●ATIがMicrosoftと任天堂の両方と提携 次世代Xboxは、ATI Technologiesのチップを搭載することになった。これで、ATIはMicrosoftと任天堂(今年3月に開発提携を発表)、2社の次世代製品に技術を供給することになる。そして、NVIDIAはゲーム機市場からは姿を消すことになる。 これは何を意味するのか。次世代Xboxの載せるチップのアーキテクチャはどうなるのか。ATIはこれでまた一段飛躍するのだろうか。そして、ATIの技術を使った次世代Xboxはいつ登場するのだろうか。そもそも、Microsoftはどこまで本気でやる気なのだろうか。 Microsoftの本気度にはそれほど疑問はない。というのは、Microsoftはこの程度のカネの失い方には、慣れているからだ。Microsoftはこれまでも膨大なカネを非PC分野に投じて、そしてそのほとんどは無駄に終わってきた。例えば、インタラクティブTVやデジタルSTBでは、何億ドル、何十億ドルを各所にばらまき、そのほとんどは空振りしている。そうしたMicrosoftの履歴からすると、Xboxはまだ端末が数百万台も家庭に入っただけ成功した部類に入る。Microsoftの体力としても、まだ持ちこたえられる。 時期についても、ある程度の目安はつけられる。Xboxの時は、2000年の春先にNVIDIAと契約して、2001年の11月には米国で実際に製品を発売した。その間は、わずか20カ月あまり。今回も同じ期間でリリースできるとしたら、次期Xboxは2005年の中盤に登場することになる。 もっとも、最初のXboxの時はPlayStation 2が大きく先行していたため、Microsoftも突貫工事だった。今回は、そこまで切羽詰まっているわけではない。実際、20カ月の開発/試作/検証期間というのは、PC業界ならではのメチャクチャなスピードだ。 さらに、Microsoft側のOSとDirectXのスケジュールを重ねてみるともっと状況が見えてくる。MicrosoftはWindows XP後継の「Longhorn(ロングホーン)」をおそらく2005年の前半に投入すると見られる。そのため、次世代XboxがLonghornカーネルベースになるなら、常識的に考えると2005年中盤以降になる。また、DirectXは現在DirectX 9とその拡張であるShader 3.0が決まっていて、DirectX 10の仕様が確定するのはこの先となる。仕様確定から、実際に実装したチップの出荷まで、約1年は最低でも必要だ。 つまり、次世代OSカーネルとDirectXライブラリをベースにしようと思ったら、必然的に2005年中盤から後ろということになる。もちろん、MicrosoftがWindows XPカーネル+DirectX 9/Shader 3.0で発車するつもりなら、その限りではない。ちなみに、今のXboxは、Windows 2000カーネル+DirectX 8ライブラリだ。 ●ATIの2大開発拠点のどちらで開発するのか では、ATIが開発する次期Xboxチップのアーキテクチャはどうなるのだろう。それには、まず、ATIのどのチームが開発を担当するかを推測する必要がある。 ATIはゲーム機チップに関しては実績がある。正確には、ゲーム機チップに実績のある人材を多く抱えている。というのは、シリコンバレーのグラフィックスチップベンチャー「ArtX」を買収したからだ。 任天堂のゲームキューブのグラフィックスチップ「Flipper(フリッパー)」の開発は、もともとこのArtXが行なっていた。そのArtXをATIが買収した結果、FlipperもATI開発ということになったわけだ。ArtXは、SGIの中でNINTENDO64のチップセット「Reality Co-Processor」の開発を担当していたチームが中心となって設立した会社。そして、ArtXの人材は、今もほとんどがATIグループの中に残っている。例えば、現在ATIの社長兼COOを務めるDavid E. Orton氏は、元ArtXの社長兼CEOだった(それ以前はSGIの上級副社長)。 ArtXの買収によってATIの開発リソースは著しく強化され、現在、2つのGPU開発拠点と多数のGPU開発チームを持っている。開発拠点は、カリフォルニア州シリコンバレーのサンタクララと、東海岸マサチューセッツ州のモールバラ(ボストン郊外)。 このうちサンタクララが、Flipperや、ATIのR3xx系(RADEON 9700/9800など)GPU、そして今年末頃に登場するR4xx系GPUを担当しているという。自然な流れで考えれば、もともと任天堂と組んでいたこの旧ArtXチームが任天堂のチップを担当するだろう。ATI Research Sillicon Valley(ATIの子会社)のGreg Buchner(グレッグ・バックナー)氏(Vice President, Engineering)もFlipperのインタビューで次のように語っていた。「我々のチームは任天堂と8年以上の長い関係を持っている。任天堂とは、企業同士の関係だけでなく、人間同士で親密な関係があり、互いを信頼できるから、うまく行ったのだと思う」 そう考えると、次期Xboxのチップを担当するのは、ボストンの方のチームと考えるのが自然だ。任天堂系チームとは、地理的にも完全に隔絶されるため、顧客(Microsoftと任天堂)も安心できる。そして、ATIのPC向けGPUで、ボストンチームが担当しているのは次々世代の「R500」だという。もしそうだとすると、R500と次期Xboxのチップに、技術的関連性は出てくるのだろうか。 ●PC系GPUのアーキテクチャを今回も継承する?
