今回は、IntelでPCA(Personal Internet Client Archtecture。XScale関連製品の総称)を担当するアンソニー・シーカ副社長(ワイヤレス・コミュニケーションズ&コンピューティング事業本部 副社長 兼 マーケティング・ディレクタ)のインタビューをお届けする。同氏は、PCAのマーケティングを担当しており、2000年から現職にある。 インタビューは、7月16日に行なわれたものである。 [Q] 現在のビジネス状況は? [A] 非常にうまくいっている。すでにXScaleの出荷量は、StrongARMの出荷量を超えている。Pocket PCやPalmに採用されているし、すでにXScaleを採用した携帯電話も出荷されている。 [Q] XScaleはマイクロアーキテクチャの名称と理解しているが、Pentiumのように製品に名前はつけないのか? [A] XScaleは、さまざまな製品に使うマイクロアーキテクチャの名称である。ネットワークプロセッサやPDA、携帯電話などに広く利用されるもので、コアとその周辺のシステムを統合して提供している。特に名前を付けるつもりはなく、現在では、PXA250のようなパーツの番号を使っている。 [Q] 純粋な携帯電話についてはどうか?
[A] スマートフォンとPDAの融合が進んでいる。このうち、我々が「フィーチャーフォン」と呼んでいるメインストリームとなる機種については、PXA800F(コード名:Manitoba)が対応する。これらは、OSを搭載してはいないが、WebブラウズやJavaの実行機能を持つものだ。これらは150~250ドル程度で、カラー液晶やカメラなどが搭載されるだろう。 将来的には、このフィーチャーフォンは全体の60%を占めるようになると考えている。また、いわゆるスマートフォンは10%程度で、残りの30%が低価格の通話のみの機能の携帯電話になるだろう。 この30%の部分では、Intelのチップが活躍するとは思ってはいないが、残りの70%の部分では、かなり使われることになるのではないかと予想している。 Intelは、XScaleプロセッサとGSM方式の携帯電話の主要回路(DSPを使ったベースバンドプロセッサ)を統合し、GPRS(General Packet Radio Service。GSM方式におけるパケット通信機能)にも対応したPXA800Fという製品を発表している。このPXA800Fはコード名で「Manitoba」と呼ばれていたもの。この製品は、どちらかというと低価格の機種を想定している。携帯電話の主要回路を統合しているので、フットプリントが小さく、別々の部品を組み合わせるよりもコスト的に有利という特徴があるからだ。 □PXA800F [Q] Manitobaの採用を決めたメーカーはあるのか? [A] 韓国のマクソンが採用した。また、中国のメーカーも2社採用している。多くのOEMがこれに興味を持っている。年内ぐらいには、製品が登場することになるのではないか。 [Q] 3Gシステムについての対応はどうするのか。日本ではすでにW-CDMAを使ったFOMAが運用されているが。 [A] 我々はすでにW-CDMAチップセットを試作し、ビデオでそのテストの模様を公開している。次世代のManitobaでは、W-CDMAに対応する。そうすれば、日本の3Gシステム用の携帯電話に利用できるようになるだろう。 [Q] 米国ではいつ3Gへ移行するのか? [A] わからない。3Gの前に米国の事業者は、パケットベースシステムへの移行を行なう必要がある。主な事業者は、GPRSに移行している最中である。またAT&Tワイヤレスが、限定された地域でW-CDMAサービスを行なうという話もあるので、動き始めてはいると思う。多くの加入者が使うにはまだ時間はかかるだろう。たぶん、日本や中国などのアジア圏で先に使われることになると思う。 ただ、一部の報道では、普及時期について、私が「この10年間、2006年以降」と発言したことになっているようだ(笑)。 [Q] 米国のメディアなどでは、3GとWiFiによるホットスポットが拮抗するという意見もあるようだが。 [A] いろいろなことが言われていて、よくわからない。ただ、3Gのシステムは米国に確実に登場することになる。3Gに比較してWiFiはもう少し努力することがあると思う。たとえば、利用バンド幅や電力消費を見てみれば、3Gのような携帯電話システムがまだ有利だろう。もちろん、WiFiはPCでは広く使われることになるだろうが。将来、いろいろな技術が統合されてくればわからないが、現時点では、携帯電話のようにどこでも使える技術としては、3Gのほうが有利だと思う。 [Q] PDAのことを考慮して、XScale製品にWiFi機能を入れる可能性は? [A] 現時点では、わからない。