●ハイビジョン対応テレビの真価を発揮したい! 筆者が自宅の居間で使っているテレビは、ソニーの「WEGA KV-36DZ950」(2001年12月購入)である。いわゆるハイビジョン対応テレビで、D4端子を搭載している。ブラウン管には「スーパーファインピッチFDトリニトロン」を採用し、高い解像力を誇る。しかし、テレビを購入してから1年もの間、その真価を発揮することは一度もなかったのだ。 それは映像ソースの問題だ。KV-36DZ950は、地上波チューナーしか内蔵しておらず、単体ではハイビジョンクオリティの映像を表示することはできない。地上波テレビのNTSC信号をデジタル処理によってプログレッシブ化し、ハイビジョンに近い映像にアップコンバートする「DRC-MF V1」機能が搭載されてはいるが、画像のエッジが不自然に強調されたり、粗さが目立つこともあり、本来のハイビジョン映像のクオリティには遠く及ばない。 テレビと同時に購入した松下電器のプログレッシブ対応DVDプレーヤー「DVD-XP30」で映画などのDVD-Videoタイトルを見ることも多いが、プログレッシブ対応といっても、DVD-Videoではしょせん525p(有効走査線数でいえば480p)なので、D2対応テレビで十分である。ハイビジョン対応テレビの性能を活かすには、やはり1125i(有効走査線数でいえば1080i)でのハイビジョン放送が行なわれているBSデジタル放送を見るのが王道であろう。 テレビを購入するときにも、将来的にBSデジタルのハイビジョン放送を見ることを想定して製品を選んだのだが、110度CSデジタル放送のサービス開始(2002年春開始)を控えていた時期でもあり、テレビと同時にBSデジタルチューナーを購入するには、あまりタイミングがよくなかった。また、翌年夏に引っ越しを予定していたので、BSアンテナを設置しても無駄になる(引っ越し先ではBSデジタル/110度CSについても共聴アンテナ設備がある)という問題もあり、BSデジタル放送の視聴環境を整えるのは先送りとなっていたのだ。 ●DV-HRD1なら1台で録画まで完結する 引っ越しも終わり、BSデジタルチューナーを購入しようと検討を始めたのだが、チューナーを購入しただけでは、デジタルハイビジョン放送を見ることはできても、そのままのクオリティで録画することはできない。ライターという仕事柄、締め切り前などは、とてもリアルタイムに番組を見る余裕はない。やはり、気になる番組は録画しておいて、時間の空いたときに見たいものである。もちろん、せっかくのハイビジョン放送なのだから、やはり画質を落とさず、そのままのクオリティで録画しておきたい。
BSデジタルのハイビジョン放送をそのままの画質で記録する方法は大きく分けて2通りある。1つは、ハイビジョン対応D-VHSビデオデッキを利用してD-VHSテープに記録する方法で、もう1つが、アイ・オー・データ機器の「Rec-POT/Rec-POT S」シリーズのような製品を利用してHDDに記録する方法だ。 どちらも、ハイビジョン放送のデジタル信号がそのまま記録されるため、画質を劣化させずに保存することが可能だ。前者は、D-VHSテープを交換することでいくらでも番組を保存しておくことができるが、テープ媒体なので頭出しや早送りなどが面倒だ。後者は、ランダムアクセスができることが利点だが、HDDが一杯になると、以前録画した番組を消さないと新たに番組を録画できなくなる。しかし、どちらの方法にしても、BSデジタルチューナー以外にD-VHSビデオデッキやHDDレコーダーが別途必要になるわけだ。
しかし、テレビ台には、すでにVHSビデオデッキとDVDプレーヤー、ゲームキューブが入っており、新たに2つの機器を入れるスペースはない。VHSビデオデッキの代わりにD-VHSビデオデッキを導入するという手も考えたが、ハイビジョン対応D-VHSビデオデッキは安いものでも実売で5~6万円程度するのと、テープが増えると管理が大変になりそうなので、この案は却下した。 設置の都合や使い勝手から考えると、やはり1台でBSデジタルチューナーとHDDレコーダーの両方の機能を内蔵した製品が欲しいところだ。しかし、こうした製品がなかなかないのだ。HDDレコーダーとBS/110度CSデジタルチューナーが一体になった製品としては、蓄積型双方向サービス「epサービス」に対応したepステーションがあるのだが、epステーションは、epサービスに加入しないと利用できない。また、HDD容量のうち20GBがepコンテンツを蓄積するためのエリアとして使われるので、番組録画に利用できる容量が40~60GB程度しかない(現行のepステーションのHDD容量は60~80GB)のも不満が残るところだ。 