前回までの連載で、現行のUltra320 SCSI、幻として消えたUltra640 SCSI以降のパラレルSCSI規格、そして次世代規格としての地位が約束されているSerial Attached SCSIについて“これでもか”というくらい解説してきた。 このため、SCSIに関する記事は当分書くのをやめようと思っていたが(笑)、先日、Maxtorでサーバ製品の市場とパートナー開拓、業界標準化団体および産業団体の代表、テクニカルセールス、各種市場分析、製品ロードマップの立案、シナリオモデリングなどを手がけているMaxtor, Server Products Group, Technical Marketing, DirectorのKevin Wittmer氏にインタビューをお願いできる機会が得られたので、またもやSCSI熱血症候群が再発してしまった。今回は、Wittmer氏からお聞きしたSCSI HDDに関するMaxtorの製品戦略を取り上げていく。 ●Ultra320 SCSIは今後5年以上は市場に残る まず、Ultra320 SCSIに関して筆者が最も気になるのは、「AAF(Adaptive Active Filtering)」だ。本連載の第4回「Ultra320 SCSIを支える高度な信号補正技術」で説明したとおり、AAFは既知のトレーニングパターンを利用してその受信結果からレシーバ側の受信感度を調整するイコライジング技術で、Maxtorは「MaxAdapt」という名称で呼んでいる。 AAFは、SPI-4においてオプション扱いとなっているため、Ultra320 SCSIの製品には必ずしも搭載しなければならない機能ではない。しかし、Maxtorは、他社に先駆けてUltra320 SCSI製品にAAF(MaxAdapt)を採用している。Wittmer氏は、この理由を「AAFはMaxtorが開発したテクノロジであり、そして標準化団体(T10技術委員会)にAAFを紹介したのもMaxtorです。Maxtorは、自社製品にAAFを導入し、より大きな信号マージンを提供することで、顧客に対する大きな製品価値をもたらすものと考えています。そして、弊社の製品をより幅広いソリューションに適用できるようになると信じています」と説明する。 では逆に、なぜ他のベンダはAAFを導入しようとしないのか。これについて、Wittmer氏は「他社の事情について触れる立場にはありませんが、基本的にAAFを製品に実装するには、多くの技術開発を余儀なくされます。現在、多くのベンダは、自社の貴重なリソースをもっと重要な他のテクノロジ、例えば次世代のSCSIとして約束されているSerial Attached SCSI(以下、SAS)に割り当てたいと考えているはずです」と回答する。 現時点で多くのベンダがSASに注力しているということは、Ultra320 SCSIはすでに見放されているのだろうか。Wittmer氏は、これに関して「だからといって、Ultra320 SCSIが業界から見放されているわけではありません。むしろ、Ultra320 SCSIは、現在もなお数多くのベンダによって展開されている最中であり、完全に普及するにはまだ多くの時間がかかります。従って、Ultra320 SCSIはこれから少なくとも5年、ひょっとすると10年くらいは残るかもしれません」と話す。 ●顧客は新しいシリアルインタフェースを望んでいる さらに、今年3月にSCSI Trade Association(STA)のSCSIロードマップから外されたUltra640 SCSIに関して、Wittmer氏は次のように説明を続ける。 「Maxtorは、初期のUltra640 SCSIに関してさまざまな開発を行なってきました。そして、これらの開発成果をSTAやT10技術委員会に次々と発表してきました。しかし、現在から1年ほど前に、Ultra640 SCSIではなくSASを選択する決断を下しました。実は、こうした決断を業界全体に対して浸透させたのは、Ultra640 SCSIの開発で中心的な役割を果たしてきたMaxtor自身かもしれません」。 「Maxtorでは、弊社の最大の顧客がUltra640 SCSIに移行することを望まず、その代わりに新しいシリアルインタフェースに移行しようと決心したことがSASに路線を変更した大きなきっかけとなりました。Ultra640 SCSIを採用する場合、顧客のシステムボックスの中ではかなり多くの設計変更を余儀なくされます。顧客は、こうした多大な努力をUltra640 SCSIではなく新しいシリアルインタフェース(SAS)に振り向けようと考えたわけです。