●標準ナビゲーション規格「MPV」発表 ドイツでのCeBIT開催を控えた3月11日、光ディスク関連の標準化団体であるOSTAが、「MPV」と呼ばれる規格をリリースした。MPVはMusicPhotoVideoの略。音楽、静止画、動画など、CODEC(コーデック)で圧縮されたデジタルコンテンツが書き込まれたメディアのナビゲーションに関する標準だ。同様のものとしては、昨年、Microsoftと松下電器産業が提唱、Windows Media 9シリーズにおいて実装が始まったHighMATが挙げられる。いずれも、データファイル等には変更を加えず、ナビゲーション用のデータを追加ファイルとして加えるもので、既存の再生ソフトウェア等には影響を与えない。MPVがHighMATと最も大きく異なるのは、ライセンスフリーのオープンスタンダードである、ということだ。HighMATは、準拠したアプリケーションやコンテンツの利用者、準拠したライティングソフトの製作者に対してライセンス料を課さない(無償で利用できる)ことを保証しているものの、準拠した家電製品のベンダに対してはライセンス料を課すことを示唆している。 これに対してMPVは、仕様そのものがXMLベースで公開されており、利用に際していかなるものもライセンス料を支払う必要がない。そのせいか、表1に示すように、早くも多くのベンダが賛同の意を示している。またソニーと松下の戦いかよ、とは言わないように(笑)。
【表1:HighMATとMPVの賛同ベンダ】
また、オープンスタンダードという性格上、対応するメディアやCODECの種類が広範に渡るのもMPVの特徴だ。HighMATが当面、メディアについてはCD-R/RWを中心に想定し、対応する圧縮フォーマットとして、音声がWMA(Windows Media Audio)およびMP3、静止画がJPEG、動画がWMV(Windows Media Video)とMPEG-4と、MicrosoftのCODEC中心となっているのに対し、MPVはほとんどすべてのメディアと、ほとんどすべてのCODECをサポートするとしている。メディアについては、CD、DVD、フラッシュメモリ、ハードディスク、さらにはインターネットを、ファイルタイプ(CODEC)としては、音楽がMP3、WMA、WAV、ATRAC3、静止画がJPEG、動画がMPEG-1、MPEG-2、MPEG-4、WMV、Motion JPEGなどが挙げられている。早い話が何でもあり、という感じだ。 ライセンス料が不要で、すべてのファイルタイプをサポートできる。なんだかいいことづくめのように思えるが、果たしてその約束は守れるのだろうか。記録型のDVDだけでも、DVD-R/RW、DVD-RAM、DVD+R/RWといくつもの陣営に分裂しており、すべてのフォーマットに対応できるドライブは決して多くない。CODECにしても、Pentium 4を搭載したPCなら、ソフトウェアさえあればすべてをサポートするのは容易だが、民生用のDVDプレーヤーですべてのCODECをサポートするのは相当難しいといってよいだろう。特に、1万円を切るようにDVDプレーヤーの低価格化が進んでいる現状ではなおさらだ。MPV陣営では、ロゴプログラムを実施するなど、互換性の検証を行ないたいとしているが、物理的に対応できないメディア、搭載していないCODECでは、互換性のとりようがない。XMLレベルでの互換性をとるのは難しくないだろうが、それでユーザーは納得するだろうか。
●対応民生機が登場した「HighMAT」 これに対してHighMATでは、WMAとMP3に対応した機器をレベル1(音声対応)、レベル1に加えてJPEG画像に対応したものをレベル2(音声+静止画対応)、レベル2に加えてWMVに対応したものをレベル3(音声+静止画+動画、MPEG-4はオプション扱い)と切り分けており、それぞれロゴで識別される。こうした識別はCODECを絞っているからこそ有効(分かりやすい)なわけで、MPVのロゴプログラムをどのくらい分かりやすいものにできるのか、注目される。ユーザーの話が出てきたところで、ユーザーにとってHighMATとMPVそれぞれのメリットとデメリットを考えてみよう。HighMATの難点は、CODECの選択肢がMicrosoft系に限定されがちなことだが、CODECが限定される分、互換性の確保は容易だと思われる。またMicrosoftのサポートのおかげで、プレーヤーは無償で提供される(Windows Media Player 9)。現在は、別途ダウンロードしなければならないが、おそらく将来は標準でHighMAT互換のWindows Media PlayerがOSに添付されることだろう。Windows Media Player 9は、限定的ながら(全機能をサポートしているわけではないが)HighMAT互換の書き込み機能も備えている。フル機能を備えたライティングソフトは、サードパーティ製を別途購入することになるとしても、とりあえずライティングソフトも無償で入手できる。 民生機でのサポートも、この春に発売される松下電器の新製品からスタートする。4月20日発売のCD/MDミニコンポSC-PM77MDがHighMATレベル1に対応しており、CD-R/RWメディアにHighMAT準拠で書き込まれたWMA/MP3ファイルの再生をサポートする(Windows Media Player 9で書き込まれたメディアの再生可)。同じく4月20発売のDVD/CDプレーヤーであるDVD-S35、ならびに5月10日発売のDVD-S75はレベル2対応であり、WMA/MP3に加えてJPEGファイルの再生もサポートされる。 現時点でHighMAT互換でJPEGファイルを書き込むライティングソフトは存在しないが、HighMATのサポートを表明しているしている、BHAやAplixといったライティングソフトベンダが近々に対応ライティングソフトをリリースすることになっている。加えて、富士写真フイルムがCDに画像をHighMAT互換で書き込むサービスを将来行なう予定だ。 DVD-S35とDVD-S75は、安価(いずれもオープン価格だが、店頭予想価格はそれぞれ2万円程度と2万4千円程度の見込み)でありながら、ヒット商品となっているDVD-RAMレコーダーにより記録されたDVD-RAMメディア(DVD-VR規格対応のディスク)の再生をサポートしており、注目の新製品といえるだろう(ただしカートリッジ互換ではない)。なお、本来DVDプレーヤーは動画の再生機能を持つわけだが、このように安価な製品ではWMVをサポートしたレベル3対応にすることは、コストの点で難しいようだ。それでも、レベル2対応をうたうことで、DVD-S35/S75に何が可能で、何が不可能なのか、比較的ユーザーに分かりやすい。
一方MPVだが、XMLで記述されているため、IE 5.5以降のブラウザがあれば「再生」可能だとされている。が、Windows Media Playerのようなプレーヤーと、ブラウザでは使用感は同じではない。ライティングソフトは、基本的にサードパーティ製を購入することになるだろう(ライティングソフトに、ブラウザより気の利いたプレーヤーが付属する可能性は高い)。CODECの豊富さは、様々なベンダが相乗りするには不可欠だし、ユーザーにとっては選択肢の豊富さを意味するが、互換性の確保は難しくなる。現時点でMPVに対応した民生機が存在しないため、CODECサポートが実際にどのようになるかは不明だが、HighMATより説明を要することは確かだろう。いずれにしても、今のところ規格としては一長一短、インプリメントではHighMATが先行している、というところだ。 Hith MATとMPVのように、目的の極めて似通った規格が複数登場することは、ユーザーにとって必ずしもよいことではない。統一されたナビゲーション標準が確立された方が望ましいには違いない。だが、全く標準がなく、いつまでもエクスプローラーでファイルをドラッグしているより、マシなことも確かだ。何もないよりは、複数でもあった方が良い。あとは、少しでも早く、1つの規格に収束することを願うばかりだ。
□OSTAのホームページ(英文) (2003年3月20日)
[Text by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
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