●画期的新製品に欠けた2002年
年の瀬の恒例行事として毎年その1年を振り返ってみるのだが、どうも今年は印象に残るニュース、特に芳しいニュースの乏しい年だったように思う。その大きな理由の1つは、誰もが注目するような画期的な新製品が乏しかったこと。 CPUのクロック、ハードディスクの記録密度、メモリのバイト単価は確実に向上していくのだが、ただそれだけ、という印象が強い。それは、これらの量的な拡大を牽引するようなアプリケーション、コンテンツが乏しかったせいだろう。 今年はWindowsの新版もリリースされなかった(単に新しいバージョンというだけでなく、皆が使いたくなるような機能と見た目を備えたものでなければ、結局意味はないのだが)。 同じく量的な拡大を続けていながら好調なのはADSLの加入者数だが、こちらもアプリケーションやコンテンツに引っ張られているというよりは、事実上工事不要な点や、定額制、あるいは利用料金の絶対額の安さが牽引役となっているように思う。 だからFTTHの普及率は予想を下回ったままだし、ADSLの加入者がどれだけ増えても、それが新しいPCや周辺機器の購入になかなかつながらない。もちろん、課金が困難なインターネットでは、キラーコンテンツを提供することは難しい、という事情もあるだろうが、それを何とかしなければ、ADSLはフレッツISDNやテレホーダイを置き換えるだけで終わってしまうかもしれない(IP電話というもう1つの「破壊者」をも呼び込むのかもしれないが)。 どうも、景気の悪い時というのはこんなもんで、すべてが悪い方へ悪い方へと回っていく。5年後、あるいは10年後には、経済を大きく成長させるポテンシャルがあるとしても、現時点のインターネットはデフレを助長している側面の方が大きいだろう。インターネットが創出する雇用と、インターネットが奪う雇用は、今のところ後者の方が大きいように思われる。
こうしたファンダメンタルは、おそらく2003年も変わらない。世界的なデフレ基調は、来年も続くだろう。IntelやAMDは第4四半期の業績見通しを上方修正したが、これも景気の回復というよりは、当初の見通しが悲観的過ぎたため、ということではないかと思う。 2002年最後の大きな話題が、eMachinesのOS込みで49,800円のPCというのも、うなずける気がする。フルスペックのPCがこの値段で買えるのだから、6万円もするPDAが売れないのも当たり前の話だ。 年が明ける前から暗い話で恐縮だが、当面こういう時代が続くのだと、気持ちを切り替えた方が良いのではなかろうか。最初からそう思っていれば、不必要に落ち込むこともない。 ●ベンダーはさらに集約へ
というわけで、今年のニュースだが、筆者が一番印象深いのは、HPとCompaqの合併だ。以前からPC業界は、ベンダーの集約が進行しており、半導体、ハードディスク、ビデオチップ、アプリケーションソフトウェアなど、どこを見てもベンダーの数が以前より減っている(ビデオチップベンダーが増えた、というのは今年の明るいニュースの1つだが、DirectX 9がどうのこうのという前に、市場規模と参入障壁に対するベンダー数の減少が行き過ぎたのが修正されただけではないかと思う)。PC業界でもトップクラスのHPとCompaqの合併は、ベンダーの集約が行き着くところまで来た感じだ。
この合併により、ビジネス向けのITソリューションを提供するグローバルベンダーは、Dell、HP、IBMの3社に絞られた感がある(コンシューマー向けなら、IBMの代わりにソニーが入る)。 年末にNECとHPが、企業向けのアウトソーシングで提携した、というニュースがあった。プレスリリース等では、両社が対等なパートナーとして、合弁会社を設立し、中国市場を初めとする海外市場を開拓する、と書かれているのだが、筆者はそれを素直に受け止められないでいる。 NECは、少なくともコンピュータ部門に関して、単独でグローバルベンダーとしての生き残りをあきらめ、HPとの提携に活路を見出す、という風に思えてしょうがないのだ。そして、もし4番目のグローバルベンダーがあるのだとしたら、それは中国企業かもしれない。 ●2003年は革新に備えた種まきの年
さて2003年だが、すでに述べたように、あまり明るい兆しは見当たらない。画期的な新製品が期待できるかというと、少なくともクライアントOSの新製品は期待薄だ。次世代のクライアント向けWindowsのLonghornは2004年と言われているが、果たしてそれも実現するのかどうか、筆者は確信がもてない。
