ボイスレコーダーは、記者という仕事には欠かせないグッズの1つだ。中でも筆者のように、注意力散漫な人間にとっては「必需品」と呼ぶべき大切なデバイスだ。 というわけで筆者は、マイクロカセットレコーダーから始まって4機種のボイスレコーダーを愛用してきた。デジタルレコーダーで、PCに取り込めるタイプのものが登場してからは、もっぱらこのタイプを愛用している。PC上で録音データの再生や管理ができるのは実に楽だ。その取材時にデジタルカメラで撮った画像や、原稿データと1つのフォルダにまとめておけばよいから、たまに、後からまた録音データを聞かねばならないときでも「あれどこにやったっけ、この前消しちゃったっけな」なんてことがなくなる。 さて、筆者の5機種目のデジタルボイスレコーダーとなるのが今回とりあげる三洋電機の「ICR-B80RM」だ。 ■これだけ持っていればOK、の手軽さが身上 本体にオスのUSB端子が付いていて、PCのUSBポートにケーブル無しで直接挿し込んでファイル転送が可能なことと、録音形式がMP3であること。この2つが、ICR-B80RMの最大の特徴だ。これらのことにどんなメリットがあるかというと「ICR-B80RMとPCだけあれば、とりあえずどこでも録音した音声をPCに取り込んで、再生や加工ができる」という点につきる。PCでデータを管理できるデジタルボイスレコーダーの特徴をよくつかんだ製品と言えるだろう。 デジタルボイスレコーダーのほどんどは、独自形式で音声を記録し、再生にも専用ソフトを必要とする。また、独自形状のコネクタや、あまり一般的でないUSBコネクタを装備しているものがほとんどなため、専用の転送ケーブルも必要になる。専用ソフトをあらかじめPCに仕込んでおく手間や、専用ケーブルを持ち歩く手間などどうということはなさそうに見えるが、この手のものは必要なときに限って忘れてくるものだ。それに、無くしてしまったら、安からぬお金を払ってまた買わなければならない。 ICR-B80RMで録音した音声は一般的なMP3プレーヤーで再生できるし、いまどきのPCならWindows Media PlayerやWINAMPのようなMP3再生ソフトがひとつくらい入っているだろう。それにMP3関連ソフトはオンラインでも山ほど流通しているから、好きなものを選び放題だ。インターネットを20分も探せば、自分の求める機能をばっちり備えた再生ソフトにめぐり合えるはずだ。 ファイル転送に関して言えば、マスストレージクラスに対応しているから、Windows Me/2000/XPならドライバをインストールする必要も無い。Windows 98ではドライバが必要だが、これも三洋電機のホームページからダウンロードできるから、インターネットに接続できる環境ならすぐインストールできる。 USBケーブルくらい持ち歩けよ、専用ソフトくらいノートPCに仕込んでおけよ、という声が聞こえてくるが、なにしろ注意力散漫な粗忽者なんだから仕方ない。ICR-B80RMひとつポケットに放り込んで出かければイイという手軽さは、体験してみると想像以上に便利なものだ。
■音質も使い勝手も十分 録音方式はVBR(バリアブルビットレート)で、録音時のビットレートは、標準モードで64kbps、ロングモードで32kbps。近距離で人の談話を採るにはロングモードでも十分な音質だ。ちなみに録音可能な時間は標準モードで約3時間、ロングモードで約5時間だ(内蔵マイク使用時)。筆者の用途では1時間半以上録音し続けることはほぼ無いので、標準モードを使っている。 電源は入手しやすい単4アルカリ電池2本。仕様表では約6.5時間の録音が可能となっているが、筆者の感覚ではだいたい1時間程度の発表会を5回録音すると、電池交換となる。 ICR-B80RMの特徴にもう1つ、ステレオ録音可能というのがある。ステレオ録音には外部ステレオマイクを接続する必要がある。利用できるのはプラグインパワーのマイクなので、マイク使用時は電池のもちがやや悪くなるが、内蔵マイク使用時よりもあきらかに聞き取りやすくなる。なお、ヘッドホンを接続しておけば、録音中にモニタすることもできる。 念のため、標準モードとロングモードで、それぞれ内蔵マイク使用時と外部ステレオマイク使用時の録音ファイルを置いておく(各15秒)。いずれもとある発表会の模様で、50人ほどが入れる会議室の同じ場所で録音したものだ。登壇者はマイクとスピーカーを使用している。
