何はともあれ、表をみてもらおう。これが、とりあえずIntelのFab、それもウェハに半導体回路を作りこむ、いわゆる前工程の工場である。プロセッサを手に取ったことのある人なら、パッケージに「Malay」などと書かれていることをご存知だろうが、あれは前工程で製造されたウェハをパッケージに封入する、いわゆる後工程の工場(組み立て工場)の所在地を示したものだ。
この表の上にあるRP1というFabの名称は、Research and Pathfinderの頭文字をとったもので、研究あるいは実験用のFabと説明されている。続くD1xやD2は、Developmentの頭文字をとったものだが、ここでのDevelopmentは技術開発というより量産技術の確立という意味合いが強い。Intelは、工場の展開についてコピーエグザクトリィ(正確に複製する)という戦略をもっているが、このD1x Fabで確立した量産技術を、実際の量産工場(Fab x)に正確に移転する、というわけだ。 D1x Fabは開発といっても、量産技術の開発だけに、新しいプロセス技術に移行する際の最初のプロセッサは、ここから出てくることが多い。表にあるD1Cは、現時点でIntelが持つFabの中で、唯一90nmプロセスに対応したもので、90nmに対応した2番目のFabが量産を開始するのは2004年になってから。というわけで、年内に出てくるPrescottやDothanは、まず間違いなくD1Cで作られたもの、という答えが導き出される。これが冒頭の設問の答えである。量産技術を開発する工場だけに、そこで製造されるウェハは、まさに製品レベルのものであり、十分市販に耐えるというわけだ。D1xシリーズのFabは量産技術の確立をする一方で、そこで作られたウェハは製品としても利用されていることになる。 通常、D1xシリーズの開発Fabは、複数プロセスの量産技術確立に用いられる。が、いつまでも同じ目的に使い続けられるわけではない。設置された製造装置のテクノロジ、クリーンルームのテクノロジなどの限界により、これ以上プロセスを微細化していくことが難しい状況がやがて訪れる。このときのオプションとして、工場をいったん止めて、さらにプロセスの微細化が可能な工場に転換するという選択肢もあるが、基本的にIntelはこれを選ばない。過去の歴史を振り返ると、D1xシリーズのFabは、みな量産工場へと転換されている。 年内に出荷されるPrescottやDothanを製造すると思われるD1Cは、すでに複数世代の量産技術確立を行なってきており、この90nm世代で開発Fabの役割を終え、量産工場へ生まれ変わるものと思われる(素直に考えればFab 25になるわけだが、ほかの工場の拡張予定などでこの番号が使われていれば、Fab 26以降の番号が振られるだろう)。量産工場への転換といっても、すでに製品と同じウェハを作っていたのだから、何も難しいことはない。D1Cに代わって、今後の量産技術確立に用いられる開発Fabとしては、すでにD1Dが建設中であり、年内に稼働を開始するハズだ。D1Dは、稼働直後は300mmウェハで90nmプロセスの製造を行なうようだが、まもなく65nmの量産技術確立へと役割を変えるものと思われる。
同じDシリーズのFabでも、Intelの本社所在地であるSanta ClaraにあるD2は、D1xシリーズとは役割が異なるようだ。本社所在地であるだけに、研究開発を含め、様々な活動が行なわれているハズで、そのような目的にも使われているのだろう。以前、IntelはIDFのキーノートにおいて、半導体のマスクにパッチをあてるMicro Surgeryのデモを中継で行なったことがあるが、筆者の記憶が確かなら、Santa Claraとむすんだ中継だったと思う。こうした量産の歩留まりを向上させる技術の開発を行なっているのがD2かもしれない。
現時点で、IA系のプロセッサを製造している可能性が高いのは、Fab 10、Fab 11、Fab 11X、Fab 12、Fab 14、Fab 20、Fab 22、それにD1Cの計8カ所。中にはチップセットを量産しているFabも混じっていることと思う。チップセットについては、外部への製造委託も行なっているが、内製も行なっている。ロジックの量産工場でもFab 17は、DECの半導体事業を買収した際に入手したものだけに、主にARM/XScale系の製造に使われているのではないかと思われる。 気になるのはいくつか欠番があることだが、「13」はキリスト教において縁起の悪い数字ということで、スキップされたものと思われる。「19」が欠番になっている理由はわからないのだが、ひょっとすると建設がキャンセルになった工場があるのかもしれない。