【Centrinoノート速攻レビュー(5)】
ノートPCの“メルセデスベンツ”を目指す
日本IBM「ThinkPad T40」



ThinkPad T40
(2373-92J)

 日本アイ・ビー・エムのThinkPad T40は、従来のT30シリーズの後継製品で、Centrinoモバイル・テクノロジに対応したノートPCとして発売された。T40では、従来モデルのT30に比べて、より小さく、より軽く、より速く、そしてより(バッテリ駆動時間が)長くなった製品に仕上がっており、従来モデルに比べてより“モビリティ”を重視した製品となっている。

 T40には、複数のモデルが用意されているが、今回はT40の中で最上位モデルとなる2373-92Jを利用して、T40の魅力に迫っていきたい。なお、レビューに利用したのは最終製品一歩手前のサンプル製品のためベンチマークなどは行なっていないほか、最終製品とは異なる場合があることをお断りしておく。



●T30に比べて10mmも薄く、0.3kg軽くなったT40

 ThinkPad T40は、あらゆる点でThinkPad T30から改善されている。第一に、厚さが36.6mm(最薄部)から26.6mm(同)と10mmも薄くなっている。ちなみに、ThinkPad X31の厚さが24.9mm(同)であるので、1スピンドルマシンのX31とわずかに1.5mmしか変わらない。これは事実上同じ厚さのようなものだと考えていいだろう。さらに、重量も、内蔵ドライブを取り外した状態でT30の2.3kgから2.09kgに軽くなっており、より小さく、そして軽くなっているという傾向が伺える。

 このように小さく軽いデザインが実現した理由は、デザインレイアウトを大きく変えたことにある。

 IBMは、2スピンドルのTシリーズや、その前身といえる600シリーズにおいて、バッテリをパームレストの下に、さらに後面にポート類を、というデザインを採用してきた。ところが、T40では、思い切ってバッテリをポート類があった後面に移動させた。このため、従来のT30では後面にあったEthernet/モデムポートやSビデオ端子、USB端子、RGBビデオ出力などはいずれも左右の側面に移動している(T30にはあったシリアルポートは廃止されている)。

 こうしたデザインを採用したことにより、標準の6セルバッテリに加え、大容量の9セルバッテリも取り付け可能になった。以前であれば、ウルトラベイ2000に内蔵するセカンドバッテリを利用することになっていたのだが、ドライブを利用しつつ大容量バッテリを搭載できるのは便利だ(なお、オプションでT40用の内蔵ベイ用セカンドバッテリも用意されている)。

 もう1つの理由は、内蔵ドライブに9.5mm厚のドライブを利用していることだ。従来のTシリーズやAシリーズなどの内蔵ベイであるウルトラベイ2000で採用されていた12.5mm厚のドライブから比較して薄くなっており、名前もウルトラベイ・スリムと変更されている。

 しかし、これは従来のTシリーズやAシリーズで利用されていたウルトラベイ2000用の周辺機器が利用できないということを意味している。つまり、T30/2Xシリーズ、A3X/2Xシリーズ、X2X/3XのウルトラベースX2/X3に対応している12.5mm高のドライブを所有しているユーザーがT40に乗り換えを検討する場合には、従来機種で利用していたウルトラベイ2000のドライブは利用できない。

 ちなみに別売のフレームを利用すれば、T40のドライブを従来のウルトラベイ2000、つまりT3X/2XやA3X/2Xなどで利用することは可能。

 また、今回T40の発表と同時に、ThinkPadシリーズとしては初のDVDマルチドライブが追加されたが、これは12.7mm高のウルトラベイ2000用となるので、T40では利用できない。

 このあたりは、トレードオフなので、どちらを重視するかで決定すればいいだろう。従来のドライブは使えないが薄く軽いをとるのか、重く厚いけど従来のドライブが使えるのかということだ。つまり、従来のウルトラベイ2000の周辺機器を多数持っているユーザーや、どうしてもDVDマルチドライブを利用したいユーザーはAシリーズや従来のT30シリーズなどを選択し、これから購入するユーザーやウルトラベイ2000の周辺機器を持っていないユーザーであればT40を、という選択になるだろう。

T30(下)とT40(上)の比較。1cmも薄くなっているため、かなりの差を感じる 12.5mm高のウルトラベイ2000用ドライブ(上)と薄くなった9.5mm高のT40用ウルトラベイスリム用ドライブ(下)。T40用のドライブを従来のThinkPadに利用することは、オプションのフレームを利用することで可能だが、従来の12.5mm高のドライブをT40に利用することは不可


●左右の側面に置かれたインターフェイス類

 バッテリが後面に配置されたことで、T30までは後面に置かれていたインターフェイス類は左右の側面に移動されている。

 例えば、後面に置かれていた外部RGBコネクタは、右側面に配置されている。このほか、右側面にはHDD、CD-ROMドライブなどのドライブベイが置かれている。また、HDDはリムーバブル式になっており、簡単に交換することが可能。

 USBポートやEthernet/モデムポート、Sビデオ出力などは左側面に移動している。このほか、左側面にはオーディオ入出力、PCカードスロット(Type 2×2)が用意されており、セキュリティケーブル用の穴も用意されている。背面に残されているのは、パラレルポートだけで、他のポートは用意されていない。