間違いなく登場するのはWindows .NET Server 2003と、同じカーネルを利用したWindows XP Professional 64bit Editionだが、待望のというよりは、ようやくという感じだ。ちゃんとした製品としてIA-64をサポートしたWindowsはこれが初めて、ということになるが、現在の経済状況では64bit版Windowsが出てItanium 2マシンが大ヒット、とはいかないだろう。 64bitということでは、AMDのHammerシリーズも登場するハズだが、上位のOpteronをサポートしたWindowsは、少なくとも製品としては、当面現れない。IA-64をサポートしたOSが登場するまで、IA-64の製品リリースから2年近くを要したこと、USB 2.0のサポート状況などを考えれば、Hammerに対応したWindowsの登場はHammerが出てから1~2年かかるのが当たり前だろう。 AMDとしては、この間にグローバルベンダのうちの1社でいいから、Opteronのカスタマリストに加えたいところだ。そうでないと、プラットフォームレベルのバグ出しが進まないだろうし、それではMicrosoftによるOSサポートにも身が入らないに違いない。 それに比べればAthlon 64の方はゴールがハッキリしている。32bit OS上の32bitアプリケーションの性能が、その時点で最高速クラスのPentium 4(あるいはその後継プロセッサ)に対抗できればOK、できなければNGだ。 上述のようにAthlon 64に対応した64bit Windowsは当面期待できないし、仮にOSが出たとしてもドライバサポートに時間がかかる。今では主流となったWindows NT系のOSにしても、ドライバサポートのプライオリティが1番になったのは、Windows 9x系OSの開発が打ち切られてから。Athlon 64対応の64bit版Windows用デバイスドライバのプライオリティは当面低いままだと思われる。 一方のIntelも、Prescott、Baniasと新しいCPUを繰り出してくる。が、それによって画期的な新製品が登場するかというと、果たしてどうだろう。PrescottによりデスクトップPC向けのプロセッサは90nm時代に突入するが、それだけでは量的な変化に過ぎない。Prescottにわれわれが驚くような隠し玉機能が用意されていれば良いが、Intelは新しいプロセッサでの冒険を避けるのが常。驚くような新機能はないと見る(新しい機能はあるに違いないが、ソフトウェアサポートに時間を要するなどして、即効性は薄いものだろう)。
Baniasは、ノートPCユーザーの多いわが国では注目度が高いが、これまた最初のモデルではリスクを避けるハズ。Baniasが低消費電力だといっても、Intel自身も言うように、ノートPC全体に占めるCPUの消費電力は知れたもの。それだけで、劇的な変化が起こるとは考えにくい。そこで、プラットフォームレベルでの革新が必要なわけだが、ここにどれだけ隠し玉があるのか。 仮に、何かがあっても、そのインパクトがどれだけ大きいのかは未知数だ。実際に売られたノートPCの中で、本当にバッテリで駆動されているノートPCは非常に少ない(以前、このコラムで紹介した日本IBMのタイムシフト充電は、使われないでいるバッテリを有効活用できないか、というアイデアだった)。 多くの人にとって、低消費電力がどれだけアピールするかは不透明だ。逆に、新しい消費電力の少ないプロセッサで、人の考え方を変える、あるいは新しい市場を作るというアイデアもあるが、このアイデアを最初に提唱したTransmetaも、決して成功したとは言いがたい。 プレイヤーがIntelに変わったからといって、果たしてうまくいくのかどうか。バッテリ、液晶(のバックライト)など、他の分野の技術革新と足並みが揃うまでは、超低電圧版Pentium IIIと同様、ニッチ市場向けのプロセッサに当面は終わってしまう可能性もある。 以上のように、どうも2003年は好意的にみても数年後の革新に備えた種まきの年に思えてならない(もちろんそれは必要なことなのだが)。筆者としても、この予想が外れるのを期待しているのだが、それにはアプリケーションソフトウェア、ないしはコンテンツ分野での革新が不可欠だと思っている。 (2002年12月27日)
[Text by 元麻布春男]
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