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FSB 1GHzのサポートは問題なし、FSB 1.33GHzには課題が
~Intelキーパースンインタビュー [後編]




ウイリアム・M・スー副社長兼ジェネラルマネージャ

 4月9日~11日まで開催されたIntelの開発者向けカンファレンス「Intel Developer Forum(IDF)」。今回は、Intelのデスクトップ部門を担当する、ウイリアム(ビル)・M・スー(William M. Siu)副社長兼ジェネラルマネージャ(Vice President and General Manager, Desktop Platforms Group)に、今後の戦略を伺った。インタビューは、ライター笠原一輝氏と共同で行なっている。

●2004年チップセットではPCI Expressはx16とx1を実装

[Q] Intelは来年PCI Expressチップセットを導入しようとしている。IDFで見せた例では、PCI Express x16をノースブリッジ(MCH)に、PCI Express x1をサウスブリッジ(ICH)に持つように見えた。

[Siu氏] その通りだ。

[Q] なぜサウスのPCI Expressはx2ではなくx1なのか。

[Siu氏] それはコストと要求される性能との関係からだ。現状では、サウスブリッジに接続される(デバイスが必要とする)性能は低いのでx1で十分だ。徐々に上がって行くだろうが、今は必要ない。

[Q] Gigabit Ethernet(GbE)も、Intel 875ではノースブリッジに用意された専用のCSAに接続している。しかし、これも来年にはCSAではなくサウスのPCI Express x1へ移るのか。

[Siu氏] その通りだ。

[Q] GbEのチップセットへの統合は。

[Siu氏] 統合の方向にはないだろう。PCI Expressへの接続が適切だと見ている。

[Q] PCI Expressはチップセット間接続には使わないのか。

[Siu氏] 技術的には可能だ。基本的にPCI Expressはスケーラブルな技術だから、様々な部分に適用できる。しかし、コストとインフラストラクチャを考えた場合、効率的かどうかは別な話だ。

[Q] PCI Expressではシリアル化のオーバーヘッドがある。チップセット間接続では、これが問題か。

[Siu氏] 確かにオーバーヘッドがある。しかし、その分転送レートが上がって相殺されるため、問題にはならないだろう。

[Q] 現在のATXはPCIバスによってフォームファクタが制約されている。しかし、PCI Expressへと移行が進むと、ATXである必然性はなくなる。ATXはなくなると思うか。

IDFの基調講演で展示されたコンセプトモデル「Marble Falls」

[Siu氏] 長期的にはその通りだ。我々はIDFでATXとは完全に異なる新しいコンセプトプラットフォーム「Marble Falls」を示した。PCI Expressでは、こうした面白いフォームファクタを実現できる。しかし、業界のフォームファクタの変化がきわめて遅いのは、あなたも知っている通りだ。ATXタワーからミニタワーへの移行でさえ2年もかかった。その理由はコストだ。そのため、変化が1~2年で起こることはないだろう。

[Q] PCのフォームファクタは、複数の形態に分裂して行くと思うか。

[Siu氏] 確実に、コストと機能性が異なる2つ以上のフォームファクタになって行くだろう。PCI ExpressとUSB 2.0などによって、筺体外との高速接続の可能性も開ける。これもまたフォームファクタを変化させるだろう。

●FSB 1GHzは可能だがFSB 1.33GHzは困難もある

[Q] Intelは来年のチップセットでDDR2メモリ「DDR2-400/533」もサポートする。DDR2メモリはどの容量帯からスタートすると見ているのか。

[Siu氏] メインは256Mbit品からスタートし、512Mbit品へと移行するだろう。(その移行を)最終的に決めるのはコストだ。多分、メモリベンダによって移行の時期は少しずつ違うだろう。

[Q] DDR2は、同容量のDDRメモリよりどうしても高コストになる。DDRが256Mbitに留まり、DDR2が512Mbitに移行すればビットクロスの時点で、ビット当たりのコストが同等になる。そのため、DDR2メモリは、来年サポートを始める時点では割高になるのではないのか。