 こうしたインターフェイスの左右側面への移動だが、様々な議論があるだろう。特にケーブルがPCから生えることになるEthernet、モデム、USBなどが左側面にくるのが便利であるのかというのは議論がわかれるところだ。

 ただ、もしケーブルが左右の側面から生えるのが嫌だというユーザーであれば、オプションで用意されているThinkPadポートリプリケータ II(P/N 74P6733)を購入するとよい。ポートリプリケータを利用すれば、ケーブル類をすべて背面に集めることができるほか、外出時にはボタンひとつで簡単にT40をはずすことができるので、ポートリプリケータを利用しない場合に比べてケーブルの取りまわしが楽になり、使い勝手がよい。

 なお、ウルトラベイ・スリムのデバイス取り外しレバーが従来製品に比べて使いにくくなっていることは指摘しておきたい。T30では、レバーがウルトラベイ2000の手前にきていたのだが、T40ではデバイスの下部にレバーがくる形状になっている。レバーが机などに接触してしまい隙間が無く、引っ張りにくいのだ。ただ、これも前述のポートリプリケータがあれば、T40が斜めに固定されるので、机とT40の間に隙間ができ、引っ張りやすくなる。そうした意味でもポートリプリケータは必須の周辺機器といってもいいのではないだろうか。

右側面は、ドライブベイや外部RGB出力が用意されている 左側面にはUSBポート、Sビデオ出力、Ethernet、モデム、オーディオ、PCカードスロットなどが用意されている

後面にはパラレルポートとバッテリが配置されている T40ではデバイス取り外しのレバーがデバイスの下にきており、床と接触していてやや取り外しにくい


●モビリティノートPCとして最強といってよい充実のスペック

 本製品のPCとしての基本スペックは、まさに最強と呼ぶにふさわしい。CPUはPentium M 1.60GHzで、チップセットはIntel 855PMを採用している。また、メインメモリは標準で512MBになっており、SO-DIMMソケットが1つ空いている(標準のメモリモジュールはキーボードの下部にあるソケットに挿入されている)。

 メモリは最大2GBまで対応しており、オプションの1GBのSO-DIMMを利用して最大2GBまで増設できる。

 ハードディスクは、日立グローバルストレージテクノロジーズのIC25N080ATMR04が採用されている。IC25N080ATMR04は、9.5mm高で80GBの容量を持つ4,200回転のドライブとなっている。従来のT30シリーズには5,400回転のドライブが採用されていたのに比べると、転送速度という観点では後退していると言える。しかし、容量は80GBと9.5mm高の製品としては最大容量となっており、今回は速度よりも容量を優先したということなのだろう。筆者個人としては、速度よりも容量の方が問題になることが多いと思うので、大歓迎だが、速度にこだわる人にとってはやや残念な話だろう。

 光ディスクは、9.5mm厚の松下電器のUJDA745が採用されている。UJDA745はDVD-ROM/CD-RWコンボドライブで、CD-R最大16倍、CD-RW最大10倍、DVD-ROM最大8倍、CD-ROM最大24倍というスペックになっている。

 バッテリは、10.8V/4,400mAhとなっており48W/hという容量だ。バッテリ駆動時間だが、メーカー公称のJEITA測定法1.0で4.4時間となっており、2スピンドルノートPCで4時間強という駆動時間は十分賞賛に値するといっていいだろう。

【お詫びと訂正】初出時、最大メモリ容量について誤って表記しておりました。正しくは、最大2GBとなります。お詫びとともに訂正させていただきます
メモリスロットは、キーボードの下部に1つと、背面に1つ用意されており、1つが標準で空いている キーボードはT30と同じくパットも使えるウルトラナビを採用している。トラックポイントのキャップはX31と同じく新しいものに変更されている

ハードディスクは標準で80GBになっている。リムーバブルで、簡単に交換が可能


●MOBILITY RADEON 9000の採用で満足できるグラフィックス周り

 グラフィックスチップにはATI TechnologiesのMOBILITY RADEON 9000が採用されている。MOBILITY RADEON 9000はDirectX8.1に対応したグラフィックスチップで、ビデオメモリは32MBとなっている。

 すでにATIはMOBILITY RADEON 9600を発表しているが、採用されたノートPCが登場するのはもう少し先になる可能性が高いので、現時点では最高クラスの性能を持つノートPC用ビデオチップの1つだといっていいだろう。

 なお、X31と同じように、マルチディスプレイ機能を設定するHydraVisionのユーティリティが付属しているほか、S端子のビデオ出力が左側面に用意されている。画面の切り換えもX31と同じように、Fn+F7で行なえる(このあたりに関してはX31のレビューも合わせて参照して頂きたい)。

 液晶ディスプレイは14.1型となっており、解像度はSXGA+(1,400×1,050ドット)/32bitカラー(1,677万色)となっている。明るさ、視認性なども十分満足できるものだと言えるだろう。


