笠原一輝のユビキタス情報局

“Efficeon”で起死回生を図るTransmeta




Efficeonロゴ

 モバイル向けCPUベンダのTransmetaは、“Astro”(アストロ)のコードネームで開発を続けてきた次世代Crusoe(クルーソー)のブランド名を、Efficient Computing(低消費電力で高性能)の意味を持つ“Efficeon”(イフィシオン)と決定したことを発表した。

 Efficeonの最初のバージョンはTM8000の型番で呼ばれる。TM8000では、内部の命令実行が現行Crusoeの倍となる256bitで行なわれ、従来製品に比べて高い処理能力を発揮することが期待されている。


●低消費電力で一世を風靡したCrusoe

 2000年の1月に発表されたTransmetaのCrusoeは、2000年の秋に登場した多くのミニノートPCに採用され、旋風を巻き起こすことに成功した。Crusoeは、ノートPCのデザイン時のネックである熱設計消費電力(TDP)が低く、よりスリムで小さな筐体をデザインすることを可能にしただけでなく、バッテリ駆動時間に影響を与える平均消費電力も低く、従来製品に比べてバッテリ駆動時間が延びる2つの低消費電力の特徴を備えていたからだ。

 しかし、その後Intelが、超低電圧版モバイルPentium III、超低電圧版モバイルPentium III-M、超低電圧版Pentium Mなどの低消費電力なCPUをリリースしたことで、徐々に市場を奪われ、採用製品を減らして今に至っている。今年の春のモデルでは、ほとんどの製品が超低電圧版Pentium Mを採用したことで、継続販売された富士通のLOOX Sなどをのぞくと最新の製品には採用されていない状況だ。

 Intelの超低電圧版Pentium Mに市場を奪われたのは、IntelがOEMメーカーに対して価格面などでの攻勢をかけたという面もある。しかし、最も大きな要因は、パフォーマンスでIntelの超低電圧版CPUに負けてしまっていたことだ。現行のCrusoe TM5800は、超低電圧版Pentium Mの1GHzとクロック面では同等になっているが、CMS(コードモーフィングソフトウェア)によりx86命令をRISC命令に変換して実行するという特徴のため、オーバーヘッドが避けられず、実際のパフォーマンスでは劣るという評価が定着してしまったのだ。

●Transmeta巻き返しのための武器となるEfficeon

Efficeonのダイイメージ
 そこで、Efficeonでは、実際の演算を担当するRISCプロセッサをハードウェア的に改良している。CrusoeやEfficeonでは、VLIW(Very Long Instruction Word)と呼ばれる超長命令を実行する形式になっているが、従来のCrusoeでは32bitのマイクロ命令(x86をCMSに変換したあとの機械語)を4つパックして128bit単位の実行単位(moleculeと呼ばれる)で実行する形式になっていたのに対して、Efficeonでは8つパックして256bit単位で実行する形になった。これにより、従来のCrusoeに比べて実行効率が改善され、高い処理能力を発揮する。

 実際、今回の発表リリースの中でTransmetaは、Efficeonの処理能力を同じクロック周波数で実用アプリケーションの処理能力で50%、マルチメディアアプリケーションで80%の性能向上が期待できると明らかにしている。Transmetaは、Efficeonのクロック周波数を明らかにしていないが、OEMメーカー筋の情報では1GHz台の前半が計画されているという。実際、TM5800と同じプロセスルールであるTSMCの0.13μmプロセスを利用することを考えると、周波数が大幅に上がることは考えにくく、この推測が大きくずれることはないだろう。

 以前、筆者が計測したMobileMark2002の結果では、超低電圧版Pentium M 900MHzが115近く、Crusoe 800MHzが44だった。Crusoeに対して、Efficeonでは、クロックが1.5倍程度、性能が1.5倍程度になると仮定すれば、MobileMark2002のスコアは99になり、かなりいい勝負に持ち込めそうだ。

 現時点では消費電力に関しては明らかではないが、Transmetaの創始者でCTO(最高技術責任者)のデビット・ディッツエル氏によれば「消費電力は従来のCrusoeと同じレベルにとどまっている」という。これが事実であれば、Intelの超低電圧版Pentium Mに対抗できる可能性は高い。

●2004年には高電圧版のEfficeonと90nmプロセス版を投入

 気になる、OEMメーカーによる採用だが、今回は特に発表されていない。しかし、Transmetaの日本法人であるトランスメタ株式会社 代表取締役 村山 隆志氏は「現在いくつかの顧客で評価、デザインが行なわれている」と述べている。正式発表後にはOEMベンダから製品がリリースされる可能性があるといえるだろう。

 一番最初に登場するEfficeonは、ミニノート向けの製品となるが、2004年にはEfficeonの高電圧駆動の製品をリリースし、B5サイズのサブノートやA4サイズのシン&ライトの製品にEfficeonの普及を目指す。さらに、2004年の半ばまでにはTSMCの90nmプロセスを導入し、より高クロック製品の導入していくことになる。

 また、ローコスト版のCrusoeも今年の末までに投入される。OEMメーカー筋の情報によれば、CrusoeのパッケージをOLGAに変更し、より小さなパッケージに変更するという。これにより、Crusoeのローコスト化を進め、より小さな新しいフォームファクタのPCや組込型に対する普及を目指していくというプランであるようだ。

 なお、Efficeonの詳細は、今後順次明らかになっていくほか、10月にサンノゼで行なわれるMicroprocessor Forumにおいて明らかにされることになっている。

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【8月12日】Transmeta、Astroの正式名称を「Efficeon」に決定
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0812/transmeta.htm

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(2003年8月12日)

[Reported by 笠原一輝]


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