IDF2002 Fallレポート:基調講演編

デジタルの未来を切り開くのはより進化したシリコンテクノロジーだ

Intel副社長兼CTO(最高技術責任者)のパット・ゲルシンガー氏

会期:9月9日〜12日(現地時間)
会場:San Jose Convention Center



 Intel Developer Forum(IDF)の最終日となった9月12日(現地時間)、Intelの副社長兼CTO(最高技術責任者)のパット・ゲルシンガー氏による基調講演が開催された。以前、IDFの最終日と言えば、エンタープライズやコミュニケーションなどの基調講演が開催され、来場者の数もかなり減るという日だったのだが、ここ何回かのIDFでは、最終日は研究開発をテーマとした内容に当てられており、ゲルシンガー氏がいう“技術オタク”なエンジニア達にとって非常に興味深い日となっている。本レポートでは、そうした基調講演で公開された内容をお伝えする。

●エンタープライズ号船長“カーク大佐”まで登場したゲルシンガー氏の基調講演

GingerことSegway HTに乗って登場したパット・ゲルシンガー氏

 毎度、芝居がかった演出で知られるゲルシンガー氏の基調講演だが、今回はゲルシンガー氏が自らがSegway HTに乗って登場するという、“紅白歌合戦の小林幸子か?”という突っ込みを入れたくなるような派手な登場だった。

 さらに、ゲルシンガー氏はやたらと重装備で、その服の中には様々なガジェットを隠しており、1つ1つ取り出してみせた。例えば、Bluetoothに対応したワイヤレスヘッドセット、GPS時計、ユニバーサルリモコン、デジタルカメラを内蔵したPDA、携帯電話などを1つ1つ紹介していった。そして極めつけなのが、ゲルシンガー氏が着ていたベスト。これ自体がデータセンターになっており、IEEE 802.11やBluetoothなどでデータにアクセスすることが可能になっているという。

 その後、ゲルシンガー氏が「ここで質問したいのだが、我々はいつでもどこでもしたいときにデータにアクセスしたり、通信がこのネクタイピンみたいに小さいマイクでできるようになったりという世界が想像できるだろうか?」と観衆に問いかけたところで、最前列に座っていた男性が「できる、いやできるに決まっている」と述べて立ち上がった。

トレッキーにはたまらない、エンタープライズ号初代船長のカーク大佐登場!

 その人こそ今日の基調講演の特別ゲストであるウィリアム・シャトナー氏だった。シャトナー氏は、有名テレビドラマの「スタートレック」初代シリーズで、宇宙戦艦エンタープライズ号の船長・カーク大佐役を演じた俳優。最近ではデジタルの世界に非常に興味を持って調べており、その著書である“I'm Working On That”の中で、スタートレックの世界の空想科学がどのように実際に科学となっているかを検証しているという。シャトナー氏は「スタートレックで我々が未来の科学として想定したことが今現実になりつつある」とのべ、Intelをはじめとするハイテク産業の企業や関係者の努力を賞賛し、スタートレックの世界が実現されることを期待すると述べて、会場を大いに沸かしていた。


●5GHzのシリコンラジオチップの試作にすでに成功

 ゲルシンガー氏は、続いて2月のIDFで明らかにした、“すべてのチップに無線機能を”というビジョン“Radio Free Intel”を再び持ち出し、その研究の成果としてCMOSで作成した5GHzの帯域を実現するシリコンベースのトランシーバを公開した。ゲルシンガー氏は「このボックスは0.18μmで作られており、我々はこのCMOSによるトランシーバの製品化に非常に近いところにある」とのべ、このCMOSのトランシーバの製品化が近いことを伺わせた。

 実際、情報筋によれば、Baniasと同時に出荷する予定のIEEE 802.11aと11bのデュアルバンド無線モジュールであるCalexico(キャラクシコ)の後継として、Intelは2003年の後半に「Calexico2」を計画しており、このCalexico2では「Ramon2」と呼ばれる5GHzと2.4GHzの両帯域をサポートするIntelのシリコンラジオチップが搭載される予定とのことで、ゲルシンガー氏はこのRamon2のことを指し示しているものとみられている。つまり、このRamon2の開発がかなり順調に進んでいるということだろう。

 さらに、ゲルシンガー氏はシリコンフォトニクスについても言及した。シリコンフォトニクスとは、半導体ベースの光ファイバーのことで、ゲルシンガー氏は「近い将来には、シリコンの内部にフィルタ、モジュレータ、スイッチなどが内蔵されるようになる」というビジョンを明らかにした。それは、現在分離しているフィルタ、モジュレータなどのコンポーネントを1モジュールに統合し、それをシリコンへと統合していくという過程を経て行なわれると述べた。