●ギガビットEthernet、デュアルバンド無線LAN、Bluetooth、IrDAとなんでも内蔵

 ネットワーク周りに関しては、X31と同様で(正確にはX31がT40と同様の機能を備えているといったほうがいいと思うが)、考えられる限りのネットワーク機能を備えている。EthernetはギガビットEthernetに対応しており、理論値で最大1Gbit/sec(128MB/sec)の転送が可能だ。

 ただし、利用されているギガビットEthernetのコントローラはIntel PRO/1000 MT Mobile Connection(FW82546EBM)となっており、PCIバスに接続されている。PCIバスの帯域幅は133MB/secとなっており、帯域幅から考えるとギガビットの性能をフルに発揮できるわけではない(これはT40固有の問題ではなく、PCIバスの問題で、これを解決するにはPCI ExpressのノートPCへの普及を待つほかない)。しかし、現状の100BASE-TXなどに比べれば、圧倒的に高速であるはずであり、このあたりは製品版が入手でき次第試してみたい。

 第2四半期にIntelが投入するデスクトップPC向けチップセットのCanterwood/Springdaleでは、CSAと呼ばれるギガビットEthernet専用バスが導入される予定であり、今後はデスクトップPCではギガビットEthernetが標準機能となる可能性が高い。また、ネットワーク機器ベンダも安価なギガビットEthernetハブの投入を計画している。そういう今年後半の動向を見据えると、ギガビットEthernetの標準搭載は高く評価していいだろう。

 無線LANは2.4GHzと5GHzの2つの帯域に対応したデュアルバンドになっている。2.4GHzでは、一般的なIEEE 802.11bに準拠しており、11Mbpsで通信できる。5GHzではIEEE 802.11aに準拠しており、最大54Mbpsで通信することが可能だ。なお、11aでは国内向けのチャネルである34、38、42、46の4つとなっており、基本的に日本国内でしか利用できないと考えてよい(米国の11aのアクセスポイントはこれらのチャネルをサポートしていない)。このほか、BluetoothやIrDA(最大4Mbps)にも対応しており、ネットワーク周りに関しては最強と言っていいだろう。

 なお、これらの複数のネットワークインターフェイスは、付属のIBM Access Connectionsを利用して切り換えることができる。また、無線のオン、オフはFn+F5で行なえるが、これらの機能も基本的にはX31と同等なものになっている。


●パソコン業界のメルセデスベンツ、価格もベンツ並みだがそれだけの価値はある

 以上のように、T40は、スペックはノートPCでトップクラス、X31と同様の充実したユーティリティ類による使い勝手もトップクラス、ネットワークインターフェイスもほぼ全部入りでトップクラスと、ノートPCの頂点に位置する製品といっても褒めすぎではないだろう。

 ただし、価格もトップクラスだ。T30では50万円弱だったとことを考えると、T40の40万円台前半はかなり安い。それでも同じようなスペックのバイオノートZが30万円台であることを考えると、あまりに高いといえるだろう。つまりスペックや使い勝手が超弩級なら、価格も超弩級なのだ。

 ただ、考え方を変えてみることが必要だろう。価格が高いというのは、それだけで悪いことなのだろうか? 逆に考えれば、これだけの製品クオリティやスペックを実現するから、こうした値段になってしまったと考えることは可能ではないだろうか。

 例は悪いかもしれないが、自動車を見てみれば、同じ2リッターエンジンを搭載した車でも、とにかく安い価格を実現するということにフォーカスを絞った製品があるのに対して、逆に高いけど良質なパーツを利用して高品質をねらった製品もある。両者には下手をすれば100万円以上の価格差というのが存在する場合もあるが、後者が市場から淘汰されているかと言えばそうではない。

 同じことがPCにも言えるのではないだろうか。以前、T30のレビューの時に、筆者は「T30はPC業界の“いつかはクラウン”だ」と述べた。そこには、高品質で高価な、みんなのあこがれという意味を込めたのだが、その後あるIBMの関係者の方からメールをいただいて「内部ではメルセデスベンツと冗談で言ってます」という指摘をいただいたことがある。

 クラウンか、メルセデスかという差はとりあえず置いておくとして、IBMがそうした“高級車志向”ならぬ“高級ノートPC志向”という考え方をしてTシリーズを設計していることは明らかだろう。しかし、そういう製品も市場における選択肢が増えるという意味では必要だと思うし、ユーザーとしても、価格だけでなく品質で勝負するメーカーがあるということは歓迎すべきことだろう。

 そうした意味で、T40はすべてのユーザーに奨められる製品ではないことは事実だが、高性能で、どのようなシーンにおいても利用可能で、かつ高い機動性を備えており、ノートPCを武器にビジネスをより効率よく行ないたいというユーザーには優れた選択肢となるだろう。

 T40を導入することによって快適なビジネス環境を実現し、より多くの利益を得ることができれば、その投資は十分に回収できるだろう。目先の価格ではなく、多少の投資をしても、ビジネスを快適に行ないたい、と考えるようなビジネスユーザーにこそ本製品をお奨めしたい。

□関連記事
【3月12日】日本IBM、Centrino準拠のThinkPad X31とT40/T40p
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0312/ibm.htm

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(2003年3月24日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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