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上から下まで一気に増殖するDirectX 9世代VPU


●DirectX 9 VPUの洪水になる

 今年後半から来年前半にかけてはDirectX 9世代VPU(Visual Processor Unit)のラッシュとなる。今後1年間に登場する予定のDirectX 9 VPUリストは、長大だ。

 ATI TechnologiesのRADEON 9700/RADEON 9500/R350/RV350/R400、NVIDIAのNV30/NV31/NV31M/バリュー版NV3x/NV35、S3 GraphicsのColumbia、SiS(Silicon Integrated Systems)のXabre II、Trident MicrosystemsのXP8、Matrox GraphicsのParhelia後継チップ、そしておそらく3DlabsのP10後継チップ。久々に、グラフィックス市場は製品の洪水に見舞われる。

 また、DirectX 9では、ハイエンドだけに留まらず、急速に下のレンジへと製品がシフトしてくる。NVIDIAのように一気に上から下(バリュー向け)までDirectX 9世代アーキテクチャで揃えようというアグレッシブなメーカーもいる。つまり、DirectX 9世代の下の階層にDirectX 8世代を据えるのではなく、下まで同じDirectX 9世代を持ってこようというわけだ。

 これは、VPUのサポートする命令セットとフィーチャ(仕様)を、全マーケットで共通化させようという意図があるためと思われる。DirectX 9以降は、プログラム性が高まるため、命令セットレベルの互換性を保つことが重要となるとNVIDIAは考えているのかもしれない。ATIにしても、DirectX 9ではこれまでよりメインストリームへと持ってくるペースが速い。

 また、価格レンジではメインストリームを最初からターゲットにするSiSやTridentやS3 Graphicsもいる。こうしたベンダーは、最初からメインストリーム向けのアーキテクチャにしてくると考えられる。

●アーキテクチャのばらつきが増えるDirectX 9

 そのため、DirectX 9では、これまでよりアーキテクチャのバラエティが増える。つまり、同じDirectX 9世代チップと言っても、ハイエンドチップとメインストリームチップでは、ユニットの構成がかなり変わるだろう。

 それは、DirectX 9のフルフィーチャ製品だと、ダイサイズ(半導体本体の面積)が巨大になってしまうからだ。DirectX 9で4 Vertex Shader、8ピクセルパイプ、256bit幅メモリの場合、トランジスタ数は1億を超える。0.15μmで製造するRADEON 9700(R300)だとダイサイズは200平方mm近い。これは初代Pentium 4(Willamette:ウイラメット)クラスで、DirectX 6時代のハイエンドチップの2倍のダイサイズだ。

 この構成だと、0.13μmで製造しても、おそらくダイは140~160平方mm前後になる。これは、DirectX 8世代までのハイエンドチップのダイサイズだ。そのため、コスト的にメインストリームの下半分に持ってくるにはきつい(特に0.13μmの歩留まり曲線が上がり切るまでは)。そのため、各社とも、ユニットを削ってトランジスタ数を絞り込んだメインストリーム向けバージョンを作ると思われる。

 おそらく、メモリは128bit幅、ピクセルパイプは4本、Vertex Shaderは2ユニットというあたりがメインストリーム向け製品だと想像される。こうした構成に抑えれば、理論上トランジスタ数は6,000万~8,000万程度にできる。0.13μmならダイサイズは100平方mmか、それ以下に持ってこれる。バリュー製品になると、そこからさらにユニットが削られることになるかもしれない。

 いずれにせよ、DirectX 9世代では、同じフィーチャを備えていてもかなり性能レンジにはばらつきが出そうだ。

プロセス技術とGPUの関係図

●何がDirectX 9なのかが難しい

 また、DirectX 9のフィーチャを削るメーカーも出てくると思われる。例えば、ハイオーダーサーフェスのサポートに必要な「Tessellator(テッセレータ:平面分割ユニット)に関しては、最初の世代のDirectX 9チップではサポートしないベンダーもある。DirectX 9ではTessellatorは要求仕様だが、ベンダー側は、最初の段階ではハイオーダーサーフェスはまだ必要機能とならないと踏んでの判断だ。「Tessellatorはチェックボックスにはならないだろう。使わない機能は入れてもしょうがないと思う」とあるベンダーは言う。