何かいい製品がないかと探しているときに発見したのが、昨年10月に開かれたCEATEC JAPAN 2002のシャープブースで参考出品されていたBS/110度CSデジタルチューナー内蔵ハイブリッドレコーダーである。年内にも製品化されるという話だったので、発表を待つことにした。 そのハイブリッドレコーダー「DV-HRD1」が正式に発表されたのは2002年11月14日であり、希望小売価格は183,000円、発売予定日は12月上旬とのことであった。DV-HRD1は、世界初のBS/110度CSデジタルチューナー内蔵ハイブリッドレコーダーであり、80GBのHDDとDVD-R/RWドライブを内蔵、DVDプログレッシブ再生にも対応と、スペック的には筆者の要望をほぼ満たしている。 デジタルハイビジョン放送を録画するには、HDD容量が足りないのではないかと思ったが、やはり1台で録画まで完結するのは魅力である。18万円を超えるという希望小売価格には躊躇したが、通常のハイブリッドレコーダーでも実売で8万円前後はするし、BS/110度CSデジタルチューナーも単体で買うとやはり実売で5~6万円程度はする。プログレッシブ対応DVDプレーヤーとしても利用できるので、実売13~14万円程度で購入できるのなら決して高い買い物ではないと判断した。 Web通販で124,000円という価格を提示しているショップを見つけたので、そこに注文することにした。当初、12月上旬に入荷するとのことだったが、初期ロットは数が少なかったようで、実際に製品が到着したのは年の瀬も近い2002年12月27日のことであった。 ●タイムシフト機能をとるか録画時間をとるか 前置きが大変長くなってしまったが、こうしてようやくDV-HRD1を手に入れることができた。なお、DV-HRD1は非常に多機能な製品であるため、今回はHDDへの基本的な録画機能や再生機能についてレビューし、次回で編集機能やDVD-R/RWへのダビングなどについてレビューすることにしたい。 DV-HRD1はDVDプレーヤーとしても利用できるので、以前使っていたDVDプレーヤーをお蔵入りにして、DVDプレーヤーがあった場所に設置することにした。ここでちょっと気になったのは、電源ユニットが内蔵されておらず、ACアダプタを接続する必要があることだ。ACアダプタのサイズもかなり大きいので、設置場所によっては邪魔になることもあるだろう。
DV-HRD1は、地上波チューナーとBS/110度CSデジタルチューナーを内蔵しており、それぞれアンテナ入力端子が用意されている。筆者が住んでいるマンションの共聴システムでは、BS/110度CS放送の信号と地上波(UV系)を含むCATVの信号が混合されて各世帯に届けられているので、BS/UV分波器を使ってBS/CS系信号とUV系信号を分離して、それぞれのアンテナ入力端子に接続する必要がある。BS/UV分波器は付属していないので、近くの家電店で購入した(価格は3,000円前後)。 映像出力端子としては、D端子とS端子、コンポジット端子が用意されている。もちろん、コンポジット端子やS端子経由では、ハイビジョンクオリティで放送を楽しむことはできないので、D端子経由でテレビに接続した。音声出力端子としては、アナログ音声出力端子以外に、光デジタル出力端子(角形)を装備しているので、それまで利用していたDVDプレーヤーと同じようにヤマハのホームシアターシステム「CinemaStation S77」に光デジタル出力端子経由で接続した。 ボディデザインは、すっきりしていて好感が持てる。デザイン的に目を引くのが、ボディ中央にある円形のモードイルミネーションランプである。モードイルミネーションランプは、動作状況によって色が変わる仕組みになっており、電源投入時には青色に、再生時には緑色に、録画時には赤色に点灯する。動作状況が一目で分かるので安心だ。背面にはファンを装備しているが、深夜でもファンの騒音はほとんど気にならないレベルである(プレイステーション 2のほうがうるさい)。
接続が完了したので、チャンネル設定などの初期設定を行なったのだが、タイムシフトの設定で少し迷った。本製品でタイムシフト機能を利用するには、初期設定でタイムシフトを有効にする必要がある。タイムシフトを有効にすると、HDDの一部分がタイムシフト専用領域として確保され、現在視聴中の番組が自動的に記録されていく。現在放送中の番組を一時停止したり、時間をさかのぼって再生することが可能なタイムシフト機能は確かに便利そうだが、録画用に利用できるHDD容量が減ってしまうことが痛い。 仕組みからもわかるように、タイムシフトといってもどこまでも時間をさかのぼれるわけではなく、HDDに確保されているタイムシフト領域に保存可能な範囲までとなる。