●Windowsに代わるOSは?
前回は、Windowsにとって代わらないまでも、代替となるOSが必要であることについて触れた。では代替OSとして何を選ぶか。現時点で有力な候補となり得るのはLinuxしかないだろう。 コンシューマーユーザーがLinuxをWindowsの代わりにデスクトップOSとして使うには、まだまだ課題が多いことは承知している。が、Windowsが事実上の独占体制を築く過程において(筆者もそれを助けた一人ではないか、という批判は甘んじて受ける)、他のOSをほとんど駆逐してしまい、他にオプションが残っていないのが実情だ。 これまでサーバーOSとしては着実に実績を積み重ねてきたLinuxだが、デスクトップOSとしての実績は、工学/情報系の技術者や学生といったユーザーにほぼ限定されてきた。にもかかわらず、あえてLinuxを一般向けのデスクトップOSとして検討する理由があるとしたら、次の3点だろう。 1. コンシューマーをターゲットにした安価なパッケージ(ディストリビューション)の登場
この種のパッケージとして最も有名なのは、MP3.comの創業者であったMichael Robertsonが始めたLindows.comによるLindowsOSだ。当初はエミュレーションによりWindows用のアプリケーションを動作させることを目指していたが、現在はClick-N-Runと呼ばれるソフトウェアのオンライン配布、有償アプリケーション流通のためのフレームワーク整備に重点を移している。また、世界最大の小売業(巨大スーパー)であるWal-MartでのLinuxプリインストールPCの販売を最初に実現するなど、従来のディストリビューターとは一味違うセンスが見られる。 このLindows OSのパッケージ価格は49.95ドルからとなっているが、これより安い39.95ドル~という価格設定を行なっているのがXandrosだ。Xandrosの特徴は、CodeWeaversの技術を用いて、Windowsアプリケーションとの互換性をうたっていること。特にOffice XPとの互換性が目玉となっている。 さらに安価な29.95ドルからパッケージを用意しているのがLycorisで、今Wal-Martで最も安価なPCを買うとプリインストールされているのがこのOSだ。Tablet PCプラットフォームへの対応をうたっていることも特徴となっているが、プリインストールされたTablec PCは寡聞にして知らない。いずれにしても、安価であることが大きなセールスポイントである。 こうした米国での動きに呼応するかのように、わが国でもコンシューマーをターゲットにしたLinuxパッケージが登場しようとしている。上述したLindowsOS4.0の日本語版の販売が始まった(価格は6,800円~)。また、これまでサーバーやワークステーション向けに、日本語環境を重視したディストリビューションの提供を行なっていたターボリナックスが、秋に発売される次のデスクトップ向けパッケージから、コンシューマーを意識したものに変更すると発表している(現在Suzukaというコード名で開発中)。これまでサポートコスト等の点で敬遠されてきたコンシューマーの分野に、Linuxを届けようという動きが現れてきていることは間違いない。 2. 企業ユーザー向けのデスクトップ環境の提案
一方、企業向けのクライアントOSという点で注目される動きがSun MicrosystemsのProject Mad Hatterだ。Mad HatterはSuSE LinuxをベースにしたGNOME上のデスクトップ環境。Sun MicrosystemsといえばStarSuiteの開発元だけに、Mad Hatterの販売に際してStarSuiteを割安な価格でバンドルすることも考えられる。 実際、同社が狙っているのはOS/2やWindows 9xがインストールされた、古いデスクトップPCを安価に置き換えることだとも言われている。すでにサーバー分野で、企業に対して信頼を勝ち取っているSun Microsystemsだけに、Microsoftとしても侮れない相手になるかもしれない。 3. Intelによるドライバサポートの開始 こうした動きに対応するように、Intelは同社のデスクトップボード(デスクトップPC向けマザーボード)に対するLinuxのサポートを開始した( http://support.intel.com/design/motherbd/linux/ )。スタートしたばかりということもあって、現時点ではすべてのマザーボードのすべてのデバイスがサポートされているわけではない。また、サポートするLinuxのデストリビューションも、Red Hat Linux 9.0/8.0、SuSE 8.2/8.1に限定されている。が、これまで同社によるLinuxの支援が、代表的なディストリビュータであるRed Hatに出資したり、InfiniBandのドライバをオープンソースコミュニティに提供したりといった、どちらかというとサーバー分野に対する間接的な支援が中心だったことに比べれば、大きな前進といえるハズだ。 