後藤弘茂のWeekly海外ニュース

ゲームキューブ登場。PS2/Xboxと
アーキテクチャを比較

●アプローチが大きく異なる3つのゲーム機

 見事なまでにきれいなアーキテクチャ。それが任天堂の新ゲーム機「ゲームキューブ」だ。

 ゲームキューブのアーキテクチャには、最小のシリコンコストで、最大の性能を得ようという強烈な意欲が見える。その結果が、「任天堂ゲームキューブレポート」で見られるような、シンプル極まりないハードウェアになったわけだ。では、ゲームキューブは何がほかの新世代ゲーム機と違うのか。アーキテクチャの側面から見てみよう。

 ゲームキューブのアーキテクチャは、半導体関係のカンファレンスで何回かプレゼンテーションされたプレイステーション 2と比べて、これまで不明な点が多かった。しかし、CPU「Gekko」を開発したIBM Microelectronicsによる8月のHotchipsカンファレンスでのプレゼンテーションや、グラフィックスチップ「Flipper」を開発したATI Technologiesへのインタビューなどで、その概要が明らかになった。

 まず、下の「ゲームキューブとXbox、プレイステーション 2比較図」が、ゲームキューブ、Xbox、プレイステーション 2の3つのアーキテクチャを比較した図だ。3アーキテクチャで、ほぼ同じ役割をするユニットを同じカラーにしてある。ここで目立つのは、ゲームキューブがもっとも1チップに機能を集約させたアーキテクチャになっていることだ。CPUとメインメモリ以外の要素は、ほぼFlipperに集積されている。『システムLSI指向』と言い換えてもいい。

 3つの中では、やはりXboxがいちばんPCに近くて、PCを知っている人間にはわかりやすい。グラフィックス統合チップセットアーキテクチャを、そのまま持ち込んだカタチだ。『PC指向』と言い換えてもいい。それに対して、プレイステーション 2のアーキテクチャはラディカルだ。コアになるEmotion EngineがフルプログラマブルなCPU+メディアエンジンで、このチップを中心に組み立てられている。『メディアプロセッサ指向』と言い換えてもいい。

 下の「ゲームキューブとXbox、プレイステーション 2の構成の違い」を見ても、こうした方向性の違いがわかる。この図では、おおまかな要素がどのようにチップに集積されているかを示している。見ての通り、ほとんどの要素をワンチップにまとめたゲームキューブの集約性は群を抜いている。同じゲーム機というアプリケーションでありながら、よくもここまでというくらい、アプローチが違う。

●わかれるアーキテクチャ

 半導体デバイスのアーキテクチャも次のように見事にわかれた。

ゲームキューブXboxプレイステーション 2
アーキテクチャ
CPUPowerPC拡張Pentium IIIMIPS拡張
メインメモリ1T-SRAMDDRメモリRDRAM
ビデオメモリエンベデッドSMAエンベデッド
ジオメトリフィックスフィックス+プログラマブルフルプログラマブル

 まず、CPUがRISCとx86にわかれたのが目立つ。PCゲームの世界を引き継ぐXboxと、ゲームコンソールの世界を引き継ぐゲームキューブとプレイステーション 2の違いを象徴しているようだ。

 しかし、もっと面白いのは、メモリも3アーキテクチャ(RDRAM/DDRメモリ/1T-SRAM)にきれいにわかれたことだ。まるで、RDRAM対DDRメモリ戦争に新興メモリアーキテクチャがチャレンジする、今のメモリ市場の状況を反映しているようだ。また、メモリの構成はSMA(メインメモリとビデオメモリが共有する)とエンベデッドビデオメモリでこれは2分された。おそらく、この部分が各プラットフォームの技術上の最大のポイントになるだろう。

 ジオメトリエンジンに関しては、プレイステーション 2がフルプログラマブルなVLIWベクターユニットを使う構造なのに対して、Xboxはフィックスファンクションのエンジンにプログラマブルなフレバー(Programable Shader)を付加したものとなっている。ゲームキューブがもっともフィックスファンクション的だと思われる。

 また、目立たないが、グラフィックスなど各種ライブラリソフトウェアの提供も、ゲーム機では重要だ。タイトルの開発性を大きく左右するからだ。これについては、プレイステーション 2は最初のラウンチの段階ではライブラリを用意しなかったのに対して、任天堂とMicrosoftはラウンチ前にライブラリを提供している。面白いのは、5年前の戦いでは、PlayStationがライブラリを用意し、それをきちんと発展させたために、ニンテンドー64に勝利した、つまり逆の構図だったことだ。

 ニンテンドー64のチップは'97年のHotchipsで技術が公開されているが、それを見るとフルプログラマブルなメディアプロセッサ指向のチップであることがわかる。フィロソフィとしては、プレイステーション 2に近い。それが、ライブラリでほとんどラップされておらずツールも自社が使えるものしかない状態だった。そのため、ソフト開発は非常に難しかったという。プレイステーション 2の最初の段階と同じだったわけだ。

 ところが、今回は、任天堂はリッチなライブラリも優秀なツールも用意し、さらにハードウェア側がさまざまなことを面倒見るアーキテクチャにして、ソフト開発を容易にする方向に転じている。この任天堂のアプローチの効果は、今後、サードパーティのタイトルに表れてくるだろう。

●チップの設計&製造も見事にわかれる。

 また、設計&製造メーカーや製造委託の方式も見事にわかれた。

ゲームキューブXboxプレイステーション 2
メーカー
CPU設計IBMIntel東芝/SCE
CPU製造IBMIntel東芝/ソニー
グラフィックス設計ATI TechnologiesNVIDIAソニー
グラフィックス製造NECTSMCソニー
製造プロセス
CPU0.18μm0.18μm?0.25→0.18μm
グラフィックス0.18μm0.15μm0.25→0.18μm

 グラフィックスチップの設計&製造に関しては、PCグラフィックスの雄ATI TechnologiesとNVIDIAがここでも対決する。グラフィックスは3社ともフルスクラッチだが、CPUに関しては、できあいを使うXbox、スタンダード品をゲーム機向けに改良してもらうゲームキューブ、ほとんどフルスクラッチに近い設計改良をするプレイステーション 2の3つにわかれた。これは、コストとゲーム機に対する最適化のトレードオフとなる。

 メインとなるグラフィックスチップの製造では、2つの構図がある。すなわち、日本(ゲームキューブ/プレイステーション 2)対台湾(Xbox)と、ファウンダリ(ゲームキューブ/Xbox)対自社(または合弁会社)製造(プレイステーション 2)だ。これもまた、半導体業界の一種の対立構図--ファウンダリか自社製造か、日本か台湾かといったあたりを反映しているようで面白い。次回からは、アーキテクチャの細部を追っていきたい。


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(2001年9月20日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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