先週、JEITA主催の「CEATEC JAPAN 2002」が幕張メッセで開催され、数多くの最新技術、最新製品が展示されたが、その中で個人的に注目していたのが事前に情報をキャッチしていた三菱電機株式会社のUniversal Plag and Play(UPnP)対応製品だった。残念ながら他の仕事で身動きが取れず、展示会場に足を運ぶことができなかったが、UPnP技術は長い助走期間を経てアプリケーションプロトコルを作り実用化を行なう段階にさしかかっている。 UPnPアプリケーションに対応したデバイスが増えてくれば、家庭の中で場所にとらわれずにネットワーク中の様々な情報へとアクセスしたり、本当の意味で万能なワイヤレスリモコンを実現できるようになる。 ●実用域に向かうUPnP UPnPと言うとブロードバンドルータを思い浮かべる人が多いかも知れないが、元々のUPnPは様々な物理ネットワークの中で、あらゆるデバイスがTCP/IPベースの通信接続性を持つように考えられたプロトコルである。特別にネームサーバやDHCPサーバなどが用意されていない環境でも、互いの機能や状態を知ることができる。またブリッジデバイスがあれば、複数種類の異なるネットワークを同一のものとして扱うことも可能だ。 たとえば電灯線ネットワークにUPnP対応エアコンが接続されれば、他のUPnPネットワークに参加しているデバイスは、ネットワーク上に新しいエアコンが接続されたことを知ることができ、さらにそのエアコンがどのような機能を備えているかまでチェックできる。もちろん、電灯線がBluetoothであっても、無線LANであってもかまわない。 ノーコンフィギュレーションでIP接続を行なえるのが、UPnPの最大の長所だ。UPnPを提案し始めた最初の企業であるマイクロソフトも、そうしたコネクティビティを中心にUPnPのプロモーションを行なってきた。これはおそらく、UPnPを発表した当時、HAViやJiniといったアプリケーションレベルの規格が提案されたため、余計な係争を避けるためだったのでは? と考えられる。 しかしながら、その後はHAViもJiniも新しい話題を生み出すことはなく、UPnPのコネクティビティだけは有効性を認められ、デバイスのIP対応が進むにつれて標準化団体のUPnP Forumも活発さを増していった。現在、製品レベルで知られているのは、ルータに採用されているUPnP Gateway規格(ルータと通信しながら、ポートフォワードなどの設定を行なったり、ルータのステータスをモニタするためのプロトコル)ぐらいだが、この先にはAVメディアの送受信やリモート制御、双方向万能型リモコン、ネットワーク経由での画像取り込みや印刷などを実現させるアプリケーションプロトコルが、製品化を控えている。 たとえばAVメディアの送受信やリモート制御を実現するための規格には、フィリップスがAVサーバの仕様とそれを再生するためのクライアント仕様、それにコマンド制御の手法などを策定したUPnP AVがある。今年年末商戦向けにソニーはVAIO Mediaの新バージョンを投入し、ビデオ/音楽/写真のネットワーク共有をPCやネットアプライアンスの間で行なえるようにしたが、こうした機能もUPnP AVとUPnP Imaging(Hewlett-Packardが仕様を提案)を組み合わせることで可能になる(なおVAIO Mediaのプロトコルに関して一切非公開との話だが、ソニーがUPnP実用化に積極的な企業であることやマルチベンダーでの相互運用を目指しているとの情報から、VAIO MediaがUPnPベースである可能性は高いと推察される)。 またUPnP Remote I/Oという仕様では、機能の一覧をXMLタグで階層化して制御する側に引き渡したり、そのメニューを元にリモートで機能を呼び出すことが可能になる。コンフィギュレーションフリーで使える双方向ユニバーサルリモコンを実現できるほか、PCなどでネットワーク内の各デバイスとその機能を一望して制御を行なったり、自動制御プログラムと共にホームオートメーションを構築するといったことが可能になる。携帯電話などあらゆる携帯型デバイスをリモコン化することもできるはずだ。 このようにUPnPはコネクティビティ中心の話から、実際にどのように応用するかを検討、製品への実装を行うフェーズへと進んでいる。 ●IPベースであること UPnPは基本的にIPベースのネットワークで構築されるため(一部例外あり)、インターネットのサービスと透過的に結びつけることができる。たとえば携帯電話を用いて家庭内の情報にアクセスしたり、家庭内ネットワークに接続されているデバイスを制御することが可能だ。 特定製品がサポートする単一の機能に絞れば、似たような機能を実装することは難しくない。たとえば携帯電話から録画予約を行うといった機能は、すでに実現されているものだ。UPnPで変わるのは、特定のメーカーや製品に依存せず、標準規格のUPnPに対応していれば様々な製品との相互運用を保証できる点にある。 CEATECで三菱電機が発表したデバイス「M306S」は、そうしたIPベースで結ぶ家庭内ネットワークの基盤を整える第1歩となる製品だ。今後、同様のデバイスは各社から登場し、実装されるようになるだろう。 M306Sはマイクロプロセッサと電力線モデム、RAM、フラッシュメモリなどを内蔵したワンチップのシステムコントローラで、マイクロソフトのUPnPベースのデバイス制御プロトコルSCP(Simple Control Protocol)をフラッシュメモリ上に収めている。出荷は2003年からと少し先の事になるが、このような製品が家電製品に内蔵されるようになれば、電灯線(電力線)を通じてあらゆる家電製品がUPnPネットワークに参加可能になる(Ethernetとのブリッジ機能は、PCやブリッジ機能を持つアプライアンスが担当することになるだろう)。 そうなれば、家庭内のネットワークデバイス同士がネットワーク連携を行なうようになるのはもちろん、インターネットに接続可能なあらゆる場所からデバイス制御を行なえるようになるだろう。その先、ネットワーク帯域の問題が解決してしまえば、ユビキタスコンピューティングも決して夢ではなくなる。 外出中に自宅インターホンを鳴らした訪問者の顔を、出勤中にPDAや腕時計で確認して不在を伝えたり、自宅メールサーバに届いたメッセージに目の前にある一番アクセスしやすいデバイスで開いたり、あるいは暑い日に自宅近くからエアコンの電源をあらかじめ入れておくなんてことも、特別な手順を踏むことなくできるようになる。 電灯線を通じたネットワークは、新しいネットワークケーブルを用意することなく、あらゆるデバイスを統合する。その速度は400kbps程度と高速ではないが(実際には電灯線ベースでもっと高速な通信を行なえるものもある)、まずは繋がることに意味がある。 今年から来年、UPnP関連の情報は要注目だ。とりあえず、目前の11月12日にはSCPに関して、マイクロソフト、Itran(電力線ネットワーク技術のベンダー)、三菱電機が共同でSCPのセミナーを開催するという。同セミナーでSCPに関する詳細が紹介された段階で、追って連載の中で紹介していくことにしたい。 □UPnP Forum(英文) (2002年10月8日) [Text by 本田雅一]
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