それに対して、Xboxが搭載するXGPUは、PC系GPUの流れを受け継いでいる。GeForce3(NV20)のアーキテクチャを拡張して、Intel CPUのFSB機能とサウス側のMCPXとの接続インターフェイス(HyperTransport)を加えただけだ。言ってみれば、GeForce3改良版コアのnForceのようなシロモノだ。 このアーキテクチャの違いは、任天堂とMicrosoftのゲーム機に対する考え方の違いを反映している。任天堂はあくまでも、高機能おもちゃの延長としてゲーム機を考えているのに対して、MicrosoftはPCアーキテクチャの延長にゲーム機を捉えているように見える。PC業界のダイナミズムを使うことで、開発期間を短縮しようというわけだ。そもそも、Xboxは、DirectXありきなので、GPUの基本アーキテクチャも当然PC系に沿ったものになる。 そう考えると、次期XboxもおそらくPC系アーキテクチャを継承する可能性が高い。もしそうだとすると、ATIも対応するのは比較的容易だろう。というのは、PC向けに開発しているGPUコアをモディファイして、チップセット機能を追加すれば開発できるからだ。そして、今の想像通りボストンチームが開発を担当するとしたら、ATIの次期XboxチップはR500とある程度同種のアーキテクチャになってもおかしくはない。 R500は2004年の後半に登場する予定となっている。とすると、時期的には次期Xboxチップにかなり近い。開発チームはR500をベースに、Xboxのチップを作ることができそうだ。 R500のアーキテクチャは、まだ全くわからない。だが、もちろんDirectXの進歩に歩調を合わせたものになるのは確かだ。もしかすると、R500でDirectX 10世代に差し掛かるかもしれない。
R500の時点では、ファウンドリのプロセス技術も90nmが視野に入ってくる。2005年中盤以降と見られる次期Xboxチップも同様だ。とすると、次期Xboxチップは、そこそこのダイサイズ(半導体本体の面積)に、2億トランジスタを詰め込むことができるようになる。とすると、32bit幅のPixel Shader 8基やアダプティブテッセレータなども、技術的には搭載できるはずだ。 ●まだ見えない技術ディテール 次期Xboxでは、メモリはどうなるのか。ATIは次世代グラフィックスメモリ「GDDR3(Graphics DDR3)」の推進派だが、ゲーム機のように大量に出荷されるものだとGDDR3はさすがに使いにくい。供給力に疑問が残るからだ。おそらく、DDR2メモリをポイントツーポイントでマザーボード直付けにすることで、高速駆動させるのではないだろうか。 だとすると、容量と速度はどうなるのか。次期Xboxが登場する時点で、廉価なDRAMの容量は512Mbitと推測される。x32品を使うとして、128bitメモリインターフェイスなら4個、256bitなら8個となる。ポイントツーポイント化でDRAMの転送レートが800MHzまで持って行けるなら、メモリ帯域は12.8(128bit時)~25.6GB/sec(256bit時)となる。容量は4個なら256MB、8個なら512MBとなる。ただし、DRAMチップ8個は、コストを考えるとかなりきついはずだ。 次期Xboxのアーキテクチャで、もうひとつ重要なポイントは、コンテンツ保護「Digital Rights Management (DRM)」だ。Microsoftは、PCにもDRMのためにハードウェアセキュリティ機能を入れようとしており、LonghornにそのためのNext-Generation Secure Computing Base (NGSCB:コードネームPalladium)を実装する。もし、次期XboxがこのNGSCBを使うのなら、OSも当然Longhornとなる。 もっとも、NGSCBは、従来のPCアプリケーションも走らせながら、ハードウェアベースのセキュリティをPCの上で実現するためのもの。PCよりクローズドなアーキテクチャのXboxの場合には、NGSCBがなくても、ある程度堅牢なハードウェアベースのセキュリティを実現できる。 ●ATIはMicrosoftに技術だけを提供か?
