パラレルSCSI解説の最終回となる今回は、SCSIのシリアル化が一気に推し進められるに至った業界の背景と、Ultra320 SCSIの次世代を担うSerial Attached SCSIの技術概要を取り上げていく。 ●SCSIもついにシリアルの世界へ これまでの連載でも説明したように、Ultra640 SCSIのロードマップが棄却されたことで、Ultra1280 SCSI以降の計画はすべて水の泡となってしまった。T10技術委員会で進められてきたパラレルSCSIの標準化作業も、Ultra640 SCSIをロードマップから外した今年初めの段階ですべて終了している。パラレルSCSIのロードマップ作りで中心的な役割を果たしたTexas InstrumentsのPaul Aloisi氏は、Ultra640 SCSI以降のロードマップが棄却された理由を次のように述べている。 「次世代のSCSIでは、従来のようなバスアーキテクチャではなく、エキスパンダを併用したポイントツーポイント接続のアーキテクチャが採用されることに決まった。このため、Ultra640 SCSI以降のパラレルSCSIがすべて不要になってしまった。このような流れに至った理由として、SCSIの高速化とタイミングを合わせるかのように、HyperTransportやPCI Expressといったポイントツーポイント接続の高速インタフェース技術が登場したことが挙げられる。ポイントツーポイント接続ならば、リンクアグリゲーションによって帯域幅を稼げるうえ、エキスパンダデバイスを利用すれば接続台数も簡単に増やせる。しかも、接続トポロジの柔軟性も高い。これからは、SCSIもシリアルの時代だ」。 シリアルSCSIというと、何かとても新しいもののように聞こえるが、実はすでに広く普及しているFibre ChannelやIEEE 1394もシリアルSCSIの一種だ。SCSI-2までの規格は、1つの文書にすべての仕様が記述されていたが、SCSI-3からは物理仕様やトランスポート仕様、コマンド仕様などに細分化され、それぞれに対して標準化を行なうスタンスに切り替わった。ここで、物理的なインターコネクトとして、パラレルバスの代わりにFibre Channel、IEEE 1394、Serial Attached SCSI(以下、SAS)などのシリアルインタフェースを使用するとシリアルSCSIになる。
●一時期、パラレルSCSIを置き換えると噂されたIEEE 1394 余談だが、本連載の第1回「サーバーからクライアントまですべてをノートPCでまかなってみる」や第3回「Disk to Disk Backupのススメ」で、筆者がストレージ機器の外部接続インタフェースとしてIEEE 1394にこだわっていると述べたが、これはIEEE 1394がSCSIの思想を少なからず受け継いだものだからにほかならない。残念ながら筆者がパラレルSCSIを使用することはもうないが、気分だけはいつまでも“SCSIユーザ”であり続けたいのだ。 IEEE 1394が、パラレルSCSIに取って代わるという話題は、Wide Ultra SCSI(Fast-20W)が全盛だった'95年あたりに多く取り上げられた。'95年といえば、IEEE 1394がIEEEによって初めて標準化された年でもある。IEEE 1394は、Wide Ultra SCSIに匹敵するデータ転送速度(最大400Mbps)を持ち、接続可能な機器は最高63台、デージーチェーンだけでなくツリー型の接続もサポートし、SCSI IDやターミネータなどの設定も不要だ。このように、IEEE 1394は当時のパラレルSCSIを置き換えうる“可能性を秘めた”インタフェースだった。 実際、IEEE 1394の原型となるFireWireを開発した、元Apple ComputerのMichael Teener氏は、日経エレクトロニクス誌の取材で「パラレルSCSIを葬り去るためにFireWireを開発した」と発言しており、パラレルSCSIからIEEE 1394への移行をかなり真剣に考えていたようだ。また、Quantum(現在Maxtor)と松下電器産業は、2000年4月にIEEE 1394をネイティブインタフェースとした試作HDDを発表している。これは、MPEG-2の記録と再生に特化したものなので、そのままコンピュータのストレージに使用できるわけではないが、パラレルSCSIやパラレルATAが全盛だった当時からストレージインタフェースのシリアル化を模索していたことは容易に想像できる。 ●最終的にSASはパラレルSCSIを置き換える存在となる しかし、そのような流れがあったにもかかわらず、結局IEEE 1394がパラレルSCSIを置き換えることはなかった。理由はいくつかあると思うが、最も基本的なものとして、パラレルSCSIには長い時間をかけて積み重ねてきた実績と過去の資産、そして高い相互運用性があったこと、それからパラレルSCSIのデータ転送速度が約2年ごとに倍速化されたために、パフォーマンス面でIEEE 1394を次第に引き離していったことなどが挙げられる。また、IntelやMicrosoftといった巨頭ベンダがIEEE 1394よりもUSBに注力していたために、IEEE 1394でストレージ機器を接続するハードウェアおよびソフトウェア環境がなかなか整わなかったことも大きな原因だ。 ちょっと話が逸れてしまったが、IEEE 1394そしてFibre Channelは、結果としてパラレルSCSIを置き換えることなく互いに共存する形で発展してきた。IEEE 1394はデスクトップPCやノートPCの外部接続インタフェースとして、パラレルSCSIはワークステーションやローエンドサーバのDAS向けインタフェース、もしくはディスクアレイ筐体内部のHDD接続用インタフェースとして、Fibre ChannelはSAN(Storage Area Network)の構築を必要とするミドルレンジ以上のストレージシステム用としてそれぞれ活躍している。 