元麻布春男の週刊PCホットライン

Windows Media 9はHyper-Threadingのキラーアプリになるか



●適応範囲が拡がったWindows Media 9

 ここ数年で、PCとそれをとりまく環境の性能は大きく向上した。CPUの動作速度だけでなく、搭載するメモリやハードディスクの容量と性能、グラフィックスチップの性能、そしてインターネット接続環境は劇的に向上している。にもかかわらず、サッパリ向上しないのが、PC上での動画再生能力、特にネットワークを経由して配信される動画の品質だ。もちろん、数年前には動画をインターネット経由で配信することなど不可能だったし、インターネットで動画を配信すること自体がニュースになる時代もあった。

 それを考えれば、今では動画配信は日常的なものになったといえるのだが、相変わらず320×240ドットといった小さなウィンドウで、2倍や4倍といったスケーリング(ズーム表示)には耐えない程度のクオリティ(ビットレート)で、配信される動画が圧倒的である。DVDビデオの再生を考えても、今のPCがハードウェア的にフルスクリーン、フルフレームレートでの動画再生能力を持つことは明らかだし、ブロードバンドの着実な(というより爆発的な)普及を考えれば、もっと高いクオリティの動画が配信されて然るべきハズだ。

 こうした状況を改善するものとして、現在Microsoftが開発しているのがWindows Media 9だ。Coronaという開発名で知られてきたこのテクノロジは、オーディオ/ビデオのCODECであるWindows Media Audio 9およびWindows Media Video 9をはじめ、コンテンツ制作ツールであるWindows Media Encoder 9、サーバー用の配信環境であるWindows Media Service 9(Windows .NET Serverのみ対応)、クライアント向けのプレーヤーであるWindows Media Player 9、デジタル著作権管理機構のWindows Media Rigthts Manager 9、対応アプリケーション開発用のWindows Media 9シリーズSDKといった多くのコンポーネントから構成されるプラットフォーム技術だ。

 その規模は極めて大きいだけでなく、新しい機能も非常に多く、とても筆者一人がここで書ききれるようなものではない。ハッキリいって、最もユーザーになじみ深いWindows Media Player 9だけに絞っても、全機能の紹介などとうてい不可能なほどだ。そこで、ここでは現在配布されているベータ版をベースに、Player 9を中心にWindows Mediaの概要について紹介することにしたい。なお、現在提供されているベータ版は、英語版Windows用のみで、日本語版OSに対応したベータ提供の予定はない。また、英語版ベータを日本語版OSにインストールした場合に、いくつか不具合が生じることが分かっており、実務に使っている(あるいはメインに使っている)PCとは別のPCにインストールすることをMicrosoftは勧めている。


●各コンポーネントのバージョン表記が統一

 中身の話に移る前に、まずWindows Media 9で大きく変わったあることについて、述べておこう。それは、バージョン番号の統一だ。これまで、Windows Mediaを構成するコンポーネントは、それぞれがバラバラのバージョン番号を持っていた。たとえば、配信環境のWindows Media Serverの最新版は4.1で、エンコーダは7.1だが、CODECはWindows Media Audio 8/Video 8といった具合だ。プレーヤーにいたっては、OSごとに最新版のバージョンが異なる有様で、Windows 9x系とWindows 2000がWindows Media Player 7.1なのに対し、Windows XP用はバージョン8ではなく、Windows Media Player for Windows XP。では、Windows Media Player 8は存在しないのかというと、Pocket PC 2002用にこのバージョンが提供されていたりする。これでは配信する側も、対応のプレーヤーを説明するのが大変だ。次のバージョンアップで、少なくとも最新のコンポーネントについては、バージョン番号が「9」で統一される(現時点でWindows 98 SE以降のPC用OSにはWindows Media Player 9が提供されるようだが、PocketPC用についてはよく分からない)。

 さて、Windows Media 9の最大の目標は、あらゆる環境において、ベストの再生品質を提供することにある。それは、帯域の限られたダイヤルアップ接続からブロードバンドの常時接続まで、あらゆるビットレートでの再生品質の向上を目指すということにほかならない。また、再生環境として、インターネット接続のPCだけでなく、映画館等への配信まで視野に入れている。

 これまでのWindows Mediaを知るユーザーであれば、映画館への配信なんて、と思うかもしれない。だが、Microsoftは本気である。少なくとも、それを目指してCODECの開発を行なっている。まずオーディオCODECのWindows Media Audioだが、既存のWindows Media Audio 8の後継となるWindows Media Audio 9(圧縮率がさらに20%程度向上)だけでなく、5.1chのオーディオや24bit/96KHzサンプリングをサポートしたWindows Media 9 Professional、MP3やWMAと異なりロスレス圧縮(可逆圧縮)を行なうWindows Media Audio 9 Lossless、20Kbps以下の低ビットレートに特化したインターネットラジオ向けのWindows Media Audio 9 Voiceなど、用途に応じてさまざまなCODECが提供される。また、上のCODECの多くで、VBR(可変ビットレート)によるエンコーディングがサポートされており、高音質と圧縮効率の両立が図られている(ただしVBRを使うと、既存の古いWindows Media Playerとの互換性は低下する)。また、ライブ配信に適したシングルパスでのエンコーディングだけでなく、オンデマンド配信に適した2パスエンコーディングも可能となっている。

 ビデオ用のCODECであるWindows Media Videoも、8に対して圧縮率が15~50%向上したWindows Media Video 9を中核に、720P(1,280×720ピクセル)および1080i/1080P(1,920×1,080ピクセル)のHD対応CODECであるWindows Media Video 9 Professionalが追加された(図1)。もちろん、オーディオ同様可変ビットレートおよび2パスエンコーディング対応であり、5.1chオーディオとHD対応ビデオを組み合わせたコンテンツを作成することも可能だ(図2)。このほか、パンやズームを用いることで静止画から動画を作成するWindows Media Video 9 Imageも新たに追加される。また、1080iに限らず、ビデオ出力をインターレース出力に最適化するオプションも加えられた。