使い勝手に関しては、すごくいいとはいえないが、すごく困るようなこともない。特に本体側面のジョグダイヤルで録音したデータを選んだり(最大256個のデータを録音できる)、早送り/巻戻しができるのはわかりやすいし、使いやすい。 ぜひ改良してほしいのが本体前面のスイッチ。同じ大きさ、形、色のものが5つ並んでいて、とっさに録音ボタンを押したいときなど、ちょっと迷う。せめて録音ボタンの色だけでも違っていれば楽なのだけど。 また、操作体系がやや特殊に感じられるところがある。たとえばファイルを消去するときは、消去したいファイルを選んで消去ボタンを押し、さらに消去ボタンを長押しする、など。YES/NOとかENTERの役目を果たすボタンがないので、いまどきの電子機器の操作体系に慣れているとちょっと面食らうことがある。さらに、液晶の表示がわかりにくい、という難点もある。なにせロングモードが「Ln9」、標準モードが「57d」だ。 【お詫びと訂正】記事初出時、ロングモードを「57d」、標準モードを「Ln9」と表記していましたが、ロングモードがLn9、標準モードが57dの誤りでした。お詫びして訂正させていただきます。 まあ、これらの難点は、慣れれば克服できる性質のものだ。というわけで些細な点を除けば、実用に困難をきたすような欠陥は無い。むしろ初めて手にとったときは、機能が絞られていて使いやすいと感じた。USB端子部分は折畳式になっていて、折りたためばとてもコンパクトだし、このアームをマイクスタンド代わりに使えるあたりも、なかなか工夫されている。
■あちらが立てばこちらが立たないインデックス機能 ICR-B80RMに大きな不満があるとすれば、それは「インデックス機能」がないことだ。デジタルボイスレコーダーには、録音中にインデックスボタンを押すと、録音データのその部分にマークが付けられ、PC上での再生時にその部分へ容易にジャンプできる、という機能が搭載されているものがある。これがインデックス機能だ。 たとえば1時間のスピーチを録音しているとき、重要と思われる部分や、話の節目などでインデックスボタンを押しておく。後で「あの部分だけ聞きたい」と思ったら、PC上でマークのある部分を頭出しして聞けばよい。これがないと、1時間のスピーチを延々聞くか、あてずっぽうにジャンプや早送り、巻戻しを繰り返して探すことになる。これは結構イライラする。とくに、締め切りに追われて、急いで記事を書かなければならないときは。 もっともこのような機能は、独自の録音フォーマットと再生ソフトがあるから実現できているのであって、そもそもインデックスのような機能を持たないフォーマットであるMP3では、使えなくて当然と言える。MP3で専用ソフト要らずのお手軽さを享受したいならインデックスはあきらめるべきなのかもしれない。 MP3フォーマットを堅持したまま、たとえば専用ソフト(あるいはWINAMPの専用プライグインなど)を利用すればインデックス機能が使えるが、他のソフトでは録音データを聞けるだけ、なんて方法でもいい。なにかいい妥協点はないものだろうか。 ■MP3再生機能はおまけ メモリが内蔵64MBだけ、というところが心配になる向きもあると思うが、少なくとも低ビットレートでボイスレコーダーとして使う限り、困ることは無いだろう。が、128bpsのMP3データを仕込んで、ウォークマン代わりに使おうと思ったら、たしかに不満だ。 本機はMP3データを再生する機能もあるので、ウォークマンとしても使えないことは無い。が、プレイリストなどの機能は持っていないし、リモコンも、音質を調整する機能もない。MP3ミュージックプレーヤーの機能は、あくまでおまけと考えておいたほうがいいだろう。ICR-B80RMのホームページには再生機能の活用例として「語学教材を取り込んで通勤中に勉強」などと紹介されているが、これなどは本機の再生機能にマッチした用途だろう。 というわけで、ICR-B80RMに満足している。プラスチッキーかつ安っぽいデザインは2万円を超える製品にふさわしいとは思えないが、今のところICR-B80RM以外のボイスレコーダーに乗り換えたいとも思わないし、専用ソフトやケーブルが必要なボイスレコーダーはもういらない、というのが正直な感想だ。
□ニュースリリース (2003年2月25日) [Text by tanak-sh@impress.co.jp]
【PC Watchホームページ】
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