先々週のことになるが、三洋電機が新たに発売したICレコーダ「ICR-S290RM」を購入した。以前買い物山脈でも取り上げられていた「ICR-B80RM」の後継となる製品だが、MP3形式で録音できるという意味では、大きな機能の違いはない。しかし、搭載されているメモリ容量が256MBに増加していたり、使い勝手の面で大幅に改善されるなど、かなりの改善が見られる。 また、10月24日に発売された、マイクロソフトの「OneNote 2003」も、新しい録音、メモツールとして最近利用しはじめた。今回はこれらの製品をとりあげ、ノートPCユーザーにとって便利な音声メモツールというのを考えていきたい。 ●テープから始まって、MDを経て、メモリースティックICレコーダへ
筆者は専業ライターなので、世界中で行なわれる様々なイベントなどにでかけて取材し、その内容を記事にするのが主な仕事となっている。そうした取材現場でライターの3種の神器の1つが、レコーダデバイスだ。基調講演で講演の内容を録音したり、インタビューを録音し、後で文字おこしに利用したりなど、正確な記事を書くのに欠かせない機材といえる。 筆者もICレコーダに乗り換える前には、ポータブルMDレコーダを利用しており、さらにその前にはテープレコーダを利用していた。しかし、テープやMDを使っていると、常にメディアの管理という問題に突き当たることになる。 整理が大の苦手な筆者にとって、録音したテープやMDメディアの管理は悪夢といってよい。また、出先でそのテープやMDを聞く必要がある場合、それらのメディアと再生機器を持ち歩く必要もある。 このため'99年頃に、MDレコーダからICレコーダへと乗り換えることにした。ちょうど、メモリカードに書き込み可能なICレコーダが登場してきた時期で、潮時だと判断したからだ。 最初に買ったICレコーダはソニーの「ICD-MS1」で、メモリースティックが利用できるICレコーダだった。当時多くのICレコーダは、メモリカードにデータを記録できる機種でも、PCに読み込むにはUSB経由で読み込む必要があるなど、制限があるモデルが多かった。そのため、PCカードアダプタ経由でPCにデータを取り込めるのが、この製品を購入した決め手だったような記憶がある(何せ数年前のことで、ちょっと記憶があやふやなのだが)。 なぜUSB経由を選択しなかったのかと言えば、理由は簡単でUSBケーブルを忘れてしまうからだ。PCカードアダプタであれば、鞄の中に数枚入れておいてもかさばらないため、予備を含めて何枚か常に入れておけるが、ケーブルだと邪魔になってつい家に置いてきてしまうことが多い。しかもそういう時に限ってメモリが一杯になってしまうことが容易に想像できたからだ(要するにずぼらな自分を信用していない、そういうことだ)。 このICD-MS1とは長いつきあいで、'99年から今年の春までずっとお世話になった。買い換えなかったのは、その間にメモリースティックの方を買い換えて、メモリ容量を増やすことが可能だったので特に不満を感じなかったからだ。 しかし、今年の春に、三洋電機が発売したICR-B80RMに乗り換えた。理由は簡単で、持って行くものが1つ少なくなるからだ。筆者はノートPCに日本アイ・ビー・エムのThinkPadシリーズを利用しているため、メモリースティック用スロットは用意されていない。このため、メモリースティックの内容を読み取るには、メモリースティックからPCカードへ変換するアダプタを持って行く必要がある。 しかし、三洋電機のICR-B80RMは、本体にUSBコネクタとフラッシュメモリを内蔵しており、PCのUSBポートに挿すだけで録音したデータを利用できる。Windows 2000/XPではOS標準のドライバで読み書きできるため、ドライバをインストールする必要もない。このため、アダプタもケーブルも必要なく、リスクを最大限減らすことができるのだ。この点を評価して購入した。 ●ICR-B80RMからソニーのCLIE(PEG-NX80V)へ移行
