●大容量化を続けるハードディスク
この数年ハードディスクは、ムーアの法則により高集積化を続ける半導体に匹敵するほどの速度で大容量化を進めてきた。 二十数年前、5MBのハードディスク(それも5インチフルハイト)が40万円したことなど、まるで別世界の話のようにしか思えない。その気になれば、シングルドライブで160GBや200GBのハードディスクさえ入手できる。PCを購入する際、あるいは最初に組み立てる際に、ケチケチしなければ、そのPCの製品寿命が尽きるまで、ハードディスクの容量不足に悩まないで済むかもしれない(ビデオデータを扱わない、という前提条件が必要かもしれないが)。 これだけ内蔵ハードディスクの容量が大きくなると、おのずと外付け用のハードディスクに求められる性格も変わってくるハズだ。少なくとも、ハードディスクの容量が数十MBしかなく、2台目あるいは3台目のハードディスクの増設を最初から覚悟しておかねばならなかった時代とは、違ってしかるべきだろう。 昔の外付けハードディスクが、内蔵ハードディスクの容量不足を補う性格が強かったのに対し、今後の外付けハードディスクは、内蔵ハードディスクのデータバックアップ、複数のPCによるデータの共有、といった側面が強くなっていくのではないかと思う。 ●ルータ機能なども備えたネットワークストレージ「FMFNS-101」
そういう意味からもネットワークで共有可能なストレージには注目しているのだが、今回試用した富士通のFMFNS-101は、単なるネットワークストレージではない。ネットワークストレージに加え、いわゆるブロードバンドルータ(無線LAN機能付)、さらには家庭向けのグループウェア(カレンダー、伝言板)、写真や動画等を共有可能なアルバム(前面パネルにフラッシュカード読み取り用のPCカードスロットあり)、最大4件(4人)までのメールチェック機能、USBポートによるプリンタ共有をサポートした、家庭向けのアプライアンスサーバーとなっている。 型番のFNSはファミリーネットワークステーションの略であり、いわゆるレジデンシャルゲートウェイに属する製品だ。上位モデルにはTVチューナー機能を内蔵し、ハードディスク容量を倍増した(80GB)FMFNS-201も用意されているほか、本機のハードディスク内に蓄積されたMP3データやWMAデータをEthernet接続されたオンキョーのNC-500経由で直接再生することもできる(それを実現するNet-Tune対応ソフトウェアは12月18日からダウンロード開始となった)。逆に言えば、オーディオ機能はNC-500に依存した格好になっており、本機単独でのオーディオファイルの再生や出力はサポートされていない。 画面1が、本機が内蔵する家庭向けグループウェアのトップ画面。ここに家族の行事予定や連絡事項を書き込み、家族で情報を共有しようというわけだ(ユーザー登録することで、携帯電話やPDAからのリモートアクセスも可能になる)。
ルック&フィールがいかにもファミリー向けというか、小学生くらいの子供がいる家庭を前提にしたものになっているが、これは初期設定でのスキン。スキンを変更することで、中高生の子供でも違和感がないルック&フィールに変更することは可能だ(画面2)。ただ、初期設定のルック&フィールが画面1のようになっているということは、本機の商品としての位置づけを理解する上で、おそらく非常に重要なことではないかと思う。 ●ルータ機能を備えることでネットワーク設定を簡便化
さて、本機の最大の特徴は、NASの機能とブロードバンドルータの機能を1つにしてしまった点にある。そうすることのメリットの1つは、ネットワーク設定を簡便にできる、ということだろう。 ネットワークに接続するストレージの場合、接続されるネットワークによって、そのデバイスがDHCPのクライアントにならなければならないのか(NAS)、それともDHCPサーバーとしての役割を期待されているのか(簡易サーバー)、それとも固定IPアドレスのネットワークなのか、様々な設定に対応しなければならない。それは、製品を複雑にしコストを増すだけでなく、利用者側に求められるスキルをも増大させかねず、本機のような商品の性格には馴染まない。 