笠原一輝のユビキタス情報局

2005年のノートPCプラットフォームを予測する




 Intelが、Baniasの後継としてDothan、Jonah、Merom、Giloというプロセッサコアを計画しているというのは前回のレポートでお伝えしたとおりだが、チップセットも同じようなタイミングで拡張していく。

 というのも、Intelはモビリティ向けCPUを単体ではなく、チップセット、そして無線LANとセットで“Centrinoモバイル・テクノロジ”と位置づけているからだ。本記事ではそうしたIntelのモバイル向けチップセットの詳細に関してレポートしていきたい。

●年末に登場するIntel 855PME/GMEでシステムバスを引き上げる

 前回のレポートでも説明したように、Intelは現在のPentium Mプロセッサ(開発コードネーム、Banias:バニアス)の後継コアとして、今年の第4四半期にDothan(ドタン、開発コードネーム)と呼ばれる後継製品を用意している。Dothanでは、L2キャッシュが2MBに増やされるなど若干のマイクロアーキテクチャの拡張が施され、25Wという熱設計消費電力の壁を維持しながらクロックの上昇が行なわれる。

 このDothan用のチップセットとしてIntelが用意しているチップセットが、Intel 855PME(開発コードネーム、Odem+:オデムプラス)とIntel 855GME(開発コードネーム、Montara-GM+:モンタラジーエムプラス)の2つの製品だ。

 この2つの製品は、その製品名からも想像できるように、現在のPentium M用チップセットであるIntel 855PM、Intel 855GMの後継となる製品となる。

 元々、IntelはDothan用のチップセットとして、Intel 855GMEだけを計画していたのだが、OEMメーカー側が強力に「Odemの後継を」とプッシュした結果、Odem+のラインが急遽追加されたようだ。

 実際、Odemの省電力を評価しているエンジニアは多く、そうしたOEMベンダ側の要求が反映されたというわけだ。なお、Montara-GM+のバリエーション版として、トランスポータブル市場向けにIntel 852GME/PME(開発コードネーム、Montara-sGT:モンタラジーティ)も用意される。

 Intel 855PME、Intel 855GMEの特徴は大きく3点ある。1つ目はシステムバスのクロックが引き上げられること。2つ目は、メインメモリはDDR333に対応すること。そして3つ目はIntel 855GMEのみだが、内蔵グラフィックスコアのクロックが250MHzに引き上げられ、さらにそのクロックを動的に切り換える機能が追加される(NVIDIAのPowerMizerやATIのPOWERPLAYのような機能だと考えるといいだろう)。

 これらにより、処理能力は引き上げられることになるだろう。ただし、プラットフォームレベルでは若干の消費電力の上昇につながるというデメリットもある。チップセット自体が高いクロックで動くようにVcc(コア電圧)が引き上げられるほか、メモリもクロックが上昇することで消費電力が増え、またシステムバスもクロックが引き上げられることで、やや電圧が上がる可能性が高い。

 例えば、OEMメーカー筋の情報によれば、Intel 855GMEはシステムバスが同じ400MHz時で、熱設計消費電力がIntel 855GMの3W台からやや上がって4W台になり、平均消費電力もIntel 855GMから0.3Wほど上がってしまうという。だから、OEMメーカーは元々低消費電力で次期バージョンでも低消費電力であることが期待できるOdemの“+”バージョンを欲しがり、Intel 855PMEが急遽ラインナップに加えられたのだろう。

Intel 855GM(Montara-GM)のブロック図 Intel 855GME(Montara-GM+)のブロック図(筆者予想)

●2004年の後半、Alviso-GMで大きく進化するCentrinoプラットフォーム

 2004年の後半には、Intel 855PME/GMEの後継として、Alviso-GMというチップセットが用意されている。OdemのAlviso世代のチップセットは用意されないので、Alviso-GMにはバリエーションとして内蔵グラフィックスが無効にされたバージョン(PM版)などが用意されることになる。

 なお、Alviso-GMは、Centrinoのプロセッサだけでなく、トランスポータブル市場用のPrescott-MやTejas-Mといったトランスポータブル市場向けのバージョン(GT版)も用意される。

 Centrino向けのAlviso-GMは、DothanとDothanの後継製品として2005年に登場するJonah(ヨナ、開発コードネーム)という2つのプロセッサをサポートする。このAlviso-GMは、従来のOdem/Montara系の発展系ではなく、ほとんどフルスクラッチの新設計チップセットとなる。その最も大きな要因はサポートされるバスアーキテクチャが現在のAGP/PCIからPCI Expressへと移行し、メモリもDDR1からDDR2へと移行するからだ。

 DDR2のサポートだが、どのようにDDR2へ対応することになるのか、その確定した仕様はまだ伝わってきていない。だが、ある情報筋によれば、クロックは533MHz、つまりDDR2-533をシングルチャネルでサポートされることになるという。だが、これは確度が高くない情報で、実際には違う可能性もある。確実なのはDDR2に対応するという事実だけだ。

 デスクトップPC向けのDDR2世代のチップセットは2004年の第2四半期に投入されるGrantsdaleだが、GrantsdaleではDDR2-533のデュアルチャネルとなるが、モバイルではデュアルチャネルとはならない可能性が高いだろう。

