元麻布春男の週刊PCホットライン

ロードマップから消えたRDRAM。メモリ紛争の勝者は?



●正式にIntelのロードマップから消えたRDRAM

 今回のIDFは2日目がClient Day。キーノートのテーマがクライアント系になるほか、テクニカルセッションのテーマの中心もクライアントを中心にしたものが多い。そんな中に、メモリロードマップに関するセッション「Intel Memory Roadmap Update」がある。かつては、PC133メモリのサポート、RDRAMへの移行の是非など、物議をかもしだしたセッションで、会場に入ると明らかにIntelに異論を唱える一団のグループの存在が分かったりしたものだが、ここ数回はすっかり大人しくなってしまった。

【図1】PC1066(図中の唯一のRDRAM)が2003年末で完全に終了。DDR400の比率が高くならないのは、歩留まり(つまりは価格)の問題に加えて、消費電力、容量(高速化する代わりにチャネル当りに接続可能なデバイス数が減少する)の問題があるからだ

 メモリロードマップのセッションが物議をかもしていた頃、このセッションを担当していたのがPeter MacWilliams氏である。同氏は昨年12月にIntelがSenior Fellowという地位を設けた際、Justin Rattner氏(余談だがRattner氏が今回のIDFで担当したIA-32 Processor Architecture Trends and Researchは非常に興味深いものだった)らと並んで、46人のFellowの中から選出された4人のうちの1人。Intelが誇る4人の技術者/研究者の1人というわけだ。

 しかし、ここ数回はもっと製品に近い部分の担当者がこのセッションを受け持つようになっている。これは焦点が戦略的な部分(技術的にも政治的にも)から、実装技術や市場性といった部分に移ったことを示しているのだろう。

 というわけで、どちらかというと淡々と、かつ実務的に進められたこのセッションだが、1つの象徴的なできごとがあった。それはRDRAMが「正式に」Intelのメモリロードマップから消えたことだ。

 図1は、メモリセッションに用いられたスライドの1つで、2003年末でPC1066メモリのサポートが終了、それに代わるRDRAM(PC1200/PC1333)はもはやこの図にはない。RDRAMのサポートが打ち切られることは、Intel 850チップセットの後継になるハズだったTullochがキャンセルされたあたりで誰の目にも明らかだったが、Intelは公式には最高性能を発揮するメモリはRDRAMだと言い続けてきた(あるいは言い続けてこなければならなかった)。しかしそれも、もう終りである。

 Intelは、これからもRDRAMのサポートをネットワークデバイスで継続していくというが、PCの舞台からRDRAMが姿を消すことは間違いない。今後、PCのメインメモリとしてのRDRAMのサポートは、SiSによって細々と(彼らもRDRAMを主力にするつもりはないハズだ)続けられることになる。PC1200/PC1333といった高速なメモリのサポート、メモリバスの4チャンネル化などを試みながら、DDRの失敗(かつてRDRAMに対応したIntel 820チップセットやMTH、Timnaがつまづいたように)をひたすら待つ、ということになる。

●Intel/Rambusは判定負け

 この1つの時代の終りに際し、業界を喧騒に巻き込んだRDRAM紛争の勝利者は誰だったのか考えてみたいと思う。皮肉なことに、法廷での紛争に完全な決着は着いていないし、最近、Rambusの主張を認める判断が出ていたりもするが、上述したように市場、あるいは業界での決着は着いている。

 まず言い出しっぺ? のIntelだが、度重なる製品提供の遅れ(Intel 820)や、プロダクトのリコール(MTH)およびキャンセル(Timna)などを考えただけでも、勝利者とは言いがたい。少なくともIntelは、この件に関してかなりメンツを失った。だが、実質的なダメージを受けたかというと、そうとも見えない。相変わらず世界最大の半導体メーカーの座に君臨していることは間違いないし、この不況にあっても黒字を計上し続けている。プロセッサのシェアにしても、昨年は伸ばしたようだ。勝ってはいないまでも、せいぜい判定負けくらいのところだろう。

 そのパートナーであったRambusだが、こちらも勝者でないことは明らかだ。PCのメインメモリの分野からは、少なくとも一時的な撤退を強いられる。だが、PlayStation 2をはじめとする民生機器への採用は順調だし、ネットワーク機器への採用も増えるだろう。Intel同様Rambusも、この経済状況下にあって黒字を計上していること、特許紛争の裁判で有利な判断が出る可能性が高まってきたことなどを勘案すると、やはり判定負けくらいのところだろうか。

●DRAMベンダ御三家も「敗北」はしなかったが……

 これに対してDRAMベンダ、中でもRDRAMに強硬に反対した御三家? からまず考えてみよう。最も強硬だったmicronの場合、メモリの戦略においてIntelを屈服させたというのは大きなポイントだ。しかし、今回Intelが正式にサポートを表明したDDR400メモリについては前回のIDFで、その歩留まりの悪さから疑問を投げかけており(図2)、本当にこれで良かったのか、疑問がなくはない。

