どちらかというと筆者は、紙にプリントアウトすることにあまり情熱を持たないタイプの人間のようだ。自宅兼仕事場には、合わせて3台のプリンタがあるが、いずれも最新のものどころか、かなり古い部類に入るものばかりである。しかも、3台が揃いも揃って調子がいいとは言えない状態にある。 FAX兼用のレーザー複合機(正確にはプリンタにもなるレーザーFAX)は、ちょっと印字が薄くなってしまっているし、サーバのプリンタポートにぶらさがっているパーソナル向けのレーザープリンタは紙送りの調子が悪く、一度に複数の用紙を送ってしまうことがしばしば。残るインクジェットプリンタは、主に家人が使っているものだが、時々印刷結果に赤いスジが入る状態。ヘッドクリーニングをしてもダメなところを見ると、修理(ヘッド交換)が必要なのだろうが、すでに4年が経過しており、買い換えた方がマシという説が濃厚である。
このような状態であるにもかかわらず、プリンタをそのままにしているのは、使用頻度があまり高くないという事情が大きいとは思うのだが、とどのつまりは冒頭で述べたとおり、プリントアウトすることにあまり情熱がないからだと思っている。ただし家人はそれなりにプリントアウトに情熱を持っており、修理するなり買い換えるなりしてくれというプレッシャーを若干感じている今日この頃だ。
●新旧プリンタを使って比較
だが、エプソンにはすでにPXインクテクノロジーを採用したプリンタが存在する。A3ノビ対応のPM-4000PXがそれで、こちらは型番がPM(Photo Mach)で始まる。PM型番は、写真画質を持つエプソン製プリンタに冠されるものであり、同じ顔料系インクプリンタでも、PX-V700は写真画質を持つPM-4000PXとは異なるセグメントのプリンタということが型番に現れている。PX-700Vは、TV CMでも訴求されているように、普通紙にドキュメントを印字するプリンタであり、顔料インクで写真画質を実現したPM-4000PXのA4版ではない、ということになる。 現在PM型番のプリンタは6色あるは7色インクを採用しているが、PX-700Vのインク構成は4色独立タイプでしかないし、黒色がほかの3色よりも増やされているノズル構成も、それを如実に物語っている。写真画質プリンタの大半が6色、あるいは7色でノズル数が等分になっているのに対し、PX-700Vは黒色の180ノズルに対し、そのほかの3色は各59ノズルと3分の1に過ぎない。 実際、文字が中心のWebページを普通紙に印字してみたところ、確かに文字のキレは悪くない。さすがにレーザープリンタほど締まった文字ではないものの、筆者宅の染料系インクジェットプリンタ(実は同じエプソンのPM-800C)とは比べものにならないほど引き締まった文字である。 写真のキャプションやコピーライト表示のように小さな文字もつぶれにくい。また、写真やベタの多いWebページを印刷しても、用紙が濡れてベロベロになった感じがあまりしないのも、PX-700Vの良いところだろう。
さて、いくつかWebページを印刷してみて、中に入った写真の印刷品質も意外と悪くないことに気づいた。位置づけとしては写真画質プリンタではないものの、案外イケルんじゃないか、と思ったわけだ。
あまり大きな期待をしないで、PM写真用紙“半光沢”に写真を出力してみたところ、やはりそれほど悪くない。特にL判~2L判程度で、ほかと比べなければ十分イケルように思える。そこで、同じ用紙にPM-800C(4年落ちの染料系写真画質機)で出力して比較してみることにした。残念ながらPM-800CはL判のカット紙にフチなし印刷することができないので、こちらには同じ用紙のロール紙タイプを用いた。 まず品質だが、比べてみるとPM-800Cの方が色のノリが良いことがわかる。また、メリハリも上で、比べればPX-700Vの出力は若干眠いように見える。それでも、パッと見には、極端に違うことはないし、L判程度なら我慢の範囲内だと思う。むしろ、耐光性の差(メーカー発表値で約4倍)を考慮すれば、PX-700Vで写真を出力する意味だってあるかもしれない。ただしPM-800Cで、用紙を光沢紙に変えて出力すると、画質の差は大きくなる。メリハリの足りないPX-700Vの出力に対し、PM-800Cでは用紙を半光沢から光沢に変えると、写真らしさがグッと増し、差が目立ち始める。 ならばとPX-700Vでも、サポート外を承知で光沢紙に出力してみた。恐れていたように、用紙にちょっと触っただけでも、インクが手についたり流れたり、ということはなかったのだが、PM-800Cのような変化があまり見られなかった。カタログによるとPXインクは、インク粒子を樹脂でコーティングしているとのこと。このコーティングが用紙を変えても、印刷品質の印象が変わらない(あるいは写真のメリハリが低下する)原因なのかもしれない(このあたりはPXインクを用いた写真画質機であるPM-4000PXと比較してみたいところではある)。 ある意味、画質以上に大きな差があったのは印刷時間だ。PM-800Cはカット紙に四辺フチなし印刷ができないので、PX-700Vと直接比較するのが難しいのだが、フチつきのカット紙(L判)の印刷で約2倍のスピードを示した(不公平な比較だが、PM-800Cのロールによるフチなし印刷と、PX-700Vのカット紙に対するフチなし印刷の場合、差は2.5倍以上に広がる)。これは、上述したノズル数のバランスからも予想されたことで、文書が主体のWebページなどの印刷であれば、逆にPX-700Vの方が有利になる。 どうやらPX-700Vが、写真の印刷より、ドキュメントの印刷を主眼に開発されたプリンタであることは間違いないようだ。が、画質にちょっと目をつぶれば、写真の印刷もできなくはない。画質と耐光性/耐水性のトレードオフを考えれば、葉書の印刷などにはかえって向くかもしれない。
本来、こうした用途にはPM-4000PXが最適なのだろうが、A3ノビ対応であるため場所をとるし高価だ(そういう意味ではPM-4000PXのA4版が望まれるところかもしれない)。
●どんな人にオススメか 本機はパーソナル向けのプリンタとして、普段の使い道は文書やWebページの印刷が中心というユーザーにはとても勧められる。普通紙印刷に最適化されたというだけの仕上がりだ。写真だけを出力することが多ければ、6色以上のインクを使用する他の機種を考えるべきだろうが、実際の使用用途を考えると、実は意外と多くのユーザーに向いた機種なのではないかと思う。
□エプソンのホームページ (2003年3月26日)
[Text by 元麻布春男]
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