ところが、パラレルSCSIとSASの関係となると、IEEE1394やFibre Channelとはちょっと趣が異なりそうだ。というのも、SASはパラレルSCSIを受け継ぐ規格となるので、当面はパラレルSCSIと共存するとはいえ、最終的にはパラレルSCSIを置き換えなければならないからだ。パラレルSCSIからSASへの移行については後述するが、ある程度の長いスパンで考えれば、今回ばかりはSCSIもシリアルへの移行を迫られることになる。 ●シリアルATAの物理層を流用しているSAS 第1世代のSASは、物理層に第2世代のシリアルATAの技術を流用している。信号帯域幅は8B/10B符号化方式で3Gbpsなので、データ転送速度に換算すると約300MB/secとなる。Ultra320 SCSIではバスあたり320MB/secだったが、SASはポイントツーポイント接続なのでデバイスあたり約300MB/secだ。従って、SASの実質的なデータ転送速度は、Ultra320 SCSIよりもはるかに高速である。また、シリアルATAと違って全二重通信をサポートしているため、独立して設けられた送受信ラインの利点をフルに活かすことができる。さらに、マルチリンクもサポートしているので、リンク数を増やすことで簡単に高速化を図れる。SAS HDDでは、すでにデュアルポートのコネクタ仕様が規定されている。 SCSIホストコントローラとエンドデバイス(基本的にはHDD)は、エキスパンダデバイスを通じて接続される。小規模のシステムではSCSIホストコントローラを中心としたスター型のトポロジがとられるが、システムの規模が大きくなると複数のエキスパンダデバイスを介したツリー型のトポロジがとられるようになる。デバイス間の距離(IEEE 1394でいえばホップ長のようなもの)は6m以上で、SASシステムに接続可能なエンドデバイスの台数(1ドメインあたりの理論値)は16,000台を上回る。これは、パラレルSCSIの最大15台(SCSIホストアダプタを除く)と比較すると桁違いに多い。 SASのコネクタは、シリアルATAのコネクタと互換性を持っているため、SAS HDDの代わりにシリアルATA HDDを接続することもできる。シリアルATA HDDを接続した場合には、STP(SAS Tunneling Protocol)を通じてプロトコルの変換まで行ってしまう用意周到ぶりだ。つまり、絶対的なパフォーマンスを優先するシステムでは高性能、高信頼、デュアルポート対応のSAS HDDを搭載し、コストパフォーマンスを重視するシステムでは安価なシリアルATA HDDを搭載するといった使い分けが可能になる。今後、SCSIとATAインタフェースは相反するものではなく、お互い手を取り合う関係となるのだ。 ●SAS製品は2004年に登場する SAS v1.0の標準化作業は今年の5月に終了しており、すでにANSI INCITSにも提出を済ませている。その後、45日のPublic Reviewを経て、ANSIの正式な規格となる予定だ。また、筆者がAdaptec、Maxtor、Seagate Technologyに問い合わせたところでは、いずれのベンダからも2004年(Maxtorはもっと具体的に2004年下半期)にSAS製品を投入するという回答を得ている。 2003年6月18~20日に米ニューヨークで開催されたCeBIT Americaでは、Adaptec、Hewlette-Packard、Seagate Technologyが共同でSASシステムのデモを披露しているし、MaxtorとLSI Logicは、両社のHDDとSCSIコントローラを用いた拡張テストとプロトタイプを共同で開発すると発表している。このように、どのベンダも製品化に向けた作業は順調に進んでいるもようだ。 ここで、2004年になってSAS製品が無事登場し、パラレルSCSIからSASへの移行が発生したとすると、その過渡期には両者の共存や移行にまつわる数々の問題が発生する。こうした移行時の問題に関して、Maxtor, Server Products Group, Senior Director of MarketingのJoe DeRosa氏は、次のように説明する。 「SASは、パラレルSCSIやFibre Channelと同様に、従来ながらのSCSIコマンドセットをサポートしている。つまり、SASはパラレルSCSIやFibre Channelとソフトウェア的な互換性を持っている。このため、IT管理者は、パラレルSCSIやFibre Channelのストレージシステムが置かれた現行の環境において、SASのシステムを透過的に取り扱うことができる。もちろん、SASの物理的なインターコネクトはパラレルSCSIとまったく異なるため、パラレルSCSIのスロットにSAS HDDを装着したり、SASの筐体にパラレルSCSI HDDを装着したりはできない。従って、MaxtorはパラレルSCSIからSASへの移行を進める顧客をしっかりサポートできるように、今後もパラレルSCSI HDDの製造を続けるつもりだ」。 本連載では、パラレルSCSIに関してしつこいくらい解説を続けてきたが、さすがにネタも底をつき(笑)、筆者がパラレルSCSIに対して思い残すことはもう何もなくなった。今後は、SASへと視点を切り換え、これからも大好きなSCSIの技術Watchを続けていく。また、有用な情報がまとまり次第、本連載の中でご紹介していこう。 □INCITS(InterNational Committee on Information Technology Standards) Technical Committee T10 (2003年7月2日)
[Text by 伊勢雅英]
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