ソニー 新バイオノートGRレビュー
“ポータブルRZ”を標榜するTVチューナ/MPEG-2エンコーダ搭載ノートPC



PCG-GRT99/P
 ソニーのバイオノートGRシリーズは、バイオノートのハイエンド製品としてフラッグシップとなる製品だ。5月の半ばに夏モデルとして発表されたPCG-GRT99/Pは、MPEG-2ハードウェアエンコード機能を持ったTVチューナボードを内蔵しており、位置付けとしては同社のハイエンドデスクトップPCであるバイオRZシリーズの移動可能版、つまり“ポータブルRZ”とでも呼ぶべき製品となっている。

 またGPUには、NV31ことNVIDIAのGeForce FX 5600 Goが採用されており、デスクトップPC並みの性能が実現されている。さらに、クリアブラック液晶と呼ばれる明い新液晶が搭載されているなど、前世代の製品に比べて多くの点で強化されている。


●TVチューナ内蔵MPEG-2ハードウェアエンコーダボードを本体に内蔵

TVチューナは、PCカードスロットの下に格納されている。ボードのサイズはほぼPCカードと同じというコンパクトさを実現している。入力端子は、アンテナもAV入力もミニ端子。アンテナケーブルは付属しているが、AVケーブルは別途用意する必要がある
 夏モデルのバイオノートGR(PCG-GRT99/P、以下GRT)の大きな特徴は、TVチューナ付MPEG-2ハードウェアエンコーダボードを内蔵していることだ。

 コンシューマ市場向けのデスクトップPCでは、もはや必須の機能となりつつあるTVチューナ内蔵のMPEG-2エンコーダボードだが、ノートPCではまだまだハイエンドの一部製品にとどまっている。その最も大きな理由はノートPCでは、ボードを内蔵するスペースが限られていること、また、デスクトップPCのように拡張スロットを持っていないので、汎用品のTVチューナカードが利用できないからだ。

 実際、バイオノートGRシリーズでも、春モデル(PCG-GRV99/P、以下GRV)では、TVチューナのモジュールは、標準添付されてくるポートリプリケータ側に内蔵されていた。つまり、本体に内蔵するのが難しいため、TVチューナ自体は外付けとなってしまっていたのだ。このため、TVを見るには常にポートリプリケータに接続する必要があり、せっかくの省スペース性が損なわれてしまっていた。

 そこでGRTでは、TVチューナ内蔵MPEG-2ハードウェアエンコーダボード自体を小型化し、本体に内蔵している。内蔵されている場所は、従来はPCカードスロットだった部分。GRVでは2スロットだったものを、GRTでは1スロットに減らし、そこにエンコーダボードを内蔵しているのだ。つまり、エンコーダボード自体はPCカードサイズに近いサイズとなっている。


●3次元Y/C分離回路など最新の機能を搭載したGiga Pocket Engine M

 ソニーでは、GRTに内蔵しているTVチューナ内蔵MPEG-2ハードウェアエンコーダボードを、“Giga Pocket Engine M”と呼んでいる。つまり、バイオRZなどに搭載されているGiga Pocketのモバイル版という位置付けだ。

 この、Giga Pocket Engine Mが、PCカードサイズまで小型化できた最も大きな理由は、小型かつ薄型のTVチューナを採用していることだ。内蔵されているチューナは、CMOSプロセスを利用して作られたいわゆるシリコンチューナで、トランプの箱程度のサイズとなっている一般的なTVチューナに比べて、半導体1チップと圧倒的に小さくなっている。また、3次元Y/C分離回路が搭載されており、3次元Y/C分離回路がない場合に比べて色にじみが少ない映像をキャプチャ可能になっている。

 Giga Pocket Engine Mでは、高画質/標準/長時間の3つ録画モードが用意されており、それぞれ以下のようなビットレート、最長時間で録画できる。

  圧縮方式 ビットレート 最長時間
高画質 MPEG-2 8Mbps 約16時間
標準 MPEG-2 4Mbps 約32時間
長時間 MPEG-1 1.4Mbps 約88時間

