昨年のWinHECでは、OQOがTransmeta TM5800ベースの小型のPC「Ultra Personal Computer」を公開して注目を集めた。今年のWinHECでもMicrosoft副社長ウィル・ポール氏の基調講演においてWindows XPが動作する小型PCのプロタイプが公開され、こちらも大きな注目を集めた。 日本でも、昨年はバイオUがリリースされて大きな話題を呼び、今年はBaniasコアのCeleron 600A MHzを搭載したバイオU101が発表され、さらに注目を集め続けている。そうした中、各CPUベンダやOSベンダは、これらマイクロPCに向けたコンポーネントをリリースする計画を進めているという。 ●立ち上がり始めたマイクロPC
ウィル・ポール副社長の基調講演において、MicrosoftはバイオUよりもさらに小型のプロトタイプPCを公開した。Vulcanというポール・アレン氏の会社が作成したこのプロトタイプは、バイオUよりもさらに一回り小さなディスプレイを採用しており、おそらく5インチ程度の液晶を搭載しているとみられている。 現在PC業界は、こうしたミニノートPCよりもさらに小型の液晶を搭載したより小さなPCの可能性を真剣に探っている。こうしたセグメントは、マイクロPC(Micro PC)ないしはウルトラPC(Ultra PC)というセグメント名で呼ばれており、昨年頃から少しずつデザイン例が公開され始めている。 昨年のWinHECではOQOというベンダがTM5800を搭載したマイクロPCを報道陣に公開していたし、IBMが研究開発を進めていたMeta Padは、カナダのあるベンダにより企業向けとして販売が開始されている。 日本でも、昨年はバイオUがヒットし、ソニー以外のベンダもこうした市場の可能性を真剣に検討している段階にある。ソニー以外のベンダでも、バイオUのようなフォームファクタの製品を検討しているという噂は根強くあるし、バイオUがヒットを続けている現状を考えると、他のPCベンダがバイオUと同様の製品を投入しても何ら不思議ではない状況だ。 ●マイクロPCの可能性を探ってきたTransmetaとVIA Technologies
CPUベンダ側も、そうした動きに対応し始めている。Transmetaは、最も早くからこうした市場の可能性を探ってきたCPUベンダだ。Transmetaは、その低い熱設計消費電力と平均消費電力を生かし、マイクロPC市場の確立につとめてきた。 OQOやMetaPadは、そのデザインウィン(製品に採用されること)の例であり、同社 マーケティングディレクター マイケル・デネフィ氏は「当社にとって、Ultra PC(筆者注:TransmetaはマイクロPCのことをUltra PC=UPCと呼んでいる)は大きな可能性を秘めている市場だ。他社の低電圧版や超低電圧版のCPUは、6W~10Wのレンジで、こうした製品には適していない。これに対して当社のTM5800には5W、そしてそれ以下の製品を用意しており、ファンレスの製品を製造することが可能になる」とのべ、Transmetaが今後もそうした市場に注力しつづけていく姿勢を明らかにしている。 VIA Technologies(以下VIA)もそうした可能性を探っているベンダの1つだ。VIAはNehemiah(ニアマイア)コアを利用したノートPC向けCPUとしてAntaur(アンター)という製品を用意しているが、Antaurの熱設計電力は12Wとなっており、Intelでいえば低電圧版(LowVoltage=LV)に相当する製品となっている。 だが、さらにその下のEdenに関しては6Wと3Wという2つの熱設計消費電力の製品が用意されている。現在提供されているのは6Wの製品がEden ESP600/500で、3Wの製品がEden ESP400となっている。EdenのメインフォーカスはIAなどのコンシューマ向け製品だが、もちろんマイクロPCもターゲットになっており、VIAもそうした可能性を探っているという。 ●Intelは2004年に熱設計消費電力5Wの超低電圧版Celeronを提供
もちろん、Transmetaの動きを警戒するIntelも、マイクロPCの可能性に注目しているメーカーの1つだ。IntelがソニーのバイオU101に提供したCeleron 600A MHzは、公式なロードマップには掲載されていない製品だが、Intelはソニーだけでなく、他のOEMベンダにも声をかけているという。おそらく、今後ソニー以外のベンダもそうした製品を採用する可能性があるといえる。 このCeleron 600A MHzはIntelにとってテストマーケティング的な意味合いを持つ製品だ。というのも、Intelは2004年の第1四半期に超低電圧版のCeleron 800A MHzを投入する。この超低電圧版モバイルCeleron 800A MHzは、Dothanコアを採用しながら1MBのL2キャッシュを搭載している製品となる(つまり超低電圧版Dothanのハーフサイズキャッシュ版となる)。これまでのモバイルCeleronと同じようにSpeedStepテクノロジには対応していない。 超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzがロードマップには載っていない特別な製品であったのに対して、超低電圧版モバイルCeleron 800A MHzはIntelのOEMメーカー向けロードマップに掲載されている“公式な”製品となる。 当初、Intelのモバイル向けロードマップにはこうした製品はなかったのだが、3月頃からこの製品の存在がOEMメーカーに対して説明されるようになった。これは、超低電圧版モバイルCeleron 600A MHzがある程度の成功を収めたからだと考えていいだろう。 注目したいのは、この超低電圧版Celeron 800A MHz、そして2004年の第2四半期に投入される超低電圧版Celeron 900MHzでは、熱設計消費電力が5Wになっていることだ。ファンレスである必要があるマイクロPCの限界の熱設計消費電力は5Wであるといわれていることを考えると、このCeleronの2製品は明らかにマイクロPC市場をねらったものだと考えるのが妥当だろう。 ●マイクロPCに特化したWindows XP“GO PC”のソリューション
このようにハードウェアベンダの準備が整いつつある現状から、OSベンダのMicrosoftもそれに向けた準備をしているという。OEMメーカー筋の情報によれば、Microsoftは“GO PC”という開発コードネームで呼ばれるマイクロPC向けのOSを、今年の後半に投入予定という。 現在のところGO PCに関する情報は多くない。わかっていることは、Windows XPをベースにして、不要な機能を削り、マイクロPCに特化したものになるという。いくつかの機能が削られているとはいえ、基本的にはフルのWindows XPとなるので、Win32のアプリケーションがそのまま動作することになる。 ただし、GO PCの最初のターゲットは、バイオUのようなコンシューマ向けではなく、エンタープライズ向けとなると情報筋は伝える。このため、最初の世代では、営業マンなどのビジネス用途、工場における在庫管理といった、バーチカル向けの用途を含めたエンタープライズ向けの製品に搭載されることになるだろう。 ●2003年の後半から2004年にかけてx86ベースのマイクロPCが続々登場
だが、コンシューマ市場においても可能性がないわけではない。バイオU1/U3が大ヒットした昨年の例や、バイオU101が発売と当時に売り切れ状態になっている現在の状況は、その大きな可能性を証明するものだといえる。 こうしたマイクロPCのアドバンテージはいうまでもなく、Win32のアプリケーションが使えることだ。ユーザーは自分の好みに合わせて設定することが可能だし、標準で搭載されていない機能でも、自分の好みのアプリケーションをインストールすれば利用することが可能になる。 Transmeta、VIA、Intelなどによる省電力なCPU、そしてそれをサポートするMicrosoftのOSといった各要素のプランが出そろうことで、マイクロPCの市場形成に向かって状況は確実に動いており、今年の後半から来年にかけてマイクロPCが登場する下地が整ってきたと言える。今後OEMメーカーによる具体的な製品の登場に期待したい。
(2003年5月13日) [Reported by 笠原一輝]
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