しかし、ここが筆者のすごいところ(いや自分でもあきれているところ)なのだが、実はある日、ICR-B80RMの本体がどこかへ行ってしまった。有り体に言えば、無くしてしまったのだ。そこで、仕方がないので、しばらくはPDAとして利用しているソニーのCLIE(PEG-NX80V)のレコーダ機能(VoiceRec)を利用することにした。 VoiceRecでは、SPモードだと22KHzで、LPモードだと8KHzのサンプリングレートで録音し、WAV形式のファイルとして保存してくれる。PEG-NX80VはメモリースティックPROに対応しているので、メモリースティックPROの256MBを用意し、そこに録音している。SPモードで録音すると380分程度の録音が可能だ。 特に圧縮などは行なわれていないため音質はかなりいいのだが、1時間(60分)で40MB近くのファイルサイズになるため、やや大きめだ。そのままPCに転送して保存するとHDDを圧迫することになるので、Windows上で、MP3エンコーダソフトを利用してWAVファイルをMP3にエンコードして保存していた。 だが、ここでも問題になるのは、やっぱりメモリースティックPROのアダプタを忘れると、PCに転送ができないという点だ。実際、一度メモリースティックPROのアダプタを自宅においていって、それでコピーできないという事態に遭遇した。その時はたまたま知人がアダプタを持っていたため事なきを得たが、再びそうした問題が起きるとも限らない。 そんな時に、三洋電機からリリースされたのがICR-S290RMだったのだ。
●前モデルより大幅に改良された三洋電機の新MP3対応ICレコーダ“ICR-S290RM”
ICR-S290RMは、すでに述べたようにICR-B80RM(64MB版)やICR-B90RM(128MB版)の後継製品となるICレコーダだ。購入したのはヨドバシカメラの新宿店で、実売価格34,800円+消費税で、10%のポイントがついた。 音声をMP3形式で記録するという基本的な機能は従来製品と同じだが、メモリ容量は256MBに増加したほか、新たにminiSDスロットも用意されているため、miniSDカードを利用してメモリを増やすことも可能になっている。録音モードは以下の4モードが用意されている。
なお、音楽ファイルも再生可能になっており、MP3、WMA形式の音楽ファイルを再生することができる。 こうしたスペック面の違いだけでなく、ICR-S290RMでは使い勝手の点で大きな改善がいくつも施されている。個人的に一番大きな改善点は、バッテリの残容量がわかるようになったことだ。“え、前のモデルでは残容量表示がなかったの?”という声も聞こえてきそうだが、実際そうだったのだ。 ICR-B80/90RMでは、バッテリ残容量のインジケータが全く無かったため、いつバッテリが切れるのかわからないというかなり致命的な弱点を抱えていた。このため、バッテリ切れで録音できていないという事態を避けるために、バッテリが残っていたとしても、疑わしいときにはすぐにバッテリを換えなければならないという地球に厳しいことをやっていた。そういう意味では、そうしたインジケータが用意されたことは、(当たり前のことなのだが)使い勝手が改善されたといえるだろう。 しかし、相変わらず録音中を示すLEDが用意されていないのは、さらに改善を要する点として指摘しておきたい。 例えば、筆者が以前利用していたソニーのICD-MS1やPEG-NX80Vには、録音時には赤く点灯するLEDが用意されており、遠目でも一目で録音していることが確認できる。こうしたICレコーダなどでは、音源の近くに置くということも少なくないため、動作状況を一目で確認できるLEDがあると便利なのだが、ICR-S290RMにはそうしたLEDは用意されていない。ここは、ぜひとも次機種で改善してほしい。 バッテリのインジケータが用意された以外にも、いくつかの点で改善されている。まず独立したホールドボタンが用意されたため、鞄の中で誤って起動してしまうという可能性が無くなった。また、USBコネクタの部分も、途中で左右90度に回転するようになったため、USBポートが縦についているマシンでも無理なくさせるようになった。なお、別途USB延長ケーブルも付属している。 従来モデル(ICR-B80/90RM)では、外部マイクを接続した時だけステレオで録音することが可能で、内蔵マイクを利用した時はモノラル録音だったが、ICR-S290RMでは内蔵マイクがステレオに変更された。 また、ユニークな機能としては、USBマイク機能が用意されている。これは、ICR-S290RM本体をPCに接続してUSBマイクとして録音する機能で、PCに直接MP3形式で録音することが可能になる。 ただし、録音は専用のユーティリティを利用して行なう必要がある。Windowsのアプリケーションからはマイクとして見えないため、別の録音ソフトウェアからUSBマイクとして利用できないのはやや残念だ。ぜひ、次機種では他のソフトウェアからも利用できるようにして欲しい。
●実は最も強力なICレコーダはノートPCだった?
