●シンプルな機能と申し分のないパフォーマンスを備えたNAS
前回取り上げた富士通のFMFNS-101は、ネットワークストレージ機能とブロードバンドルータ機能を中核としたファミリーサーバーであった。今回取り上げるロジテックのLHD-NAS80(標準価格54,800円)は、純然たるネットワークアタッチドストレージ(NAS)で、その他の機能は持たない。 代わりに、ハードディスク容量がFMFNS-101の40GBから倍増しているほか、FMFNS-101に比べてはるかにネットワーク関連の設定が充実している。さらに本機の上位モデルとして、ハードディスク容量が120GBのLHD-NAS120(同64,800円)もラインナップされている。 目的とする用途が異なっているから、直接比較してもしょうがないが、1台あるいは2台のPCがある家庭に導入しやすいのはFMFNS-101、すでにネットワークのある環境にストレージとして追加しやすいのがLHD-NAS80であることは間違いない。 ただ、ネットワークの設定が細かくできるからといって、むやみに難しかったり、面倒なわけではない。DHCPクライアントとして動作するため、IPアドレスの設定等は基本的には自動で行なわれる(固定アドレスの設定も可)。 設定に用いる付属のユーティリティ(Logitec NAS Assisttant、画面1)は、DHCPクライアントであろうと、固定アドレスの環境であろうと、ネットワークに接続された本機を見つけ出し、Webのインターフェイスを用いた設定プログラムへと引き渡してくれるから、設定用にいちいちクライアントPCのネットワーク設定を変更するようなわずらわしさはない。 1つ1つの設定項目はそれほど高度なものではないが、一通りのものはそろっている(画面2)。サポートするネットワークも、Windowsネットワーク(ドメインのサポート有り)、Unix(NFS)、Apple、Novellと幅広い。性能的にも、約79MBのMP3ファイルが納められたフォルダのコピーが14秒前後、660MBのMPEG-2ファイルのコピーが3分程度と、このクラスとしては高速である。
こうした機能を備えたNASは、ローエンドの製品といえども、しばらく前なら10万円を超える標準価格がつけられていた。それが半額近くになった大きな理由は、NASを構築するビルディングブロックが潤沢に供給されるようになってきたからだろう。 このLHD-NAS80のベースになっているハードウェアは、VIA Technologiesが提唱するEdenプラットフォーム。最近、秋葉原でも見かけるMini-ITXフォームファクタのマザーボードがそのまま(VGAやサウンドといった本機では使われていないコネクタもそのまま)使われている(ケース背面に出ているのはEthernetコネクタのみで、他は隠されているが)。
前回取り上げたFMFNS-101同様、本機もx86ベースのPC互換プラットフォームを利用しているというわけだ。秋葉原では静音PCというカテゴリで注目されているEdenだが、元々は組み込み用途をメインに開発されたもの。そういう意味ではEdenベースのNASというのは、本来の使われ方、と呼べるかもしれない。 この上で動作しているソフトウェアは、台湾のSynology製のNASシステムソフトウェアだ。同社は、Microsoftでストレージ関連ソフトウェアのマネージャを務めていた技術者が中心となって設立されたソフトウェアハウスで、x86プラットフォーム上で動作するNASソフトウェア(Synology Filreシリーズ)の開発を行なっているようだ。 こうした他社が提供するビルディングブロックを組み合わせて製品を構築するという手法は、PCではしばらく前から行なわれていることであり、PCの低価格化を推進してきた原動力の1つである。ビルディングブロックごとに複数のサプライヤが存在し、それを組み合わせるという水平分業システムが、NASのような周辺機器にも及んできたということなのだろう。 ただ、前回も記したように、現時点ではPCの量産規模ははるかに大きく、ハードウェアレベルの性能や機能だけをとって比較されると、組み込み系は分が悪い。価格も、PCに比べて必ずしも安くない。現状では、PCに対して小型であることや、消費電力が小さいこと(発熱量が小さいと同時に、冷却ファン等が小型、あるいは無くて済む)を武器に、24時間稼動させても邪魔にならず経済的であること、管理や導入が楽であることがアピールポイントとなる。 LHD-NAS80に使われているEdenプラットフォーム(リファレンスデザイン)にしても、NASには不必要な機能がたくさん搭載されている。が、これは今のところNAS専用に無駄を省いた基板を起こすより、1枚の基板でNAS、シンクライアント、セットトップボックスなど幅広く使える汎用性を持たせて、少しでも量産規模を拡大した方が経済性が高い、という事情からだと推測される。 ●Ethernetは将来有望なストレージI/O技術
現時点ではPCに対しストレージデバイスをEthernetで接続するということは、ある程度の規模の企業でない限り、まだ特殊なものだと考えられている。しかし、Ethernetは着実に高性能化と低価格化を推し進めており、そう遠くない将来、ギガビットEthernetが普通のクライアントPCにも搭載されるようになるだろう(すでにDellのOptiPlexシリーズ等にはギガビットEthernetが標準のシステムが存在する)。 果たしてその時に、ギガビットEthernetに匹敵する帯域と、ギガビットEthernetに勝るとも劣らないコスト構造を実現したストレージI/O技術がどれくらいあるだろうか。これは、そのI/O技術がギガビットEthernetと同じくらいの普及率を実現できなければならない、ということでもある。 今のところ、USBにUSB 3.0が登場する様子はない。SCSIは帯域幅は確保できても、コスト構造的にクライアントPCには搭載できない。IEEE 1394Bは全く普及する兆しがなく、PCI ExpressがギガビットEthernetやストレージI/Oより上流に位置するI/O技術であることなどを考え合わせれば、ギガビットEthernetに対抗可能なI/O技術はSerial ATAくらいしか思いつかない。 USB 2.0にストレージを接続することは、今後数年非常にポピュラーになるだろうが、その後は下火になる可能性がある(ひょっとすると禁止されるかもしれない)。帯域の向上が計画されていないことに加え、キーボードやマウスと同じインターフェイスにストレージデバイスを接続するということは、データセキュリティ上、問題があると考えられるからだ(あるいはOS側でUSBマスストレージクラスデバイスの扱いを変える必要があるだろう)。 Ethernetは、現在提供されている技術の延長線上に、現在とあまり変わらないコスト構造で、帯域の向上と幅広い普及が見込める数少ないI/O技術の1つである。UPnP(Universal Plug and Play)の普及と共に、PCだけでなく、オフィス機器や家電までも相互接続可能な、汎用広帯域I/Oに化ける可能性すらある(UPnPは、使い勝手を高めるだけでなく、TCP/IPプロトコルスタックの実装コストを引き下げるかもしれない)。そういう点からも、ネットワーク接続型のストレージというものから目がはなせない。 □関連記事 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1115/logitec.htm (2002年12月25日)
[Text by 元麻布春男]
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