 光ファイバーがシリコンの内部に入ることで、転送速度は飛躍的に向上する。例えば、将来的にシリコンの内部で10GHz以上が実現されたとしても、外部のインターフェイスとなるバス部分を現在の銅線のまま10GHz以上に上げていくのはかなり難しいと考えられている。内部のクロックが上がっても、バス部分のスピードが遅ければそこがボトルネックになってしまい、処理能力を上げていくことが難しくなる。だが、光ファイバーなどの技術を利用することで、その限界を超えることも不可能では無くなる可能性があり、それらを実現するための要素技術だと考えることができるだろう。

ゲルシンガー氏が手に持っているのが、シリコンで作られた5GHzのトランシーバ。将来的に無線LANや携帯電話などに利用されることになる まずはモジュール単位に統合し、最終的にはそれをシリコンにまで統合する

●トライゲートトランジスタなどテラヘルツを実現するナノテクノロジ

 さらに、ゲルシンガー氏はナノテクノロジに関しても言及した。ナノテクノロジとは0.1μm(=100nm、百ナノメートル)以下の製造プロセスを採用したプロセス技術のことを挿しており、新しい材質や構造、さらには原子レベルの素材、自己形成などが可能なプロセス技術のことをさしている。Intelは、2003年の後半にPrescott(プレスコット)と呼ばれるPentium 4の次世代プロセッサコアを導入する予定だが、そこでは90nm(=0.09μm)のプロセスルールを導入する予定なので、2003年にはナノテクノロジに移行することになる。

 ゲルシンガー氏に代わって登場した上級副社長兼テクノロジ&マニファクチャリンググループジェネラルマネージャのスンリン・チョウ氏は「ナノテクノロジを実現するには、EULVによる新しい露光方法、さらには17日に日本で開催される学会「ISSDM」でIntelが公開する予定のトライゲートトランジスタ(Tri-Gate Transister)など新しい技術の開発が非常に重要だ」とのべ、Intelが導入する新しい技術が、今後もナノテクノロジをより微細化する方向性を実現していくと述べた。

 このほかにも、パッケージ技術、シリコン酸化膜の新しい材質、原子レベルの自己生成、光ファイバーの内蔵など様々な技術を、ナノテクノロジの進化に生かしていくと述べた。さらに、300mmウェハの先進ファブとして知られているD1Cの隣に、D1Dと呼ばれる65nm(0.065μm)を実現する工場を建設し、すでに研究がかなり進んでいるということを明らかにした。

Intel上級副社長兼テクノロジ&マニファクチャリンググループジェネラルマネージャ スンリン・チョウ氏 ナノテクノロジの条件。100nm(0.1μm)を切っているプロセス技術のこと 90nm(0.09μm)のプロセスルールでは、トランジスタのゲート長は50nmで、インフルエンザウィルスの半分近く
EUVL(極端紫外線露光技術)を利用して引かれた50nmの線。ナノテクノロジを実現するにはこうした露光技術も進化させていく必要がある より小さいサイズで、より高いパフォーマンスを実現するトライゲートトランジスタ。詳細は今週日本で開催される学会で報告される Intelがオレゴンに建設したD1D。0.13μmプロセス/300mmウェハの開発ファブであるD1C、300mmウェハの研究開発を行なうRP1とならび、D1Dでは65nmプロセス/300mmウェハの開発を行なっている

●“デジタルの未来を切り開くのはシリコンテクノロジ”がメッセージ

 今回ゲルシンガー氏は「シリコンテクノロジーはデジタルの未来を切り開いていく」と述べ、シリコン技術が進化していくことこそ、デジタルデバイスの処理能力を上げ、より豊かなデジタル社会を実現するとした。これこそが、Intelが今回のIDFで最も言いたかったことだろう。

 Intelは過去30年にわたり、マイクロプロセッサ業界をリードし、処理能力を大きく向上させてきた。それは、何よりも、プロセス技術が進化し、微細化することで1つのチップに集約できるトランジスタ数を増やし、そして処理能力を向上させていくというモデルが成功してきたということだ。こういうスパイラルがIntelという会社の高度成長を支えてきたし、今もPC業界に大きな影響を与えている所以でもある。だが、この成長が止まってしまえば、マイクロプロセッサを大量に供給する必要はなくなり、Intelという会社の基礎にも大きな影響を与えかねない。そういう意味で、プロセス技術が今後も進化していくことは、Intelにとって非常に大きな意味を持っている。

 エンドユーザーにしてみれば、マイクロプロセッサの処理能力が今後も上がり続けるということも意味している。確かに、以前に比べてマイクロプロセッサの処理能力はかなり上がったが、それでも何もかもができるという訳ではない。また、シリコンラジオが示しているように、シリコンの適用範囲もこれまでよりも拡大する可能性もある。つまり、より便利で、豊かなデジタル社会というものを実現するためには、こうしたプロセス技術が進化することは歓迎してよいわけだ。そういう未来をかいま見させたくれたという意味で、今回のゲルシンガー氏の基調講演は非常に興味深いものだったと言えるだろう。

□IDFのホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/fall2002/
□関連記事
Intel Developer Forum Conference 2002レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/link/idf02.htm

(2002年9月17日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング ]


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