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NVIDIAはメインストリーム向けの「NV31」「NV34」の秒読みに




●NV30と同系列アーキテクチャの廉価版NV31が登場

 RADEON 9700(R300)アーキテクチャから派生した、第2フェイズのDirectX 9世代GPU「R350」と「RV350」を投入するATI Technologies。対するNVIDIAは3月第1週に、米San Joseで開かれる「GDC(Game Developers Conference)」で、DirectX 9世代の新コア「NV31」と「NV34」を発表する見込みだ。おそらく、ATIもその前後で発表を行なうと見られる。

 NV31とNV34は、それぞれ、コアとメモリクロックの異なる2つの製品があり、合計4種類の製品がリリースされると言われている。どちらも、まだ詳細はわからないが、GPU関係者やボードベンダー関係者からの情報で、ある程度の概要はつかめてきた。

 まず、NV31は「GeForce FX 5800 Ultra(NV30)」と同じ0.13μmプロセスの機能削減版になるようだ。ただし、実際にはNV30と同じダイ(半導体本体)を使い、ウェハの製造工程の最後の方のメタルレイヤーオプションでいくつかの機能を制限して製造している可能性が高い。つまり、ATIがRADEON 9700からRADEON 9500を派生させたのと同じパターンが推定される。もちろん、これは推測なので間違えている可能性もあるが、OEMベンダーにすらNV31のスペックがなかなか伝えられなかったことから、同じダイの可能性は高い。

 実際、パフォーマンス製品で同じダイから派生品を作るのは、GPUメーカーにとって合理的だ。今時の規模のGPUの場合、設計やデバッグに必要な労力が大きいため、ダイをもうひとつ設計するのは負担が大きい。さらに「0.13μmプロセスの場合、マスクコストも非常に高い」(ATI Technologies、K. Y. Ho会長兼CEO)ために、量産までに2~3回マスクを作るすると、それだけで膨大な経費になってしまう。それよりは、同じダイで派生させた方がコストが安く済むというわけだ。殺した機能ブロックの部分にウェハ上の欠陥(Defect)があっても機能には影響しないため、派生品は歩留まりも高くなる。

 また、NVIDIAはNV31では周波数もNV30より抑えて、350MHz前後になるようだ。低クロックにするのは、NV30系との差別化のためだけでなく、歩留まり向上と、発熱を抑えて排熱機構のコストを抑えるためだと思われる。また、メモリはコストの安いDDRになると見られる。コストを考えると、必然的にメモリ転送レートは上限700MHz(Mbps)程度になる。GPUコアとメモリの周波数が下がることで、ボードも8層基板になると思われる。

 もともと、NVIDIAはOEMに対してNV31のサンプルをもっと早くに渡すと説明していた(本来ならもうOEMに渡っているはずだった)。しかし、NV30自体の計画変更と遅れを受けて、現在NV31のサンプルは2月末までずれ込んでいると言われる。おそらく、市場に登場するのは早くても3月になるだろう。ちなみに、NV31系列にはNVIDIAは5600のナンバーを予定していると言われる。

 この他、NVIDIAはNV30の低速版のコアクロック400MHzのバージョンの投入も、GeForce FX 5800系列で投入を予定していると言われる。

●0.15μmで製造されるバリュー向けのNV34

 もうひとつのNV34は、バリューまでを見込んだ製品だ。現在のMXラインに当たると思われる。以前からOEMメーカーはNVIDIAがDirectX 9世代ではバリュー向けも用意していると言っていたが、このチップがそれだ。つまり、NV34のターゲットはRV350と一部オーバーラップするが、その下の価格ラインも含むと推定される。

 NV34の重大なポイントは、0.13μmではなく0.15μmプロセスで製造される点。これはじつに多くのGPU関係者が指摘しており、ほぼ確実だ。以前、このコラムでNV34を0.13μmと推定していたが、それは間違いだった。GPUベンダーが新製品を次々に0.13μmで発表するこの状況で、なぜNVIDIAは0.15μmを選んだのか。

 「それはわれわれではコントロールできないプロセスコストがあるからだ。現状では、同じ集積度のチップを製造した場合、0.13μmの方が0.15μmよりもコストがかかってしまう。それが同じになり逆転するのは今年後半のどこかの時点になる。それまでなら、0.15μmで製造する方がコストが低い」とS3 GraphicsのNadeem Mohammad氏(Marketing Product Manager)は説明する。

 もともと、NVIDIAはもっと早いペースでNV3x系を投入するつもりでいた。そのために、0.13μmは高コストでパフォーマンス向け、0.15μmは低コストなメインストリーム向けという色分けをしたと思われる。しかし、現実にはNV3x系はここまでずれ込んでしまった。そのため、今年中盤まではNV34はコストメリットがあるが、今年後半にはコスト面での利点を失うことになりそうだ。

 0.15μmで製造するNV34系には、ほかにも不利がある。それは、動作周波数だ。GPUの場合、TSMCの0.15μmプロセスである程度の歩留まりで採れるクロックは350MHz程度が限界と見られる。潜在的には0.13μmのRV350系の方がクロックを上げやすい。