さて、ICR-S290RMを購入してから数日使ってみて、正直に言うとICレコーダに34,800円という価格は決して安くないが、機能としてはかなり満足していた。 だが、先日マイクロソフトが発売したOneNote 2003をさわってからちょっと考え方が変わってきている。というのも、鈴木直美氏がすでに紹介しているように、OneNoteには録音連動機能が用意されている。OneNoteでメモを取りながら録音しておくと、そのメモが録音した音声ファイルの、どの時点でメモされたものかを記憶してくれるのだ。 これは実に便利な機能だ。じっくりインタビューを書くときにはすべての話をテキストに起こすという作業を行なうが、速報記事を書く場合にはそうした時間的余裕がないため、基本的には取材時の要点を書き留めておいたメモを元に記事を作成することになる。 そうした場合、記録があやふやなところや、大事な発言を間違いなく記事にする場合には、録音したファイルを聞き直すことになるが、問題はその発言が、録音ファイルの何処にあるのかがすぐにはわからないことだ。しかし、OneNoteの連動機能を利用すれば、メモからすぐに目的の部分を呼び出して再生することが可能で、実に便利だ。
なお、OneNoteでは、録音されるファイルはリアルタイムでエンコードされて記録される。利用されるコーデックは、Windows Media Audio 9、Windows Media Audio 9 Voice、Windows Media Audio 9 Professional、Windows Media Audio 9 Losslessなどから選んで利用できる。 Windows Media Audio 9 Professionalなどは5.1チャネルなど、より高品質が必要な環境で利用されるコーデックで、音声メモを録音するという用途にはあまり向いているとは言い難い。基本的にはWindows Media Audio 9やWindows Media Audio 9 Voiceなどのコーデックで利用することになるだろう。 例えば、Windows Media Audio 9-20kbps/44KHz/モノラル/CBRという設定で録音したところ約1時間でファイルサイズが約20MB、Windows Media Audio 9 Voice-12Kbps/16KHz/モノラルという設定で録音したところ約50分で約4.53MBというファイルサイズになった。 なお、OneNoteを利用する際の注意点として、PCに内蔵のマイクではなく、別途外付けのマイクを用意しないと厳しいということを指摘しておきたい。 一度内蔵マイクを使って録音してみたが、後で聞き直してみると自分のキーの打鍵音が大きく使い物にならなかった。むろん筆者の打鍵音が大きいという特殊な事情も関係しているが、基本的にPCのマイクは使う人の側を向いてつけられているので、PCの向こう側に座る人の声を録音するのに適しているとは言い難い。 できるだけ、外付けマイクを利用し、かつマイクは自分のPCから離し、録音すべき音源の近くに置くべきだろう。市販の外付けマイクなどはケーブルが1m程度であることも多く、場合によっては十分ではないことも考えられる。そうした事態に対応できるように、延長ケーブルを別途持ち歩くようにするといい。 ●不思議な点もあるOneNoteだが、録音+メモ取り用ソフトとしては最強
ただ、OneNoteを使っていて、あれ? と感じる仕様がいくつかあった。1つ目に指摘しておきたいのは、録音のレベルを確認するゲージが用意されていないことだ。PCのマイク端子はプラグインパワーに対応していないため、外付けのマイクを利用する場合はマイクに内蔵している電池を利用する必要があるが、電源を入れ忘れたまま録音してしまうことも十分考えられる。そうした時に、録音レベルを確認するゲージがあれば状況を一目で確認できるが、OneNoteの録音ツールにはそうした機能が全くない。次バージョンではぜひ追加してもらいたい機能だ。 2つ目として、OneNoteにはファイルのリンク機能が無いことを指摘しておきたい。OneNoteでは、ファイルのリンクという概念はなく、OneNoteのページに貼り付けたPowerPointやPDFのファイルなどは、すべて実体がOneNoteのフォルダにコピーされる。 例えば、My Documentsの別のフォルダにあるファイルもすべてコピーがOneNoteのフォルダにコピーされることになる。つまり、ファイルの実体がHDDの中で2つ生じる結果となる。 何でも貼り付けていくツールとしてすべてOneNoteに集約するのであればこうした仕様は正しいのかもしれないが、すでにMy Documentsフォルダに多数のデータを蓄積してしまった筆者にとってこの仕様はHDD容量の無駄遣いにしか見えない。オプションでコピーの可否が選択できるようにするなど、改良をして欲しいものだ。 そんなわけで、OneNoteにもいくつか不満点があるのは事実だが、少なくとも録音しながらメモを取るツールとしては現時点で最強だと思う。このため、現在はOneNoteで録音しながらメモを取り、ICR-S290RMをバックアップに回してOneNoteでうまくとれなかった時や録音した内容を完全に文字に起こすいわゆる“テープおこし”作業時に利用している。 ただ、例えばイベントの基調講演などノートPCを開くことが難しい環境では、現時点ではOneNoteを使うのはかなり厳しい。そうした環境ではもしかすると、スペースをとらないTablet PCが便利かもしれないと、最近考えるようになってきている。昨年の11月に発表されたTablet PCは、正直ちょっと高いよな、と感じて導入を見送ってきたが、そろそろ検討してみようかと思ったりしているところだ。 □関連記事
(2003年11月4日) [Reported by 笠原一輝]
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