それはともかく、初日の冒頭を飾るキーノートだが、今回はCraig Barrett CEOが担当した。が、その内容は前回のPaul Otellini社長のもの、あるいはBarreett CEO自身のものを含むここ数回のものと、大きく変わるものではない。不況にあえぐIT業界が前向きになれるよう叱咤激励する、というのが基本線。変わった部分があるとすれば、その伝え方のニュアンスだろう。 以前のキーノートでは、Intel自身の設備投資や研究開発、あるいは製品投入計画を前面に押し出して、Intelがこれだけやっているのだから、IT業界も前向きにならねばならない、あるいは前向きにならないベンダは取り残される、といった恫喝型? が目立った。しかし今回のキーノートでは、Intel自身の計画を声高に主張する部分が大きく後退した印象が強い。それを強く感じるのは、IDF初日の日付で出された「INTEL CEO BARRETT: PATH OF INNOVATION IS CERTAIN」と題されたニュースリリースを読んでからだ。 わざわざ現地に行っている人間が、ニュースリリースを読んでいてどうする、と思われるかもしれないが、実はここにちょっとしたハプニングが生じている。言うまでもなくこのニュースリリースは、Barrett CEOのIDFにおけるキーノートに関するものなのだが、どうした手違いか、予定稿をベースにしたものなのである。 つまり実際にしゃべったものとは内容が異なるわけだが、これはIntelのFTPサイトからダウンロード可能なプレゼンテーションファイルとニュースリリースを比較してみればよくわかる。プレゼンテーション(こちらは実際のキーノートに則したものになっている)には、ニュースリリースにあるPrescottやDothanといった開発コード名、あるいはアリゾナ州チャンドラにあるFab 12の300mmウェハ工場(製造プロセスは65nm)への転換計画(2004年着工、2005年から量産開始予定)などはまったく出てこない。 もちろん、キーノートからIntelがやっていること、やろうとしていることの紹介がなくなったわけではない。が、そうした内容はキーノートの最後にデモを交えての紹介という形に集約されてしまい、キーノート全体に占める割合は低くなってしまった(このため、デモで紹介されたコンセプトPCも、そのコード名がプレゼンテーションにはなく、正確な名前の聞き取りに苦労することとなった)。かつての恫喝型に対して、今回はなんとかIT業界に楽観を植えつけようと、なだめすかすニュアンスが目立ったように思う。
どうしてIntelが土壇場にきて、基調講演の内容を大きく変えたのか、その理由は明らかではない(Barrett氏はこうした直前での変更を好んで行なうタイプの人ではないらしい)。単に自社の製品計画の発表を、2日目以降のキーノートに譲ったという可能性もある。が、業界全体が大幅な赤字と、それに伴うリストラに苦しんでいる中、Intelだけが黒字を計上しつづけ、20億ドルと言われるファブの転換計画を単独で実行可能な財務力をひけらかすことは、かえって逆効果だと考えたのかもしれない。
もし言われるように、Intel以外の半導体業界が3年サイクルを採用すると、2007年に半導体業界が65nmプロセスへ移行する際、Intelは45nmプロセスへ移行することとなり、プロセス技術で丸々1世代分先行することになる。これは他社、特に製造をファウンダリ企業に依存するファブレスベンダに対して、決定的なアドバンテージとなる可能性がある。
□IDF Spring 2003のホームページ(英文)
(2003年2月20日)
[Text by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
|
|