このように少しづつではあるが、一般のユーザーがLinuxを使う環境が整い始めた。上述したコンシューマーを志向したLinuxパッケージが、ただちに成功を収めるとは限らないが、注目しておく必要はあるだろう。というわけで、筆者もぼちぼちLinuxマシンを1台用意してみようか、という気になってきた。が、これまで何回かLinuxのインストールを行なった経験はあるものの、継続的に利用したことはない。'80年代半ばから'90年代初頭にかけて、UNIXのユーザーだったことはあるが、当時利用していた4.2BSD/4.3BSD、あるいはSun OS 4.0とは変わっている部分も多いことだろう。そこで、まず最大手のディストリビュータの1つであるRed Hatの最新版をテストしてみることにした。 ●Red Hat Linux 9 Professionalを導入
Red HatのLinuxといっても、現在は事実上2つのラインに分かれている。大企業向けに保守サービス等と一体になったパッケージであるRed Hat Enterprise Linuxと、個人やSOHO向けのRed Hat Linuxだ。企業向けと個人/SOHO向けを分離することで、後者のアップデート間隔を短縮、新しい技術の導入を積極的に行なうことが可能になったとされている。同社は、OSそのものに値段をつけているわけではなく、付帯するサービス(サポート、マニュアル、配布メディアの数、バンドルする商用アプリケーション等)に課金する方針であり、保守サービス等と一体となった前者は当然のことながら価格が高い。筆者の選択肢としては、後者以外にあり得ないことになる(ただ、将来的には前者に力を入れていく方針だといわれている)。 EnterpriseではないRed Hat Linuxの最新版は、Red Hat Linux 9とRed Hat Linux 9 Professionalの2つのパッケージで構成されている。後者には、前者にないものとして、電話によるインストールサポート、2倍のインストールサポート期間(60日間)、2倍のRed Hat Network試用期間(60日間)、500ページを超える印刷されたマニュアル、ブータブルなDVD-ROMメディアなどが含まれている。標準価格は前者が6,800円、後者が19,800円だが、ヨドバシドットコムによる実売価格ではそれぞれ5,880円と14,800円となっており、今回は後者を購入した(1万円未満の商品では別途送料がかかるのを避ける意味もある)。 Linuxのインストールについて良く言われることの1つに、ハードウェア構成は最新のものは避けた方がいい、ということがある。新しくリリースされるハードウェアの多くはWindowsでの利用を前提にドライバサポート等が行なわれており、Linuxに対するドライバサポート(ベンダによるものかどうかを問わず)には時間を要することが多いからだ。これは、現実として受け入れなければならない側面はあるにせよ、新しいハードウェアではLinuxは動きませんというのでは、やはり困る。PC業界を支えているのは、圧倒的に新品のPCの販売であり、そこに関われないようではWindowsと同じ土俵に上がることなどできないからだ。 もちろん筆者がこの問題に対して貢献できることなどほとんどなく、せいぜい上述したIntelによるサポートの試みなどを紹介するくらいしかできないのだが、とりあえず新しめのハードウェアでどうなるのか、試してみようと考えた。それが表1に示した構成だ。ハードウェアのベースは、この春リリースされたIntel 865Gチップセットで、極力ICH5の内蔵インターフェイス(マザーボードのオンボードデバイスと言い換えてもいい)を使う構成になっている。まぁ何のことはない、筆者の実験マシンの1台である。 【表1】テストインストールした新しめのPC構成
●インストール開始、デバイスの認識率は意外と良好
何も考えず、Red Hat Linux 9 ProfessionalのDVD-ROMをドライブにセットして、システムを起動すると、DVD-ROMからGUIベースのインストーラが立ち上がった。どうやらIntel 865Gの内蔵グラフィックスのサポートはうまくいっているようだ。ここで用いたハードディスクは実験用のデータを含んだものであるため、手動でパーティションを設定した。Linuxのブートパーティション(/boot)を、古いBIOSでは対応できない1,024シリンダを超えた領域に確保することになったせいか、インストーラが警告を発したが、気にせず続行した。今時この程度でガタガタ言ってもらっても困る。 もちろん、古いシステムにインストールする際には問題になることもあるだろうが、このパーティション設定はもう少しスマートに処理されるべきだろう。キーボードやマウスの選択、タイムゾーンの設定、インストールするシステムタイプの設定(デスクトップ、ワークステーションetc)を行なえば、後はひたすら待つだけだ。DVD-ROMの良いところは、インストールに際してメディアの入れ替えをしないで済む点にある。ただ待っていれば、開発環境やオフィス環境(OpenOffice.org 1.0)まで全部インストールしてくれる。 