Manitobaは、次にW-CDMAに対応する予定だが、WiFiに対応する予定はない。PDAでは、OEMがセットとしてWiFiチップを組み合わせるということになるだろう。 [Q] PXA255のコアのみを提供する予定はないのか? [A] 我々の統合化戦略は、プロダクトやプラットフォーム・スペシフィックなものだ。XScaleの統合化では、スタックパッケージテクノロジを使ってSystem-On-A-Chipであるプロセッサとフラッシュメモリなどを統合している。 PXA255を分割してコアのみを提供することは考えていない。コア単独の展開は有用ではない。スタックパッケージテクノロジでは、他のデバイスを統合したカスタム製品を作る可能性もあるが、他のものを入れたいという要望もないし依頼も来たことがない。我々としては標準化されたビルディングブロックを提供するだけだ。 ARMプロセッサの開発元であるARMは、ARMの設計をライセンスすることでビジネスを行ない、自身ではプロセッサを製造しない。つまりARMは、ARMのアーキテクチャを開発し、それを実現する回路を設計して、これを他社に売っているわけである。 このため、ARMプロセッサを使って、各メーカーが必要なデバイスを集積(こちらもARM用にサードパーティが設計をライセンスしている)し、カスタムのデバイスを作ることができる。あるいは、ある程度汎用性を見込んだデバイスを作って、プロセッサやコントローラーとして販売できる。 XScaleは、後者の例で、IntelがStrongARMをベースにして開発したアーキテクチャだが、Intel自身がデバイスを作って販売しているわけである。前者の例としては、ソニーがPEG-UX50で採用したHandheld Engineがある。これはARM926をコアとし、DSPやメモリ、LCDコントローラー、2Dグラフィックスエンジンなどを集積したもの。 □Handheld Engine [Q] 米国では、PDAが低価格しているが、これに対する対策は? [A] PDAのプライスポイントは、Dellによって下がった。しかし、Dellはすべての製品にXScaleを使っている。HPの場合、低価格のPalm機との対抗上、ARMを採用したのかもしれない。その真意は彼らに聞いて欲しい。しかし、ほんとの意味でのローエンド以外は、XScaleで十分カバーできると思っている。
HPが米国で発表したiPaq PocketPC H1940/1945は、Samsung S3C2410というARM9プロセッサ(クロック周波数は266MHz)が採用されている。今年初めに出荷された同じ筐体のH1910では、200MHzのPXA250が採用されていた。 S3C2410は、ARM920Tに相当するコアと、PDA用などにLCDコントローラーやSDカードインターフェースなどを集積したデバイス。XScaleは、ARM Version 5Tと呼ばれるアーキテクチャを採用しており、ARM920Tは、ARM Version 4Tに相当するアーキテクチャで、どちらかというとStrogARMに近い。 □Samsung S3C2410 □H1940 □H1945 [Q] マルチメディア用にSIMD命令などを導入する予定は? [A] 昨年秋のIDFでワイヤレスMMXを発表した。今後のプロセッサには、命令として統合されてくことになるだろう。しかし、これを使うのはISVであり、プログラムに組み込まないとその恩恵を受けることができない。 [Q] Sun MicrosystemsとJavaの開発で提携したというニュースがあったが、具体的には何をするのか? [A] 携帯電話とPDAのためにSun MicrosystemsとIntelは、XScale用のJavaを最適化する。OEMメーカーは、最適化されたJ2MEのライセンスをSun Microsystemsから受けることになる。 [Q] ARMなどが持つJavaアクセラレーターについてはどう考えているのか? [A] XScaleのネイティブパフォーマンスだけで十分で、Javaアクセラレーターは必要ない。 ARMは、Jazelleと呼ばれるJavaアクセラレーター技術を持っている。これは、Javaのバイトコードを直接実行するコプロセッサで、いわばJava VMをハードウェアで実現するもの。これにより、Java Programを高速に実行でき、また、Byte Code1つあたりに必要な電力を削減できる(バイトコードの1命令は、通常のプロセッサでは数命令以上に相当するため)。
□Jazelle (2003年7月23日)
[Text by 塩田紳二]
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