 TVチューナの機能は、前面に用意されているTVチューナボタンを押すことで、自動でGigaPocket(TV閲覧、キャプチャソフト)が起動して、TVを見たり録画できる。このほかにも、パッドの手前には音量ボタンとチャンネルボタンがあり、TVの操作を快適に行なえる。

 また、付属のリモコンを利用しても起動したり、操作することが可能だ。ただ、リモコンのレシーバはUSBで接続する外付けタイプになっている。せっかくのオールインワンノートPCなのだから、できればレシーバは本体に内蔵して欲しかった。次機種では改善されることを期待したい。

 入力だが、TVアンテナ入力端子(ミニピン端子)とAV入力端子(ミニピン端子、コンポジット、オーディオ)、S端子が用意されている。TVアンテナケーブルは標準で添付されているので、これを利用することで標準状態でTVを見たり撮りためることが可能だ。ただ、ビデオデッキやスカパー!のチューナなど外部端子を経由して録画する際に必要なAV入力ケーブルは標準では添付されておらず、別途「VMC-20FR」などを購入する必要がある。本製品を買うようなユーザーは、スカパー!のチューナなど外部チューナを接続するユーザーも少なくないだろうから、できれば標準で添付してほしかった。

TVの閲覧/録画などを行なうGigaPocket。基本的には、デスクトップPCなどに採用されているGigaPocketと同等の機能を持っている AV操作のボタン。GigaPocketを起動するTVボタン、ボリュームボタン、チャネルボタンが用意されている 標準で添付されているリモコン。レシーバはUSBで接続する外付け仕様になっている


●DVD±RWドライブを利用して、録画した動画をDVDに書き出せる

 GRTには、GRVと同じように12.5mm厚のDVD±RWドライブが内蔵されている。内蔵されているのはソニーの「DW-U50A」で、書き込み速度はDVD+RW/+Rが最大2倍速、DVD-R/RWが等倍速、CD-Rが最大16倍速、CD-RWが最大8倍速となっており、読み込み速度はレコーダブルなDVDメディアが2倍速、DVD-ROMが5倍速、CD-R/RW/ROMが24倍速となっている。DVD-RAMを除けば、ほぼすべてのメディアを読み書きすることが可能になっており、特にDVD-Rに加えてDVD+RW/+Rを必要とするユーザーには魅力的なスペックと言える。

 DVDのオーサリングソフトとして、ソニーオリジナルのClick to DVDがバンドルされている。Click to DVDを利用すると、1~2回クリックする程度でGigaPocketを利用して録画した動画をDVD-Video形式でDVDに書き込むことが可能となっている。

 実際、GigaPocketに、Click to DVDを呼び出すメニューが用意されており、書き込みたい動画を選択しておきClick to DVDを呼び出したあと、2回クリックしただけでDVDへの書き込みが可能だった。

 最近のDVDオーサリングソフトは非常に高機能になっているが、それだけ書き込むまでに時間がかかることが多く面倒なことを考えると、Click to DVDのシンプルさはものぐさな筆者にとっては便利だと感じた(ちなみに、Click to DVDでも凝ろうと思えば凝った設定ができる)。

Click to DVDを利用することで、数クリックするだけで簡単にDVD-Videoの書き込みが行なわれる。あらかじめメニューを挿入するなどの設定を行なっておくことも可能で、細かな設定も行なえる ソニーのDVD±RWドライブ「DW-U50」。書き込み速度はDVD+RW/+Rが最大2倍速、DVD-R/RWが等速、CD-Rが最大16倍速、CD-RWが最大8倍速。読み込み速度はレコーダブルなDVDメディアが2倍速、DVD-ROMが5倍速、CD-R/RW/ROMが24倍速


●DirectX 9に対応したNVIDIAのGeForce FX 5600 Goを採用

底面に用意されているメモリスロット。SO-DIMMが2スロット用意されており、内1スロットが使用済み
 GRTはGPUにGeForce FX 5600 Goを採用している。GeForce FX 5600 Goは、NV31mのコードネームで知られた製品で、市場に投入されたモバイル向けGPUの中では初のDirectX 9対応GPUだと言ってよい。