タイムシフト時間は、30分/60分/90分(ハイビジョン放送時の時間なので、地上波や通常放送ではもっと長時間のタイムシフトが可能)の中から選択できるが、タイムシフト時間を多く取れば、その分だけ録画可能時間が短くなってしまう。ただでさえ、80GBという容量は足りないだろうと考えていたので、タイムシフト機能は使わないことにした。なお、初期設定が終わった後で、タイムシフト機能の有効・無効を切り替えるには、システム初期化を実行して、再度初期設定からおこなわなくてはならない。 ●デジタルハイビジョン放送の画質に感激 設定が終わったので、早速、全ての番組がハイビジョン画質で放送されているNHKのBShiを受信してみたところ、期待通りの緻密で美しい映像に感激した。もちろん、ハイビジョン放送を見たことはあるが、自宅の居間でくつろいで見るのとではまた印象が違う。ニュースなどは同じ番組が同時に地上波やBS 2(BSデジタルのスタンダード放送)でも放送されているので、切り替えて比べて見たが、やはりその差は歴然である。デジタルハイビジョン放送のクオリティに慣れてしまうと、地上波やBSデジタルのスタンダード放送の映像が非常に粗く見えるようになる。 しかし、民放系のBSデジタル放送ではアップコンバートでないちゃんとしたハイビジョン放送の割合はそれほど多くはないし、興味のない番組も多い。せっかくBSデジタル放送の視聴環境が整ったのだから、映画やコンサートなどのデジタルハイビジョン放送を見たいものである。そこで、ハイビジョン放送の割合が比較的多いデジタルWOWOWに加入することにした。 ●容量が80GBでは、ハイビジョン放送の録画には不足 デジタルWOWOWでは、毎日のように新旧映画がハイビジョン放送されているので、映画好きな人なら、月額料金(2,300円)を払う価値は十分ある。DV-HRD1のウリは、BSデジタル放送をHDDにビットストリーム記録できることだ。デコードや再エンコードをせずにそのままデジタル記録するので、全く画像を劣化させずに保存できる。 ただし、デジタルハイビジョン放送はビットレートが28.3Mbpsと高いため、DV-HRD1内蔵の80GB HDDでは約7時間しか録画できない。つまり、映画を3本も録画すれば一杯になってしまうのだ。やはり、ハイビジョン放送を中心に録画するのなら、最低でも160GB程度の容量が欲しいところだ。なお、カタログやマニュアルには、BSデジタルや110度CSのスタンダード放送の場合約14時間の録画が可能と書かれているが、実際にはハイビジョン放送の3分の1のビットレートで録画されるようで、約21時間の録画が可能である。 デジタルWOWOWのハイビジョン放送には、映像素材自体がハイビジョンクオリティで制作されたものと、標準画質の映像素材をハイビジョン放送として送出しているものと2通りがある。後者はいわば“なんちゃってハイビジョン”であり、スタンダード放送よりクオリティは高いものの、素材自体がハイビジョンクオリティで制作されたものに比べると、やはり画質は落ちる。 なんちゃってハイビジョンの番組なら、ビットレートを落として録画しても十分な気もするのだが、DV-HRD1にはビットレートコンバータが内蔵されていないため、デジタル放送はそのままのクオリティでしか録画できない。コストの問題もあるだろうが、ビットレートコンバータが内蔵されていれば、HDD容量が少ないという弱点もある程度解消されるであろう。なお、本製品はハイブリッドレコーダーだが、BSデジタル放送や110度CSデジタル放送を直接DVD-RやDVD-RWに録画することはできない。 地上波アナログ放送(VHF/UHF)をHDDに録画する場合、記録モードはFINE、SP、LP、EPの4種類から選択可能。記録はVBR形式でおこなわれ、録画時間はそれぞれ約19時間、約32時間、約65時間、約110時間となる。LPモード以下ではブロックノイズなどが目立ってくるが、SPモード以上なら、画質的にはほぼ満足できる。アナログ放送では、DVD-RやDVD-RWへの直接録画も可能であり、録画時間はそれぞれ約1時間、約2時間、約4時間、約6時間(VRモードのみ)となる。 ●BS/110度CSではEPG予約が可能だが地上波はGコード/日時指定予約のみ ハイブリッドレコーダーやHDDレコーダーを選ぶ上で、録画予約の使い勝手は重要なポイントとなる。DV-HRD1では、BS/110度CSデジタル放送についてはEPG(電子番組表)を利用した録画予約が可能なのだが、地上波アナログ放送については、EPGは利用できず、Gコードまたは日時指定での予約しか利用できないのが残念だ。番組表を見ながら録画予約ができるEPGはやはり便利なので、地上波でもEPGが利用できるようにして欲しかったところだ。
