笠原一輝のユビキタス情報局

秋商戦前にCentrino/Pentium Mの意味を再確認する




 Centrinoモバイル・テクノロジ/Pentium Mプロセッサを搭載したノートPCが発売されて半年が経過したが、その間にモバイル向けのノートPCの多くが、Centrino/Pentium Mベースに置き換わってきた。

 9月になり、秋モデルの投入時期を迎えて、まもなく各PCベンダから、続々とCentrino/Pentium M搭載ノートPCがリリースされる予定だ。

 そこで、半年を経過したCentrino/Pentium Mについてもう一度その魅力や問題点について確認していきたいと思う。特に、今回は、唯一のライバルといえる低電圧版モバイルAthlon XP-Mとの差を、ベンチマークプログラムなどを元に探っていきたい。


●熱設計消費電力と平均消費電力が低いPentium Mプロセッサ

 筆者はPentium Mプロセッサ(以下Pentium M)の特徴は、大きくいって3つあると思う。1つは熱設計消費電力が従来のモバイルPentium 4-Mなどに比べて低いことであり、2つ目が平均消費電力がモバイルPentium III-Mなどに比べて低くなっていること、そして最後に処理能力がモバイルPentium III-MやモバイルPentium4ーMなどに比べて高くなっているということだ。

 具体的に見ていこう。まず、熱設計消費電力だが、モバイルPentium 4-Mが35Wになっているのに対して、Pentium Mは24.5Wで、約10Wほど下がっている。これにより、熱設計はより緩やかになり、放熱機構がモバイルPentium 4-Mよりも簡易なものですませることが可能になり、モバイルPentium 4-Mに比べて本体の大きさを小さくすることができる。もっとも、最近のノートPCはフットプリント(底面積)は液晶ディスプレイで決定されてしまうので、厚さが薄くなる方向で本体が小さくなっている。

 平均消費電力は、実際にPCが動作している状態における消費電力のことをさしており、平均消費電力が低ければ低いほどバッテリ駆動時間を長くできる。OEMメーカー筋の情報によれば、IntelがOEMメーカーに説明しているモバイルPentium 4-Mの平均消費電力は2W以下であり、モバイルPentium III-Mのそれは1.5W以下であるという。それでは、Pentium Mはと言えば、1W以下で、モバイルPentium III-Mに比べても低くなっているという。

 ノートPCのシステムで電力を消費しているのは、CPUだけではないので、CPUの平均消費電力が半分になったからバッテリ駆動時間が倍になるということはないが、それでもバッテリ駆動時間にいい影響があることは言うまでもない。

 そして、性能面だが、やはりこれも向上している。以前の記事で紹介したように、BAPCoのモバイル向けベンチマークであるMobileMark2002のPerformance Rating(性能)では、Pentium M 1.60GHzを搭載したThinkPad T40が186、モバイルPentium 4-M 1.80GHzを搭載したThinkPad T30が131、モバイルPentium III-M 1.20GHzを搭載したThinkPad T30が108となっており、性能が向上していることが見て取れる。

 このように、低い熱設計消費電力、低い平均消費電力、高性能というのがPentium Mのキーワードなのだ。

 Pentium M@1.60GHzモバイルPentium 4-M@1.80GHzモバイルPentium III-M@1.20GHz
熱設計消費電力24.5W35W22W
平均消費電力1W以下2W以下1.5W以下
MobileMark2002
Performance Rating
186131 108

●CPU以外はほぼ同等の仕様となっているLaVie MとLaVie ME

 それでは、ライバルのCPUとの比較という意味ではどうなのだろうか? Pentium Mと競合する製品といえば、AMDの低電圧版モバイルAthlon XP-M、TransmetaのEffecion(イフィシオン)などがあげられる。

 未だ搭載製品が発売されていないEffecionに関しては今回は比較することは不可能だが、AMDの低電圧版モバイルAthlon XP-Mはすでに搭載製品が発売されており、比較することが可能だ。低電圧版モバイルAthlon XP-Mは、熱設計消費電力が25Wと、Pentium Mの通常版とほぼ同じ仕様になっている。平均消費電力は未公開だが、2W~3W程度と考えられている。