 なお、ビデオメモリは64MBを搭載しているが、GeForce FX 5600 Goが持つ省電力機能のPowerMizerは利用されていないようだ(ディスプレイの詳細プロパティを見てもPowerMizerの項目は用意されていない)。

 これは、GRTがいわゆるデスクトップリプレースメント(DTR)と呼ばれる、省スペースデスクトップの代換えとして利用される製品であるためだろう。DTRでは、バッテリは事実上UPSの代わりであり、バッテリ駆動時間はあまり注目されない。このため、常にフルパワーで利用できるようにPowerMizerは利用されていないと考えるのが妥当だろう。

 GPU以外の基本性能も充実している。CPUはインテルのPentium 4 2.80GHzが採用されている。前モデルのGRVではチップセットがIntel 845MPだったが、今回のモデルではSiS648へと変更されている。このため、システムバスが533MHzに引き上げられたほか、AGPは8X対応となっている。

 メモリは、DDR266に準拠しており、標準で512MBが搭載されている。メモリの拡張は底面に用意されているSO-DIMMスロットを利用して可能になっており、標準で1スロットが使用済みで、2スロット用意されている。標準では、オプションの512MBのSO-DIMMを利用すれば最大1GBまで増設可能だが、チップセットの仕様としては2GBまで増設可能で、今後サードパーティなどから1GBのSO-DIMMが登場すれば、2GBまで増設することも可能になるだろう。

 なお、HDD容量は80GBとなっており、ドライブは日立グローバルストレージシステムズのIC25N080ATMR04-0が採用されている。IC25N080ATMR04-0は4,200回転のドライブながら、40GBプラッタを採用しており、従来の4,200回転のドライブに比べて若干高速になっているのが特徴だ。


●輝度、コントラストなどを改善したクリアブラック液晶を採用

電源スイッチの横に用意されている解像度変更のボタン。ワンタッチでXGAと切り替えることができる
 GRTの液晶は、ソニーが“クリアブラック液晶”と呼ぶ、液晶表面から反射防止フィルタをなくし低反射アンチリフレクション処理を加えた液晶で、NECや富士通ではスーパーファイン液晶、東芝ではクリアスーパービュー液晶などと呼んでいる表面が“ツルツル”な印象の液晶の一種だ。

 クリアブラック液晶で、ソニーは3つの工夫を加えている。1つは、バックライトの明るさを増すことで、輝度を向上させている。通常、ノートPCではバックライトの蛍光灯は1本となっているのだが、GRTではこの蛍光灯が2本になっており、光量が増えることにより輝度が向上している。

 2つ目は表面のコーティングの工夫だ。今回のクリアブラック液晶では、低反射アンチリフレクション処理を改良し、LCDの発光した光をほぼそのまま通すことが可能になっている。これにより、液晶が白くなる現象を防ぎ、コントラストの高い画面が実現されている。また、アンチリフレクション処理を多層化し入ってくる光と逆方向の光を発生させることで、入ってくる光を打ち消し、従来のアンチリフレクション処理を行なっている液晶に比べて映り込みを減らしている。

 3つ目が高視野角化で、内部のフィルタなどの改良により従来製品に比べて高視野角化が施されているという。

 実際に筆者の手元にあった簡易輝度計で計測してみたところ、従来モデルのGRVが194cd/平方mであったのに対して、GRTでは314cd/平方mと1.6倍程度になっていた(なお、測定には簡易輝度計を利用したため、あくまで目安であり絶対的な数値ではないことをお断りしておく)。

 コントラストが向上していることと合わせて、最高輝度にすると、明るすぎると感じるほど明るい液晶となっている。また視野角に関しても、従来の製品と同じ角度で見ると、従来製品が割とすぐに見えなくなったのに対して、GRTでは明らかに視野角が向上しているのがわかった。