 その理由としては、3つが考えられる。第一に、モバイルでは、2チャネルをサポートすれば、2つしかないSO-DIMMソケットに2枚のDIMMを標準で挿入することになり、コストに跳ね返るほか、ユーザーがアップグレードする際には標準搭載された2枚のSO-DIMMを取り外して、新しく2枚を挿さなくてはいけなくなる。

 第二として、基板デザインの問題だ。現在ノートPCのマザーボードは8層ないしは10層で作られているが、仮にデュアルチャネルにした場合には、こうした基板では作れずに、12層などより高コストな基板を利用する必要がでてくるかもしれないことだ。

 最後に、システムバスは533MHzないしは667MHz程度であると考えられるので、システムバスとメモリの帯域幅のバランスを取るというこれまでのIntelのポリシーから考えると、性能面ではデュアルチャネルにする必要性は薄いと考えられることがあげられる。

 グラフィックスバスは、Odem/Montara世代で採用されているAGP 4XからPCI Express x16に移行する。PCI Express x16は、IntelがGPUベンダと協力して仕様を策定しているグラフィックス用のPCI Expressバスで、デスクトップPCではGrantsdaleでも導入される。現在の2大GPUベンダであるATI TechnologiesとNVIDIAはこのタイミングに合わせてデスクトップPC用のPCI Express x16対応GPUを投入してくる。

 現在、ATI、NVIDIAとも、デスクトップPCのGPU投入後、1、2カ月後ないしはほぼ同時にモバイル用のGPUをクロック、電圧を下げることで投入するという開発フェーズになっているとう現状を考えると、やはりAlviso-GMのタイミングで、モバイル用のPCI Express x16対応GPUが投入される可能性が高い。

Alviso-GMの予想される仕様から作成したブロック図(筆者予想)

●PCI Express x1ベースの新世代のPCカードとなるNEWCARD

 Alviso-GMでは、サウスブリッジがICH6-Mとなる。Odem/Montara世代ではサウスブリッジとしてICH4-Mが利用されており、デスクトップPC用のICHからほぼ1年遅れてモバイル用の-Mが登場するというのが通例になっていたが、Alviso世代では半年程度の遅れで最新のサウスブリッジが登場することになる。というのも、サウスブリッジもPCI Expressベースのものに移行する必要があるからだ。

 Intelは、PCMCIAが規格化を奨めているPCI Expressベースの次世代PCカードであるNEWCARD(ニューカード、開発コードネーム)を、2004年のデスクトップPCおよびノートPCで採用する予定にしている。

 実際、IDFで公開されたTejasを利用したリファレンスデザインである“Powersville”においてNEWCARDを実装するとしており、2004年にリリースされる多くの製品で、NEWCARDスロットが用意されることはほぼ間違いない。当然、ノートPCにも採用されることになるので、Alviso-GM世代ではPCI Expressをサポートすることが必須なのだ。

 NEWCARDは現行PCカードの約半分の大きさになる“Single Wide”、そのSingle Wideのカードを2枚くっつけたような“Double Wide”のカードが存在し、それぞれアンテナやコネクタなどの拡張部分を装着した“Extended”と呼ばれる製品も用意される。

 内部のインターフェイスはPCI Express x1ないしはUSB 2.0で接続され、カードベンダがどちらかを選択して利用することになる。

 従って、PCI Express x1を利用した場合には、帯域幅は現行CardBusに対応したPCカードスロットの132MB/secから上がり、250MB/secとなる(USB 2.0利用時には、480Mbit/sec=60MB/sec)。NEWCARDでは、電圧として3.3Vに加えて新たに1.5Vが規定される。現行のCardBusでは3.3Vと5Vのみとなっており、省電力という点でもNEWCARDは有利だ。

 このほか、ICH6-Mでは、Serial ATAに対応するのがメジャーな変化だと言える。ノートPCではICH5が飛ばされることになるので、ノートPC用となる2.5インチおよび1.8インチのハードディスクがSerial ATA化されるのはこのAlviso-GMのタイミングとなる。

●予想される2005年のCentrinoノートPCの姿

 上記の情報などを元に、2005年のCentrinoノートPCのスペックを予想してみると、以下のようになる。

■2005年のCentrinoノートブック(筆者予想)
・JonahコアPentium M 2.XGHz
・Alviso-GMチップセット
・PCI Express x16グラフィックスバス
・NV40世代ないしはR500世代のPCI Expressグラフィックスチップ
・DDR2-533メモリ
・ICH6-M
・2.5インチSerial ATAハードディスク
・8ポートUSB 2.0
・NEWCARDスロット
・PCI Expressドッキングスロット
・11a/b/gの無線LANカード(Calexico2ないしはPCI Express版Calexico)

 こうした予想を元に、2005年のノートPCの姿を予想してみると、以下のようになる。

予想される2005年のCentrinoベースのノートPCの姿(筆者予想)

 このように、Alviso-GMの投入により、2004年の後半から2005年にかけて、Centrinoモバイル・テクノロジのノートPCは大きなプラットフォームの変革を迎えることになるのだ。

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(2003年4月21日)

[Reported by 笠原一輝]


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