●日本市場でインクジェット複合機が受け入れられなかった理由 米国でHPといえば、デジタルイメージング機器でトップシェアを誇るブランド。プリンタ、スキャナ、さらにはデジタルカメラまで、豊富な製品ラインナップを揃えている。特にプリンタは、レーザー、インクジェットの方式を問わず、いずれも圧倒的なシェアを誇る。 しかし、我が国では同社の日本法人である日本HPのプリンタは、どうしてもエプソン、キヤノンの2強に押されがちだ。コンシューマ向けのカラーインクジェットプリンタでも苦戦が続き、単なる性能差、機能差を越えた印刷文化? の違いまで論じられるほどだった。 そんな日本HPが光明を見出すきっかけとなったのは、同社がオールインワンと呼ぶジャンルでのpsc 2150のヒットだった(その証か、同社の2003年夏向けのインクジェットプリンタカタログのトップを飾るのは、2002年秋からの継続モデルであるpsc 2150だ)。 psc 2150は、その型番にある通りPrinter、Scanner、Copierの3つの機能を備えた、いわゆる複合機。場所をとらず、しかも手ごろな価格で、これら3つの機能を利用することができる。 実は、米国ではかなり前から、こうした複合機が高い人気を誇っていた。だが、日本ではサッパリ受けず、国内では複合機は受け入れられない、と考えられたことさえあった。これまで日本で複合機がヒットしなかった大きな理由は、複合機が備える1つ1つの機能が、それぞれの機能を持つ単機能機にかなわなかったからだと思われる。すなわち、複合機のプリンタ機能は通常のプリンタより下で、スキャナ機能は単体のスキャナに見劣りし、コピー機能は本物? のコピーに遠く及ばない、といった具合だ。
実際、一昔前の複合機は、それぞれの機能について、一世代前の単機能機のパーツを寄せ集めて作ったという印象が拭えないものが多かった。まず、新しく開発した技術を単機能機に採用して、そのヒットを確かめて複合機を企画する、といった商品サイクルがあったからだろう。どうしても複合機が出てくるときには、単機能機は一歩先を行くことが多かった。それでも価格さえ妥当なら、機能や性能については割り切った使い方をする米国人が複合機を受け入れたのに対し、日本人はそれぞれの機能について完全なことを求めるため、どうしても昔の複合機は国内市場で大きな地位を占めることができなかったのではなかろうか。
●複合機市場で地盤を固めるHP
psc 2150のヒットに気をよくした日本HPは、この夏、複合機のラインナップを拡充した。それがOfficejet 6150だ。Officejet 6150は、psc 2150が備えていたメディアスロットを省略する代わりに、FAX機能とADF(Auto Document Feeder:自動原稿送り機)を加えたSOHO/個人事業主向けの複合機。その名前の通り、パーソナル/エンターテインメント路線から、お仕事路線に機能配分を振った複合機である(ただし米国で売られているOfficejetの上位モデルにはメディアスロットを備えたものが存在する)。
このクラス(SOHO/個人向け)でFAX機能がついた複合機というのは、意外に国内では珍しい存在で、しばらく前まではブラザー工業の独壇場だった(同社は、米国でもこのクラスのFAX機能つき複合機を長年販売し続けてきている)。現在は、キヤノンもFAX機能つき複合機を1機種製品化している(PIXUS MP730)ものの、エプソンやレックスマークにはまだ該当する製品がない。このOfficejet 6150の発売はもう間もなく(6月下旬)、価格も直販価格(hp directplus価格)が44,800円と発表されているが、一足先に使用する機会を得たので、紹介することにしようと思う。
●実際の使用感について Officejet 6150の特徴の1つは、外形がコンパクトにまとまっていることだ。さすがにブラザーのMFC-150CLには負けるが、Officejet 6150がプリンタ、スキャナともに2倍の解像度を持っていること、自動両面印刷機能やADFを備えていることを思えば、納得できるハズ。
実際には、MFC-150CLはよりパーソナル/家族向けの製品で、本来Officejet 6150と比べるべきはMFC-5100J/5200Jだろう。MFC-5100J/5200J、あるいはPIXUS MP730相手なら、Officejet 6150の方がコンパクトだ。