[Siu氏] わずかに高いだろう。しかし、メモリ産業のダイナミックスを信じるなら、すぐに低価格に落ちてくるはずだ。メモリ産業は、これまでに十分移行の手順を学んでいる。(1番手のサプライヤによる)最初の生産段階では、常に割高だが、2番手・3番手のサプライヤが提供する段階になると、すぐに価格が下がる。DDR2も今はプレミアム価格だが、1年で一気に下がるだろう。

[Q] JEDECでは「DDR2-667」の策定を行なっている。IntelもIDFではDDR533より高速なメモリ帯域のサポートの可能性を示唆していた。しかし、デュアルチャネルのDDR2-667メモリに見合うFSBは1,333MHzとなってしまう。FSB 1,333MHzは実現できるのか。

[Siu氏] 答えるのが難しい質問だ。技術的には答えはイエスだ。しかし、課題もある。Intelと他のチップセットメーカーの大きな違いの1つは、我々が高速なメモリをサポートできるという場合には、どのボードベンダーもサポートできるようにすることだ。1社の設計が対応できるのではなく、誰もが4層基板で対応できるように確認する。また、どのメーカーのメモリでも動くようにする。これが大きな課題となっている。

 1年前のインタビューで、DDR400をサポート可能かと、私が質問されたのを覚えていると思う。その時点ではDDR400はまだ確実ではなかった。しかし、実際にデータを入手し最適化をした結果、(DDR400とFSB 800が)可能だとわかった。どこまで(高転送レート)のDDR2をサポートできるかについても、同じことが言える。

[Q] いったいFSBはどこまで高速化が可能なのか。

[Siu氏] 知っての通り、現在のメモリとFSBの難問は、非常に広いインターフェイスを高速に駆動する点にある。我々は、転送レートが1GHzを超える程度のFSBなら問題はないと考えている。しかし、1.33GHz FSBを標準的な製法の4層基板で実現するとなると、ずっと難しいのは確かだ。もちろん6層基板にするなら可能だが、その場合はコストがかかりすぎる。技術とコストのトレードオフを考えなくてはならない。

[Q] 基板の絶縁素材の改良も進んでいるが。

[Siu氏] その通りだが、採用できるかどうかは定かではない。我々もテストをしているが、究極の問題はコストだ。

[Q] Intel CPUは今後2010年には15~20GHzになるという。そんな高速CPUに見合うメモリとFSBを低コストに実現できるのか。

[Siu氏] その問題は理解しており、研究している。確かに、プロセッサの性能が向上を続けると、メモリとFSBも向上させなければならない。帯域を向上させるにはいくつかの手法がある。ひとつは、より高速なパラレルインターフェイスだが、それには電気的な設計が難しいという難点がある。一方、より幅の狭いインターフェイスで高速化する手法もある。RDRAMがそうした技術の好例だったが、RDRAMには他の問題があった(笑)。

●Prescott向けマザーボードガイドライン

[Q] IntelはOEMベンダーに対して、マザーボードのデザインのガイドライン「Flexible Motherboard (FMB)」を提供している。次世代CPU「Prescott」向けにも「Prescott FMB1」の他に「FMB2」を準備しているとOEMから聞いている。

[Siu氏] IntelがFMBを提供するのは、パフォーマンスと機能とコストを特定するためだ。例えば今の世代の製品を見ると、Northwoodの登場時から最終段階では、動作周波数はほぼ50%上がっている。もし、最初のFMBで3.0~3.2GHzを可能にするマザーボードの構成を提供していたら、多くの不要なコストをかけさせることになっていただろう。しかし、FSB1とFMB2に分ければ、顧客はコストとパフォーマンスの間で最適な設計をできるようになる。