また、BS/110度CSデジタル放送の録画予約を日時指定で行なえないことにも不満がある。BS/110度CSデジタル放送のEPGは8日分しか配信されていないため、9日以上後に放送される番組の録画予約を行なうことはできないのだ(もちろん、Gコードや日時指定で予約できる地上波アナログ放送では、こうした制限はない)。 これでは、長期にわたる旅行の際など、非常に不便だ。ビットストリーム記録をおこなう都合上、放送クオリティを録画予約時に知っておきたいという理由もあるだろうが、HDD残量をユーザーが把握していれば、日時指定で予約をしても、空き容量が足りなくて録画できないということはないはずだ。 DV-HRD1では、毎週決まった時間や毎日決まった時間に放送されている番組を「おこのみ番組」として登録しておくことで、自動的にその番組を録画してくれる機能がある。おこのみ番組は、HDD上の同じ領域に繰り返し録画されるので、次に録画される前に番組を再生しないと最新の番組で上書きされてしまうが、連続ドラマなどを予約するには便利な機能だ。ただし、おこのみ番組として登録できる番組は1つだけなので、いささか中途半端な印象を受ける。 また、録画予約は番組が始まる2分前までに完了しなくてはならない。今放送されている番組を録画したいときには、録画ボタンを押すことでダイレクト録画が可能だが、録画終了時間を指定することはできず、録画したい番組が終わったら手動で停止ボタンを押す必要がある。ダイレクト録画開始後でも、終了時間を指定できるようになっていないのが残念である。地上波EPGへの対応の件も含め、録画予約機能についてはまだまだ改善の余地があると感じた。
●HDDに録画した番組はi.LINK端子経由で出力できない DV-HRD1は、フロントパネルにDV入力端子、背面にi.LINK端子を装備している。i.LINK端子経由でHDDに録画した映像を出力してD-VHSビデオデッキなどで記録すれば、HDDの容量が足りないという問題にも対処できるように思われるが、本製品では、残念ながらHDDやDVD-R/RWなどに録画した映像を、i.LINK端子から出力することはできない。 i.LINK端子は、DV-HRD1内蔵のBS/110度CSデジタルチューナーで現在受信している番組をそのまま出力することしかできないのだ。筆者は、もともとD-VHSビデオデッキと連携して使うつもりがなかったのでこの仕様でも問題はないが、epステーションでは、HDDに記録された映像をそのままi.LINK端子から出力できる製品がある(シャープ製epステーションではi.LINK端子からの出力に対応していない)ことを考えると、やはり不満点として挙げられるだろう。
HDDに録画した番組はリスト形式で一覧表示されるので、再生したい番組を見つけるのも簡単だ。HDDに録画されている番組は、2倍速/10倍速/30倍速で再生中の早送りや巻き戻しが可能であり、リモコンの操作レスポンスも良好である。HDDに録画をしながら、以前HDDに録画した映像やDVD-Videoなどの再生が可能なほか、タイムシフト機能を有効にしていれば、HDDへの録画中にその録画中の番組をはじめから再生することもできる。HDDに録画した番組を再生する場合、再生時間などは一切表示されない。 なお、衛星ダウンロードによって、ファームウェアのアップデートが行なわれている。すでに2回ファームウェアがアップデートされたことを確認しているが、そのアップデート内容は公開されていない。何らかの不具合に対する対処であることは間違いなく、素早い対応については評価できるが、その内容がWebサイトなどで公開されることを望みたい。ほぼ24時間電源を入れっぱなしであるが、一度ハングアップしたことを除けば(リセットボタンで回復した)、動作も安定している。 「デジタルハイビジョン放送をそのままの画質で録画したい」という筆者の要求には応えてくれており、買ったことは後悔していないが、使い勝手や仕様面では不満もある。次回レビューするが、編集機能も貧弱である(デジタルWOWOWはCMが入らないので、編集機能はそれほど使っていないが)。ただし、BS/CS110度デジタルチューナー非内蔵のハイビジョン対応テレビを持っていて、D-VHSビデオデッキとの連携は考えず、BS/CS110度デジタル放送の視聴や録画ができればいいというのなら本製品はぴったりだ(HDD容量は十分とはいえないが)。なお、AAC 5.1chのサラウンド音声の再生を実現するために、ヤマハのAACデコーダ「AD-100」も購入したので、次回はそのあたりの話もご紹介したい。
□製品情報 (2003年3月3日) [Text by 石井英男]
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