米ボストンで、6月26日、27日の2日間にわたり802.11 Planet Conference & Expoが開催された。このイベントには、Atheros Communications、Intersil、Broadcomといった無線LANチップのベンダも出展しており、最新チップや新技術などの展示を行なった。本レポートでは、今年後半に登場しそうな無線LANのトレンドを中心にお伝えしていく。 ●MicrosoftはWindowsのWiーFiサポート計画を明らかに
初日に行なわれた基調講演には、MicrosoftのWindowsネットワーキング&コミュニケーションズ担当副社長のジャワード・カーキ氏が登場し、現在のワイヤレスネットワーク環境などが置かれている状況についての説明を行なった。 その中でカーキ氏はWindowsにおけるワイヤレス機能の今後について説明した。それによれば、現在のWindows XPでは、無線LANのサポートが組み込まれ、自動でアクセスポイントを探す機能などが実装されているほか、追加モジュールとしてWPA(Wi-Fi Protected Access)の機能を提供しているが、次期バージョン以降のWindowsにおいては、今後策定されるそれ以外のIEEE 802.11の規格、例えば、TGeで検討されているQoSに関するIEEE 802.11e、あるいはWPAを上回るセキュリティを実現するTGiで規格策定が進められているIEEE 802.11iなどの規格を取り込んでいくという。 また、現在よりも強力な省電力機能などを取り込むことにより、電力の低減も目指していく。その他にも、公共の場におけるホットスポットでのセキュアなログインの機能や無線LANと携帯電話などによるWANのローミング機能なども合わせて実装していく方針を明らかにした。
さらに、遠い将来には自動構成が可能なメッシュネットワーク(クライアントがバケツリレー方式でアクセスポイントまで電波を中継していく仕組み)、各無線をシームレスにローミングしていく仕組み、さらにはレイテンシ、帯域幅、場所などによりアプリケーションごとに最適な設定を自動で行なう機能なども盛り込んでいきたいと語っている。 今回の表明は、2005年にリリースが予定されている次世代Windows“LongHorn”にこれらの機能が搭載されるということを意味しているわけではなく、あくまでこれらの機能をWindowsに統合していくという意思表明にすぎない。実際、どのバージョンのWindowsでサポートされるかという日程は明らかにされなかった。 LongHornにどの機能が搭載されるのかは、10月に開催されるPDC(Professional Developer Forum)で明らかにされるLongHornの詳細を待たなければいけないが、Microsoftが無線LAN機能の取り込みに対して、かなり真剣に行なっているという姿勢の現れとして業界関係者は好意的に受け取っていたようだ。 ●2チップソリューションが続々と登場するデュアルバンド/トリプルモード無線LAN
今年の春~初夏にかけてリリースされたノートPCの一部には、デュアルバンド無線LANを搭載した製品も含まれている。例えば、ソニーのバイオノートTR、日本IBMのThinkPad T40/X31、NECのLaVie Mなどだ。 ただ、これらのモデルは、IEEE 802.11a(以下11a)とIEEE 802.11b(以下11b)の2つのモードに対応しており、6月の半ばに規格が正式に策定されたIEEE 802.11g(以下11g)には対応していない。つまり、言ってみればデュアルバンド/デュアルモードの製品だったわけだ。 ところが、この数カ月の間に、無線LANコントローラを提供するチップベンダは、新たに11a、11b、11gの3つのモードに対応したシリコンの提供を開始しており、今後はデュアルバンド/トリプルモードの製品が登場してくることになる。このデュアルバンド/トリプルモードの製品は、11a/b/gやA+Gなど様々な呼び方がされているが、今回の802.11 Planet Conference & Expoでは、多くの関係者が“デュアルバンド/トリプルモード”や単に“トリプルモード”と呼んでおり、どうもトリプルモードという呼び方が定着しそうだ。 今回、802.11 Planet Conference & Expoに出展していたシリコンベンダは、Atheros Communications、Broadcom、Intersilの3社。いずれのベンダも、デュアルバンド/トリプルモードを2チップで実現するコントローラをすでにリリースしている。 これまでデュアルバンドを実現するには、2.4GHz(11bと11gの周波数)、5GHz(11aの周波数)をサポートする別々のRF(無線チップ)が必要となっていたが、各社の2チップソリューションでは、1つのチップで2つの周波数を実現することが可能になっており、11bや11aのシングルバンドに近いコストモデルでデュアルバンドを実現することが可能になっている。これにより、現在大きく開いているデュアルバンドとシングルバンド製品の価格差が今後は縮まっていく可能性が高く、デュアルバンド/トリプルモードの普及が加速すると見られている。 ●Atherosはデュアルバンドアクセスポイントを低価格にするソリューションを提供