[Q] FMB2の提供期間は、FMB1より長くなるようだが。

[Siu氏] FMB1とFMB2は多少オーバーラップする。目下、我々は(Prescott向けの)FMB1を提供している。FMB1は、顧客にNorthwoodからPrescottへの移行を可能にするデザインだ。(CPUの移行に)CPUソケットやチップセットの移行が伴うと、顧客がなかなか速やかに移行できない。しかし、Prescottでは(マザーボードに)大きな変更は必要ない。また、Prescottのダイサイズが小さいため、生産も迅速に立ち上がるだろう。だから、Prescottへの移行は速やかだと考えている。

[Q] Prescottでは、FMB1とFMB2で電力供給に違いがあると聞いている。FMB2では供給電力が大幅に増えるだけでなく、ボルテージレギュレータはFMB1の3フェイズに対して4フェイズになり、より設計が難しくなっている。

[Siu氏] 確かにその通りだ。マザーボードでの電力供給について言うと、コストを決める要因は2つ。ひとつはフェイズ数、もうひとつはデカップリング・キャパシタンスだ。しかし、FMB1とFMB2に分けたことで、顧客は異なる機能と価格帯で最適化ができる。そのため、我々はこれによって、FMB2でのマザーボード設計の困難が増えるとは思っていない。

[Q] 現在のFMBの問題は電力供給だ。CPUの消費電力が増えるに連れて、マザーボードを通る電流量が増えている。これが設計の難度を増している。マザーボードを通さないで直接CPUに電力供給する方法は考えていないのか。

[Siu氏] それは可能だ。恐らく、あなたは多くの企業がそうした方法に注目しているのを知っているはずだ。我々も、すでにその種の電力供給方法をItaniumで使っている(インタポーザ経由で供給)。有効なのは確かだ。しかし、課題はコストを低くすることだ。

 もし、そうした方法が低コストに可能になるなら、魅力的な要素がいくつかある。ひとつは、FMBデザインを分ける必要がなくなること。(マザーボードの)外部から電力を供給するなら、供給電力のガイドラインが異なるFMBを用意する必要はなくなる。もちろん、電力以外の理由で異なるFMBを用意する必要は出てくる。しかし、現在のように電力のために分ける必要はない。カギはコストだ。

●デスクトップにも無線LANを

[Q] USBの拡張規格は考えていないのか。

[Siu氏] 現段階ではニーズはそう強くない。USB1から2では40倍速になった。将来のインターフェイスを開発する場合には、2倍速では利点がない。最低でも10倍速にする必要があるだろう。

[Q] ワイヤレスUSBの可能性はどうか。

[Siu氏] 話題にはなっている。USBはコモンスタンダードで、無線機能も魅力だ。しかし、ここでも問題はコストだ。私は無線の専門家ではないので、何とも言えないが、ワイヤレスUSBは効率的なプロトコルではないかもしれない。

[Q] Centrinoのように、デスクトップチップセットへ無線LANチップセットを統合する可能性は。

[Siu氏] 我々は、その可能性は明確にあると見ている。これは、USBの時と似ている。USBの最初の製品は(チップセットに)統合されていなかった。しかし、USBが標準的になって来ると、誰もが欲しくなる。そうすると、低コスト化のために統合へと向かう。

 無線は、モバイルだけでなくデスクトップの現象でもあるとIntelでは考えている。実際、多くの接続を無線化できる。デスクトップとCentrino、PDA、デバイスベイステーション、ストレージなどの接続に応用できると考えている。業界にとっても、無線は素晴らしい成長エンジンだ。

[Q] Intelは今年から来年にかけて多くの新技術を立ち上げるようだ。

[Siu氏] そうだ、今年はHyper-Threadingにフォーカスし、第2四半期に多くの製品を発表する。同時にIntel 865/875チップセットでDDR400をサポートする。今年下半期では、90nmのPrescottを出荷する。そして、来年はTejasとGrantsdaleが登場し、PCI Expressなどが導入される。多くのエキサイティングな技術が次々に登場する。

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【4月16日】【海外】パイプラインを拡張して高クロック化を図るPrescott
~Intelキーパースンインタビュー [前編]
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0416/kaigai01.htm
【4月10日】【IDF】次世代プラットフォームのデモを多数公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0410/idf03.htm

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(2003年4月17日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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