●現在のパーソナル向けNASが抱える問題 これまで筆者は何度かパーソナル向けのネットワーク接続型ストレージデバイスを取り上げてきた。それぞれに特徴がある製品ばかりで、たとえば単なるネットワークストレージではなくファミリサーバーを志向した富士通の「FMFNS-101」、パーソナル向けで価格帯ながら本格的なNASに近いネットワーク機能を備えたロジテックの「LHD-NAS80」、LANアダプタを分離することで既存の自社製外付けHDDにも対応可能なアイ・オー・データ機器の「HDA-i120G/LAN2」といった具合である。 ただ残念なのは、どの製品も真にパーソナル足り得るには、クリアできていない大きな条件があることだ。それは、価格がまだ高い、ということにほかならない。上述した製品は、いずれも標準価格が5万円を超える(HDA-i120G/LAN2の前モデルであるHDA-i80G/LANは5万円を切っていたが)。 PC用周辺機器の売れ筋価格帯が、いわゆるニッキュッパ(29,800円)からサンキュッパ(39,800円)の間であること、OS付きで5万円を切るPCが売られるご時世を考えれば、価格をもうひと頑張りして欲しいところである。価格的な頑張りが難しい分、何がしかの付加価値をつけている、という見方もできるのだが、どうもストレートの要求に変化球が投げ込まれてきた印象が否めない。
●実売価格で4万円を切るメルコのHD-120LAN 今回紹介するメルコのHD-LANシリーズは、ようやく投げ込まれた直球、という印象の製品だ。120GBタイプ(HD-120LAN)の標準価格は44,500円、80GBタイプ(HD-80LAN)の価格は36,500円。店頭での値引きやポイント還元などを合わせれば、実質的な支払額はそれぞれ4万円と3万円を切る価格設定だ。 ツートンカラーのHD-120LANは、この種のデバイスとしては珍しく、電源を内蔵したタイプ。ACアダプタが不要な分、コンセント回りはスッキリするが、本体背面に冷却ファン(騒々しいものではないが)が内蔵されており、HDA-i120G/LAN2のような完全無音オペレーションというわけにはいかない。 背面には電源ケーブルのほか、10Base-T/100Base-TX対応のEthernetポート、Ethernetポートの極性反転スイッチ、リセットスイッチが並んでいる。製品のコアとなるのは、モトローラ製の組込用プロセッサ「MPC8241」(動作周波数200MHz)。これはPower PC系の組込プロセッサ(MPC603e)に、PCIインターフェイスやメモリコントローラ等を統合したものだ。
●簡単さを追求したセットアップ パーソナルユースを狙った製品だけに、使い勝手もそれを前提に簡単なセットアップを第一義に考えられている。基本的にはDHCPクライアントとして動作し、DHCPサーバーが見つからなかった場合にプライベートアドレス(192.168.11.150)を利用するというのは、ブロードバンドの普及とともに、家庭にもルータが行き渡りつつある現在では、妥当な設定だ(Windows XPもデフォルトで同様な設定となっている)。 付属する簡単セットアップ(初期設定に用いる)も、IP設定ユーティリティ(初期設定が終わった後の各種設定に用いる)も、DHCPクライアントであるHD-120LANを自動的に見つけてくれるから、ユーザーがIPアドレスを指定する手間も要らない。 簡単セットアップ(画面1)は、セットアップの手順をステップバイステップで写真を用いてガイドしてくれる(画面2)。それこそルータの入った家庭なら、「次へ」のボタンを押していくだけで設定が完了する。これは単にIPアドレスが設定されるだけでなく、時刻の設定やワークグループ名の設定(設定を実行したPCから自動取得。Windowsドメインネットワークの場合はドメイン名がワークグループ名に自動設定される)、設定を実行したPCに対するネットワークドライブとしての登録が含まれる(画面3)。
この状態で、全くセキュリティはないが、ネットワークドライブとして誰でも利用できるようになる。IP設定ユーティリティ(画面4)を使えば、ユーザーグループやユーザーを設定し、簡単なセキュリティを加えることも可能だが、個人や、4~5人規模のSOHOなら、このまま(フルオープンのまま)使って問題ないハズだ。どうしても人に見られたくないデータはローカルに置けばよい。NASというよりはHDDのインターフェイスがLANになったという製品だ。 なお、本機はMacintoshもサポートされているが、簡単セットアップもIP設定ユーティリティも対応するのはWindowsだけ。だが、本機が使っているIPアドレスさえ分かれば、Webベースの設定ツール(画面5)を呼び出すことが可能だ。上述のIP設定ユーティリティで「設定画面表示」のボタンをクリックしても、IPアドレスを指定する手間が省けるだけで、呼び出される設定ツールは同じだから、Windows以外の環境では手も足も出ないというわけではない。
●申し分ないスループット さて、性能の方だが、この種のデバイスとしては現時点で最も廉価な部類に属するものの、意外と悪くない。数百MBにおよぶMPEG-2ファイルのコピーを行なっても5MB/sec~6MB/sec程度の性能が期待できる。HDA-i120G/LAN2のおおよそ2倍というところだ(メルコのWebではI社製の6倍となっているが、これは前のモデルとの比較だろう)。パーソナル向けのネットワーク接続型ストレージとしては、十分な性能だと思う。 すでに述べた通り、本機には高度なネットワーク機能やセキュリティ機能は存在しない。だが、それは本機がターゲットとする市場を考えれば、全く妥当な判断だ。不要な機能なら、無い方がユーザーを混乱させないだけよい。本機は、低価格と性能のバランスに加え、そのあたりの割り切りが優れている。敢えて注文をつけるとすれば、次のモデルではファンレスを実現して欲しいということだろうか。
□関連記事 (2003年2月5日)
[Text by 元麻布春男]
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