 そうした不利がありながら、NVIDIAがNV34を0.15μmで設計した理由はもうひとつ考えられる。それは、NVIDIAがグラフィックス統合チップセット版をかなり早くに投入するつもりでいたという可能性だ。チップセットはまだしばらく0.15μmに止まると思われる。そのため、年内に統合版も出そうとしたら、0.15μmベースのコアを設計した方がよいことになる。

 だが、現在、NVIDIAは年内にDirectX 9統合のnForceの計画を持たない。NVIDIAのAthlon 64向け統合チップセット「Crush K8G」のコアはDirectX 7世代のGeForce 4MX相当で、その後継で今年第4四半期に登場する「Crush K8GW」も同様だ。おそらく、DirectX 9統合は来年になっていると思われる。

 NV34のパイプラインや機能ブロックについては、まだ情報がない。しかし、MX系の後継となるとしたら、かなり機能を絞り込んでいる可能性がある。というのは、DirectX 9世代のアーキテクチャで、0.15μmで製造し、100平方mm程度かそれ以下のダイサイズ(半導体本体の面積)に抑えようとすると、機能ブロックを削る以外にないからだ。いずれにせよ、NVIDIAは今年後半には0.13μmでメインストリームから下をカバーするコアを新たに投入することになるだろう。

 ちなみに、NVIDIAはNV31とNV34についてはモバイル版も用意する。

デスクトップGPUロードマップ モバイルGPUロードマップ
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●すでにNVIDIAは次のNV35も準備段階に

 3月にはNV34を発表するNVIDIAだが、このスケジュールにはGPU業界関係者は驚きを隠せない。「第3四半期になると予測していた」(あるGPUメーカー)という声もあり、早くても4月発表/5月出荷と考えられていたようだ。全体に前倒しになっているように見える。もっとも、これはATIのRV350についても同じで、発表が早まったのではないかと指摘する関係者がいる。

 もっとも、早まったのはそれだけではない。NVIDIAは次のパフォーマンスGPU「NV35」を、第2四半期半ばに発表すると伝えてきたという。ただし、NVIDIAはNV35ではそれほど大規模な機能拡張は行なわず、NV30の高速化と高パフォーマンス化にフォーカスするようだ。これには理由がある。

 ある業界関係者によると、NVIDIAはもともとNV35用に開発していた機能を先取りしたという。「最初のNV30は設計をしている段階で、複雑すぎて(ゲート数が多すぎて)、ファウンダリ(TSMC)から製造できないと言われて取りやめになった。そこで、時期をずらすことになったが、その時に、当初NV35向けに予定されていたフィーチャの多くを取り込むことになった」。

 最初のNV30はR300のようなDirectX 9のベース機能のGPUだったようだ。同じ話は、別なGPU業界関係者からも聞いた。真偽はともかく、今回、NVIDIAがNV35で大きなジャンプは行なわないことだけは確かなようだ。

 実際、NV35はNV30と比べてかなり性能向上とコスト削減が実現できると思われる。0.13μmでは、動作の信頼性を確保するために、当初は余裕を持った設計をしなければならない。そうすると、チップ面積が大きくなり(NV30は推定で約200平方mm)コストが増し、配線の遅延も増して高クロック化が難しくなる。しかし、2世代目では、もっとタイトな物理設計ができるようになるため、ダイは縮小、高クロック化も容易になる。

 また、メモリも高速&大容量化する。NVIDIAにグラフィックスDDR2(GDDR2)メモリを提供するSamsung Electronicsが、今年後半には製品を強化するからだ。現在Samsungが提供しているGDDR2は、128Mbのx32でコア電圧が2.5V、最高1GHz。そのため、128bitメモリインターフェイスのNV30では128MB版までしか投入できないと思われる。しかし、Samsungは今年第3四半期から第2世代GDDR2としてプロセスを縮小したバージョンを出す。そのバージョンでは、256Mbのx32でコア電圧が1.8V、最高1.4GHzになる。つまり、256MBボード化、高メモリ帯域化、低消費電力化が実現できるわけだ。1.4GHzになると、DDRの最高の800MHzの1.75倍となり、128bitインターフェイスの不利はかなり解消される。

 さらに、その後には、今年末に向けてNVIDIAは次世代コア「NV40」を用意している。今のところ、NVIDIAはNV40がDirectX 10(Programable Shader 3.0)サポートになるのかどうかは明らかにしていない。しかし、現状でまだ仕様がフィックスしていないとなると、NV40がフルサポートできるかどうかはかなりグレーだと思われる。だが、NV40では、再びShaderアーキテクチャが拡張されるのは明確だ。NVIDIAはこの世代では「2003年中には、多分2億(トランジスタ)になるだろう」(NVIDIA、David B. Kirk氏、Chief Scientist)と予告している。NV30(1億2,500万)をはるかに超えるモンスターチップになるわけだ。

【2002年11月21日】【海外】ATIの勝算とNVIDIAの勝算
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1121/kaigai01.htm
【2月10日】【海外】なぜGeForce FX 5800 Ultraはこんなに安いのか
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0210/kaigai01.htm

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(2003年2月17日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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