ビデオカード市場では、ここ数年ATI TechnologiesとNVIDIAの2強が激しい性能争いを繰り広げている。DirectX 8世代では、NVIDIAが優位に戦いを進めていたが、DirectX 9世代のビデオカードでは、設計思想の差によって、ATI Technologiesが優位に立とうとしている。 今回ATI Technologiesから発表されたRADEON 9800 XTは、RADEON 9800シリーズの最上位となる製品で、コアアーキテクチャ自体には変更はないが、コアクロック/メモリクロックが向上し、より描画性能が向上している。今回は、RADEON 9800 XT搭載のリファレンスカードを入手したので、早速その性能を検証していきたい。
RADEON 9800 XTは、コードネームR360と呼ばれていた製品で、従来のRADEON 9800 PROの上位に位置づけられる。同じ、9800という型番が付けられていることからもわかるように、RADEON 9800 PRO(コードネームR350)とアーキテクチャやプロセスルール自体は同一であり、基本的にはRADEON 9800 PROの高クロック版と考えてよい。 具体的には、RADEON 9800 PROのコアクロック/メモリクロックは、380MHz/700MHz(DDR2搭載の256MB版の場合)だったのに対し(128MB版のメモリクロックは680MHz)、RADEON 9800 XTでは、412MHz/730MHzに向上している。クロックの上昇率は、コアクロックが約8.4%、メモリクロックが約4.3%であり、それほど大きくクロックが上昇しているわけではない。が、RADEON 9800 PRO自体、NVIDIAのGeForce FX 5900 Ultraと並ぶ、現時点最速ビデオカードであったので、RADEON 9800 XTの性能についても期待できる。 RADEON 9800 XTは、基本的にはRADEON 9800 PROの高クロック版であるが、RADEON 9800 PROには搭載されていない「ATI OVERDRIVE」と呼ばれる新機能が搭載されている。ATI OVERDRIVEは、動的なオーバークロック機能であり、内蔵サーミスタによりチップの温度を計測し、チップに余裕がある場合、自動的にコアクロックを435MHzまで向上させるというものだ。 ATI OVERDRIVEは、CATALYST 3.8以降でサポートされるが、従来のRADEON 9800 PROでは利用できず、利用できるのはRADEON 9800 XTおよび同時に発表されたRADEON 9600 XTのみとなる。
ビデオカードの性能向上にともない、ビデオチップやメモリチップから発生する熱も増加の一途を辿っている。最近のハイエンドビデオカードでは、ビデオチップやメモリチップを冷却するために、大がかりな冷却機構が採用されている製品も多い。 RADEON 9800 XTのリファレンスカードでは、ビデオチップとメモリチップ(ビデオメモリは256MB)が銅製のヒートシンクで覆われており、直径70mmの大型ファンで冷却するという構造が採用されている。ヒートシンクの厚さはブラケット部分の厚さ以下であり、2スロットを占有してしまうわけではないが、隣接したPCIスロットにカードを装着すると、ファンの効率が低下してしまうので、避けた方がよいだろう。 なお、RADEON 9800 XTのリファレンスカードでは、従来のRADEON 9800 PRO搭載ビデオカードに比べて、ヒートシンクが大型化し、材質もアルミから銅に変更されたため、カード全体がかなり重くなっている。実際に重量を計測してみたところ、RADEON 9800 PRO搭載ビデオカード(ATI Technologies製、128MB版)は210gであったのに対し、RADEON 9800 XTのリファレンスカードでは約2倍の432gであった(比較対照用に用意した2スロットを占有するGeForce FX 5900 Ultraのリファレンスカードの重量は464g)。 なお、ファンが大口径化されたためか、騒音についてはGeForce FX 5900 Ultraに比べて静かなRADEON 9800 PROよりも、さらに静かになっていると感じた。
RADEONシリーズでは、CATALYSTと呼ばれるユニファイドドライバがリリースされているが、RADEON 9800 XTの登場にあわせて、最新版のCATALYST 3.8が公開されている。 CATALYST 3.8では、コントロールパネルのユーザーインターフェースが一新されているほか、SMARTSHADER(Pixel Shader)を利用して、Direct3DやOpenGLベースのアプリケーションの描画にエフェクトをかける機能や、システムの再起動を行なわずに、ディスプレイドライバのリセットを行なうVPU Recoverと呼ばれる機能が追加されている。 SMARTSHADERエフェクトは、白黒(色を白黒にする)、クラシック(色をセピア調にする)、色の反転(色を反転する)、ポートホール(穴から覗いたような表示)、RGBサイクル(RGBバランスを繰り返し変更して表示)などが用意されている。これらの機能は、RADEON 9800 PROなどでも利用可能であり、アプリケーションが一風変わった表示になるので試してみると面白いだろう。 なお、RADEON 9800 XT/9600 XTの新機能であるATI OVERDRIVEについても、CATALYST 3.8以降でサポートされており、対応ビデオカードを装着している場合は、設定用のタブが表示される。ただし、現時点のバージョンでは、ATI OVERDRIVEに関する細かな設定はできず、有効/無効を指定するだけである。