NEC LaVie M

 今回は比較に、Pentium M 1.30GHzを搭載したNECのLaVie M(LM550/5E)と、低電圧版モバイルAthlon XP-M/1400+を搭載したLaVie ME(LE500/6D)の2製品を利用した。この2つの製品はいずれも筐体は同じものを採用しており、液晶は12型、ドライブもDVDマルチドライブ、無線LANはIEEE 802.11a/bデュアルバンド、48Whのリチウムイオンバッテリを採用するなど仕様もかなり似通っている。

 唯一大きな違いは、前述の通りCPUが異なることと、LaVie MはGPUとしてMOBILITY RADEON 9000という単体型を採用しているのに対して、LaVie MEは統合型チップセットのATI RADEON IGP 320Mを採用している点だ。チップセット+GPUで比較した場合には、後者(LaVie ME)の方が有利になるはずで、そうした点を考えて見ていく必要はあるが、それでもPentium Mと低電圧版モバイルAthlon XP-Mを比較して行くには適した2台といえるだろう。

 結果は下記のようになった。

■ベンチマーク結果

【グラフ1】バッテリ駆動時の処理能力(MobileMark2002/Performance Rating) 【グラフ2】バッテリ駆動時間(MobileMark2002/Battery Rating、単位:分)
【グラフ3】ACアダプタ駆動時のビジネスアプリ性能(SYSmark2002/Office Productivity) 【グラフ4】ACアダプタ駆動時のコンテンツ作成アプリ性能(SYSmark2002/Internet Contents Creation)
【グラフ5】DirectX8.1環境での3D描画性能(3DMark2001 Second Edition Build330) 【グラフ6】OpenGL環境における3D描画性能(Quake III Arena DEMO1)
【グラフ7】平均消費電力(バッテリ容量÷MobileMark2002 Battery Rating) 【グラフ8】1Wあたりの処理能力(MobileMark2002 Performance Rating÷平均消費電力)

 GPUが異なる(LaVie MはMOBILITY RADEON 9000、LaVie MEはRADEON 9000よりも2世代前のRADEON VEコアを内蔵したRADEON IGP 320M)ため、3D描画性能に差がついたのは仕方がないとしても、GPUには依存しないMobileMark2002やSYSmark2002でも大きな差がついていることがわかる。

 元々、Athlon XPのモデルナンバーは、Pentium 4をターゲットに設定されていたという経緯があるので、そのPentium 4を実クロックで大幅に上回る性能を発揮するPentium Mに性能ではかなわないというのは致し方ないところだろう。

 今回取り上げた両製品は、ともに容量が48Whのバッテリを搭載しており、これをMobileMark2002のBattery Ratingの結果で割ることで、システムの平均消費電力を計算できる。結果はPentium Mを搭載したLaVie Mが12.97W、低電圧版モバイルAthlon XP-Mを搭載したLaVie MEが15.11Wとなり、平均消費電力では2W強の差があることがわかった。LaVie Mに採用されているMOBILITY RADEON 9000は、統合型チップセットのRADEON IGP 320Mに比べて消費電力の点では不利であることを考えると、CPU単体の差はさらに大きいといえるかもしれない。

 電力利用の効率を見ることができる、1Wあたりの処理能力を見ていこう。これは、MobileMark2002のPerformance Ratingの数字を先ほどの平均消費電力でわったもので、1Wの電力でどの程度の処理能力を得ることができているのかということがわかる指標だ。これをみても、Pentium Mを搭載したLaVie Mは10.87と、低電圧版モバイルAthlon XP-Mを搭載したLaVie MEの4.70を倍以上引き離している。

 こうした結果を見ると、現時点では性能、平均消費電力という観点でPentium Mは明らかに低電圧版モバイルAthlon XP-Mを上回っていると言わざるを得ない。これは、元々低消費電力をターゲットにして開発されたPentium Mと、デスクトップPC向けに開発されたAthlon XP-Mを低電圧化して動作させている差といえ、仕方のないところだ。

