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GPUの0.13μm化で先行するTridentがデスクトップも狙う


●0.13μmのXP4を出荷準備を進める

Trident Le Trong Nguyen氏

 最初の0.13μmプロセスGPU出荷の栄冠を手にするのは誰か?

 通例なら、先端プロセス技術に一番乗りをするのはNVIDIAだった。しかし、今回は、意外なメーカーが0.13μmで先陣を果たすことになりそうだ。それは、Trident Microsystemsだ。

 Tridentは0.13μmプロセスで製造するDirectX 8.1世代GPU「XP4」のサンプルを、すでに4月に完成させた。それから現在まで、約半年間、評価と品質向上に努めてきた。TridentのLe Trong Nguyen氏(Trident Microsystems, Assistant Vice President, Graphics Marketing)は、先月のIDFの際に「XP4のシリコンは好調で、出荷準備は予定通り進んでいる」と説明した。デスクトップ版の搭載ボードは10月には出荷、モバイル版の搭載ノートは来年1月には出荷されるとNguyen氏は言う。

 今回、Tridentが0.13μmで先行できたのには2つの理由があると想像される。(1)はTridentが製造を委託するファウンダリがUMCである点、(2)はTridentの設計ではトランジスタ数が極端に少ない点だ。

●UMCへの委託製造が0.13μm化を早めた

 UMCはTSMCと並ぶ巨大台湾ファウンダリだ。しかし、TSMCにはNVIDIAとATI Technologiesを初めとしてGPUベンダーの大半が主要製品の製造委託をしているのに対して、UMCに製造委託をするGPUベンダーは少ない。Trident、Matrox Graphics、S3 Graphicsの3社がUMCをメインとして使っている。今回は、このファウンダリの違いが明暗を分ける一因となった。

 というのは、TSMCの0.13μmプロセスの立ち上がりが悪かったためだ。製造できなかったわけではなく、ウエーハ上の欠陥密度を下げるのに時間がかかった。そのため、0.13μmで複雑なチップの出荷が遅くなった。それに対してUMCは、TSMCと比較すると割と順調に0.13μmが立ち上がったと言われる。そのため、「(GPUベンダーの)誰もがUMCのプロセスをテストしに来た」(Nguyen氏)と言う。

 Tridentは、また、ファウンダリUMCと密接な関係も、先端プロセスの採用を助けたようだ。「我々はファウンダリであるUMCと密接な関係を築いている。UMCの会長は、当社の製品をUMCのプロセスを活かす具体例として気に入っており、支援してくれている。そのため、我々はUMCでもっとも優先されている。0.13μmの利用にも、そうした関係が活きている。

 他社も最近になってUMCに0.13μmプロセスを打診に来たが、当社とUMCの関係はそんなに浅いものではない。我々は約7年前、UMCが成長し始めた頃から製造を委託している。また、その当時、約3,000万ドルをUMCに投資し、その後も継続して投資を行なった。現在は、当社はUMCとともに最新プロセス技術を成熟させることで協力している」とNguyen氏はUMCとの関係を強調する。つまり、TridentはUMCの単なる一顧客ではなく、戦略的なパートナーなので、0.13μmにもいち早く対応できたというわけだ。

●トランジスタ数が少ないからプロセスの移行が容易に

 しかし、Tridentが0.13μm化で先行できたのにはもうひとつ大きな理由がある。それは、(2)のTridentコアのトランジスタ数が非常に少ないことだ。

 XP4のトランジスタ数は約3,000万。現在、バリュークラスに来ているDirectX 7世代GPUのトランジスタ数が2,500~3,500万クラスで、XP4はDirectX 8世代でありながらこのクラスのトランジスタ数に抑えている。NVIDIAで言えばMX系のトランジスタ数だ。

 同じアーキテクチャ世代の、他社のDirectX 8 GPUを見てみると、トランジスタは数は5,500~6,500万クラス。つまり、Tridentは、他社の同世代のGPUの半分のトランジスタ数に押さえ込んだことになる。

 しかも、Tridentはトランジスタ数削減のために仕様を犠牲にしてはいないと主張する。XP4は、DirectX 8.1サポート、つまりVertex Shader 1.1とPixel Shader 1.3の両方をハードウェアでインプリメントしている。XP4のパイプライン構成は、4パイプ/2テクスチャ。これは、DirectX 8世代のハイエンドGPUの構成で、スペック的にはメインストリーム向けのRADEON 9000系の4パイプ/1テクスチャより高い。ちなみに、XP4はリリースではDirectX 9対応を謳っているが、これは“DirectX 9のベーシックフィーチャを満たしている”からで、基本的にはDirectX 8.1ハードだ。