それでは、RADEON 9800 XTのパフォーマンス検証に移りたい。比較対照用に、RADEON 9800 PRO搭載ビデオカード(ビデオメモリ128MB)とGeForce FX 5900 Ultra搭載ビデオカード(ビデオメモリ256MB)を用意した。 テスト環境は、以下に示したとおりで、ディスプレイドライバのバージョンは、RADEON 9800 XT/PROがCATALYST 3.8(6.14.10.6387)、GeForce FX 5900 UltraがDetonator FX v45.23である。 ただし、AquaMark3のみ、Detonator FX v45.23では飛行体の影が描写されないので、影が正常に描写される旧バージョンのDetonator FX v44.03を利用してテストしている。また、RADEON 9800 XTについては、ATI OVERDRIVE機能を無効にした場合と有効にした場合のそれぞれについて計測を行なった。 ベンチマークテストとしては、DirectX 8環境でのパフォーマンスを計測する3DMark2001 SEとUnreal Tournament 2003のFlyby、FINAL FANTASY Official Benchmark 2、DirectX 9環境でのパフォーマンスを計測する3DMark03とAquaMark3を用いた。 3DMark2001 SEと3DMark03、AquaMark3は、1,024×768ドット/1,280×1,024ドット/1,600×1,200ドットの3種類の解像度で、それぞれFSAA無効/FSAA 4X有効/FSAA 4X有効+異方性フィルタリング8X有効(Aniso 8X)という条件で、Unreal Tournament 2003は、1,280×960ドット/1,600×1,200ドットの2種類の解像度で、それぞれFSAA無効/FSAA 4X有効/FSAA 4X有効+異方性フィルタリング8X有効(Aniso 8X)という条件で計測を行なった。 また、FINAL FANTASY Official Benchmark 2については、Lowモード(640×480ドット)とHighモード(1,024×768ドット)の2種類の解像度で、それぞれFSAA無効/FSAA 4X有効/FSAA 4X有効+異方性フィルタリング8X有効(Aniso 8X)という条件で計測を行なった。 【テスト環境】
まず、DirectX 8ベースのベンチマーク結果から見ていこう。3DMark2001 SE(グラフ1)のスコアは、全てのテスト条件において、RADEON 9800 XTがRADEON 9800 PROはもちろん、GeForce FX 5900 Ultraを上回っている。 ATI OVERDRIVEを有効にすることで、スコアはさらに伸びているが、その差はせいぜい1%程度であり、体感できるほどの差ではない。 RADEON 9800 PROとGeForce FX 5900 Ultraを比べた場合、FSAA 4Xや異方性フィルタリングを有効にすると、GeForce FX 5900 Ultraが上回ることがあったが、RADEON 9800 XTとの比較では、全ての条件でRADEON 9800 XTが上回っている。 Unreal Tournament 2003 Flyby(グラフ2)のフレームレートは、テスト条件によってトップが入れ替わるという結果になった。FSAA 4Xと異方性フィルタリングを有効にした場合はRADEON 9800 XTが優位だが、それ以外の場合はGeForce FX 5900 Ultraが優位という形である。ただし、フレームレートの差は1割以下であり、大きな性能差はないといってよいだろう。 FINAL FANTASY Official Benchmark 2(グラフ3)のスコアは、RADEON 9800 XT/PROがGeForce FX 5900 Ultraを大きく上回った。特に、負荷が高くなるほどその差は開いており、1,024×768ドットでFSAA 4Xと異方性フィルタリングを同時に有効にした場合は、RADEON 9800 XTのほうがGeForce FX 5900 Ultraよりも2割以上高いスコアとなっている。逆に、RADEON 9800 XTとRADEON 9800 PROの差は非常に小さい。 以上の結果から判断して、DirectX 8べースのアプリケーションにおいても、RADEON 9800 XTが現時点で最速のパフォーマンスを実現しているといってよいだろう。 ■ベンチマーク結果