今回のIDF期間中にリリースされたニュースリリースの中で、Texas州Fort Worthの工場用地を売却することを明らかにした。これは、Fab 16を建設する予定で入手したものの、工場に対する各種優遇措置について州議会の同意が得られず着工が延期されていたものだ。これで「16」も欠番になるだろう。 上述した8カ所のFab(IAプロセッサを量産している可能性の高いところ)のうち、現時点において300mmウェハで稼働しているのはD1C、Fab 11Xの2カ所のみ。だが、年内に3番目の300mmウェハ工場としてD1Dが稼働を開始する。2004年になるとアイルランドのFab 24が4番目の300mmウェハによる工場としてラインナップに加わる。Fab 24は、ITバブルの崩壊で、しばらく建設が中断されていたが、昨年建設が再開されたもの。Intelとしては90nmで量産をスタートさせる初めてのFabである。 Intelでは300mmウェハを用いた工場は、200mmウェハの工場2カ所に匹敵すると言っている。つまりこの4カ所で、従来の工場の8カ所分に匹敵することになる。が、これに加えて5番目の300mmウェハ対応Fabを立ち上げると、IDF期間中に発表した(本来はBarrett CEOのキーノートで華々しく発表されるハズだったのだが、なぜかキーノートで触れられることはなく、ただニュースリリースだけが発表された)。 発表内容は、現在200mmウェハで0.18μmプロセスの量産を行なっているFab 12をいったん閉鎖して、300mmウェハ工場へと転換するというもの。Fab 12は現状のまま2003年いっぱい操業したあと工事に入り、2005年後半に65nmプロセスによる量産を開始する。この時点においてIntelの300mmウェハ対応Fabは5カ所で、0.13μmプロセスのFab 11X、90nmプロセスのD1C(が転換されたFab)とFab 24、65nmプロセスのFab 12、そしてD1Cである。ただ過去の例からいって、D1Cは65nmプロセスの量産工場になるのではなく、Fab 12での量産がスタートしたのち、45nmプロセスによる量産技術の確立を目指すことになるだろう。 Intelにとって65nmプロセスの量産工場が1カ所(Fab 12)しかないというのは極めてイレギュラーなこと。安定供給を保証するためにも、地理的に離れた場所に、2カ所目の65nmプロセス対応Fabが必要になるハズだ(それができるまでD1Dは65nmでの生産を継続するだろう)。 このような安定供給は、386でセカンドソースを認めないことに方針変換した際の公約でもある。Fab 10やFab 14といった古い200mm Fabを転換するか、すでに300mm対応のFab 11Xを転換するか、Fab 24で90nmプロセスと65nmプロセスの両方を扱うことになるのか、何らかの措置がとられるだろう。 IntelのFabのうち、0.18μmプロセスのFabはすべて200mmウェハ、0.13μmプロセスは200mmウェハと300mmウェハの両方があるが、90nmプロセス以降はすべて300mmウェハとなる。65nmの世代は当然300mmウェハだろうから、200mm Fabを転換する場合は1度操業を停止しなければならない。どのFabを転換するかは、そのときの経済状況など、外的な要因が強く働くだろうから予測は困難だ。 このように古くなったFabは閉鎖されるものもあれば、より新しい製造プロセスに対応するべく転換されることもある。昨年のアナリストミーティングで、Intelは現在稼働している200mmウェハのFabを今後どうする予定か、という質問に対し、「どんなFabにも寿命があり、いつかは閉鎖することになるかもしれない。また、いくつかは現状のまま操業を続けるし、中には300mmウェハ対応へと転換するFabもあるだろう」という趣旨の回答をしている。
いずれにしても、これだけの数のFabを抱え、製造プロセスの微細化に合わせてローテーションで転換作業を進めていくことは、世界最大の半導体メーカーであるIntel以外には、なかなかできることではない。Fab 12の転換に要する費用だけでも20億ドル(約2,400億円)と発表されているのである。このFab 12が2005年後半に操業するということは、これより前にD1Dによる65nmプロセスを用いた製品の(少なくとも限定的な)出荷が始まっているハズだ。製造プロセスを2年サイクルで更新していくという公約は、どうやら次の世代も守られそうだ。
□IDF Spring 2003レポートリンク集 (2003年3月10日)
[Text by 元麻布春男]
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