同じ苦労をするならば、将来性に富んだSASに注力したいということです」。 Maxtorは、7月8日に開催されたT10技術委員会の公開レセプションにおいて、LSI LogicとともにSASのデモンストレーションを行った。ここでは、LSI LogicのSASコントローラとMaxtorのターゲットデバイス間で、初期化、帯域外シーケンシングの完了、SASを介したRead、Write、Compareの各SCSIコマンドの実行などが披露された。Wittmer氏は、SASに関するMaxtorの開発現況を次のように述べる。 「Maxtorでは、新しいSAS ASIC、そしてこのASICを制御するファームウェアのロジック設計が主な開発内容となります。新しいASICテクノロジの開発は、長い期間の公開サイクルを必要とします。しかし、ラボ内でのデバッグを行なえるようになるまでASICの完成を待ち続けるわけにはいきませんので、MaxtorはFPGA(Field Programmable Gate Array:主にハードウェアの試作で用いられる書き換え可能な大規模集積回路)を利用してSASの開発、検証を進めてきました」。 「最近のデモンストレーションで用いられたMaxtorのターゲットデバイスは、既存のHDDにSASのプリント基板(PCB:Printed Circuit Board)を取り付けたものではなく、PCBのみから構成された単純なものです。従って、データの読み書き動作は、ディスクに対してではなく、PCB上に搭載されたキャッシュメモリに対して行われます。ディスクに対する実際の読み書き動作は、SAS ASICが完成してからとなるでしょう」。 ●当分はUltra320 SCSIとSASに対応した製品を両方とも発売する SAS製品が実際に発売されたら、Ultra320 SCSIとSASの共存が始まるが、Wittmer氏はこれに対し「Ultra320 SCSIとSASは長い間共存すると思われますので、Maxtorは市場が求める限り、両方のインタフェースを持った製品を発売していくつもりです」と話す。 仮に5年以上も共存状態が続いたとすると、SASはさらに高速化された第2世代のインタフェースに進化している可能性があり、そうなるとUltra320 SCSIとSAS(第2世代)との速度差はさらに広がっていく。しかし、こうした大きな速度差のある両インタフェースを同時にサポートすることで問題は発生しないだろうか。Wittmer氏は、これに対して次のように回答する。 「顧客は常に1つのインタフェースに向かおうと考えています。従って、SASの速度が高速化されることによって、パラレルSCSIからSASに移行するための動機付けが高まり、SASへの移行がさらに促進されるでしょう。特にスペース、接続性、パフォーマンスを重視しつつ、SCSI製品を新たに設計、開発を行いたいというユーザは、SASをいち早く採用する顧客となります。逆に、Ultra320 SCSIは、SASが提供する機能を即座に必要としない一部の顧客に使われ続けるでしょう」。
●SASがFibre Channelに対する大きな競争力を持つインタフェースとなる シリアルSCSIの仲間として、SASと対比されるものにFibre Channelがある。Seagate Technologyや日立グローバルストレージテクノロジーズ(HGST)は、Fibre Channelをネイティブインタフェースに持つHDDをすでに発売しているが、MaxtorはパラレルSCSIのみのラインナップしか用意していない。Wittmer氏は、Fibre Channelの長短と絡めながらこの理由を次のように説明する。 「Fibre Channelの市場規模は、依然として小さいのが現状です。Fibre Channelは、高可用性を提供するデュアルポートのサポート、多くのHDDを接続できる高いスケーラビリティなど、パラレルSCSIにはない数々の利点を持っていますが、その一方でインタフェースが非常に複雑なこと、開発サイクルが長期化しやすいこと、コストがきわめて高いことなど、重大な欠点もいくつか持ち合わせています」。 「SASは、Fibre Channelが持つすべての利点を提供しつつ、大きな市場規模と低コストを実現できる理想的なインタフェースです。従って、MaxtorはUltra320 SCSIに加え、SASをネイティブインタフェースとするSCSI HDDを発売するつもりです。これにより、サーバ市場において、Fibre Channelに対するさらにコスト効率のよいもう一つの選択肢を提供できるものと考えています」。 ●SCSI HDDにまつわるMaxtorの製品動向 現在、Maxtorで発売されているSCSI HDDのラインナップは、10,000rpmのATLAS 10K IVと15,000rpmのATLAS 15Kだ。先述の通り、インタフェースはUltra320 SCSIのみに対応しており、高度なAAF(MaxAdapt)もサポートする。Wittmer氏は、ATLAS 10Kおよび15Kシリーズの特徴そして将来の製品について次のように説明する。 「ATLAS 10Kは、MaxtorのSCSI HDDの中で最高の記憶容量を提供します。現在最新のATLAS 10K IVは、1インチハイトながら147GBもの大容量を実現しています。一方のATLAS 15Kは、ATLAS 10Kシリーズよりも45%以上も高いI/O処理性能を提供します。ただし、ディスクの回転速度を高めるために、ディスクの直径がATLAS 10Kよりも小さく、最大容量は73.4GBとなっています。とはいえ、トランザクション処理システムや非圧縮ビデオ編集のように、パフォーマンスを最重視するアプリケーションは数多くありますので、ATLAS 15Kはこうしたアプリケーションに最適な製品となります」。 「次に、将来の製品に関してですが、Maxtorの全社的なポリシーにより、将来の製品に関する具体的なコメントはできません。ただし、今後もATLAS 10Kおよび15Kシリーズの新製品を発売することにより、さらに記憶容量を増やしつつ、同時にパフォーマンスも高めていくことだけは皆様に約束いたします」。 HDDのパフォーマンス、特に単位時間あたりのI/O処理性能(IOps)を高めるには、ディスクの回転速度を高めて回転待ち時間を短縮するアプローチが効果的だ。実際、SCSI HDDの回転速度が5,400rpmから7,200rpm、10,000rpm、12,000rpm、15,000rpmと高速化されてきた理由もここにある。また、Seagate Technologyは、研究開発部門の中で22,000rpmのSCSI HDD(Cheetah X22となるのか?)を試作したことを明らかにしている(シドニーFOXスタジオで2002年6月に開催されたSeagate Technology, Senior Sales & Marketing Manager, Rob Pait氏の基調講演より)。Wittmer氏は、HDDの回転速度の高速化に関して次のように述べる。 「実は、15,000rpmの製品は比較的新しく、HDD全体に対して占める割合もそれほど大きくありません。例えば、2003年では全体の26%となっています。従って、より高速な回転速度のHDDは、まだ何年も先に登場するものと予想されます。むしろ弊社の顧客は、より小型化された製品に強い興味を持っており、Maxtorはこうした市場の展開に注目しているところです」。 つまり、2.5インチのSCSI HDDが登場するということか。かつて主にApple ComputerのPowerBook向けとして2.5インチのSCSI HDDが使用されていた時期があったが、サーバおよびストレージサブシステム向けとしてまた2.5インチのSCSI HDDが再登場を果たすのだろうか。Wittmer氏は、2.5インチのSCSI HDDに関して次のように話す。 「Maxtorは、2.5インチのSCSI HDDが市場からの要求項目になるのかというに常に着目しており、要求項目になったら2.5インチのSCSI HDDを導入するつもりです。2.5インチHDDのテクノロジは3.5インチHDDのものと非常によく似ていますので、市場が2.5インチSCSI HDDを要求したら、適切なタイミングで製品を投入できる自信があります」。 筆者の勝手な勘ぐりだが、過去に2.5インチHDDを発売したことのないMaxtorが、これほどまでの自信を持っているということは、すでに2.5インチSCSI HDDの開発に着手している可能性が考えられる。実際、同社が予想する回転速度の比率(図4)を見ると、10,000rpmの2.5インチHDDがしっかりと含まれている。10K、15Kの先にあるMaxtorの“次なる一手”にぜひとも期待したいところだ。 次週に公開予定の後編では、引き続きWittmer氏のインタビューの模様をお伝えするが、あえて“ネタ”は伏せておく。後編にも乞うご期待。 □日本マックストア (2003年8月4日)
[Text by 伊勢雅英]
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