元麻布春男の週刊PCホットライン

クラスタリングHPC市場を見据えた新Itanium 2の戦略


●異なるコードネームで同じダイ

 日本時間の9月9日、インテルはデュアルプロセッサ構成のサーバー・ワークステーション向けプロセッサ2種を発表した。1つはItanium 2 1.40GHz/1.5MB L3キャッシュ、もう1つが低電圧版Itanum 2 1GHz/1.5MB L3キャッシュだ。前者の開発コード名はMadison、後者の開発コード名がDeerfieldだとされている。

ISSCC 2003でIntelが公表したDeerfieldのスペック

 今回の発表で不思議だったのは、低電圧版とわざわざ名前にうたっているにもかかわらず、実際の駆動電圧、あるいは通常のItanium 2に比べてどれくらい電圧が低くなったのか、という情報がプレスリリースに記載されていないことだ。

 それどころか、公表されたデータシートを見ても、駆動電圧については明示されておらず、本当に電圧が下がったのかどうかよく分からない。調べてみると、今年開かれたISSC 2003においてIntelはDeerfieldに対する供給電圧を1.1Vと公表していた。Madisonが1.3Vであるから、0.2V引き下げられたことになる。

 逆にデータシートで分かったことは、今回発表された2つのプロセッサは、データシートが共通である、ということだ。つまり、今回発表されたMadisonとDeerfieldは、データシートが共用できるほど電気的仕様が近い、ということになる。実際スペック的にも、400MHzのFSB、1.5MBのL3キャッシュを始めとするキャッシュサイズなど、極めて似通っている。

写真はL3キャッシュ6MBのItanium 2 1.5GHz。新Itanium 2はこれとピン互換だが、ダイは異なる可能性がある

 これらのことから推測されるのは、今回発表された2つのプロセッサは、同じダイをベースにしているのではないか、ということだ。以前から述べているように、公表されるIntelの開発コード名は、特定のダイにつけられたものではない。製品としてのプロセッサ、あるいはターゲットとする市場セグメント上の位置づけに対してつけられたものであるから、同じダイで作られる2種類のプロセッサが異なる開発コード名を持っていたとしても、それほど驚くことではない(おそらくダイにも開発コード名があるハズだが、それは公開されない)。

 また、同じMadisonでありながら、6月に発表された1.5GHz/6MB、1.4GHz/4MB、1.3GH/3MBのItanium 2とデータシートが異なるということは、これらと今回発表されたItanium 2は異なるダイではないか(つまり6月に発表されたItanium 2のダイ上にある6MBのL3キャッシュのうち4.5MB分を無効にしただけのものではない)と思われる。

 さて、たぶんに同じダイではないかと思われる2種のプロセッサだが、Itanium 2 1.4GHz/1.5MBは1.3Vで、低電圧版Itanium 2は1.1Vでそれぞれ駆動されているのだろう(同じMadisonだけに駆動電圧くらいは同じではないかと推定する)。1つのウェハから1種類の製品しか製造しない、というのは歩留まりだけを考えても想像しにくいが、動作電圧を変えるとはいえ異なる2つのグレードを作るのなら理解しやすい気がする。

 それぞれの消費電力だが、TDPについては、順に91W、55Wとされており、Intelが公言している熱設計上のガイドライン(Itaniumプラットフォームは130W、低電圧Itaniumプラットフォームは62W)を余裕をもってクリアしている。

●Opteronを牽制した戦略的な価格付け

 今回発表された2種のプロセッサでもう1つ注目されるのが、価格だ。1.4GHz/1.5MB L3の1,000個ロット時の価格は1,172ドル(138,500円)、1.0GHz/1.5MB L3は744ドル(87,900円)となっている。いずれもボリュームゾーンであるデュアルプロセッササーバー市場に向けた戦略価格であるとのことだが、ライバルを意識していないハズがない。

Opteron

 奇しくも同日、日本AMDもOpteronプロセッサに2モデルの追加を行なった。いずれも動作クロックが2GHzのOpteron 846とOpteron 146だが、後者の価格は669ドル(83,625円)。デュアルプロセッサ構成をサポートした246(新製品ではない)の価格は794ドルとなっており、微妙な価格となっている。