Atheros Comunicationsはデュアルバンド/トリプルモードのアクセスポイントを安価に構築するチップを提供している。 米国で発売されているデュアルバンド(デュアルモード)のアクセスポイントは、市場価格で299ドル(日本円で3万円台半ば)と、シングルバンドの11b/gデュアルモードアクセスポイントの119ドル(日本円で1万円台半ば)に比べて高価になってしまっていた。 この理由は2つ考えられる。1つはアクセスポイントを提供する機器ベンダがデュアルバンドをハイエンドとして位置づけているため、価格戦略としてやや高めに設定しているのだ。 もう1つの理由は、そもそもBOM(Bill Of Material)と呼ばれる製造原価がシングルバンドに比べて明らかに高いのだ。なぜ高いかと言えば、デュアルバンドのアクセスポイントはベースバンドとRF(無線チップ)を、2.4GHz用と5GHz用の2つを搭載する必要があるからだ。実際、米国で発売されているLinksysのデュアルバンド/デュアルモードのアクセスポイントには、内部に2つのmini PCIモジュールを搭載しており、それぞれ11a(5GHz)と11b(2.4GHz)の2つの帯域が実現されている(図の(2)に該当)。
これに対して、同じ2.4GHz帯を利用する11gアクセスポイントの場合、ベースバンドとRFは11bと共通でよく、11gのアクセスポイントやクライアント側は11gと同じチップ数でいける(図の(1)に該当)。つまり、11gのチップの価格が11bのチップと同じになれば、製造原価は11bと変わらないのだ。最終的には11gのチップも11bと同じレベルまで落ちていくと予想されるため、まもなく価格は同じレベルに収斂していくだろう。 2つのベースバンドとRFを搭載しない場合、たとえば2.4GHzと5GHz共通のベースバンドとRFから構成される2チップの無線LANモジュールから構成されている場合、基本的に同時に2.4GHzと5GHzを利用することはできない。従って、こうした2チップ構成の無線LANモジュールを利用した場合には、2.4GHzと5GHzのどちらかを排他的に選択して利用することになる(図の(3)に該当)。
基本的に1つの接続だけしかないクライアントでは問題ないが、2.4GHzと5GHzの複数のクライアントが混在している環境では利用できない。 先日、NECアクセステクニカから安価なデュアルバンド/トリプルモードのアクセスポイントが発表されたが、2.4GHzと5GHzを排他的に利用できるという注意書きがされている。だとすれば、おそらくベースバンドとRFは1つしか搭載していないのだろう(だからこそ安価なのだが)。 そこで、AtherosのAR5002AP-2Xはユニークなアーキテクチャを採用している(図の(4)に該当する)。AR5002AP-2Xは、コントローラとなるAR5312に2つのMAC/ベースバンドを内蔵している。そこに、Atherosが提供する2.4GHzと5GHzのRFチップを外付けで搭載すれば、わずか3チップでアクセスポイントが構築できることになる。しかも、コントローラとなるAR5312にはMIPSアーキテクチャのMPUを内蔵しており、従来は別チップとして搭載していたルーター機能のためのネットワークプロセッサも必要なくなる。このため、トータルのコストとしては安価になるはずだとAtherosの担当者は説明する。 すでに機器ベンダ各社のデュアルバンド/トリプルモードは、基本的にはデュアルバンド/デュアルモードのアクセスポイントの11bモジュールを11gへと置き換えることで製品化を進めており、第1世代のデュアルバンド/トリプルモードに採用される可能性は低そうだが、今年末から来年にかけて登場する第2世代以降のトリプルモードのアクセスポイントではこうした低コストが実現可能なチップが採用され、より安価になっていく可能性が高そうだ。 ●Wi-FiのWPA認証を受けた機器は8月頃から投入される
802.11 Planet Conference & Expoのもう1つの話題は、いよいよ実用段階に入ってきたWPAについてだった。WPAは、現在の無線LANのセキュリティ機能に利用されているESSIDとWEPに変わるもので、WEPなどに比べて強力なセキュリティ機能を備えている。 WPAは、現在IEEE 802.11委員会で策定が進んでいるさらに強固な無線LANセキュリティの標準規格であるIEEE 802.11iのサブセットで、昨年の11月にWi-Fiから発表されたものだ。サブセットといっても、ホームユーザーには十分なセキュリティ機能を備えている。 その目玉となるのがTKIP(Temporal Key Integrity Protocol)によるクライアント認証だ。従来のWEPでは比較的簡単にWEPキーを解読することが可能で、盗み取られる危険性を抱えていた。 そこで、WPAではTKIPと呼ばれる一時的な暗号鍵を利用することで、そうした危険性を回避しており、これまでに比べて高いセキュリティが実現される。WPAの機能を利用するには、アクセスポイント、クライアントの両方の側でWPAに対応している必要がある。 すでにクライアント側に関してはMicrosoftがWPA用のアップデートを発表しており、アクセスポイント側もいくつかの機器ベンダが対応を明らかにしている。今後続々と対応製品が登場することになるだろう。 なお、WPAに対応した機器のWi-Fi認証だが、Agreeのシステムアーキテクト、ドルシー・スタンレー氏によれば、「検証はすでに開始されており、認証された製品が発表されるのは8月以降になる」とのことだ。 また、IEEE 802.11iの策定作業だが、現時点の予定では「2004年の5月に正式の規格として承認されるだろう」(スタンレー氏)ということで、当初2004年の早い時期と言われていた予定から、やや遅れて2004年の半ば頃になるようだ。このため、IEEE 802.11iをベースにしたWPA v2もその時期に遅れるということになるだろう。
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(2003年7月3日) [Reported by 笠原一輝]
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