【図2】昨年秋のIDFでMicronが示したプレゼンテーション。この時点でDDR400がメインストリームには厳しいことが予測されていた 【図3】今回のIDFでInfineonが示したプレゼンテーション。歩留まりの悪いデバイスというのは、儲からないデバイスであり、DRAMベンダとしてはDDR2への移行が待たれるところだろう。Intelは2004年にDDR2をサポートしたチップセットの予定を表明している

 また、ここ数年の不況により、同社も赤字を計上、IDF初日の2月18日には、全世界で10%の社員削減を含むリストラ策の発表を余儀なくされている。勝利者と呼ぶには、あまりに厳しい状況だ。それでも、PCのメモリがRDRAMになっていれば、RDRAMに積極的でなかった同社のダメージはもっと大きかった、と思えば小差の判定勝ち、くらいはあるかもしれない。少なくとも負けは回避した、という感じだ。

 そのMicronによる買収話が消えないHynixは、この事実だけでも勝者と呼ぶ気にはなれない。ただ、同社の問題は、RDRAMかDDRかという論争以前の問題である気がするので、この論争については引き分け、ということにしておきたい。

 Rambusとの特許紛争で、不利な判断が下されたInfineonだが、台湾のMosel Vitelicとの間のDRAM合弁であるProMOSについても紛争に巻き込まれる(こちらはInfineonが勝訴した)など、ちょっとゴタゴタ続きの印象がある。IDFにおけるメモリロードマップのセッションには、必ずといっていいほどDRAMベンダによるセッションが併設されるが、今年これを受け持ったのがInfineonだ。

 図3はそのプレゼンテーションの中の1コマだが、やはり同社にとってもDDR400の歩留まりの悪さは頭痛のタネのようだ。それでも、早速2月20日付けでDDR400メモリ、ならびにそれを用いたPC3200 DIMM出荷開始のニュースリリースを出すなどやる気を見せている(ちなみにこのニュースリリースに上述のPete MacWilliams氏がコメントを寄せている)。同社もごたぶんに漏れず、このところ赤字を計上していること、Rambusとの裁判が影を落としていることを考えれば、堂々の勝者とは言いにくい。やはり判定勝ちというところだろうか。

●日本国内のメモリベンダは総崩れ、Samsungは一人勝ち

 残るメモリベンダのうち、日本のメモリベンダは、この数年ですっかり様変わりしてしまった。Rambusから最初に特許問題で訴えられた日立は、DRAM事業を本体から分離、NECとの間でメモリ専業の合弁会社エルピーダメモリを設立することとなった。現時点では、このエルピーダメモリが、わが国で唯一汎用DRAMを手がけるベンダとなっている。

 東芝は、汎用DRAM事業(市場でDRAMを売るビジネス)から撤退、PlayStation 2向けなど特定顧客向けのDRAMのみ生産を続けている。こうした事情だけでも、日本の企業を勝者とは呼べない。加えてNECと東芝は、RDRAMに関しては先発企業で、ノウハウの蓄積等もあっただろうし、ライセンス料の取り決めでも有利な立場にあったハズ。そう考えれば、RDRAMになった方が今よりはマシだったのではないかという気がする(相対的にMicron等の立場が弱まるというメリットもある)。オープンスタンダードなDDRという土俵に勝負を持ち込まれ、体力勝負で振り切られた印象からして、負けという判定は動かしがたいように思う。

 と、ここまでこの論争における明らかな勝者が見つからない状態だが、もう1社忘れてはならない会社がある。韓国のSamsungだ。同社は、この1月に2002年が売上と利益の両方で、過去最高を記録したと発表したばかり。この経済状況にあってこれは驚異的なことだ。

 DDR400についても先行しており、出荷開始時期が早いだけでなく、昨年11月にはDDR333にDDR400を加えたDRAMチップの月間出荷量が1,000万個を突破したと発表している。DDR400について、現時点で最も高い歩留まりを誇っているのが同社であることは疑いのない事実である(唯一、まともな歩留まりで作れる会社、との声さえある)。

 以上を総合すると、明らかな勝者と呼べそうなのはSamsungということになりそうだが、SamsungといえばRDRAMの供給でも最大手。PC1066メモリでも最も先行している。何のことはない、SamsungはRDRAMになろうが、DDRになろうが、どちらにころんでも勝者になりえた、ということのようだ。結局、勝つべきところが勝つべくした勝った、というつまらない? 結論に落ち着きそうだ。

 さて、こうした状況において欧米で常套句のようによく言われるのが、「勝者はユーザーである」みたいなことだ。そのこころは、安価に高速なメモリが買えるようになったから、だが、筆者は特にこの論争に関して、ユーザーが勝利者だとは思っていない。

 RDRAMだろうがDDRだろうが、PCメインメモリの主流になるということは、それだけで膨大な市場規模を手にすることになる。この市場規模がある限り、メーカーは激しい競争にさらされ、ユーザーは常に勝利者となりうる。それには、メモリがRDRAMであろうが、DDRであろうが、数パーセントのライセンス料があろうとなかろうと、全く関係しないからだ。DRAMの販売価格はコスト(生産原価)で決まるのではない、市場で決まるのである。

□IDF Spring 2003のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/spr2003/index.htm

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(2003年2月21日)

[Text by 元麻布春男]


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