元麻布春男の週刊PCホットライン

WPC EXPO 2002の注目製品はTablet PCとDVDマルチドライブ



●Tablet PCが最大のトピック

Tablet PCをフィーチャーした古川氏の基調講演
 10月16日から19日の4日間、東京ビッグサイトにて、WPC EXPO 2002が開催されている。IT不況の只中にあって、あれほどたくさん開催されてきた関連展示会も次々に中止・撤退となり、WPC EXPOは数少ない生き残り。一般消費者向け製品を中心とした展示会としては、最大規模にして、唯一の存在かもしれない。

 昔に比べれば会場が広くなったこともあって、会場はそれほど混雑しておらず、比較的ゆっくりと見ることができるのはよいことなのだが、寂しさを感じる部分でもある。来場者にも、昔はどこかギラギラした部分があったように思うのだが、今はサッパリしたような気がする。

 それはともかく、今回のWPC EXPO 2002における最大のトピックは、Tablet PCのお披露目である。Tablet PCの正式発表・発売は11月7日であることが明らかにされているが、会場には多くのデモ機が用意され、来場者が実際に手に触れてみることができるようになっていた。初日に行なわれたMicrosoft古川氏のキーノートでも、Tablet PCが大きくフィーチャーされ、その場でNECと東芝のTablet PCが披露された。

 Tablet PCそのものについては、すでにある程度紹介されているし、ひょっとすると筆者も取り上げることがあるかもしれない。が、それにしても思うのは、なぜMicrosoftがTablet PC、あるいはPCに対するペン入力機能の付与に、ここまで入れ込むのだろうか、ということだ。キーノートでも、ビル・ゲイツがTablet PCを大変気に入っている、という話が紹介されたが、まさかそれだけが理由でもあるまい。

 MicrosoftではTablet PCの利点として、ペンという入力デバイスによる自然な入力方式がもたらす利点だけでなく、くつろいだ体勢で使えたり、他者との向き合って話す際にもノートPCと違ってディスプレイが「ついたて」のようになってコミュニケーションを妨げないとか、デジタルインクによる手書きメッセージの方が感情のこもったコミュニケーションになる、といった付加価値を強調する。


●Tablet PCの利点と価格のトレードオフ

 筆者は、こうした付加価値をすべて否定するものでは決してない。PCにペンという入力デバイスが加わることの意義はあると思っている。問題は、それが「いくら」かということだ。今回のWPC EXPO 2002では、Tablet PCの多くはあくまでも参考出品であり、製品発表ではない。したがって、価格がいくらになるのか、現時点では必ずしも定かではない。同じクラスのペン入力機能を持たない普通のノートPCに比べて、Tablet PCがいくらぐらい高くつくのか、その差額(つまりは付加価値代ということになる)が分からなければ、何ともいいようがない。

 Tablet PCでは、ペン入力をサポートするため、ハードウェア的にはデジタイザが、ソフトウェア的にはWindows XP Tablet PC Editionが必要になり、少なくとも安くはならないことは、分かっている。機能的には、ペン入力機能が加わる代わりに、デジタイザ等をサポートする必要から、バッテリ寿命が若干ではあっても短くなるだろう。筆者はこの機能的なトレードオフは問題ないと思っているものの、価格とのトレードオフが成り立つのか、疑問に思っている。

 もし、ペン入力を加えることによる価格上昇が1~2万円だったら欲しいと思うが、5万円なら要らないと考えるだろう。筆者よりもっと外出する機会の多い人なら5万円を受け入れるかもしれないが、はたして10万円ならどうだろうか。結局、価格が分からなくては判断のしようがない。

 PCに限らずモノの価格というのは、たくさん作られ、市場が大きくなるほど下がる。Tablet PCにしても、普及すれば安くなるハズだ。過去にMicrosoftはWindows for Pen Computingのようなペン入力をサポートしたプラットフォームを何回か発表してきたが、いずれもクリティカルマスを超えることなく立ち消えになってきた。

 いつも手書き入力は、普通のWindowsではない、専用のOSが必要な「鬼っ子」であった。それは今回のTablet PCも例外ではない。たとえ、それがWindows XP Professionalのスーパーセットであるとしてもだ。手書き入力を備えたWindows(あるいはそれを搭載したプラットフォーム)が普及するには、この機能がWindowsの標準の中に取り込まれ、標準のAPIでペン入力がサポートされる、あるいは標準のAPIの中にペンをサポートしたAPIが含まれるべきだと思うのだが、Tablet PCのOSであるWindows XP Tablet PC Editionはそうなってはいないし、現時点で将来のOSがそうなるという確約があるわけでもない。そのあたりにリスクを感じるのである。もちろん、これも一種の「ニワトリと卵」の関係にあり、一定数以上売れれば標準になるとも考えられるし、標準になれば売れるという見方もできるわけだが。


●2台のDVDマルチドライブに注目

松下の内蔵型DVDマルチドライブ ティアックのノートPC用DVDマルチドライブ

 さて、今回のWPC EXPO 2002で、もう1つ筆者の目をひいたものは、記録型DVDドライブの新製品だ。日立LGに続いて、松下電器とティアックがDVDマルチドライブを展示していた。

 松下製ドライブの最大の特徴は、DVD-RAMメディアがカートリッジのままロードできること。先行して発売されている日立LG製のドライブは、日立が民生機としてカートリッジのない8cmメディアを用いたカムコーダーを展開していることもあり、メディアを裸でトレイの載せる方式だった。松下製ドライブは、カートリッジ式に対応した据え置き型のDVD-RAMレコーダーを展開する同社らしく、カートリッジ対応となっている。

 会場には民生機の展示もあったため、今後松下製DVDプレイヤー(再生専用機)のDVD-RAM対応についてたずねたが、来年春モデルからは上位機種だけでなく、2万円を切るような低価格モデルについても、DVD-RAMの再生互換性を確保する予定であるとの返答をいただいた。現在予定されているプレイヤーはトレイ式で、カートリッジには対応していないという。筆者など、DVD-RAMの再生互換性についてはあきらめて、DVDレコーダーの低価格化にフォーカスするのかとも思っていたのだが、そうではないようだ。

 なお、DVDメディアに対する書き込み速度等のスペック(DVD-RAMおよびDVD-Rが2倍速、DVD-RWが1倍速)には特筆するべき特徴はないが、CD-RとCD-RWへの書き込み(それぞれ12倍速と8倍速)がサポートされたため、OEM採用しやすくなることは間違いない。

 一方、ティアックが出展していたのは、ノートPCにも対応可能な薄型のドライブ。記録型DVDドライブとしては、初の薄型ドライブだ。サポートする書き込みメディアはDVD-R(2倍速)、DVD-RW(1倍速)、DVD-RAM(2倍速)、CD-R(16倍速)、CD-RW(10倍速)の計5種類で、特に変わったことはないが、薄型であるというだけでニュースだと思う(他に5インチハーフハイトのドライブも出展されていたが、こちらはなぜかDVD-R/RWドライブ)。

 ただ、実際にノートPCでDVDを作成するとなると、バッテリ寿命が気になるところ。オーサリングによっては2~3時間かかるDVD-Videoの作成は、ノートPC向きとはいいがたい。それでも、書き込みが可能になるということは(たとえACアダプタが前提だとしても)素晴らしいことだし、わが国では省スペースデスクトップの需要も高い。こうした製品への応用が期待されるところだ。

□WPC EXPO 2002のホームページ
http://arena.nikkeibp.co.jp/expo/
□関連記事
WPC EXPO 2002レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/link/wpe02.htm

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(2002年10月18日)

[Text by 元麻布春男]


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