HPのプリンタは、省スペースであることに加え、比較的動作音が静かなことでも知られている。本機も例外ではなく、インクジェットプリンタとしては、やはり静かな方ではないかと思う。レーザープリンタと比べると、必ずしも静かとはいえないが、高速移動する物体(ヘッド+インクカートリッジ)を内蔵していることを考えればやむを得ないところだろう。 さて、本機とPCとの接続インターフェイスは、USB 2.0のみ。ただしサポートされているのはFull Speedモード(12Mbps)までで、Hi Speedモード(480Mbps)の恩恵を受けることはできない。SOHO向けをうたうのであれば、Ethernetのサポートが欲しいところだが、複合機でEthernetをサポートすることはまだ難しいようだ(プリンタ機能のみに絞っても良いからEthernetサポートが欲しいようにも思うが)。 プリンタとしての機能は、ほぼDeskjet 5551に匹敵する。つまり、6色対応の3辺フチ無し印刷が可能な、最高解像度4,800dpi(4色インクモード時)のプリンタということになる(6色インクは別売オプション)。残念ながらOfficejet 6150と同時に発表されたDeskjet 5650に搭載されている4辺フチ無し印刷には対応していない。完全にフチの無い写真印刷が望みなら、一辺を切り離し可能な用紙(純正のhp プレミアムプラスフォト用紙(切り離しタブ付き)など)を用いる必要がある。 印刷速度はモノクロ19ppm、カラー15ppmというのがカタログなどの公称値だが、もちろんこれは最も高速な設定。実際はデータによっても異なるが、フォト用紙に写真を出力するのでもない限り(A4普通紙に一般的な文書を印刷する限り)、4~8ppmくらいは十分期待できる。 一方の画質も、筆者的には十分(何せ、普通紙くっきりカラリオ PX-V700でもあまり不満のない筆者である)。切り離しタブを切り取った後10×15cmになる純正のhp プレミアムプラスフォト用紙に4色モードと6色モードで出力してみたが、4色モードでも問題は感じない(被写体によっては、6色モードが威力を発揮する場面も見られたが)。 カラースキャナとしてのスペックは1,200dpi×2,400dpiでRGB各色16bitのCCDスキャナ、ということになる。が、スキャナの用途はもっぱら文書の読み取りとPDFへの出力という筆者にとって、こうしたスペックは猫に小判に等しい。
ADFを使った35枚までの連続スキャンは便利だが、コピー時と異なり、ADFを使った連続両面スキャンができないのは残念だ。たとえばAcrobat 5.0から両面スキャンを実施する場合、まず奇数ページを全部スキャンしたあと、最終ページから逆順に偶数ページをスキャンするという2パススキャンとなる(それでも、1枚1枚セットするのに比べれば、全然マシなのだが)。
その一方で、セットされている用紙について、少なくともある程度は自動認識しており、たとえばハガキや切り離しタブ付きのプレミアムフォト用紙など、小型の用紙をセットしていたとしても、いきなり着信FAXをハガキに印刷するような間抜けなことはしない。このあたり、ちゃんと考えてある。
ただし、日本生まれではないことを感じさせる部分もある。それが最も強く表われているのがFAXのエラーメッセージが英文なことだ。マニュアルには対訳が出ているし、特に難しい英文というわけではないのだが。
●レーザー複合機からの乗り換えも一考か 両面印刷可能なカラーインクジェットプリンタ、ADFつきのカラースキャナ、カラーFAX、これらの機能を1台でこなせるOfficejet 6150は、価格的にも設置スペース的にも望ましい。実は筆者は、これまでレーザープリンタベースの古いFAX機能つき複合機を利用していた。ただ、古い機種であるため、プリンタ以外の機能はWindows XPでのサポートがなく、プリンタ兼用FAXになり果てていた(一応、コピー機能は使えるが、スキャナ部がフラットベッドではないため厚みのあるもののコピーに向かない、古いモノクロレーザープリンタベースであるためカラーのサポートがないなど、あまり実用的ではなかった)。 さらに困ったことに、レーザーエンジンの感光ドラムの調子が悪く、まだ印刷枚数的には寿命があるものの、交換せざるを得ない状況になっている。ドラム交換とトナー交換をするとなると、3万円前後の出費が予想される。Officejet 6150の価格を考えると、悩んでしまう金額というより、どう考えても乗り換えた方が良い案だと思える。
レーザー複合機が悪いと言うつもりはないのだが、どうも筆者はレーザーエンジンがペイするほどの量を印刷(FAX含めて)しないのではないか、という気がしている。筆者のような個人事業主には、インクジェット複合機で十分ということなのだろう。
□関連記事 (2003年6月20日)
[Text by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
|
|