 同じ64bitプロセッサのItanium 2とOpteronの最大の違いは、Opteronが32bit OSの起動が可能なのに対し、Itanium 2はそれができない、ということにある。Itanium 2もIA-32互換のハードウェアを持っており(ただし近い将来、ソフトウェアで置き換えられる予定)、64bit OS上で32bitアプリケーションを動かすことが可能だが、32bit OSの起動はできない。これが最大の違いだ(ただし物理アドレス空間と論理アドレス空間は、OpteronよりItanium 2の方が広い)。

 Itanium 2の悩みは、32bit OSとの互換性を持たないためOSサポートが限られることだろう。確かにIntelが言うように、Itanium 2をサポートしたOSとしては、Windows Server 2003、Linux、HP-UXの3種が利用可能だ。

 しかし、Windows Server 2003による64bitプロセッサのサポートは、高価なEnterprise Edition以上のグレードに限定される上、ボリュームライセンスのみでの提供となる。つまり、Itanium 2上でWindows Server 2003を利用しようとするユーザーは、Microsoftとボリュームライセンスを結べるような大企業に限られることになる。

 もちろん、Microsoftは大企業でなくともボリュームライセンスは結べるし、その方が得だと述べている。また、ボリュームライセンスを結べば製品版が入手できるのだから、今のところプリベータ版(ベータ版のさらに前のバージョン)しかないOpteronよりは良いのかもしれない。

 しかし、今回の低電圧版Itanium 2のような、比較的安価でデュアルプロセッサ構成に限定されたIA-64プロセッサが登場すると、OSのライセンス料やライセンスポリシー、あるいはOSのグレードとプロセッサを始めとするハードウェアが合致しなくなってくる。逆に言うと、Microsoftにとって64bitコンピューティングというのは、それくらいハイエンドな位置づけにある、ということなのだろう。

 また、低電圧版のItanium 2というと、誰しもが考えるのはいわゆるブレードサーバーの市場だろう。だが、低電圧版も含めItanium 2にIntelが用意しているチップセットは、E8870しかない。E8870は高いスケーラビリティと高性能を誇るチップセットだが、部品点数が多くブレードサーバーには不向きだ。

春のIDFで展示されていたPentium Mベースのブレードサーバー。チップセットはE7501。CPUの制限でデュアルプロセッサ構成にはできない

 ノートPC用のプロセッサやハードディスクを使うような、狭義のブレードサーバーに関する事業は、Itanium 2を手がけるEPG(Enterprise Platform Group)からICG(Intel Communications Group)に移管されており、すでにPentium Mプロセッサを用いたブレードサーバの参考出品を春のIDFで行なっている。EPGがIBMと提携して開発しているブレードサーバーは、おそらくもう少し大型で、その分能力も強化されるだろうが、登場までにはもう少し時間が必要ではないかと思われる。

 今回発表されたItanium 2プロセッサは、プロセッサの価格だけを見ると、ハイエンドのデスクトップPC向けプロセッサと大きく変わらない。が、低価格なプロセッサに見合ったチップセット、そして何よりそれに見合ったOSがないことから、どうやら市場はLinuxによるクラスタリングを前提にしたHPC市場が中心になりそうだ。

 説明会の会場に展示してあったマシンも、多くはクラスタリングを意識した2Uサイズのラックマウントサーバーだった。これまでこの用途に使われるIntel製プロセッサはXeonが主流だったが、これからはItanium 2も、ということなのだろう。しかし、この分野は現在AMDも力を入れているところであり、両者が真っ向からぶつかることが予想される。果たして今回発表された2種の低価格Itainium 2プロセッサがOpteronキラーとなるのか、Opteronの返り討ちにあうのか、注目される。

□関連記事
【9月9日】インテル、Deerfieldこと低電圧版Itanium 2 1GHzを発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0909/intel.htm
【9月9日】AMD、Opteron 146と846を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0909/amd.htm
【7月1日】インテル、6MBのL3キャッシュを搭載した新Itanium 2発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0701/intel.htm

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(2003年9月11日)

[Text by 元麻布春男]


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