 なお、液晶のサイズは16型で、解像度はUXGA(1,600×1,200ドット)となっている。電源スイッチの横に用意されているボタンを押すことで、XGA(1,024×768ドット)と切り替えることができる。


●改善されたキーボード、エンターキーは右端に

PCG-GRTのキーボード。Enterキーは右端にきている
 キーボードは、従来モデルに比べて若干の改良が加えられている。従来モデルでは、Enterキーの右側にPageUp、PageDnなどのキーがきていたのだが、GRTではエンターキーの右側にも何もなくなりより入力しやすくなっている。ポインティングデバイスは従来通りタッチパッドで、特にドリフトなどが発生することもなく操作性は良好だ。

 ポート類は、右側面には特になく、バッテリとHDDのスロットが用意されている。左側面には、右からIEEE 1394、メモリースティックスロット(PRO対応)、Sビデオ端子、PCカードスロット、AV入力端子、TVアンテナ入力端子、DVD±RWドライブが用意されている。さらに、背面にはDCイン、パラレル、D-Sub15ピン、AV出力端子、USB 2.0×3、Ethernet、モデム、オーディオなどが用意されている。

 なお、DVI出力と光デジタル出力のポートは用意されていないがやや残念だ。こうしたデスクトップリプレースメントでは、本当にデスクトップPCの代用として利用するシーンも少なくないので、そうした機能も欲しいところだ。ただ、光デジタル出力に関しては、オプションのポートリプリケータに用意されているので、必要なユーザーは別途ポートリプリケータを購入するといいだろう。

本体の左側面。TVアンテナ、S入力、AV入力などのポート類やIEEE 1394ポート、PCカードスロット、メモリースティックスロットなどを装備する 本体の後面。パラレル、D-Sub15ピン、AV出力、USB 2.0、Ethernet、モデム、オーディオ入出力などの各ポートを備える 本体の右側面。バッテリやHDDなどが格納されている
内蔵のバッテリ。14.8V、4Aで59.2Whの電力量。ただ、デスクトップリプレースメントということもあり、バッテリ駆動時間は約1.5時間(JEITA 1.0、メーカー公称)となっており、事実上UPSのようなものだと考えた方がいいだろう 右側が夏モデルのバイオノートGR(PCG-GRT)、左が春モデルのバイオノートGR(PCG-GRV)。解像度をワンタッチで変えるボタンが電源の左に追加され、Enterキーが右端にくるなどキー配列が若干変更され、パッドの手前にTVチューナのスイッチとチャンネル、ボリュームボタンが追加されたのが大きな違い。また、色もやや薄目の紫に変更されるなど全体的に明るい色調に変更されている 従来モデルのPCG-GRVでは、TVを見るためにはポートリプリケータが必要だったが、PCG-GRTではTVチューナが本体に内蔵されたため、ポートリプリケータを装着する必要がなくなっている


●省スペースなTVパソコンが欲しいユーザーにお奨め

 以上のように、本製品の特徴は、なんといっても内蔵されているGiga Pocket Engine Mを利用してTVを録画し、それを手軽にDVDに書き込むというところにあるだろう。これまで、スペースの都合で、TVチューナ内蔵デスクトップPCの導入を諦めていたというユーザーでも、本製品のように簡単に移動できるノートPCであればスペースを気にせず利用できるだろう。

 また、クリアブラック液晶を採用したことで、液晶TVに近いような明るさを実現しており、液晶TVの代わりとして本製品を利用するといった使い方も十分に考えられるだろう。

 そうした意味で、本製品はまさに“ポータブルRZ”として「TVチューナ内蔵のPCは欲しいけど、スペースの関係でノートPCしか購入できない」といったユーザーが検討してみる価値がある製品と言えるだろう。

□製品情報
http://www.vaio.sony.co.jp/Products/PCG-GRT99/
□関連記事
【5月14日】ソニー、TV機能が強化された「バイオノートGR」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0514/sony2.htm

バックナンバー

(2003年5月30日)

[Reported by 笠原一輝]


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