次に、DirectX 9ベースのベンチマーク結果を比較してみる。3DMark03(グラフ4)のスコアは、FSAA 4Xや異方性フィルタリングを有効にしていない状態では、RADEON 9800 XTが優位で、FSAA 4Xや異方性フィルタリングを有効にすると、GeForce FX 5900 Ultraが優位という結果になった。 GeForce FX 5900 UltraはRADEON 9800 XTに比べて、ビデオメモリの帯域幅が広い(GeForce FX 5900 Ultraが27.2GB/secであるのに対し、RADEON 9800 XTでは23.36GB/sec)ことと、高速なFSAAを実現するIntellisample HCTの威力が現れているのであろう。 なお、3DMark03のスコアは、RADEON 9800 XTとRADEON 9800 PROの差が比較的大きく、条件によってはRADEON 9800 XTが2割以上も高い。 AquaMark3(グラフ5)は、2003年9月15日にリリースされた新しいベンチマークソフトで、実際のゲームに使われている描画エンジン「krass」を用いてパフォーマンスを計測していることが特徴だ。また、描画にPixel Shader 2.0が利用されているため、DirectX 9環境でのパフォーマンスを計測することができる。 このテストにおいては、RADEON 9800 XTがGeForce FX 5900 Ultraを大きく引き離している。特に、負荷が高くなるほど、RADEON 9800 XTが優位になり、1,600×1,200ドットでFSAA 4Xと異方性フィルタリングを同時にかけた場合のフレームレートは、GeForce FX 5900 Ultraの2倍以上に達している。 なお、前述したように、このテストのみ、GeForce FX 5900 Ultraのディスプレイドライバは、最新バージョンではなく、一つ前のバージョンを利用している。最新のDetonatror FX v45.23を利用すると、フレームレートは大幅に向上し、RADEON 9800 PROに迫るのだが、飛行している物体の影が一切描画されなくなってしまう。最近のゲームソフトにおいては、リアルな影を描画するというのが重要なテーマとされているため、影が描画されない最新バージョンでのスコアを比較するのはフェアではないと判断したのだ。 ATI Technologiesによれば、DirectX 9ベースのゲームソフト「Half-Life 2」において、RADEON 9800 XTはGeForce FX 5900 Ultraの約2.5倍高速であるという。そのことから判断しても、AquaMark3のこの結果は妥当なものといえるだろう。 つまり、RADEON 9800 XTは、DirectX 9ベースのアプリケーションにおいては、文句なしに最速であり、現時点でのライバルであるGeForce FX 5900 Ultraをはるかに上回る性能を持っているといえる。 なお、ATI OVERDRIVEを有効にしてもパフォーマンスの向上幅はわずかであるが、動作が不安定になるようなことは一切なかったので、少しでも性能を追求したいのなら、有効にしておいて問題はないだろう。
RADEON 9800 XTは、期待通りの高い性能を実現していることがわかったが、唯一の弱点はその価格である。秋葉原などではすでに純正リテールパッケージ(並行輸入版)の販売が開始されたようだが、実売価格は約7万円と、ビデオカードとしてはかなり高い。 RADEON 9800 XTには、来春発売予定の「Half-Life 2」のフル版をダウンロードできるクーポン券が付属しているのだが、その分を考慮しても、やはり割高感は否めない。しかし、今後次々登場するDirectX 9ベースのアプリケーションを高解像度でも快適に動かせるパフォーマンスを持ったビデオカードが欲しいというのなら、現時点ではやはりRADEON 9800 XTが最有力候補となろう。 ただし、NVIDIAもこのまま手をこまねいているわけではない。コードネームNV38と呼ばれているGeForce FX 5900 Ultraの後継製品が、もうまもなく発表される予定である。現時点では、NV38の性能は明らかにされていないが、RADEON 9800 XTのパフォーマンスに対抗できるのか期待したいところだ。 また、コストパフォーマンスを重視するのなら、RADEON 9800 XTと同時に発表されたRADEON 9600 XTにも要注目だ。RADEON 9600 XTは、ミドルレンジ向けビデオカードであり、RADEON 9800 XTと同様に、Half-Life 2のフル版をダウンロードできる権利がついて、実売で3万円を切る価格で販売されることになるようだ。 RADEON 9600 XTでは、RADEON 9800 XT/PROに比べるとパイプラインの数が半分に削減されているが、0.13μmの新プロセス採用によって、500MHzという高いクロックで動作するため、従来のRADEON 9600 PROを大きく上回る性能が期待できそうだ。RADEON 9600 XTの出荷は10月末~11月頭になりそうだが、こちらも入手でき次第、テストを行なってみたい。 □関連記事 (2003年10月17日)
[Reported by 石井英男]
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