5月21日(米国時間)、IntelはHyper-Threadingテクノロジ(以下HTテクノロジ)に対応したPentium 4プロセッサ(以下Pentium 4)の2.80C GHz、2.60C GHz、2.40C GHzの3製品と、4月に発表したIntel 875Pのメインストリーム市場向け製品となるIntel 865チップセット(以下Intel 865)の3製品を発表した。 今回の製品の投入で、これまで3GHz以上のPentium 4というハイエンド製品のみに実装されていた、HTテクノロジが、より低価格帯のPCでも採用されるようになる。本レポートでは、そうした低価格のHTテクノロジ対応Pentium 4やIntel 865のパフォーマンスなどに迫っていきたい。
今回発表された製品の中で、Pentium 4 2.80C GHz、2.60C GHz、2.40C GHzの3製品は、4月に発表されたPentium 4 3GHzの低クロックグレードで、800MHzのシステムバスと、HTテクノロジサポートという、Pentium 4 3GHzと同等の特徴を備えている。 コアは、従来同様0.13μmプロセスのNorthwoodで、12k マイクロOpsのトレースキャッシュと8KBのL1データキャッシュ、さらには512KBのL2キャッシュという特徴を備えている。なお、クロックの数字のあとには「C」のアルファベットがつけられており、従来のPentium 4と区別されている。 これまで、HTテクノロジは、PC本体の価格でいえば30万円以上、CPU単体の価格で言えば5万円を超えるようなCPUである、3GHz以上のクロックグレードにしか採用されていなかった。しかし、今回発表された製品のOEMメーカーに対する1,000個ロット時の価格は、2.80Cが33,580円、2.60Cが26,330円、2.40Cが21,500円となっており、すでに先週末から販売が開始されている秋葉原での価格もこれに近いものになっている。 また、すでに各社の夏モデルにも採用されており、20万円台の製品にも搭載され始めている。今後登場が予想される直販系のPCベンダでは10万円台の製品にも搭載されることになるだろう。HTテクノロジの低価格化、これこそが今回発表された3クロックグレードの大きなインパクトだ。
また、同時に発表されたIntel 865ファミリー 3製品も、4月に投入されたIntel 875Pの廉価版という位置づけで、こちらもIntel 875Pで採用された800MHzのシステムバス、デュアルチャネルDDR400、AGP 8Xという新機能を、メインストリーム市場へもたらす役目を果たす。 Intel 865には3製品が用意されており、Intel 865G、Intel 865PE、Intel 865Pがそれにあたる。Intel 865Gは、グラフィックスコアを内蔵したグラフィックス統合型。Intel 865PEは、Intel 865Gの内蔵コアを無効にした単体型。Intel 865Pは、Intel 865PEから、800MHzのシステムバスとDDR400への対応を無効にした廉価版という位置づけとなっている。 また、Intel 865ファミリーのサウスブリッジは、ICH5(FW82801EB)ないしはRAID機能を持つICH5R(FW82801ER)が選択できる。各チップセットのスペックは以下のとおりだ。 【表1:各チップセットのスペック】
Intel 875PとIntel 865ファミリーの大きな違いは、Intel 875PのみPAT(Performance Acceleration Technology)と呼ばれる高速化機能に対応していることと、パッケージが異なることだ。PATは、Intel 875Pのメモリコントローラにおけるレイテンシを2クロックほど削減し、CPUからメモりへのアクセスを高速にすることで処理能力を改善する技術だ。Intelによれば、PATに対応することで3~5%程度の性能改善が期待できるという。 IntelはIntel 875PとIntel 865ファミリーを同じダイとして製造しており、パッケージに封入する段階でPATを有効にしても十分利用に耐える選別品がIntel 875Pに、そうではないものがIntel 865ファミリーとして利用される。 元々は同じダイだが、パッケージは異なっておりIntel 875Pは1,005ボール(ピン)のFCBGA、Intel 865ファミリーは932ボール(ピン)のFCBGAとなっている。 機能面での違いという意味では、PATだけとなるが、価格面では大きな違いがある。Intelが発表した千個ロット時の価格は、いずれもICH5Rとの組み合わせでIntel 875Pが53ドル(日本円で6,450円)、Intel 865Gが44ドル(同5,320円)、Intel 865PEが39ドル(同4,710円)、Intel 865Pが36ドル(同4,350円)という価格設定になっている。 同じ単体チップセットであるIntel 875PとIntel 865PEを比較した場合、実に14ドル(日本円で1,740)もの差がある。これはあくまでOEMメーカー向けの価格であるので、製品になった場合には、3倍、4倍もの価格差になってしまう。そういう意味では、PATが意味があるのか、どうなのかが、Intel 875Pを購入するのか、Intel 865ファミリーにするのかの大きなポイントとなるだろう。
Intel 865ファミリーでは、メインメモリとしてDDR400、DDR333、DDR266の3つのメモリデバイスを搭載したメモリモジュールが利用できる。つまり、PC3200、PC2700、PC2100の3種類のメモリモジュールが利用できることになっている。ただし、メモリをどのクロックで利用するかは、システムバスの設定により異なっているので注意したい。 【表2:各チップセットがサポートするシステムバス】