 ただ、価格という意味では、AMDが低電圧版モバイルAthlon XP-Mを投入した効果はすでにでている。たとえば、今回取り上げた2機種は、Pentium Mを搭載したLaVie Mが23万円、低電圧版モバイルAthlon XP-Mを搭載したLaVie MEが20万円弱と、約3万円の価格差がある。GPUに差があるとしても、GPUだけで3万円という価格差にはならないはずだ。

 そうしたことを考えると、AMDが今後も積極的にモバイルPC向けCPUを投入することは長い目で見てユーザーに大きなメリットをもたらすはずだし、AMDにとっても新しいビジネスチャンスになるはずだ。そうした意味で、AMDがモバイル専用CPUを早期に投入することを切に願いたい。

●無線LANに足を引っ張られるCentrinoのブランド戦略

 しかし、IntelのCentrino/Pentium Mの方も、すべてが順調というわけではない。特に、Centrinoのブランド戦略に関しては、大きな危機に瀕している。9日には、ソニーから新しいバイオノートシリーズが発表されたが、全部で3モデル6ラインナップ中、Pentium M(CPU)+Intel 855(チップセット)+Intel Pro/Wireless2100(無線LAN)の3つがそろってCentrinoのブランド名を冠した製品は、なんと1製品しかなかった。

 この原因は、言うまでもなく、Intelがこの時期までにIEEE 802.11gに対応した無線LANモジュールを出荷できなかったためだ。すでにコンシューマ市場では、11gに対応したアクセスポイントが売れ筋になっており、今後もこの勢いは止まりそうにない。しかし、現在Intelが用意できているのは、IEEE 802.11bに対応した製品か、まもなく出荷される予定のIEEE 802.11aと11bのデュアルバンドに対応した製品のみで、市場の要求となっている11gや11a/b/gのトリプルモードをサポートした製品は用意できていない。

 PCベンダとしては、これから出荷モデルでローエンドの製品は11bのみという選択肢はありだが、ミッドレンジには11gを、ハイエンドには11a/b/gを、というのが製品を企画する側からすれば当然の要求ということになる。

 このため、ソニーのように、11bに対応した製品は1ラインだけで、残りは非Intel製のチップを搭載した11a/b/gないしは11gということになり、Centrinoの条件を満たすモデルは極一部しかない、という事態を招くわけだ。

 Intelにとって、無線LANというのは未知の市場だった。そもそも無線LANの市場というのは、CPUよりも遙かに流行廃りが激しい市場で、Intelは結局11gの普及の流れを明らかに見誤った。結果が、Centrinoブランドの出遅れという今回の事態だ。Intelは年末までに、11gに対応した新しいIntel Pro/Wirelessを投入する予定だが、それが予定通り投入できなければ、Centrinoの戦略は再び危機に陥ることは間違いなく、ライバルとなる無線LANベンダは固唾をのんでその動向を見守っている。

●2004年のDothanを1.80GHzと1.70A GHzでスタート

 Pentium M/Centrinoの今後だが、90nmプロセスルールに微細化したDothanは、すでにお伝えしているように2004年の第1四半期にスリップした。OEMメーカー筋の情報では、先月末に行なわれたロードマップの改訂で、従来から言われていた1.80GHzのグレードに加えて、1.70GHz版が第1四半期にリリースされる予定が追加されたという。これは、Baniasコアの1.70GHzと区別するため1.70A GHzの名前で呼ばれることになる。なお、その後のロードマップに関しては未だ明確になっていない。

 チップセットに関しては、DDR333をサポートするBステップのIntel 855PMが投入済みで、昨日発表されたバイオノート505などにも採用されている。また、Intel 855GMの改良版として、Intel 855GMEも第4四半期に投入の予定だ。

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(2003年9月10日)

[Reported by 笠原一輝]


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