会期:9月16~18日(現地時間) IDF最終日である18日(現地時間)の基調講演は、研究開発を担当するPat Gelsinger(パトリック・ゲルシンガー)副社長兼CTOが行なった。 昨年あたりぐらいから、そのテーマは「Radio Free Intel」である。これは簡単にいえば、CMOSデバイスで直接無線通信を行なうこと。ソフトウェアラジオやスーマトアンテナ、マイクロマシンなど、さまざまな技術により、プロセッサなどのデバイス上に無線通信機能を統合しようとしているのである。 今回のテーマは、The Radio Renaissance。Radio Free Intelを「システムレベルの革新」(System-Level Innovation)と位置づけた上で、Adaptiveつまり、「適応」が重要なことなのだという。 この適応には、物理法則への適応(Adapting to Physics)、ネットワークへの適応、ユーザーへの適応の3つがあるという。 たとえば、物理法則への適応という点では、信号状態に応じて、変調方式を変えることで、従来よりも2倍のスループットが可能になることを示した。これは、3つの変調方式を信号強度に応じて切り替えていくことで、信号が強いときにはより高速にデータを転送し、信号が弱いときには速度は出ないが、エラーに強い変調方式を使いわけるものだ。
また、スマートアンテナについては、複数のアンテナを使って同時に通信を行なうMIMO(Multiple Input Multiple Output)について触れた。これは、無線LANでいえば、2つのアクセスポイントと2つの無線LANカードを使って同時に通信を行なうようなもの。時間や周波数の分離により複数通信を行なうだけでなく、空間的に別の通信を行なう方式。すでに高速無線通信を実現する方式として利用されている。原理的には、2つの独立した無線通信であるため、反射した電波による影響などを両方同時に受けることが少なくなるため、より安定した通信が可能になる。このほか、Intelでは、受信側(ユーザー側)は従来のまま、送信側(アクセスポイント側)を複数にするSDMA(Spatial Division Multiple Access)についても研究しており、実際のオフィスを使って電波の受信状況などを研究しているという。 またネットワークへの適応という点では、無線LANのような複数の通信が同時に行なわれるときのアイドルタイムや通信のオーバーヘッドを減らすことで、より効率の高い通信が行なえることを示した。 こうしたさまざまな新しい技術を半導体技術と組み合わせることで新しいネットワークを作ることができるだろうという見通しを示した。Gelsinger副社長によれば、新しいネットワークは、「シリコンが成功要因(enabler)」なのだという。
●「Universal Communicator」をデモ また、ユーザーへの適応という話で、Gelsingerは、Intelが試作した「Universal Communicator」のデモが行なわれた。この電話機は、初日にOtellini社長がデモしたもの。Gelsinger副社長は、「今回のキーノートのために準備をしていたときに1つの重要なことを学んだ、決して上司にあなたのデモを見せてはいけないということだ」と軽く冗談を言った。Intelの社内では、経理出身のOtellini社長派と、技術系の役員の確執が伝えられているが、そうした背景を知っていると、かなりきつい冗談にも受け取れる。
このUniversal Communicatorは、GSM携帯電話とIEEE 802.11b無線LANを組み込んだものだ。GSM回線交換、GPRSパケット通信、802.11b通信の3つを自動的に切り替えてどのような場所でも通信を可能にする。内蔵のソフトウェアが、その場所で可能な通信方式の中から最適なものを選択して自動的に切り替えを行なう。そのため、通信が途切れることなく通信を行なうことができる。 その秘密は、通信がIPベース(IPv6)で行なわれていて、MobileIPが使われていることだ。もう1つ、音声通信は、VoIPにより行なわれるため、接続方式が切り替わってもとぎれることなく、通話が可能だ。なお、このUniversal Communcatiorは、GSM方式の携帯ネットワークと非携帯ネットワーク(この場合は無線LANやGPRSによるIPベースの通信)の間でシームレスな切替を行なうための機能もあるという。詳細は発表されていないが、通話中にGSMのみが通信可能な状態になれば、これを使って通話を継続するような仕組みのようである。おそらくは、サーバー側などのサポートが必要だと思われる。回路的には、オーディオコーディックとGSMのベースバンドモジュールが接続されており、マイクから入力した音声をデジタイズしてVoIP化したり、GSMのコーディックへ送ることが可能になっている。 内部は、IntelのBulverdeのプロトタイプシリコンを使ったアプリケーションプロセッサーと、GSM/GPRSの通信モジュール、IEEE 802.11bの無線LANモジュールなどから構成されている。 表示には、Kodakが開発した有機LED、NuVueが採用されている。これは自己発光デバイスでありながら、低消費電力という特徴を持つもの。
キーボードは、数字とアルファベット入力が可能なFastap Keyboardが採用されている。これは、数字キーの間にアルファベットキーを埋め込むように並べたキーボード。数字キーとアルファベットキーには段差があり、この機種では、アルファベットキーは小さいものの、一段高くなっており、数字キーと簡単に押し分けることができる。 デモでは、電波状態が変わると、通信はそのままで、通信方式が自動的に切り替わるところを見せた。
●75GHzの発信が可能なCMOS発信器を試作
最後に、ムーアの法則に対するIntelの回答として、75GHz以上での発振が可能なCMOSの発信器を公開した。これは90nmプロセスで作られたもの。Intelがいうソフトウェアラジオを実現するには、扱う周波数の何十倍という速度で動作するプロセッサが必要となる。もし、2GHz帯の電波を扱うのであれば、それをソフトウェアで処理するには、数十GHz以上のプロセッサ速度が必要だ。また、ハードワイヤードで処理を行なうにしても、やはり高速なデバイスが必要になる。こうした技術を使うことで、ラジオで「Digital Direct Conversion」が可能になるとGelsinger副社長は予測した。従来は、デジタル回路で処理が可能なように、受信した信号は、アナログ回路を使って、信号を運んでいるベースバンドに変換されていた。しかし、高速なデジタル回路ができれば、受信した信号から直接、ベースバンド信号を取り出すことが可能になる。 毎回、IDFでは、Gelsingerが、ソフトウェアラジオについて語るが、必要な技術は着実に開発されつづけている。今回の大きなメッセージとして「No More Copper」(もう銅線はいらない)というのがあった。 デバイスが小型化し、低消費電力になっていけば、いままで組み込めなかったような場所にもコンピュータを入れることができるようになる。いわゆるユビキタスというわけだが、そのときに使われるのは、無線でしかありえない。その意味で、無線はIntelの第2の基本技術となるのかもしれない。
□IDF Fall 2003のホームページ(英文) (2003年9月19日) [Reported by 塩田紳二]
【PC Watchホームページ】
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