NVIDIAはXboxチップセット(XGPUとMCPX)を製造してMicrosoftに買ってもらっている。それに対して、ATIの場合は任天堂からロイヤリティ料を受け取っている。つまり、ATIはチップを任天堂に売っているわけではない。この違いは、ATIの会計報告を見てみるとよくわかる。 例えば、2002年のアニュアルレポートを見ると、任天堂からのものを含むライセンス収入はATI全体の5%以下に過ぎない。つまり、チップを売っているわけではないので、売り上げに占める割合はそれほどではない。しかし、これはライセンス収入であり、製造コストはかからないため、ATIにとっては純粋な利益となる。
まだわからないが、ATIとMicrosoftの今回の契約も、任天堂とのものと同じタイプである可能性が高い。つまり、ATIが開発したチップをMicrosoftがファウンドリに製造させると推測される。とすると、ATIにとっては売り上げは伸びないが、利益には直結することになる。また、NVIDIAがMicrosoftと、Xboxチップセットの価格を巡って争ったような問題は発生しないことになる。 ●ATIにとっての利点は製品の多様性を広げられること では、今回の契約はATIに何をもたらすのだろうか。 ATIにとっては明確なベネフィットがある。それは、リスクの分散と分野の拡大だ。もはや、PCグラフィックスは成長産業とは言えない。高度なDirectX 9世代の3Dグラフィックス機能を要求するLonghornという追い風はあるものの、PC市場自体が頭打ちの感が強い。そのため、ATIのみならず、PC系の企業はみな非PC市場を開拓しようとやっきになっている。つまり、脱PCで他分野に市場を広げることが成長への道となり始めたわけだ。 じつは、この脱PCでは、ATIは成功しつつある。例えば、ATIのSTB(セットトップボックス)向け「Xillion」チップは、次々に顧客を掴み、エンドユーザーには見えないながらもATIの強力な製品へと育ちつつある。一方、携帯機器向けの「Imageon」チップも、携帯機器の高機能グラフィックス化のおかげで、顧客をつかみつつあるという。 これらの製品は、ATIの会計を見ると、売り上げでそれほど大きな割合を占めているわけではない。しかし、製品として評価が高く、将来性は大きい。加えてATIは、ゲーム機市場でも成功しつつある。任天堂のゲームキューブと将来機、そして、今回の次世代Xboxと。 つまり、ATIは生き残りに必要とされる多様化に成功しつつあるわけだ。これは、まだPCグラフィックスに縛り付けられているイメージの強いNVIDIAとの大きな違いになりつつある。NVIDIAも、似たようなプロジェクトを動かしてはいるものの、明らかに軸足はPCにあり、多様化では出遅れている。 このままだと、ATIが多分野で実績を積み上げて浸透して行く間、ライバルNVIDIAは足踏みをしているだけ、という状況になりかねない。NVIDIAはどう対抗するのだろう。
□関連記事 (2003年8月18日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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