設定の問題を回避する技術としては、Universal Plug and Play(UPnP)があるが、現状ではUPnPに対応したOSが限定される(Windows Me、Windows XP)ため、やはり万能とはいいがたい。 本製品はNASとブロードバンドルータを1つにすることで、設定のわずらわしさをある程度軽減している。本機は家庭ネットワークにおけるインターネットゲートウェイであり、LANに対してDHCPサーバーになる、ということが前提になっており、この前提条件のもと付属の簡単設定ユーティリティで、容易にセットアップ可能だ(固定IPアドレスの設定も可能)。 セットアップに専用ユーティリティを必要とすることを嫌うムキもあるだろうが、画面1のルック&フィールを考えれば、本製品がそうしたユーザー向けでないことは明らかだろう。 逆に、たとえば本機をDHCPクライアントにしたり、ブリッジにしたり、ということはできないし、Windowsのドメインネットワークはサポート対象外となるなど制約もあるが、こうした制約は本機の性格からは許されるのではないだろうか。こうした決め打ちが嫌なら、本機ならびにFMFNS-201の共通オプションとして用意されるFMHD-80H1N(2003年2月中旬提供予定)が、連携モードで本機の外部増設ストレージになるほか、スタンドアロンのネットワークストレージとしても利用できるから、こちらを選んだ方が良い。 ●PC1台より高い? いかにしてメリットを示すかがカギ
筆者は、FMFNS-101が想定しているユーザー、小学生から中学生くらいの子供がいる一般的な家庭、を前提にすれば、本製品はかなり良くできていると思う。上述したように、付属の専用ユーティリティによる設定は容易だし、富士通の直販サイトであるWEB MARTでは本機の設定サービスも販売している。ファイルの転送速度(クライアントPCから本機の内蔵ハードディスクへのファイルコピー)も3MB/sec前後で、速いとは言わないまでも、まずまずである。 ただ難しいのは、果たして本製品が想定しているようなユーザーがどれくらいいて、そうしたユーザーがどれくらい本製品の価値を理解してくれるか、という点だ。 たとえば、本機を利用するのに、接続されるPCが1台ということは考えにくい。もちろん、クライアントPCが1台でも、ネットワーク上のストレージを利用することでデータのバックアップができたり、PCを買い換える際もデータの移動をしなくて済んだりと、いいことがないわけではない。 簡易メール着信通知機能も、1台のPCでも使える。だが、eMachinesのPCがOS付で49,800円で売られる昨今、家庭にPCが1台しなかったら、59,800円(WEB MART直販価格)の本機を買う前に、まずPCを買うことだろう。少なくとも子供は、ホームサーバーより自分専用のPCを望むに違いない。 かといって、小学生の子供を含め、家族全員1人に1台のPCを用意できる家族も多くないハズ。本製品を使う理想的環境は、家族4人が全員自分のPCを持ち、ネットワークで接続されている、という形だと思うが、そんな家族が日本にどれくらいあるのだろう。 ただし筆者は、59,800円という販売価格が、不当に高いものだとは考えていない。本機の内部はNational Semiconductor(NS)のGeode GX1をベースにしたものだが、要するに組み込み用のx86プラットフォームである。 x86ベースでPCのアーキテクチャをベースにしているという点では、本機もeMachinesのPCも変わりがない。もちろん、CPUやグラフィックスなどeMachinesのPCの方がはるかに強力だが、それをものともしないほど量産規模が違う。 逆にFMFNS-101は、ブロードバンドルータ、NAS、グループウェア機能、プリンタサーバーなど、様々な機能をソフトウェアで盛り込むことで、何とか割安感を出そうと努力している。それでも、量産規模に勝るPCに対して、割安感を出すことはなかなか難しいのが現実のようだ。 (2002年12月20日)
[Text by 元麻布春男]
【PC Watchホームページ】
|
|