 そのため、どこからがDirectX 9世代VPUと呼べるかも、混乱しそうだ。というか、現状でもすでに混乱している。

 例えば、3Dlabsの高度にプログラマブルなVPU「WildCat VP(P10)」は、DirectX 9もサポートできるとうたっている。実際、Shaderの命令セットとしてはDirectX 9互換かそれ以上を備えている。ところが、ピクセルパイプでは、DirectX 9世代のPixel Shader 2.0のスペックである浮動小数点精度のデータタイプをサポートしていない。

 3DlabsのBrian C. Duckering氏(Senior Product Manager, 3Dlabs)は次のように説明する。「Pixel Shader 2.0はP10で完全にサポートされているわけではない。最大のPixel Shader 2.0が要求する浮動小数点精度をサポートしようとすると、チップが大きくなりすぎるからだ。とはいえ、機能的には互換だから、DirectX 9プログラムも走らせることはできる。問題は、市場がスタートした段階で必要なフィーチャは何かだろう。これ(浮動小数点データタイプ)は、(互換性の点では)一種のグレーエリアだと思う」

 つまり、3DlabsはPixel Shaderの浮動小数点精度は、現状では完全にサポートしなければならないフィーチャではなく、サポートするかしないかはグレーな領域だと見ているわけだ。

 それから、Matroxの「Parhelia-512」もジオメトリ部分はDirectX 9互換だが、Pixel ShaderはDirectX 8.1世代だ。

●誤解を招きやすいマーケティングトーク

 このほか、マーケティング的な意味合いもあって“DirectX 9ベース”を名乗るケースもある。例えば、少し前のPC Watchの記事“Trident、DirectX 9対応GPU「XP4」”では、Tridentのリリースに沿って「XP4」をDirectX 9サポートと記述されていたが、実際にはXP4はハードウェア的にはDirectX 8.1世代VPUに過ぎない。つまり、DirectX 9のProgramable Shaderのフィーチャは備えていない。本当は、Tridentは、次の世代のXP8になるまでDirectX 9は名乗れない。

 とはいえ、この手の話は今に始まったことではない。これまでのVPUメーカーは、DirectXサポートに関しては、かなりわかりにくい表現をしてきた。もっともよくあるのは、DirectXのフィーチャを完全にハードウェアでサポートしている場合は「DirectX 8互換(compatible)」とし、ハードウェアでフルサポートしていない場合は「DirectX 8準拠(compliant)」とする例だ。

 じつは、これについてはDirectX 自体を定義しているMicrosoftに尋ねてみたことがある。すると、MicrosoftでDirectXのスポークスマンを務めるTed Hase(テッド・ハセ)氏(Dierctor, Third-Party Windows Gaming & Entertainment)は次のように説明した。

 「Microsoftとしては単一のAPIセットしか設定していない。互換と準拠という定義はしていない」、「一般論で言うと、DirectX を名乗るには、完全に(DirectX の)APIの仕様を備えていなければならない。ハードウェアメーカーが、APIの一部だけを取って準拠だとは言えない。とはいえ、実際には誤解を招く表現もされている。好例は GeForce4 MXで、あのチップはProgrammable Shaderハードウェアをサポートしていない。つまり、実際にはDirectX 8パーツではない」

 つまり、大元のMicrosoftでは、DirectX 準拠という“ベース機能だけをサポートした”仕様は設定していなかったわけだ。

 そうは言っても、DirectX 9のように膨大な仕様になってくると、フルスペックをいきなりサポートするのは難しい。特にDirectX 9は拡張が多いため、全ての機能がすぐに市場で有用になるかどうかには疑問がある。

 そのため、先ほど説明したように、Tessellatorや浮動小数点精度のサポートを省くといったフィーチャの“間引き”が出てくる。これは限られたシリコンバジェット(チップ面積)の枠内でチップを設計する側にとっては当然の話だ。しかし、多少の混乱も起こりそうな予感はある

□関連記事
【8月6日】Trident、DirectX 9対応GPU「XP4」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0806/trident.htm

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(2002年8月13日)

[Reported by 後藤 弘茂]

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