、SYSmark 2002は、PCのトータルパフォーマンスを計測するベンチマークである。また、3DMark2001 SEやQuake III Arena、FINAL FANTASY XI Official BenchMark Ver.1.1、FINAL FANTASY XI Official BenchMark 2では、3D描画性能を計測することができる。 MobileMark2002については、電源プロパティの設定を「ポータブル/ラップトップ」にし、それ以外のベンチマークについては、AC駆動時(電源プロパティの設定は「常にオン」)にして計測した。 結果は下の表にまとめたとおりである。なお、比較対照用に、Pentium M 1.40GHzとRADEON IGP350Mを搭載した日本HPのHP Compaq Business Notebook nc4000(以下nc4000)およびPentium M 1.40GHzとIntel 855GMを搭載したエプソンダイレクトのEDiCube S150H(以下EDiCube)のベンチマーク結果もあわせて掲載している(FINAL FANTASY XI Official BenchMark 2のみ、この2機種では未計測)。 【NEC LaVie J LJ700/7Eベンチマーク結果】
まず、MobileMark2002の結果から見ていこう。バッテリ駆動時のパフォーマンスを表すPerformance ratingのスコアは、クロックで400MHzも上回るnc4000やEDiCubeにかなり近い値となっている。 Pentium Mでは、バッテリ駆動時に拡張版SpeedStepテクノロジによって、負荷に応じて動的に動作クロックが変更されるため、常に最高クロックで動作するわけではない。そのため、Performance ratingのスコアに大きな差が出なかったのであろう。 バッテリ駆動時間を表すBettery life ratingのスコアは178分であり、nc4000の221分やEDiCubeの297分に比べるとやや見劣りする。ただし、LJ700/7Eのバッテリは4セル(電力量は32.56Wh)であるのに対し、nc4000のバッテリは6セル(同38.88W)、EDiCubeのバッテリは8セル(同65.12Wh)であるため、LJ700/7Eの消費電力が特に大きいというわけではない。標準バッテリで3時間駆動できるのなら、ギリギリ合格といったところであろう。 SYSmark 2002のInternet Content Creationのスコアは、やはりPentium M 1.40GHzを搭載した2製品には及ばない。こちらはAC駆動時の比較なので、最高クロックの違いがそのままパフォーマンス差として現れているようだ。それに対して、Office Productivityのスコアにはあまり差がない。こちらはCPU性能よりも、HDD性能が現れやすいためであろう。nc4000のスコアが頭一つ抜け出しているのは、他の2製品のHDDが4,200rpmであるのに対し、nc4000では5,400rpmのHDDが搭載されているためと考えられる。 3DMark2001 SEの結果は、LJ700/7Eが他の2製品の2倍以上のスコアを記録している。CPUの動作クロックでは400MHzも下回っているLJ700/7Eが4,000を上回るスコアを記録したのは、やはりMOBILITY RADEON 7500の威力であろう。 Quake III Arenaのフレームレートも、やはりLJ700/7Eが大差で勝っている。Quake III Arenaは'99年末に登場したゲームであり、最新ゲームというわけではないが、この程度のゲームなら、LJ700/7EではXGA解像度でも十分快適にプレイできそうだ。 FINAL FANTASY XI Official BenchMark Ver1.1は、ハードウェアT&Lエンジンが搭載されていないと動作しない。そのため、ハードウェアT&Lエンジンを内蔵していないIntel 855GMでの計測はできない。RADEON IGP 350Mでは一応動作するものの、スコアは1,874とかなり低いため、FINAL FANTASY XIをプレイするにはやや厳しい。 しかし、MOBILITY RADEON 7500を搭載したLJ700/7Eでは、3,026というスコアを記録しており、VGA解像度ならFINAL FANTASY XIを十分プレイできるだろう。FINAL FANTASY XIベンチの新バージョン(FINAL FANTASY XI Official BenchMark 2)では、負荷がやや重くなっているため、スコアは多少低下している。Highは1,024×768ドットモードでの計測となるが、スコアは1,596まで落ち込んでいるため、XGA解像度でプレイするにはLJ700/7Eでもやや力不足であろう。
LJ700/7Eは、大容量HDDや高性能ビデオチップを搭載するなど、基本性能の高さが魅力である。また、IEEE 802.11a/b/gのトリプルモード対応の無線LAN機能を装備していることも高く評価できる。基本性能だけでなく、ボディの強度やキーボードの使い勝手についてもよく配慮が行き届いており、モバイルノートPCとしての完成度はかなり高い。 1スピンドルノートPCであるため、基本的にはセカンドマシンとして使うことになるだろうが、常に持ち歩いて使うためのノートPCを探している人には、特にお勧めしたい製品だ。 □関連記事 (2003年11月5日)
[Reported by 石井英男]
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