【図1】 Windows Media 9のベータ版に付属する720P対応のアニメーション、Pinball Trailer。この画面は筆者が実際にプレーヤーで再生して、キャプチャしたもの。用いるグラフィックスカードにもよるが、2.0GHz程度のPentium 4でこの解像度のプログレッシブビデオがコマ落ちなく再生できる 【図2】 図1に示したPinball Trailerのプロパティ。1,280×720ピクセルの解像度で、6ch(5.1ch)のサウンドをサポートしている


●フル機能を生かすには指定のハードウェアが必要

 これらのCODECを用いたコンテンツを再生するPC上のツールがWindows Media Player 9だ。図3は起動した直後の標準的なスキンによるもの。Windows XP対応のプレーヤーとあまり代わり映えしないが、多くの新機能が追加されている。図4は内蔵するグラフィックスイコライザを表示したものだが、ほかにもビデオの画質調整、再生速度の調整(スロー再生や早送り再生可能)、SRSによるエフェクトなど多彩な機能を備える。図5は、CDからオーディオをコピーする際のオプションだが、Windows Media Audio以外に、VBRやLosslessが選択可能になっていることが分かる。一方、図6はWindows Media Player 9を最小化させた時のもの。タスクバーに常駐するミニプレーヤーとなる。プレーヤーが邪魔にならない、ということは、上級のユーザーからリクエストの多かった機能ということであった。

【図3】 Windows Media Player 9の標準的な外観。イメージ的にはWindows Media Player for Windows XPを踏襲している 【図4】 ベータ版に付属する標準解像度のビデオIndustrial再生中に呼び出したグラフィックスイコライザ。オーディオ再生の時だけでなく、ビデオ再生でももちろん使える。若干効きすぎの感もあるが、各周波数ポイントごとに単独で操作可能なほか、隣接する周波数ポイントを連動させるオプションも用意されており、パラメトリックイコライザ的な利用もできる
【図5】 Windows Media Player 9でCDから音楽をリッピングする際のオプション 【図6】 プレーヤーを最小化すると、タスクバーの右側に常駐するミニプレーヤーとなる。この状態でも、基本的な操作はすべて可能だ

 さて、このWindows Media Player 9は、Windows Media 9に対応したプレーヤーであり、上述した各種CODECにフル対応している。しかし、対応したハードウェアがなければ、Windows Media Player 9といえども、完全な再生は不可能だ。Microsoftは、Windows Media Player 9を利用する環境として、233MHz以上のPentiumプロセッサ(500MHz以上を推奨)、64MBのメモリ(128MB以上を推奨)、30MB以上の空きディスク領域、DVD/CD-ROMドライブ、Super VGA(800×600)以上の解像度をサポートしたグラフィックスカード、サウンドカード、といったスペックを挙げている。が、実際にはコンテンツにより、より高いスペックのハードウェアが求められる。たとえば、HDのビデオを再生するには、2.0GHz以上のPentium 4プロセッサやDirectX VA(Video Acceleration)対応のグラフィックスカードが望ましい。

 5.1chのサウンド再生には、当然これをサポートしたサウンドカードが必要になるが、現時点でサポートされているコンシューマ向けのカードは事実上Sound Blaster AudigyシリーズとLive! 5.1のみ(ほかにプロ用のサウンドカードとしてEcho AudioとM-Audioの製品が対応)。最近増えているAC'97 CODECによるサウンドでは、5.1chオーディオの再生はサポートされない。もちろん、再生には5.1ch対応のスピーカーも必要になる(これもアナログ接続でなければ、Creative製のスピーカーに事実上限定される)。現在、民生用に普及しているS/PDIF(ドルビーデジタルやDTS)とは互換性がないので注意が必要だ。


●リアルタイムコンコーダはHyper-Threadingのキラーアプリとなるか

 ハードウェアスペックという点で興味深いのは、エンコーダであるWindows Media Encoder 9が要求するスペックだ。最低条件はOSとしてWindows 2000あるいはWindows XP(推奨)、Pentium II 266MHz以上、64MBメモリと極めて控えめだが、リアルタイムエンコードを行なう場合、最低でも733MHzのCPUのデュアル構成、640×480ドット解像度になると1.5GHzのCPUのデュアル構成が必須となっている(国内の説明会で配布された資料による。英語のWebでは微妙に異なる)。おそらくビデオとオーディオのエンコードを別のスレッドで行なっており、それぞれでレスポンスタイムの制約があるのだろう。いずれにせよ、デュアルプロセッサ構成が必要、とハッキリうたったアプリケーションは比較的珍しい。

 気になるのは、年内にも投入されるHyper-Threading対応のPentium 4 3.06GHzが、上の条件を満たすのかどうかだが、Microsoftの資料には一切触れられていない(ヨソの発表していない新製品なのだから当然だが)。筆者が非公式にIntelの担当者に尋ねたところ、1.5GHzのデュアルより、3.06GHzのHyper-Threadingの方が性能的に上回るであろう、ということであった。意外なところから、HyperThreadingを活用できるアプリケーションが出てきたかもしれない。

 ほかにもWindows Media 9には、民生機器との連携、コピープロテクションCDとの共存など、興味深いフィーチャーが数多くある。正式な日本語版のリリースが待たれるところだ。

□Microsoftのホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/
□Windows Mediaのホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/windows/windowsmedia/
□関連記事
【9月5日】Microsoft、Windows Media Player 9のβ版を公開
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0905/ms.htm

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(2002年10月17日)

[Text by 元麻布春男]


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