元麻布春男の週刊PCホットライン

PCと家電の共通フォーマット「HighM.A.T.」



●Microsoftと松下のコラボレーション

HighM.A.T.の記者発表会に出席したMicrosoft Corpの古川享副社長(左)と、松下電器産業ホームAVビジネスユニットの松本時和ビジネスユニット長
 10月18日、松下電器産業とMicrosoftは、都内で共同記者発表会を開催、圧縮データを記録したデジタルメディアへのアクセスを効率化する標準規格「HighM.A.T.」を策定、両社の製品に採用すると同時に、他社へのライセンスを行なうと発表した。HighM.A.T.はHigh performance Media Access Technologyを省略したもので、ライセンシー第1号として富士写真フイルムも同規格の採用を決めている。

 デジタル技術の進歩により、音声、画像、動画といったデータを圧縮して記録することが、PCに限らず民生機の分野でもポピュラーになりつつある。データ圧縮技術は、1枚のメディアに数百あるいは数千にも及ぶデータの記録を可能にし、データのポータビリティを飛躍的に向上させたが、反面、データへのアクセスという点で新たな問題を生じさせた。数百枚のJPEG画像が収録されたメディアをロードした瞬間、サムネイル表示を行なうために延々と待たされたり、数百曲が収められたメディアから好きな曲を選び出してプレイリストを作成することの面倒さを経験したユーザーは少なくないハズだ。

 PCの分野では、こうした問題の解決を独自に図ったアプリケーションも存在する。が、作成したメディアを他のユーザーに渡したり、あるいは民生機での再生まで考えると、必ずしも問題が解決しているとは言いがたい。ましてや、音楽と画像、音楽とテキストといった、異なるタイプのデータを収録したハイブリッドメディアを再生する標準は、ほとんど存在しないか、あまり普及していない、というのが現状である。HighM.A.T.の狙いは、PCであるか民生機であるかを問わず、圧縮技術を用いて記録されたデータを、簡単にアクセスするための標準を作ることだ。

フォーマットの概要
 HighM.A.T.の中核となるアイデアは、コンテンツ情報、再生メニュー、プレイリスト、テキストメタデータ、サムネイルイメージといったデータアクセスを助ける追加情報を、アクセラレータファイルと呼ばれるファイルであらかじめ記録しておくことにある。HighM.A.T.対応再生機器は、アクセラレータファイルを読み出すことで、目的のデータに対するアクセスを高速化する。また、アクセラレータファイルに含まれている情報すべてに対応できない場合も、一部だけを利用することができるように考えられている。たとえば、MP3ファイルにアルバムジャケットの画像と、曲目リストおよび歌詞のテキストデータが含まれている場合、映像出力が可能なDVDプレーヤーやPC上のプレーヤーはすべて利用するものの、ポータブルプレーヤーは曲目リストだけをリモコンに設けられた小さな液晶ディスプレイに表示する、といった具合だ。

 HighM.A.T.は物理フォーマット(CDの場合ならRed BookやYellow Book、Orange Bookなど)とは独立しているため、HighM.A.T.に準拠したからといって、作成されたメディアが、既存のプレーヤー(PC上のソフトウェアプレーヤー、民生用のプレーヤー)で再生できなくなることはない。たとえば、現時点でHighM.A.T.は、圧縮メディアファイルとして音声はWMAおよびMP3、静止画はJPEG、動画はWMVとMPEG-4の各フォーマットをサポートしているが、これらのファイルを再生可能なプレーヤーは今まで通り再生することができる。ただ、アクセラレータファイルによるナビゲーションができないだけのことだ(VideoCDやCD Extraといった、あまり普及していないナビゲーションフォーマットとの互換性はない模様)。


●CD-R/RWがメインターゲット

「Windows Movie Maker2」にて、CDメディアに書き込むファイルを指定しているところ
 原理的にはHighM.A.T.をプレスメディアに用いることも可能だと思われるが、現時点でHighM.A.T.を用いることを想定しているのは記録型のメディア、特にCD-R/RWだ。最も普及している記録型メディアであることに加え、上記の圧縮データに見合った容量であること、CD-R/RWにはナビゲーションの標準が確立していないことがその理由のようだ。しかし、フラッシュメモリメディアや記録型DVDなど、HighM.A.T.を適用可能なメディアは多いものと思われる。あるいはDVDのように、オーサリングシステムを伴うフォーマットが確立しているメディアをサポートすることによる混乱を避けたいということもあるのかもしれない。

 HighM.A.T.をサポートした製品は、民生機の分野では来春登場する松下電器製のDVDプレーヤーが最初となる見込みだ。PC分野では、現在ベータテストが行なわれているWindows Media 9からサポートが始まり、Windows Media Player 9ではHighM.A.T.互換でMP3やWMAのデータを含むCDが作成可能になる。また、Windows Media 9と同時にリリースされる予定のWindows Movie Makerの新版で、HighM.A.T.互換のビデオオーサリングがサポートされる。発表会場では、Windows Media Player 9を用いたデモが行なわれたが、現在Webで公開されているベータ版にはこの機能は実装されていないようだ。

 このHighM.A.T.の利用だが、個人目的で利用する分について一切のライセンスフィーが発生しないことが明言されている。同様に、HighM.A.T.対応のオーサリングソフトやライティングソフトを作成する際にもライセンスフィーは不要とのことだ。HighM.A.T.互換の民生機を販売するメーカー、あるいは商業目的でHighM.A.T.準拠のメディアを配布する場合には、ライセンスフィーを課す可能性が示唆された(富士写真フイルムのケースが有料なのかについては明らかにされていない)ものの、両社ともHighM.A.T.のライセンスフィーを収益として期待しているわけではないと述べている。HighM.A.T.の普及により民生用プレーヤーやWindows搭載PCが売れればよい、ということのようだが、特に松下電器にとっては、低価格で脅威となっている中国製DVDプレーヤーとの差別化が狙いの1つのようだ。

 残念ながら、現時点でHighM.A.T.に分かっていることは大体以上のようなもので、アクセラレータファイルのフォーマットや書式といったソフトウェア開発に必要な情報、あるいは可能だといわれている著作権管理のメカニズムについては、まだ詳細は公開されていない。Webサイト(www.HighMAT.com)も、英文のプレスリリースを除いては、空っぽといってよい状態だ。このように、まだまだ不明な点の多いHighM.A.T.だが、その登場によりユーザーが失うものは何ひとつないハズであり、少しでも利便性が向上するというのであれば、歓迎してしかるべきだろう。さらなる情報の公開と、対応製品のリリースが待たれるところだ。

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【10月18日】マイクロソフトと松下、PCとAV機器の架け橋となるフォーマット「HighM.A.T.」を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1018/mspana.htm

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(2002年10月22日)

[Text by 元麻布春男]


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