これに対する11aだが、現状では単体製品というのはほぼ姿を消し、11a/b/gという3つの規格に対応するトリプルモードの製品が徐々に登場しつつある段階だ。早くから11a/bのデュアルバンド/デュアルモードの無線LANコントローラを投入したAtherosは、より低コストな2チップトリプルモード無線LANのいち早い投入と、Super A/Gという新しい転送手法の投入でさらにリードを広げようとしている。
●11aのメリットは11gの3チャネル以外に4チャネル使えるようになること 「11aはこのまま消えていくかもしれない」とは、あるコンシューマ向け無線LAN機器ベンダの関係者。これほど、コンシューマ向けの無線LAN市場では11aというものの存在価値がなくなりつつあり、それと比例して11gの機器が飛ぶように売れている。 実際、量販店の店頭で11gの製品が山積みされているのに対して、11aに対応した機器、たとえばNECのAtrem WL54APという11aのみに対応したアクセスポイント+カードセットの製品は、9,800円という処分価格で販売されていた。この流れはもう押しとどめようもなく、コンシューマ向け製品に関しては11gのみがチェックポイントとなるのは間違いない情勢だ。 これに対して、企業向けでは別の見方をする関係者が少なくない。例えば、日本アイ・ビー・エム、日本ヒューレットパッカード、NECといった企業向けPCを展開するベンダは、ラインナップの中に11a/bのデュアルバンド/デュアルモードや11a/b/gのトリプルモードの製品を展開している。 日本アイ・ビー・エムは、ThinkPad T40/X31/R40のオプションとして「ワイヤレスLAN 802.11a/b/g Mini-PCI カード」、ThinkPad T30/T40/X30/X31/R32/R40/G40のオプションとして「IBM 802.11a/b/g ワイヤレス CardBus アダプター」をラインナップしている。日本HPは、先月に11a/b/gに対応した「nc4000」を発表しているし、NECはVersaProなどに11a/bのデュアルバンドを用意している。 このように、企業向けの製品では11aのソリューションが多数用意されている背景には、チャネル数の問題がある。具体的には11gが利用する2.4GHz帯(国内規格ではARIB STD-T66が規定する2.4000~2.4835GHz)では、拡散スペクトラムが重なり合わない帯域という意味では3チャネルしか利用することができない。一般の家庭では、そこら中に無線LANがあるというわけではないので、3チャネルあれば十分なのだが、ユーザー数が多いエンタープライズユースでは、1ユーザーあたりの帯域幅を十分に確保するという観点からも、もっと多くのチャネルが必要になる。
しかし11aの5GHz(具体的にはARIB STD-T71、5.15~5.25GHz)では4チャネル利用することができるので、11gと平行して11aを利用することができれば合計で7チャネルを利用できる。これが、エンタープライズの市場で11a/b/gのトリプルモードが必要とされている理由なのだ。
●トリプルモードで先行するAtheros、Super A/Gでスループットの向上を目指す このように、企業向けのソリューションとして注目されつつある11a/b/gのトリプルモードだが、現在最も先行しているベンダがAtheros Communicationsだ。他社も11a/b/gトリプルモードに対応した無線LANコントローラを発表しているが、現時点で実際の製品として登場しているトリプルモードの無線LAN製品のほとんどがAtherosのチップに基づいた製品となっている。 これまで本連載でも指摘してきたように、11a/bデュアルバンドや11a/b/gトリプルモードの普及に大きな問題となっていた点は2つある。それは性能とコストだ。 性能という意味では、AtherosではSuper A/Gと呼ばれる転送手法を導入する。以前Atherosは、占有周波数帯幅を独自に拡張して108Mbpsを実現するTurbo Mode(日本では占有周波数帯幅は18MHzという制限があるので利用できない)を用意していたが、Super A/Gとはそれとは異なるものだ。 これは、BroadcomのXpress Technology、IntersilのPRISM Nitroと呼ばれるフレームバースティングの手法と同じようなもので、データのパケットをバースト転送することで、スループット(実行転送速度)を高めるものだが、AtherosのSuper A/Gではそれにデータの圧縮機能が加わる。 「当社のSuper A/Gでは、複数の段階を持っている。1つは今後IEEE 802.11eの規格として策定される予定のバースト転送、さらに動的な転送最適化、それに加えてユニークなのはハードウェアの圧縮機能だ」とAtheros Communicationsの社長兼CEOのクレイグ・バーラット氏は、Super A/Gのメリットを語る。 圧縮機能とは、LZHやZIPなどによるファイル圧縮と同じような機能をハードウェア上で実現するもので、メールやテキストファイル、Webサイト閲覧、ビットマップファイルなど圧縮可能なデータを送っている場合に効果があるという。ただし、JPEGなどすでに圧縮されているものに関してはあまり効果がない。
なお、この3つの機能は、ソフトウェアによりON/OFFを設定できる。例えば、フレームバースティングのみ、転送最適化のみ、圧縮機能のみ、あるいはフレームバースティング+転送最適化のみなどの使い方も可能となる。こうしてSuper A/Gでは、「最高で45Mbpsまでスループットを高めることができる」(バーラット氏)という(なお、Turbo Modeと併せて利用すれば90Mbpsが実現可能だが、前述の通り日本では利用することができない)。
●2チップ化によりコスト削減、今後もより統合化を目指す もう1つの課題であったコストだが、クライアント側に関してはほぼ解決されつつある。というのも、Atherosはチップの統合化を進め、当初は3チップで構成されていた11a/b/gのコントローラを2チップへと統合化を進めているからだ。BroadcomやIntersilといった11gで先行するベンダの11g対応無線LANコントローラも2チップ化されており、チップ数では同等となっているため、製造コストという点ではほとんど変わらなくなってきている。 「2チップ化により20%の製造コストの削減が実現でき、事実上トリプルモードと11gの価格差は2~3ドル程度でしかない」(バーラット氏)と、クライアントレベルでは価格差がなくなってきているという。実際Atherosでは、11a/b/gトリプルモードのAR5002Xと11b/gのAR5002Gという2つのクライアント向け製品を用意しているが、価格差は数ドルのレベルであるという。 すでに市場ではトリプルモードの11a/b/gのPCカードが実売価格で9,000円を切っており、11gのカードとの価格差は縮まってきているし、今後はより低下していく可能性が高い。9月以降に登場する各メーカーの秋モデルPCには、Atherosのトリプルモードのmini PCIモジュールを搭載した製品が多数登場する見通しだ。 ただし、これはクライアントレベルでの話であり、トリプルモードのアクセスポイントは、複数の帯域を同時に利用できるようにするため、どうしても2つのラジオチップやアンテナが必要になる。このため、シングルバンドのアクセスポイントに比べて高価になってしまうという問題点がある。だがこれも、以前レポートしたように、低コストの新しいアクセスポイント向けコントローラがすでに開発中で、今後こうした製品を投入することにより安価なトリプルモードアクセスポイントが普及すると思われる。
Atherosの今後だが、2004年の末に登場すると見られているノートPCのPCI Expressへの対応に向けてmini PCI Expressに対応した無線LANコントローラやモジュールの開発を続けていくという。「我々にとってはPCI Express対応は次の大きなステップだ。それに向けて準備を続けていく」(バーラット氏)。さらに、バーラット氏はその先には、「いつかということは言えないが、もちろん1チップ化ということも視野に入れている」と述べ、現在2チップとなっている無線LANコントローラの1チップ化に向けた開発を続けていることを明らかにした。
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(2003年8月22日) [Reported by 笠原一輝]
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