システムバスを800MHzに設定している場合にはDDR400、DDR333(ただし320MHzに設定される)、DDR266のすべてが利用できるが、システムバスが533MHz時にはDDR333とDDR266、システムバスが400MHz時にはDDR266にしか設定できない。すでにCPUやメモリなどを持っていてIntel 865ファミリーに移行したいと考えているのであれば、この点に注意したい。 また、Intel 865ファミリーでも、メモリを2枚一組で利用することで、帯域幅を倍にすることができるデュアルチャネル構成が可能だが、デュアルチャネルで利用する場合には必ず、容量、メモリデバイスのバス幅、バンク数などが同じメモリモジュールを利用する必要がある。つまり、事実上全く同じメモリモジュールを2枚一組で利用するということだ。理論上は別のモジュールでも容量、メモリデバイスのバス幅、バンク数が一致していれば利用できないことはないが、あまりお奨めではない。 そういう意味では、現在メモリモジュールを持っているユーザーが、Intel 865に移行する場合にはメモリが買い換えになってしまう可能性があるので、注意したいところだ。 なお、Intel 865Gのグラフィックスコアだが、従来製品のIntel 845GEと同じPortolaコアで、クロックも266MHzと変わっていない。ただし、ドライバは若干新しくなっており、その分の3D描画性能向上は期待できる。そうした意味では、わずかな変更と考えていいだろう。
それでは、ベンチマークを利用して新しく登場したPentium 4 2.80C GHz、2.60C GHz、2.40C GHzの3製品をチェックしていこう。ベンチマークに利用したのは、本連載で定点観測に利用しているベンチマークで、基本的には前回Athlon XP 3200+のレビューで、利用したものと同じだ。 比較対象として用意したのは、システムバスが533MHzのPentium 4 2.26GHz~3.06GHzと、Pentium 4 3GHz、さらにはAthlon XPの2400+以上だ。ビデオカードはATI TechnologiesのRADEON 9700 PRO、HDDにはIBMのIC35L040AVVN07-0(40GB)を利用した。環境は以下の通りだ。 【テスト環境1】
■ベンチマーク結果
全体的な傾向として言えることは、アプリケーションベンチマーク(SYSmark2002やWinstone)では、システムバス800MHzやHTテクノロジに対応した効果はあまり大きくないということだ。これは、現在のベンチマークがマルチスレッドのシナリオをあまり多用していないという原因があるためだが、逆に言えば現時点ではそれほどマルチスレッドに対応したアプリケーションが多くないということの裏返しでもある。 ただ、マルチスレッドに対応したアプリケーション、例えばPhotoshopのフィルター実行時間やTMPGEncのようなアプリケーションでは、大きな効果があることがわかる。HTテクノロジに対応していないPentium 4は、Athlon XPに比べて低い結果になっているが、逆にHTテクノロジに対応しているPentium 4では、それを上回っている。マルチスレッドに対応したアプリケーションを多数持っているユーザーであれば、大きな意味があるということができるだろう。
今回は、Intel 865ファミリーのパフォーマンスをチェックするために、Intel 875P、Intel 850E、Intel 845GE、E7205、SiS655、P4X400の各Pentium 4用チップセットを搭載したマザーボードを集めて、ベンチマークを行なった。 なお、Intel 865のテストに利用したのは、Intel 865Gを搭載したIntel D865GBFだが、内蔵グラフィックスを利用せず、AGPカードを挿入してのテストとなったので、実際にはIntel 865PE相当のテストだと考えてよい。環境は以下の通りで、結果はグラフ11~19の通りだ。 【テスト環境2】
■ベンチマーク結果
Intel 865GとIntel 875Pの比較だが、メモリ帯域幅のテストや、メモリ性能の影響が小さくない3D系のベンチマークではIntel 875PがIntel 865を上回り、確かにPATの効果があることがわかる。しかし、アプリケーションベンチマーク(SYSmark2002やWinstoneなど)では、Intel 875PはIntel 865Gとほぼ同等か、逆に下回るという結果しか残さなかった。 こうした結果を見ると、値段差の割にはPATの効果に疑問符が付くと言わざるを得ない。確かに、3Dなど一部のベンチマークでは若干の差がでているので、パフォーマンスにこだわり、数千円~1万円程度のコストを払ってもいい、というユーザーであれば、Intel 875Pを選択するというのもありだが、そうでなければIntel 865ファミリーがお奨めということができる。
以上のように、新しい低価格HTテクノロジ対応Pentium 4および、Intel 865のパフォーマンスをチェックしてきた。 HTテクノロジ対応Pentium 4に関しては、HTテクノロジに対応していることをどう考えるかが選択の分かれ目になるだろう。マルチスレッドに対応したアプリケーションを持っていて、普段複数のアプリケーションを同時に利用するような機会が多いユーザーであれば、HTテクノロジに対応した製品を買うメリットはあるだろう。 従来製品との価格差も実売レベルで3~4千円程度である。この程度でHTテクノロジ+800MHzのシステムバスの製品を購入できると考えられればメリットは小さくない。逆にそこにあまりメリットを感じなければ、やや安価な従来のPentium 4とIntel 865という組み合わせもありだろう。 また、Intel 865に関しても、Intel 875Pを搭載したマザーボードが2~3万円、場合によっては3万円以上であるのに対して、1~2万円のレンジに収まっており、Intel 875Pに比べれば圧倒的にコストパフォーマンスは高い。 もう1つ大事なことは、Intelが次にプラットフォームを大きくアップデートするのは、来年の第2四半期に投入が予定されているGrantsdaleとなることだ。今のところこの間に新しいチップセットは計画されていない。 また、Intel 875P、Intel 865は、Intelの次期プロセッサであるPrescottのサポートも視野に入れたPrescott FMBというデザインガイドを元に作られている。Intelは本日の発表会で、Intel 865マザーボードのBIOSをアップデートすれば、Prescottに対応できると明らかにした。 そう考えれば、Intelプラットフォームを選択するのであれば、いまプラットフォームを更新するというのはお奨めの選択と言え、まさに買い時であるのだ。 □関連記事 (2003年5月22日)
[Reported by 笠原一輝]
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