 トランジスタ数が少なければダイサイズ(半導体本体の面積)は相対的に小さくなる。半導体チップの歩留まりは、ウエーハ上のディフェクト(欠陥)密度(Defect Density)×単位面積当たりのダイ(半導体本体)数で左右される。そのため、同じプロセスの同じラインで製造しても、ダイサイズの大きなチップの方が歩留まりが悪くなり、小さなチップの方が歩留まりが良くなる。

 プロセスは立ち上がり時期には、ディフェクト密度が高く、徐々にラーニングカーブでディフェクトが下がってゆく。そのため、十分にディフェクト密度が下がらないうちは、大きなチップは経済的に製造しにくい。つまり、最初はトランジスタ数が少なく、比較的ダイの小さなチップが作りやすい。そのため、XP4は有利になったと見られる。

GPUトランジスタ数ロードマップ

●低価格&低消費電力を武器にデスクトップにも返り咲く(?)Trident

 微細化で先行することは、イコール、性能とコストと消費電力で優位に立つことを意味する。Tridentは、今回、この優位をできる限り活かし、モバイルだけでなくデスクトップにも返り咲きを狙うつもりだ。

 XP4のデスクトップ版はT1/T2/T3の3モデルがあり、最高性能のXP4 T3は、コア300MHz/メモリ700MHz(DDR 350MHz)で128bitメモリインターフェイス、ビデオメモリは128~256MB。128MBのボード価格が99ドルの見込みだという。つまり、ブランドバリューがない分は価格でカバーして、他社のフラッグシップに挑む戦略だ。「GeForce4 Ti4600の80%の性能を、100ドル以下で提供することをターゲットにしている。GeForce4 Tiキラーになるだろう」とNguyen氏は説明する。このラインでは、AGP 8X対応のXP4Eも今後、リリースする。

 デスクトップでのミッドレンジから下を狙うXP4 T2とXP4 T1は、いずれもコア250MHz/メモリ500MHzで64MBビデオメモリ。T2が128bitメモリでボード価格が79ドル、T1が64bitメモリで69ドルだという。対抗のRADEON 9000ファミリより40~50ドル安いレンジを狙うわけだ。さらに「0.13μmだと2003年中にさらに製造コストが下がる。次のクリスマスではXP4は49とか39ドルのボード価格にまで来るだろう」とNguyen氏は言う。ここでも、同じ機能&性能クラスなら、価格で勝るようにするのがTridentの基本戦略だ。

 もちろん、デスクトップ市場の不在が長いTridentが復帰するのはハードルが高い。たとえ、圧倒的な価格戦略があったとしても、浸透するにはかなり時間がかかる。しかし、Tridentはそれでもデスクトップ復帰に意味があると言う。

 「グラフィックスで30社がひしめいていると、競争が激しくカネを失うだけだ。だから、かつて、デスクトップ市場から撤退した。しかし、昨年までにメジャーなGPUベンダーはたった3社になってしまった。だから、デスクトップにも戻ってもチャンスがある」(Nguyen氏)

Tridentロードマップ

●モバイルではパフォーマンス/電力を武器に

 とはいえ、Tridentの主軸はまだモバイルにある。モバイル版XP4は、ディスクリート(単体)版とメモリをパッケージ内に搭載したMCM版の2タイプがある。MCM版は32MBビデオメモリ64bitメモリインターフェイスのXP4m32と64MBビデオメモリ128bitメモリインターフェイスのXP4m64。コアクロックは250MHzでディスクリート版は500~666MHz(DDR 333MHz)メモリをサポートする。MCM版は500MHzメモリ。消費電力は、ディスクリートは3W、XP4m32は3.7W、XP4m64は4.5W。

 モバイル版の戦略は、他社より高いパフォーマンス/消費電力。「XP4は3ワット時に3DMARK2001で7000スコアをマークする。パフォーマンス/ワットを比べると、ATIのM9(MOBILITY RADEON 9000)や、NVIDIAの次のモバイルチップNV31MよりTridentが圧倒的に優れている」とNguyen氏は語る。

 Tridentがパフォーマンス/消費電力で勝ると言えるのは、もちろんトランジスタ数が少なく、0.13μmプロセスで製造されているからだ。トランジスタ数が少なければ動作時の電力や待機時のリーク電流も少なくなる。プロセスが微細化すると、電圧が下がり、トランジスタの動作時の消費電力が下がる。

 さらに、Tridentは統合チップセットにもXP4コアをもたらす。「来春、4月頃には0.13μmテクノロジに移行し、DirectX 8.1ベースの統合製品を出す」とNguyen氏は言う。トランジスタ数が少なければ、原理的にはバリュー向けのチップセットにも統合がしやすい。

 そして、TridentはこのXP4の戦略を、DirectX 9世代にも継続する。来年には、DirectX 9世代の「XP8」を、同じ価格レンジで投入するつもりだ。

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【8月13日】【海外】上から下まで一気に増殖するDirectX 9世代VPU
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0813/kaigai01.htm

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(2002年9月25日)

[Reported by 後藤 弘茂]

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