インストールが完了し再起動して、どれくらいハードウェアがちゃんと動作しているかチェックしてみた。GUIベースのインストーラが動作したことでも明らかなように、865Gの内蔵グラフィックスはOK。上述したIntelのWebサイトにもRed Hat Linux 9は最初から865Gの内蔵グラフィックスをサポートしていると書かれているが、それに間違いない。USBポートのサポートも、USB 2.0も含め問題ない。USBは、UHCI(Intel/VIAが採用するUSB 1.1準拠のホストコントローラ規格)、OHCI(それ以外のメーカーが採用するUSB 1.1準拠のホストコントローラ規格)、EHCI(USB 2.0のHi-Speedモードのためのホストコントローラ規格)と、ホストコントローラ側の規格が定まっているため、実際にインプリメントされたチップに関係なく、サポートすることが可能だ。その利点が生きている。 一方、動かなかったのはCSA接続のオンボードEthernetインターフェイスと、オンボードサウンドだ。どうやらICH5についてはまだサポートされていないのだろう。実は、後に別のEthernetカードをインストールし、Red Hat Networkによりカーネルのアップデートをしたところ、Gigabit Ethernetについてはサポートが加わることが明らかになった。Windowsなら、インストール時にEthernetカードを挿しておき、ドライバ等をすべてアップデートし、オンボードのEthernetインターフェイスが使えるようになった時点でEthernetカードを取り外せば、Ethernetカードの設定はそのままオンボードEthernetに継承されるのだが、Linuxの場合、初期設定のままでは同じようには行かないようだ。 一方、オンボードサウンドについては、IntelのWebサイトにドライバがあり、Red Hat Linux 9はサポート対象になっているのだが、テストした環境ではドライバのビルドに失敗してしまった。makeのエラーを見ているとファイルが足りないらしい。カーネルを再構築するためのソースコードパッケージをインストールしていなかったのが敗因とも思われるが、これがデフォルトのインストールオプションなのだから、ある意味しょうがない。このあたりがLinuxをコンシューマに広めるための1つの障害であることは間違いないところだ。やはりコンシューマーに広めようと思ったら、GUIからワンクリックでドライバをインストール可能なフレームワークが必要になるだろう。 ●LS-120は正常に認識。省電力機能のサポートには課題も
逆に意外だったのは、LS-120(SuperDisk)がそのままサポートされていたことだ。リムーバブルATAPIデバイス自体は、たいていのシステムが認識する(BIOSだって認識している)のだが、Red Hat Linux 9が採用するデスクトップ環境であるBluecurveは、LS-120についてワンタッチでマウントできるレベルのサポートを行なっている。これにはちょっと驚いた。また、表1に記した以外の周辺機器で動作を確認したのはATIのRADEON 9700 ProとCreatvieのSound Blaster Live!。後者についてはS/PDIFからのデジタル出力も確認している(ただ、アナログ/デジタルを問わず、ちょっと音量が小さい)。 もう1つ、現時点で確認できているのがAPMの問題だ。Red Hat Linux 9はHyper-Threadingをサポートしており、Hyper-Threadingを利用する場合はマルチプロセッサ(SMP)対応のカーネルを利用することになっている。ところが、APMはマルチプロセッサに対応した規格ではない(そもそもBIOSで省電力管理を行なう古い規格である)ため、マルチプロセッサ対応カーネルをロードした場合、APMのサポートが無効になってしまう。Red Hat Linux 9が採用するカーネル(2.40.20)はACPI経由で一部情報を取得しているようだが、省電力管理についてはAPMに依存している。つまりHyper-Threading対応のプロセッサで、Hyper-Threadingに対応したカーネルを用いると、省電力機能が利用できないわけだ。2.4系のカーネルでACPIがフルサポートになるとはあまり考えられないことからすると、Hyper-Threading対応CPUをフル活用するには新しい2.6系のカーネルが必要になるかもしれない。 ともあれ、この実験マシンに対するインストールで、だいたいRed Hat Linux 9のデバイスサポートの状況がつかめてきた。この経験? をもとに、Red Hat Linux 9を継続的にインストールしておくシステムの構成を表2のように決めた。次回は、この表2のシステムにおいて、もう少し細かいところを見ていきたいと思う。 【表2】実際にインストールしたPCの構成
□関連記事 (2003年8月29日)
[Text by 元麻布春男]
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